【税理士×会計士が解説】研究開発税制の活用方法|試験研究費の税額控除の計算と申告

【税理士×会計士が解説】研究開発税制の活用方法|試験研究費の税額控除の計算と申告
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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研究開発税制の活用方法|試験研究費の税額控除の計算と申告手順

「うちの会社でも研究開発税制は使えるの?」とお困りの経営者・経理担当者に向けて、3つの制度の使い分け・控除率の計算方法・申告手順を完全ガイドします。この記事を読めば、自社の試験研究費がいくらの税額控除につながるかを計算できます。

🏆 結論:中小企業は控除率12〜17%で法人税を最大35%まで控除できる

研究開発税制は3制度で構成されています。中小企業は「中小企業技術基盤強化税制」を使えば控除率12〜17%(一般型より有利)、さらにオープンイノベーション型を併用すれば法人税額の最大45%まで控除可能です。製造業だけでなく、ソフトウェア開発やサービス開発も対象になります。

研究開発税制とは?制度全体の構成と3つの柱

研究開発税制とは、企業が研究開発を行っている場合に、法人税額から試験研究費の一定割合を控除できる制度です。租税特別措置法第42条の4に規定されており、民間企業の研究開発投資を促進してイノベーション創出につなげることが目的です。

制度は以下の3つで構成されています。

3制度の完全比較表

比較項目 ①一般型 ②中小企業型 ③オープンイノベーション型
正式名称一般試験研究費の額に係る税額控除制度中小企業技術基盤強化税制特別試験研究費の額に係る税額控除制度
対象法人全ての青色申告法人中小企業者等(適用除外事業者を除く)全ての青色申告法人
控除率1〜14%(増減割合に応じて変動)12〜17%(増減割合に応じて変動)20〜30%(研究相手先に応じて固定)
控除上限法人税額の25%(上乗せあり)法人税額の25%(上乗せで最大35%)法人税額の10%(①②とは別枠)
①との重複×(選択適用)○(別枠で併用可能)
最大控除上限(併用時)法人税額の35%法人税額の45%

💡 実務のポイント

中小企業の場合、一般型ではなく②中小企業型を選択した方が控除率が高くなります。さらに大学や公的研究機関との共同研究があれば③オープンイノベーション型を別枠で併用でき、最大で法人税額の45%まで控除可能です。「一般型より中小企業型の方が有利」という点を見落としているケースを実務で何度か見てきました。

試験研究費の範囲|含まれるもの・含まれないもの

研究開発税制の対象となる「試験研究費」は、製品の製造・技術の改良・考案・発明に係る試験研究のために要する費用、および対価を得て提供する新たな役務の開発に係る試験研究費です。人文・社会科学分野の研究は対象外です。

試験研究費の判定チェックリスト

費用の種類 対象 注意点
研究専従者の人件費「専ら従事する者」に限定。兼務者は従事割合で按分
研究用の原材料費試作品の材料費、実験用の消耗品等
外部への委託研究費研究開発の委託先に支払う費用
研究用設備の減価償却費試験研究に使用する固定資産の償却費
技術研究組合の賦課金技術研究組合法に基づく費用
サービス開発に係る費用対価を得て提供する新たな役務の開発に限る
量産開始後の製造費用×開発完了後の量産費用は対象外
性能向上を目的としないデザイン設計・試作×令和5年度改正で対象外に明確化
複写販売用ソフトウェアの原本開発費×販売用ソフトの開発は繰延資産
人文・社会科学分野の研究×自然科学に限定(マーケティング調査等は対象外)

⚠️ 注意:「専ら従事する者」の判定が最大のハードル

試験研究費の中で最も金額が大きくなるのは人件費ですが、「専ら従事する者」の判定が税務調査で争点になりやすいポイントです。研究開発と他業務を兼務している社員の場合は、作業日報やプロジェクト管理ツールで従事時間を記録し、合理的な按分基準を設けることが重要です。記録がないと税務調査で全額否認されるリスクがあります。

