【社労士×税理士が解説】高年齢者雇用安定法と70歳就業確保措置|継続雇用の完全義務化

【社労士×税理士が解説】高年齢者雇用安定法と70歳就業確保措置|継続雇用の完全義務化
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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高年齢者雇用安定法と70歳就業確保措置|継続雇用の完全義務化

2025年4月、継続雇用制度の経過措置(対象者を労使協定で限定できる特例)が終了し、65歳までの雇用確保が完全義務化されました。2021年4月からは70歳までの就業確保が努力義務に。さらに高年齢雇用継続給付は15%→10%へと縮小。実務対応のポイントを社労士と税理士が整理します。

🏆 結論:2025年4月から「希望者全員65歳まで雇用」が例外なく義務化

2013年法改正で12年間続いた経過措置が2025年3月31日に終了し、2025年4月以降は全企業で「希望者全員の65歳までの雇用確保」が完全義務化されました。選択肢は①定年65歳引上げ、②希望者全員の継続雇用、③定年廃止の3つ。70歳までの就業確保は努力義務(2021年4月〜)で、雇用以外に業務委託・社会貢献事業でも対応可能です。併せて高年齢雇用継続給付が2025年4月から15%→10%へ縮小した点も要チェックです。

高年齢者雇用安定法の基本構造

制度の根拠と目的

高年齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)は、少子高齢化による労働力人口の減少と、年金支給開始年齢の段階的引上げを背景に、高齢者の安定した雇用機会の確保を目的とする法律です。

年齢区分別の義務・努力義務の整理

対象年齢 内容 性質 根拠条文
60歳未満の定年定年年齢を60歳未満にすることは禁止禁止第8条
65歳まで雇用確保措置(3択から選択)義務第9条第1項
70歳まで就業確保措置(5択から選択)努力義務第10条の2

2025年4月の「完全義務化」の意味

📢 経過措置終了の背景

2013年改正法により、「継続雇用制度の対象者を労使協定で限定できる経過措置」が12年間認められてきました。2024年度までは、一定の基準に該当する者のみを継続雇用することが可能でした。2025年3月31日にこの経過措置が終了し、2025年4月1日以降は、健康状態や職務遂行能力にかかわらず「希望者全員」を65歳まで雇用する義務となりました。厚生労働省の令和5年調査では、既に大企業・中小企業の99.9%が何らかの雇用確保措置を実施済みですが、経過措置を適用していた約15.4%の企業は制度見直しが必要です。

参考: 厚生労働省「高年齢者雇用安定法」

65歳までの雇用確保措置(義務)

3つの選択肢

企業は以下の3つの措置からいずれかを選択して実施する必要があります(高年齢者雇用安定法第9条第1項)。
選択肢 内容 採用率
① 定年の65歳以上への引上げ就業規則の定年条項を65歳以上に変更約26.9%
② 希望者全員の継続雇用制度60歳定年後に再雇用(希望者全員が対象)約69.2%
③ 定年制の廃止就業規則から定年条項を削除約3.9%
※採用率は厚生労働省「令和5年高年齢者雇用状況等報告」集計結果に基づく概算

継続雇用制度(再雇用制度)の実務

最も採用されている継続雇用制度(②)では、60歳で一旦定年退職→再雇用という流れが一般的です。以下の設計が必要となります。

継続雇用制度でも許される賃金減額の範囲

⚠️ 同一労働同一賃金のチェック

再雇用時の賃金減額は、長澤運輸事件(最判平成30年6月1日)で一定の減額は合理性が認められました。ただし、職務内容・責任・異動範囲が正社員と同じなら不合理な格差は違法です。目安として、定年前賃金の50〜70%程度が相場とされますが、職務内容を大きく変更しないまま大幅減額する運用は、同一労働同一賃金の観点から訴訟リスクを伴います。再雇用時は職務内容・責任・異動範囲を明確に変更することが重要です。

グループ会社での継続雇用

継続雇用は自社だけでなく、特殊関係事業主(親会社・子会社・関連会社等)での継続雇用でも認められます(高年齢者雇用安定法第9条第2項)。グループ内での業務の再配分が可能となり、高齢者の能力と会社のニーズのマッチングが柔軟になります。

70歳までの就業確保措置(努力義務)

5つの選択肢

2021年4月施行の改正により、70歳までの就業確保が努力義務として規定されました(高年齢者雇用安定法第10条の2)。雇用以外の選択肢も含む5択です。
選択肢 内容 雇用か否か
① 定年の70歳への引上げ定年年齢を70歳以上に引上げ雇用
② 希望者全員の70歳までの継続雇用65歳以降も再雇用継続雇用
③ 定年制の廃止定年条項を完全撤廃雇用
④ 継続的な業務委託契約フリーランス等として業務委託雇用以外(創業支援等措置)
⑤ 継続的に社会貢献事業に従事自社・委託先の社会貢献事業雇用以外(創業支援等措置)

