【税理士×社労士が解説】賃上げ促進税制の活用方法|適用要件・計算方法・申告手続きを完全ガイド

【税理士×社労士が解説】賃上げ促進税制の活用方法|適用要件・計算方法・申告手続きを完全ガイド
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

賃上げ促進税制の活用方法|適用要件・計算方法・申告手続きを完全ガイド

「賃上げしたいけど、どうすれば税制の恩恵を受けられるの?」「うちの会社は対象になる?」とお悩みの中小企業経営者に向けて、賃上げ促進税制の適用要件・控除率の計算・繰越控除・申告手続きを5ステップで完全ガイドします。この記事を読めば、自社の節税効果を試算し、確定申告までの対応がわかります。

🏆 結論:賃上げ促進税制の活用5ステップ

①給与増加率1.5%以上を確認(全従業員の給与総額で判定)→ ②上乗せ要件(2.5%以上・教育訓練費・くるみん/えるぼし)を確認 → ③控除額を試算(増加額×15〜45%、上限は法人税額の20%)→ ④確定申告書に適用額明細書を添付 → ⑤控除しきれなかった額は5年間繰越可能。事前届出は不要で、確定申告時に申告するだけで適用できます。

賃上げ促進税制とは?制度の全体像を5つのポイントで解説

賃上げ促進税制とは、従業員の給与等の支給額を前年度から一定以上引き上げた企業が、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。

制度の全体像を5つのポイントで整理すると、①対象は青色申告書を提出する法人・個人事業主、②給与増加率1.5%以上で基本控除15%、③上乗せ要件で最大45%まで控除率アップ、④控除上限は法人税額の20%、⑤中小企業は控除しきれなかった額を5年間繰越可能、となります。

この制度は2013年に「所得拡大促進税制」として創設され、2022年に「賃上げ促進税制」に名称変更。令和6年度(2024年度)税制改正で大幅に拡充され、現行制度は令和6年4月1日〜令和9年3月31日までに開始する各事業年度に適用されます。

📢 令和6年度改正の主な変更点

①全企業向け・中堅企業向け・中小企業向けの3制度に再編、②中小企業向けの最大控除率が40%→45%に引上げ、③中小企業に5年間の繰越控除制度を新設、④子育て・女性活躍支援の上乗せ要件を新設。

参考: 国税庁「No.5927-2 中小企業者等における賃上げ促進税制」

全企業向け・中堅企業向け・中小企業向けの3制度を完全比較

令和6年度改正で、賃上げ促進税制は企業規模別に3つの制度に再編されました。自社がどの制度に該当するかを最初に確認することが、活用の第一歩です。

3制度の完全対照表

項目 全企業向け 中堅企業向け 中小企業向け
対象法人全法人・個人事業主従業員2,000人以下の法人・個人資本金1億円以下の法人・従業員1,000人以下の個人
判定対象継続雇用者の給与等支給額継続雇用者の給与等支給額雇用者全体の給与等支給額
基本要件増加率3%以上増加率3%以上増加率1.5%以上
基本控除率10%10%15%
増加率上乗せ4%以上→+5%、5%以上→+10%、7%以上→+15%4%以上→+15%2.5%以上→+15%
教育訓練費上乗せ+5%+5%+10%
くるみん/えるぼし上乗せ+5%+5%+5%
最大控除率35%35%45%
控除上限法人税額の20%法人税額の20%法人税額の20%
繰越控除なしなし5年間
マルチステークホルダー方針一定規模以上は必要一定規模以上は必要不要

💡 実務のポイント

中小企業向けが最も有利です。基本要件のハードルが低く(1.5%以上)、控除率が高く(最大45%)、繰越控除も使える。資本金1億円以下の法人であれば、迷わず中小企業向けを選びましょう。なお、中小企業者等でも全企業向け・中堅企業向けを選択できますが、中小企業向けの方が有利なケースがほとんどです。

「うちの会社はどの制度?」判定フロー

判定ステップ 条件 該当する制度
Step1資本金1億円以下 or 従業員1,000人以下の個人中小企業向け(最も有利)
Step2従業員2,000人以下(中小企業に該当しない)中堅企業向け
Step3上記いずれにも該当しない全企業向け