中小企業技術基盤強化税制の控除率と計算方法

中小企業者等が適用できる「中小企業技術基盤強化税制」は、一般型よりも控除率が高く設定されています。控除率は増減試験研究費割合(前3年平均からの増減率)に応じて12%〜17%の間で変動します。

増減試験研究費割合と控除率の関係

増減試験研究費割合 中小企業型の控除率 一般型の控除率(参考)
△25%(大幅減少)12%2%
0%(前年並み)12%約7.5%
+5%12%9%
+12%12%11.1%
+12%超(上乗せ措置)最大17%最大14%

※中小企業型の控除率は、増減試験研究費割合が12%以下の場合は一律12%。12%超の場合は「12%+(増減割合−12%)×0.375」で算出(上限17%)。

控除上限額の計算

控除上限は原則として法人税額の25%ですが、以下の場合には上乗せ措置があります。

上乗せ条件 追加上限
増減試験研究費割合が12%超法人税額の最大10%を追加(計35%)
試験研究費割合(対売上比率)が10%超法人税額の最大10%を追加(計35%)
オープンイノベーション型を併用法人税額の10%を別枠追加(計45%)

具体的な計算シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 中小法人(資本金3,000万円・製造業)
  • 当期の試験研究費:1,500万円
  • 過去3年平均の試験研究費(比較試験研究費):1,200万円
  • 増減試験研究費割合:(1,500万円−1,200万円)÷1,200万円=25%
  • 法人税額:2,000万円
計算ステップ 金額
① 控除率の計算12%+(25%−12%)×0.375=16.875%
② 税額控除限度額(①×試験研究費)1,500万円×16.875%=253.1万円
③ 控除上限額(法人税額×35%)2,000万円×35%=700万円
④ 実際の控除額(②と③の小さい方)253.1万円

※概算値です。小数点以下の端数処理により実際の金額は異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

🧮 シミュレーションの読み方

この例では、試験研究費1,500万円に対して約253万円の法人税額が控除されます。実質的に試験研究費の約17%が戻ってくる計算です。もし一般型を選択した場合の控除率は約14%で、控除額は約210万円。中小企業型を選ぶだけで約43万円多く控除できることがわかります。

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オープンイノベーション型の活用方法と高い控除率

オープンイノベーション型は、大学・公的研究機関・他企業との共同研究や委託研究に対して、一般型・中小企業型よりも高い控除率(20〜30%)が適用される制度です。中小企業型とは別枠で併用可能なため、対象となる研究があれば積極的に活用すべきです。

研究相手先別の控除率

研究の相手先 控除率
国の試験研究機関・大学等との共同研究・委託研究30%
革新的な共同研究・国立研究開発法人の成果実用化研究25%
他の法人との共同研究・委託研究(上記以外)20%
新規高度研究業務従事者(博士人材等)の人件費20%

ケーススタディ:大学との共同研究で控除率30%を活用

🏭 D社(従業員30名・資本金2,000万円・製造業)

  • 自社の試験研究費:1,000万円 → 中小企業型で控除率12%=120万円
  • 地元大学との共同研究費:300万円 → オープンイノベーション型で控除率30%=90万円
  • 合計の税額控除額:120万円+90万円=210万円
  • もし全額を中小企業型で申告した場合:1,300万円×12%=156万円
  • オープンイノベーション型を併用した方が54万円多く控除できる

💡 実務のポイント

「うちみたいな町工場が大学と共同研究なんてできるの?」と思われるかもしれませんが、地方の国立大学には産学連携の窓口があり、中小企業との共同研究を積極的に受け入れているところも多いです。顧問先の食品メーカー(従業員12名)が地元大学の食品科学研究室と新商品の品質試験で共同研究を行い、オープンイノベーション型の控除率30%を活用した事例があります。

申告手続きの流れ【5ステップ】

研究開発税制の申告は、確定申告書に所定の明細書を添付して行います。事前の計画認定は不要ですが、試験研究費の集計と証拠書類の整備が重要です。

ステップ1:試験研究費を集計する

対象となる費用(人件費・原材料費・外注費・減価償却費等)を個別に集計します。人件費は研究専従者の従事時間に基づいて按分計算し、作業日報やプロジェクト管理記録を証拠として保存してください。