創業支援等措置(④⑤)の要件

雇用以外の措置(④⑤)を選ぶ場合、過半数労働組合(または過半数代表者)の同意が必要です。また、以下の事項を記載した計画書の作成・周知が必要となります。

参考: 厚生労働省「70歳までの就業機会確保」

努力義務の履行状況

70歳までの就業確保措置を実施している企業の割合は、令和5年時点で約29.7%(厚生労働省発表)です。大企業のほうが取り組みが進んでおり、中小企業では徐々に増加する傾向です。将来的に義務化される可能性があるため、先行的な体制構築が望ましいです。

高年齢雇用継続給付の縮小【2025年4月改正】

高年齢雇用継続給付とは

高年齢雇用継続給付は、60歳到達時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける60〜65歳の雇用保険被保険者に支給される給付金です(雇用保険法第61条)。継続雇用時の賃金減少を補填する公的給付として機能してきました。

2025年4月の給付率縮小

📢 給付率引下げ(15%→10%)

2025年4月1日以降、60歳に達した日が該当する被保険者については、給付率の上限が15%から10%へ引き下げられました。2025年3月31日以前に60歳に到達した者は従前の15%上限が継続適用されます。さらに、高年齢雇用継続給付は将来的に完全廃止される方針が示されており、企業は公的給付に頼らない賃金設計への移行が求められています。

参考: 厚生労働省「高年齢雇用継続給付」

給付額の計算例

🧮 高年齢雇用継続給付の計算(2025年4月以降)

【条件】60歳到達時賃金30万円 → 再雇用後賃金18万円(60%に低下)

【改正前(15%)】:18万円 × 15% = 月額2.7万円の給付
【改正後(10%)】:18万円 × 10% = 月額1.8万円の給付

差額:年間で約10.8万円の手取り減

※賃金低下率61%以上75%未満の場合は段階的支給率となります。

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就業規則・再雇用規程の整備

就業規則の改定ポイント

2025年4月以降の完全義務化に対応するため、以下の就業規則条項の見直しが必要です。
条項 改定内容
定年条項65歳引上げ or 60歳+継続雇用 or 廃止を明記
継続雇用の対象者「希望者全員」と記載(「会社が認めた者」NG)
再雇用後の労働条件別規程への委任または具体的明示
健康診断・安全配慮高年齢者向けの配慮規定追加
退職金65歳引上げの場合は支給時期の整理

再雇用規程のサンプル項目

継続雇用制度(②)を採用する場合、以下を含む再雇用規程の整備が実務的です。

税務・社会保険面の留意点

退職金の税務処理(退職所得控除)

📊 税理士の視点

定年退職時の退職金には、退職所得控除(所得税法第30条)が適用されます。勤続20年以下の部分は年40万円、20年超の部分は年70万円が控除額で、さらに課税所得は「(退職金−退職所得控除)×1/2」と大幅に軽減されます。例えば勤続38年・退職金2,000万円の場合、退職所得控除は40万×20年+70万×18年=2,060万円となり、退職金2,000万円は全額非課税となります。再雇用時の賃金水準設計の際は、この退職金の税務メリットも含めた総受取額で比較することが重要です。

同月得喪手続き(社会保険)

60歳定年→即日再雇用のケースでは、同月得喪(同月内での資格喪失と取得)の手続きを行うことで、標準報酬月額を新賃金ベースで再決定できます。これにより、再雇用後の低い賃金に応じた適切な保険料負担となります。

在職老齢年金との調整

65歳以降も働きながら年金を受給する場合、在職老齢年金制度により、基本月額と総報酬月額相当額の合計が一定額(2024年度は50万円)を超える部分について、年金額の一部が支給停止となります。再雇用時の賃金設計は、この支給停止ラインを踏まえることが重要です。

活用できる助成金

65歳超雇用推進助成金

65歳以上の高年齢者の雇用を推進するため、3つのコースが用意されています。
コース 内容 支給額
65歳超継続雇用促進コース65歳以上への定年引上げ等を実施最大160万円/社
高年齢者評価制度等雇用管理改善コース評価制度・賃金制度改善等実施費用の60%(上限50万円)
高年齢者無期雇用転換コース50歳以上60歳未満の有期雇用者を無期転換1人あたり48万円(中小)

特定求職者雇用開発助成金(高年齢者雇用開発コース)

60歳以上65歳未満の離職者をハローワーク等の紹介で継続雇用した場合、中小企業で最大60万円/人の助成金が支給されます。

関連する論点・次にすべきこと

高年齢者雇用は、就業規則整備、社会保険、助成金活用と密接に関連します。以下の記事も併せてご確認ください。

よくある質問(FAQ)

