【社労士×税理士が解説】定年後再雇用の労務管理|同一労働同一賃金・在職老齢年金・継続給付の最新ルール

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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定年後再雇用の労務管理|同一労働同一賃金・在職老齢年金・継続給付の最新ルール
定年後再雇用の実務は、同一労働同一賃金・在職老齢年金・高年齢雇用継続給付の3点を同時に最適化する設計がカギ。2026年4月から在職老齢年金の支給停止基準額が月51万円→62万円(2024年度価格)に大幅引上げされ、2025年4月から継続給付は15%→10%に縮小。本人の手取りと会社の人件費の最適解を、社労士と税理士の視点で詳細解説します。
🏆 結論:賃金・年金・給付の3点最適化で手取りを最大化
定年後再雇用の労務管理では、①同一労働同一賃金の観点で合理的な賃金設計、②在職老齢年金の支給停止を避ける賃金水準、③高年齢雇用継続給付の最大化という3軸での最適化が必要です。2026年4月から在職老齢年金の支給停止基準額が月62万円(賃金変動反映で実質65万円程度)に大幅引上げされるため、従来「停止回避のため賃金を抑える」運用から、「積極的に賃金を引き上げる」方向への転換が可能になります。同一労働同一賃金判例(長澤運輸事件・名古屋自動車学校事件)の指針に基づく職務設計が不可欠です。
定年後再雇用の基本構造
再雇用契約の一般的な形態
定年後再雇用は、60歳で一旦定年退職→翌日から新たな雇用契約で再雇用するパターンが一般的です。以下の特徴があります。
| 項目 |
定年前 |
再雇用後(一般的) |
| 雇用形態 | 正社員・無期雇用 | 嘱託社員・有期雇用(1年更新) |
| 賃金水準 | 定年前基準(100%) | 定年前の60〜70%程度 |
| 職務内容 | 管理職・総合職等 | 専門職・アドバイザー等(軽減) |
| 労働時間 | フルタイム | フルタイム or 短時間 |
| 異動範囲 | 全国転勤あり | 原則転勤なし |
| 評価制度 | 昇給・昇格あり | 定額 or 貢献度連動 |
再雇用に関する就業規則の記載事項
再雇用制度を導入する場合、就業規則(または再雇用規程)に以下の事項を定める必要があります。
- 再雇用の対象者(「希望者全員」であること)
- 再雇用の申出手続き(申出期限・必要書類)
- 契約期間(通常1年、更新条件)
- 労働条件(賃金・労働時間・休日・休暇)
- 退職・解雇事由
- 就業規則の適用範囲
同一労働同一賃金への対応
パートタイム・有期雇用労働法の適用
定年後の有期契約での再雇用者は、パートタイム・有期雇用労働法第8条(均衡待遇)・第9条(均等待遇)の対象となります。正社員との間で不合理な格差は違法とされます。
主要判例の整理
| 判例 |
判示内容 |
実務への示唆 |
長澤運輸事件 (最判H30.6.1) | 職務内容同一でも定年後再雇用は賃金減額一定範囲で合理的 | 基本給減額は可能(ただし限度あり) |
名古屋自動車学校事件 (最判R5.7.20) | 基本給60%未満の減額は不合理 | 基本給の減額は40%未満に留める |
学校法人産業医科大学事件 (福岡高判H30.11.29) | 手当の格差は職務と関連性で判断 | 手当ごとに個別判断が必要 |
合理的な賃金減額の目安
⚠️ 賃金減額のリスクライン
名古屋自動車学校事件では、職務内容が定年前とほぼ変わらない再雇用で、基本給を定年前の60%未満にまで減額したことが「不合理な格差」と判断されました。実務では、以下の目安を参考にしてください:①職務変更なし→定年前の70〜80%、②職務軽減あり→60〜70%、③職務大幅変更(管理職→専門職等)→50〜60%。いずれも、賃金だけでなく業務内容の変更を併せて実施することが重要です。
手当ごとの判断基準
| 手当 |
正社員と同額が原則 |
減額・非支給が可能な場合 |
| 通勤手当 | ◯ 同額が原則 | 通勤距離等に応じた客観的差異のみ |
| 食事手当・福利厚生 | ◯ 同額が原則 | 労働時間差による合理的調整 |
| 職務関連手当(役職手当等) | ×(役職変更に応じて差異可) | 役職・職責が変更された場合 |