ステップ2:比較試験研究費と増減割合を計算する

比較試験研究費(過去3年間の試験研究費の平均)を算出し、当期の試験研究費との増減割合を計算します。この割合が控除率と控除上限額に影響します。

ステップ3:適用する制度と控除率を決定する

中小企業者等であれば中小企業型を選択し、オープンイノベーション型の対象となる費用があれば別枠で計算します。一般型と中小企業型は選択適用(重複不可)です。

ステップ4:別表を作成する

法人税の確定申告書に以下の別表を添付します。

適用制度 添付する別表
一般型 or 中小企業型別表六(十四)「試験研究費の額に係る法人税額の特別控除に関する明細書」+適用額明細書
オープンイノベーション型別表六(十五)「特別試験研究費の額に係る法人税額の特別控除に関する明細書」+適用額明細書

ステップ5:確定申告書を提出する

法人税の確定申告期限(事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内)までに提出します。研究開発税制は当初申告要件があるため、確定申告書に記載がないと更正の請求では適用を受けられません。

法人決算の全体フローは「法人決算の流れと手順」で詳しく解説しています。

大企業(一般型)の控除率計算

中小企業以外の大企業が適用する一般型の控除率は、増減試験研究費割合に応じて1%〜14%の間で変動します。中小企業型と比べて控除率が低い分、増加インセンティブが大きく設計されています。

一般型の控除率算式

増減試験研究費割合 控除率の算式
+5%超の場合9%+(増減割合−5%)×0.3(上限14%)
+5%以下の場合9%−(5%−増減割合)×0.1(下限1%)
△25%未満の場合一律1%

なお、一般型には「特定税額控除規定の不適用措置」が適用されるため、中小企業者等以外の法人は一定の要件(継続雇用者の給与等支給額が前年度を上回るなど)を満たさないと制度自体が利用できない場合があります。設備投資に関する他の税制との組み合わせは「令和7年度税制改正のポイント(法人税関連)」も参考にしてください。

他の税制との併用ルール

投資促進税制・経営強化税制との関係

研究開発税制と投資促進税制・経営強化税制は、対象となる費用が異なるため原則として併用可能です。ただし、同一の減価償却資産について研究開発税制の試験研究費と経営強化税制の対象設備として二重に計上することはできません。研究専用の設備は研究開発税制の試験研究費(減価償却費)として計上し、生産用の設備は経営強化税制を適用するなど、使い分けを明確にしてください。

投資促進税制の詳細は「中小企業投資促進税制とは?対象設備・特別償却・税額控除の要件」をご覧ください。

防衛特別法人税との関係

研究開発税制による税額控除は、防衛特別法人税の基準法人税額の計算では除外されます。つまり、研究開発税制で法人税額が減っても、防衛特別法人税の基準法人税額には影響しません。詳しくは「防衛特別法人税とは?税率・適用時期・中小企業への影響」で解説しています。

業種別の活用ポイント

製造業

製造業は研究開発税制との親和性が最も高い業種です。新製品の開発、既存製品の品質改良、生産プロセスの改善に伴う試験・検証などが対象になります。試作品の材料費、研究員の人件費、外部試験機関への委託費を漏れなく集計することがポイントです。

IT・ソフトウェア業

ソフトウェアの新規開発に係る費用も試験研究費に該当します。ただし、受注開発(特定顧客向けのカスタマイズ)は対象外になる可能性があるため、自社プロダクト開発やサービス開発の費用と区別して集計する必要があります。

サービス業

「対価を得て提供する新たな役務の開発に係る試験研究」もサービス開発税制として対象になります。ビッグデータを活用した新サービスの開発なども令和5年度改正で対象範囲が拡大されました。ただし、単なるマーケティング調査やビジネスモデルの検討は対象外です。

会社設立直後の方で研究開発に取り組む場合は「会社設立の流れ」も合わせて確認してください。

よくある質問(FAQ)