中小企業向け賃上げ促進税制の適用要件を詳しく解説

中小企業向け賃上げ促進税制の適用を受けるための手続きは、全5ステップです。事前届出は不要で、確定申告時に必要書類を添付するだけで適用できます。

基本要件:給与増加率1.5%以上

判定式は「(当期の雇用者給与等支給額 − 前期の雇用者給与等支給額)÷ 前期の雇用者給与等支給額 ≧ 1.5%」です。

ここでいう「雇用者給与等支給額」とは、法人の所得の金額の計算上損金に算入される、国内の事業所に勤務する雇用者に対する給与等の支給額のことです。具体的には、基本給、賞与、各種手当(通勤手当・住宅手当・残業手当等)が含まれます。

⚠️ 注意:含まれないもの

退職金、役員報酬(使用人兼務役員の使用人分を除く)、社会保険料の事業主負担分は「雇用者給与等支給額」に含まれません。また、設立事業年度は本制度を適用できない点に注意してください。

上乗せ要件と控除率の一覧

要件 条件 控除率
基本要件給与増加率1.5%以上15%
上乗せ①給与増加率2.5%以上+15%(合計30%)
上乗せ②教育訓練費の増加率10%以上+10%(合計40%)
上乗せ③くるみん認定 or えるぼし2段階目以上+5%(合計45%)

上乗せ要件は重複適用が可能です。全ての上乗せ要件を満たした場合、給与増加額の45%を法人税から控除できます。

教育訓練費に含まれるもの・含まれないもの

教育訓練費の上乗せ要件(前期比10%以上増加)を満たすには、「何が教育訓練費に該当するか」の判定が重要です。

費目 教育訓練費に該当 備考
外部講師への講演料・研修委託費外部機関が実施する研修
eラーニングの利用料外部サービスへの支払い
資格取得の受験料・テキスト代業務に関連するもの
外部セミナーの参加費業務関連のもの
研修参加のための旅費・交通費×旅費交通費として損金算入
社内OJTの人件費×給与として別途計上
一般的な業務用書籍の購入×教育訓練の一環として体系的に行うものは○

💡 実務のポイント

教育訓練費の上乗せ要件を満たすためには、教育訓練等の実施時期・内容・受講者の氏名・費用の支出日・金額・相手先を記載した書類を作成・保存する必要があります。申告書への添付は不要ですが、税務調査で確認を求められることがあるため、期中から記録を整備しておきましょう。

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税額控除額の計算方法|3パターンのシミュレーション

賃上げ促進税制の税額控除額は「控除対象雇用者給与等支給増加額 × 控除率」で計算します。ただし、法人税額の20%が上限です。

📐 シミュレーション前提条件

  • 資本金1,000万円の中小法人(中小企業向け制度を適用)
  • 従業員20名、前期の雇用者給与等支給額:8,000万円
  • 課税所得:1,500万円(法人税額 約282万円)
  • 控除上限:法人税額の20% = 約56.4万円
シナリオ 給与増加率 給与増加額 控除率 控除額(計算値) 実際の控除額
パターンA1.5%120万円15%18万円18万円
パターンB2.5%200万円30%60万円56.4万円(上限)
パターンC3.0%240万円30%+教育訓練10%=40%96万円56.4万円(上限)+繰越39.6万円

※概算値です。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

パターンB・Cでは法人税額の20%上限に達しています。パターンCの場合、控除しきれなかった39.6万円は翌期以降5年間繰り越すことが可能です(中小企業のみ)。

繰越税額控除の活用|赤字年度でも使える5年間の繰越制度

令和6年度改正で新設された繰越税額控除制度は、中小企業にとって非常に大きなメリットです。適用年度に控除しきれなかった税額控除額を、翌期以降5年間にわたって繰り越せます。

繰越控除の5年間活用シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 1年目に賃上げ実施(給与増加額300万円、控除率30%=控除可能額90万円)
  • 1年目は赤字で法人税額ゼロ → 全額繰越
  • 2年目以降に黒字回復、法人税額は各年200万円(控除上限40万円)
年度 法人税額 繰越残高(期首) 当期控除額 繰越残高(期末)
1年目(賃上げ年)0円(赤字)0円90万円
2年目200万円90万円40万円50万円
3年目200万円50万円40万円10万円
4年目200万円10万円10万円0円(全額回収)

赤字年度に賃上げを行っても、黒字に転じた年度から控除を受けられるため、「赤字だから賃上げしても意味がない」というのは誤解です。ただし、5年以内に黒字化しないと繰越期限切れで失効する点には注意が必要です。