| 賞与 | △ 趣旨・算定基準で判断 | 貢献度評価の差異による場合 |
| 退職金 | △ 趣旨・算定基準で判断 | 雇用形態の差異による場合 |
| 家族手当・住宅手当 | ◯ 支給目的で判断 | 生活保障目的は同額が原則 |
参考: 厚生労働省「同一労働同一賃金」
在職老齢年金制度【2026年4月大改正】
制度の概要
在職老齢年金は、65歳以上で厚生年金に加入しながら働く人が対象の制度です。給与・賞与と老齢厚生年金の合計が一定額を超えると、超過分に応じて年金の一部が支給停止されます。
計算式
🧮 在職老齢年金の計算式
支給停止額 = (総報酬月額相当額 + 基本月額 − 支給停止基準額)× 1/2
・総報酬月額相当額 = 標準報酬月額 + 過去1年の賞与÷12
・基本月額 = 老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額(加給年金除く)
・支給停止基準額:2025年度51万円 / 2026年度62万円(2024年度価格)
※2026年度は賃金変動を反映して実質65万円程度になる見込み
2026年4月改正の影響試算
📢 2026年4月から基準額51万円→62万円へ大幅引上げ
2025年6月に成立した年金制度改正法により、2026年4月から支給停止基準額が51万円から62万円(2024年度価格)に引上げられます。賃金変動反映で実質的には65万円程度となる見込みです。これにより、支給停止対象者は現行の約50万人から約30万人に減少し、支給停止額の総額も約2,900億円規模で縮小されます。高齢者の就労促進と企業の人材確保の両面で大きな影響があります。
参考: 日本年金機構「在職老齢年金制度」
改正前後の支給停止額シミュレーション
| 給与月額 |
年金基本月額 |
合計 |
2025年度(51万基準) |
2026年度(62万基準) |
| 30万円 | 15万円 | 45万円 | 停止なし | 停止なし |
| 40万円 | 15万円 | 55万円 | 月2万円停止 | 停止なし |
| 50万円 | 15万円 | 65万円 | 月7万円停止 | 月1.5万円停止 |
| 60万円 | 15万円 | 75万円 | 月12万円停止 | 月6.5万円停止 |
60〜64歳の特別支給の老齢厚生年金
65歳未満で働きながら老齢厚生年金を受給する「特別支給の老齢厚生年金」の受給者は、2023年4月1日以降は65歳以上と同じ基準額が適用されています。それ以前は基準額28万円(旧低在老)と厳しい制限がありましたが、現在は統一化されています。
高年齢雇用継続給付の活用
制度の概要
高年齢雇用継続給付は、60歳到達時点の賃金と比べて、各月の賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける60〜65歳の被保険者に支給される雇用保険給付です(雇用保険法第61条)。
給付率の段階的縮小
| 時期 |
最大給付率 |
概要 |
| 〜2025年3月31日 | 15% | 60歳到達日がこの日以前は従前適用 |
| 2025年4月1日〜 | 10% | 60歳到達日がこの日以降は縮小適用 |
| 将来 | 廃止予定 | 段階的廃止の方針 |
参考: 厚生労働省「高年齢雇用継続給付」
給付額の詳細
賃金低下率(60歳到達時賃金と比べた低下割合)に応じて、段階的に支給率が設定されます。
- 賃金低下率が61%以下 → 最大給付率(2025年4月以降は10%)
- 賃金低下率が61%超〜75%未満 → 段階的な支給率
- 賃金低下率が75%以上 → 不支給
継続給付と在職老齢年金の併給調整
💡 実務のポイント
60〜64歳で特別支給の老齢厚生年金と高年齢雇用継続給付を同時に受給する場合、年金の一部(標準報酬月額の最大4%)が追加で支給停止される調整があります(雇用保険法第61条の6)。ただし、この調整も2025年度から縮小傾向にあり、2030年度には廃止予定です。給付金額の合計が最大化されるよう、賃金水準を社労士とともに試算することが実務的に重要です。
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社会保険の手続き
同月得喪(同日得喪)の活用