2025年4月以降も、再雇用を拒否できる理由はありますか?
原則として希望者全員の再雇用が義務ですが、心身の故障により業務遂行ができない場合など、就業規則に定める解雇事由または退職事由に該当する場合は拒否可能です(高年齢者雇用安定法施行規則第4条の5)。ただし、「勤務態度に問題がある」等の主観的理由で拒否することは認められず、客観的・合理的な理由と社会通念上相当な程度が必要です。拒否判断は慎重に行い、事前に社労士・弁護士への相談を推奨します。
再雇用時に賃金を定年前の50%に減額することは違法ですか?
違法とは断定できませんが、職務内容・責任・異動範囲が定年前と同じ場合は、同一労働同一賃金の観点で不合理な格差と判断される可能性があります。長澤運輸事件・名古屋自動車学校事件等の判例では、①業務内容の変更、②責任の軽減、③異動範囲の縮小——のいずれかを伴う減額は合理性が認められる傾向にあります。減額を行う場合は、業務内容の明確な変更を併せて実施することが重要です。
業務委託による70歳就業確保措置を採用するメリットは何ですか?
主なメリットは3つです:①人件費の変動費化(成果に応じた委託料設定)、②社会保険料負担なし(業務委託は社会保険適用外)、③柔軟な働き方の実現(本人の希望する時間・場所で業務)。一方、デメリットは、①偽装請負リスク(実質雇用と判定されれば違法)、②契約管理コスト(個別契約の継続管理)、③創業支援等措置としての過半数代表者同意が必要——などです。業務委託化は、高年齢者本人の独立志向が強い場合に適した選択肢です。
定年延長と継続雇用制度のどちらを選ぶべきですか?
以下の観点で判断します:①定年延長は、65歳までの雇用を正社員としてフル処遇する選択肢。退職金の支給時期も遅延するため、退職金制度の見直しが必要。②継続雇用制度は、60歳で一旦退職→再雇用のため、賃金・退職金の段階的見直しが可能。65歳以上の戦力として活用したい専門職が多い企業は定年延長一般職で再雇用後は役割を軽減したい企業は継続雇用が一般的な選択パターンです。企業文化・人員構成・業務内容を総合的に勘案して判断することが重要です。
70歳までの就業確保を実施しないと罰則はありますか?
現時点では努力義務のため直接の罰則はありませんが、著しく取り組みが不十分な企業は厚生労働大臣からの指導・助言の対象となります。また、高年齢者雇用状況等報告書(毎年7月15日までに提出)により、取り組み状況が公的に把握されるため、長期的な不履行は社会的評価の低下につながる可能性があります。将来的には義務化される可能性もあり、先行的な対応が推奨されます。
高年齢雇用継続給付が縮小されましたが、企業として何か対応は必要ですか?
直接的な企業の手続きはありませんが、再雇用時の賃金設計の見直しが実務的に必要です。従来は15%の公的給付を前提に、定年前賃金の60%程度に減額するケースが多くありました。2025年4月以降は給付率が10%に縮小されるため、本人の手取り減少分を企業が一部補填する(例:賃金を定年前の65〜70%に引上げ)等の対応が、優秀な人材の引き留めには有効です。社労士と相談して賃金制度を再設計することを推奨します。
65歳超雇用推進助成金の65歳超継続雇用促進コースの要件を教えてください。
主な要件は以下の通りです:①定年を65歳以上に引き上げ、または希望者全員の66歳以上までの継続雇用制度導入、定年制度廃止のいずれかを実施、②就業規則・労働協約にその旨を明記して労基署へ届出、③制度実施前日から起算して過去1年間に高年齢者雇用安定法違反がないこと、④支給申請時点で実施後の就業規則適用が6か月経過していること——など。支給額は実施内容と定年延長年数により15万円〜160万円で変動します。JEEDの申請窓口で事前相談の上、計画的な制度導入が重要です。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 2025年4月から65歳までの雇用確保が例外なく完全義務化(経過措置終了)
  • 3択は定年引上げ・希望者全員継続雇用・定年廃止
  • 70歳までの就業確保は努力義務、雇用4択+業務委託・社会貢献事業の計5択
  • 継続雇用制度でも同一労働同一賃金の観点で職務内容の明確な変更が重要
  • 高年齢雇用継続給付は2025年4月から15%→10%に縮小、将来廃止方針
  • 再雇用時の同月得喪手続きで社会保険料負担を適正化
  • 退職金は退職所得控除で大幅節税、再雇用時の手取り設計を総合判断
  • 65歳超雇用推進助成金は最大160万円/社、高年齢者雇用開発コースは60万円/人
2025年4月の経過措置終了により、高年齢者雇用安定法は「例外なく希望者全員を65歳まで雇用する」時代に移行しました。70歳までの就業確保は努力義務ですが、将来の義務化を見据えた早期対応が重要です。高年齢雇用継続給付の縮小に伴う賃金設計の見直し、同月得喪手続きによる社会保険料最適化、退職金・在職老齢年金の税務・制度メリットの活用——これら複合的な論点を体系的に整理することが実務の鍵です。鮎澤パートナーズでは、社会保険労務士・税理士・公認会計士・行政書士が連携し、高年齢者雇用の制度設計から税務処理までワンストップでサポートします。

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