研究開発税制は中小企業でも使えますか?
はい、中小企業こそ積極的に活用すべき制度です。中小企業技術基盤強化税制を使えば控除率12〜17%で、一般型(1〜14%)より有利です。さらにオープンイノベーション型を併用すれば最大で法人税額の45%まで控除できます。
試験研究費にはどんな費用が含まれますか?
製品や技術の製造・改良・発明に係る試験研究のための原材料費、研究専従者の人件費、外部への委託研究費、研究用設備の減価償却費が含まれます。サービス開発に係る費用も対象です。ただし、量産後の製造費用、性能向上を目的としないデザイン費、人文科学系の研究費は対象外です。
一般型と中小企業型のどちらを選べばいいですか?
中小企業者等に該当する場合は、中小企業型を選択した方が控除率が高く有利です。一般型と中小企業型は重複適用できないため、必ずどちらか一方を選択します。ただし、3年平均の所得金額が15億円超の中小企業は「適用除外事業者」に該当し、中小企業型を選択できません。
オープンイノベーション型とは何ですか?
大学・公的研究機関・他企業との共同研究や委託研究に対して20〜30%の高い控除率が適用される制度です。一般型・中小企業型とは別枠(法人税額の10%まで)で併用可能なため、対象となる研究があれば追加で控除を受けられます。
ソフトウェア開発会社でも研究開発税制は使えますか?
はい、自社プロダクトの新規開発やサービス開発に係る費用は対象になります。ただし、特定顧客向けの受注開発や、販売用ソフトウェアの原本開発費(繰延資産)は対象外となる場合があります。自社開発と受注開発の区分を明確にし、プロジェクト単位で費用を集計してください。
確定申告で適用を忘れた場合、後から更正の請求はできますか?
研究開発税制は当初申告要件があるため、確定申告書に記載がない場合は原則として適用を受けられません。「使い忘れた」という事態を防ぐため、決算時に必ず試験研究費の有無を確認するチェック体制を整えてください。
赤字の事業年度でも研究開発税制は使えますか?
法人税額がゼロの場合、税額控除も適用できません。ただし、翌事業年度以降に繰り越せる制度ではないため、赤字年度に発生した試験研究費に対する税額控除は消滅します。なお、試験研究費自体は損金として計上できるため、欠損金の繰越控除には影響しません。
税務調査で試験研究費が否認されるケースはどのようなものですか?
最も多いのは「専ら従事する者」の人件費の按分根拠が不十分なケースです。研究開発と他業務を兼務する社員の人件費を、作業日報などの証拠なく全額計上している場合に否認されます。プロジェクト管理ツールや作業日報で従事時間を記録し、按分計算の根拠を明確にしておくことが重要です。
研究開発税制と設備投資税制(投資促進税制・経営強化税制)は併用できますか?
原則として併用可能です。ただし、同一の減価償却資産を研究開発税制の試験研究費と経営強化税制の対象設備として二重計上することはできません。研究専用の設備は研究開発税制、生産用の設備は投資促進税制や経営強化税制というように使い分けてください。
試験研究費の増減試験研究費割合はどのように計算しますか?
増減試験研究費割合は「(当期の試験研究費−比較試験研究費)÷比較試験研究費」で計算します。比較試験研究費は過去3年間の試験研究費の平均額です。この割合が大きいほど控除率が高くなり、中小企業型では12%超で上乗せ措置(最大17%)が適用されます。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 研究開発税制は一般型・中小企業型・オープンイノベーション型の3制度で構成
  • 中小企業は中小企業型を選択(控除率12〜17%、一般型より有利)
  • オープンイノベーション型は別枠で併用可能(控除率20〜30%、上限法人税額の10%)
  • 3制度を全て活用すれば最大で法人税額の45%まで控除可能
  • 試験研究費には人件費・原材料費・外注費・減価償却費が含まれる
  • 人件費は「専ら従事する者」に限定。作業日報等の証拠書類が必須
  • 当初申告要件あり。確定申告書への記載忘れに注意

研究開発税制は中小企業にとって非常に有利な制度ですが、試験研究費の集計や証拠書類の整備に手間がかかるため、活用を見送っている企業も少なくありません。特に製造業・IT企業・サービス開発を行う企業は、自社の費用が試験研究費に該当するかどうかを一度税理士に相談されることをおすすめします。

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