60歳定年で一旦退職→翌日即日再雇用の場合、同月得喪の手続きを行うことで、標準報酬月額を再雇用後の賃金ベースで即座に再決定できます。
- 厚生年金保険・健康保険の資格喪失届(退職日の翌日喪失)
- 厚生年金保険・健康保険の資格取得届(再雇用日取得)
- 「退職日の確認できる書類」と「新賃金の確認できる書類」を添付
- 両届を同時に提出(日本年金機構)
同月得喪のメリット
通常の標準報酬月額改定(随時改定)は、昇降給後3か月の平均で判定されるため、賃金減額の影響反映に時間がかかります。同月得喪により、再雇用初月から低い保険料で処理できるため、本人・会社ともにキャッシュフロー上のメリットがあります。
退職金支給と税務処理
📊 税理士の視点
定年退職時の退職金支給は、退職所得控除の大幅活用が可能です(所得税法第30条)。勤続38年・退職金2,000万円の場合、退職所得控除は40万円×20年+70万円×18年=2,060万円となり、退職金が全額非課税となります。さらに(退職金−控除額)×1/2で課税所得を半分にできる2分の1課税の特典もあります。弊所が関与した製造業役員退職金事例では、2,500万円の退職金で所得税・住民税合計約80万円の負担となり、給与として同額支給する場合の約400万円より320万円の節税効果を実現しました。再雇用時の賃金設計と合わせて、退職金制度設計の見直しが重要です。
年次有給休暇の取扱い
定年退職→同一会社での再雇用の場合、勤続年数は通算されます(労働基準法第39条の継続勤務判定)。再雇用初月から年20日の有給付与が継続される点に注意が必要です。
税務上の留意点
再雇用時の給与所得控除
再雇用後の賃金は給与所得として課税され、給与所得控除が適用されます。年収850万円以下なら給与所得控除が有利に機能しますが、年齢別の特別な優遇はありません。
公的年金等控除との二重適用
65歳以上で年金を受給しつつ給与を得ている場合、年金は公的年金等控除(所得税法第35条)、給与は給与所得控除の対象となり、二重の控除が受けられます。
- 65歳以上の公的年金等控除:年110万円〜
- 給与所得控除:年55万円〜
- 合計で最低165万円以上の所得控除が自動適用
確定申告の要否
| ケース |
確定申告の要否 |
| 給与+年金で年金400万円以下かつ給与所得以外20万円以下 | 不要(特例) |
| 給与+年金で年金400万円超 | 必要 |
| 複数事業所からの給与あり | 必要(合算計算) |
| 医療費控除・寄附金控除の適用希望 | 任意で実施(還付目的) |
賃金設計の戦略モデル
3つの戦略モデル
2026年4月以降の環境を踏まえ、再雇用時の賃金設計には以下3つの戦略があります。
| 戦略 |
賃金水準 |
適用対象 |
| ① 低賃金+給付活用型 | 定年前60%(継続給付10%上乗せ) | 職務大幅軽減のケース |
| ② 中水準+年金併給型 | 定年前70〜80% | 職務一部軽減・標準 |
| ③ 高水準+貢献度重視型 | 定年前80〜100% | 職務継続・専門性活用 |
2026年4月改正を踏まえた新しい最適解
2026年4月の在職老齢年金の基準額引上げにより、従来「在職老齢年金の支給停止を避けるため賃金を抑制する」という設計が不要になるケースが多くなります。結果として、戦略②③の選択肢が広がり、本人の手取りと会社の貢献のバランスが取りやすくなると期待されます。優秀な高齢人材の定着・活用を目指す企業は、この機会に賃金制度全体の見直しを検討すべきです。
関連する論点・次にすべきこと
定年後再雇用の労務管理は、高年齢者雇用安定法、就業規則整備、税務処理と密接に関連します。以下の記事も併せてご確認ください。
よくある質問(FAQ)
再雇用後に賃金を定年前の60%未満にするのは必ず違法ですか?
必ずしも違法ではありませんが、名古屋自動車学校事件判例(最判R5.7.20)では、職務内容が定年前とほぼ同じなのに基本給を60%未満まで減額したことが「不合理」と判断されました。違法判定を避けるには、①業務内容の明確な軽減(管理職→専門職・指導職等)、②責任の範囲縮小、③異動範囲の縮小——のいずれかを併せて実施することが実務的な対応です。単に年齢理由のみで大幅減額する運用は訴訟リスクが高く、社労士・弁護士と相談の上での制度設計が必要です。
65歳以上でも在職老齢年金の支給停止対象になりますか?
はい、65歳以上も対象です。2026年4月の改正後も、総報酬月額相当額と基本月額の合計が62万円(実質65万円見込み)を超えると、超過分の半分が支給停止されます。ただし、この基準額は毎年度賃金変動に応じて改定されるため、将来的にはさらに引上げられる可能性があります。年金の全額受給を目指す場合は、賞与を含む年収換算で700万円〜800万円程度までに抑える設計が実務的です。
高年齢雇用継続給付と在職老齢年金の両方を受給できますか?
60〜64歳で特別支給の老齢厚生年金と高年齢雇用継続給付の両方を受給している場合、年金の一部(標準報酬月額の最大4%)が追加で支給停止されます(雇用保険法第61条の6)。ただし、この併給調整も2025年度から縮小傾向にあり、2030年度には調整廃止予定です。65歳以降は特別支給の年金がなく、高年齢雇用継続給付も65歳までのため、この併給調整は自然消滅します。
退職金は定年時に支給するべきですか?それとも65歳まで働いてからが良いですか?
定年時に退職金を支給するほうが税務的には有利なケースが多いです。理由は、①退職所得控除を活用して非課税または低率課税で受け取れる、②65歳からの年金受給と時期が重複せず資金繰りが安定する、③65歳定年延長の場合は退職所得控除の勤続年数計算で有利に働かない場合がある——等です。ただし、退職金規程の改定や就業規則上の定年延長との整合性が重要で、制度変更は慎重な検討が必要です。
再雇用時の有給休暇は新規に発生させる必要がありますか?
いいえ、勤続年数は通算されるため、定年前の有給休暇の残日数を引き継ぎつつ、勤続年数に応じた年20日の付与を継続します(労働基準法第39条)。退職金を支給した場合でも、有給休暇の勤続年数計算は継続勤務として扱われます。「再雇用時に一旦リセット」は違法となるため、就業規則の見直し時にこの点を明確にすることが重要です。
再雇用者の社会保険料はどのタイミングで新賃金に合わせて変更されますか?
通常、随時改定は昇降給後3か月の平均で判定されますが、定年再雇用の場合は同月得喪(同日得喪)の手続きにより、再雇用月から即時に新賃金ベースで標準報酬月額が再決定されます。必要書類は「退職日の確認書類」(退職証明書等)と「再雇用後の賃金の確認書類」(新労働契約書等)です。日本年金機構への届出時に「再雇用に伴う同日得喪である」旨を明記し、両届を同時提出することが実務上の要点です。
再雇用後の契約更新を拒否(雇止め)することはできますか?
原則として、65歳までの継続雇用が法的義務であるため、合理的理由なく契約更新を拒否することはできません。雇止めが認められるのは、①心身の故障により業務遂行ができない、②勤務成績・態度が著しく不良で雇用継続が適切でない、③経営上の客観的・合理的理由がある——等の場合に限られます。ただし、これらの判断は慎重を要し、社労士・弁護士との事前相談が不可欠です。一方、65歳以上の契約更新拒否は、法的義務の枠外のため比較的柔軟に対応可能です。
まとめ
📋 この記事のポイント
- 定年後再雇用は同一労働同一賃金・在職老齢年金・継続給付の3軸最適化が必要
- 名古屋自動車学校事件判例:基本給60%未満への減額は不合理
- 職務軽減を併せて実施することで賃金減額の合理性を確保
- 2026年4月から在職老齢年金の基準額51万円→62万円(実質65万円)に大幅引上げ
- 高年齢雇用継続給付は2025年4月から15%→10%縮小、将来廃止方針
- 同月得喪の活用で再雇用初月から低い保険料に即時対応
- 定年時退職金は退職所得控除で大幅節税が可能
- 65歳以上は公的年金等控除と給与所得控除の二重活用が可能
2026年4月の在職老齢年金の基準額引上げは、定年後再雇用の賃金設計に大きな柔軟性をもたらします。従来の「在職老齢年金停止回避のため賃金を低く抑える」設計から、「積極的に賃金を引き上げて優秀人材を確保する」設計への転換が可能となります。同一労働同一賃金判例の指針を踏まえた合理的な職務設計、同月得喪による社会保険最適化、退職金の税務メリット活用——これらを総合的に組み合わせた制度運用が鍵です。鮎澤パートナーズでは、社会保険労務士・税理士・公認会計士・行政書士が連携し、定年後再雇用の制度設計から税務処理までワンストップでサポートします。
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