賃上げ促進税制の申告手続き5ステップ

賃上げ促進税制の申告手続きは、全部で5ステップです。必要な期間は約1年間(事業年度の期首から確定申告まで)です。

手続きタイムライン

ステップ 時期 対応内容 担当
①計画期首賃上げ計画の策定。前期の給与総額を確認し、1.5%(or 2.5%)以上の増加が見込めるか試算経営者+税理士
②実行期中昇給・賞与の支給。教育訓練費の支出。教育訓練の記録整備人事・経理
③判定期末当期の給与総額を集計し、増加率を計算。基本要件・上乗せ要件の該当を確認税理士
④申告期末後2ヶ月以内確定申告書に適用額明細書・控除額の計算明細書を添付して申告税理士
⑤繰越管理翌期以降控除しきれなかった場合は別表で繰越額を管理(最長5年)税理士

💡 実務のポイント

中小企業向け賃上げ促進税制は、事前の届出や承認申請が不要です。確定申告時に書類を添付するだけで適用できるため、「制度の存在を知らなかった」という理由で適用し忘れるケースが実務では多く見られます。顧問税理士がいる場合は、毎年の決算で自動的にチェックしてもらえるよう依頼しておきましょう。

確定申告で必要な添付書類

申告時に必要な書類は、①控除対象雇用者給与等支給増加額・控除額の計算に関する明細書、②適用額明細書の2点です。繰越控除を利用する場合は、③繰越税額控除限度超過額の明細書も必要です。教育訓練費の上乗せを使う場合は、教育訓練の記録書類を自社で保存しておく必要がありますが、申告書への添付は不要です。

確定申告の基本的な手続きについては、「法人決算の流れ|決算書の作り方・申告期限・税理士への依頼方法」をご覧ください。

賃上げと社会保険料の関係|手取りへの影響を試算

賃上げを行うと、法人税の税額控除が受けられる一方で、社会保険料の事業主負担も増加します。経営者としてはトータルのコストを把握しておく必要があります。

賃上げのコスト・ベネフィット比較

📐 前提条件

  • 従業員1人あたりの月給を2万円引上げ(年間24万円増)
  • 従業員20名で給与増加総額480万円
  • 控除率30%(給与増加率2.5%以上を想定)
項目 金額
給与増加額(総額)480万円
社会保険料の事業主負担増(約15%)約72万円
コスト増の合計約552万円
税額控除額(480万円×30%)−144万円
法人税減少(給与増加分の損金算入効果、実効税率約34%)−188万円
実質コスト増約220万円

※概算値です。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

🔷 社労士の視点

賃上げに伴う社会保険料の増加は避けられませんが、年間480万円の賃上げに対して税制の恩恵(税額控除+損金算入効果)で約332万円が戻ってくる計算です。実質コストは給与増加額の約46%に抑えられます。賃上げは人材確保・定着にも直結するため、コストだけでなく投資効果として捉えることが重要です。

役員報酬と従業員給与のバランスについては、「役員報酬の基礎知識|決め方・変更ルール・税務リスクを解説」もご参照ください。

活用にあたっての注意点とよくある失敗

注意点チェックリスト

注意点 詳細
設立事業年度は適用不可設立1期目は前期の比較対象がないため、制度を適用できません
決算期変更時は月数按分前期と当期の事業年度月数が異なる場合、前期の給与額を当期の月数に按分して比較します
役員報酬は対象外使用人兼務役員の使用人分を除き、役員報酬は雇用者給与等支給額に含まれません
他の税額控除との併用制限全企業向け・中堅企業向け制度との重複適用はできません。いずれか1つを選択
一時的な賞与アップだけでは持続性に欠ける翌期に給与が下がると適用要件を満たさなくなります。ベースアップが望ましい
適用期限がある現行制度は令和9年3月31日までに開始する事業年度が対象。制度の延長は未確定

⚠️ よくある失敗事例

現場で最も多い失敗は「制度の存在を知らず、確定申告で適用し忘れた」ケースです。事後に修正申告で適用することは原則としてできません(更正の請求は可能な場合あり)。また、「パート従業員の給与を含めるのを忘れた」ために増加率が基準を下回ってしまうケースもあります。雇用者全体の給与を漏れなく集計することが重要です。

令和8年度税制改正での変更点|大企業向けの前倒し廃止

令和8年度(2026年度)税制改正大綱では、賃上げ促進税制について以下の変更が示されています。

大企業向け(全企業向け)の賃上げ促進税制は、当初の適用期限(令和9年3月31日)を待たず、令和8年3月31日で前倒し廃止される予定です。一方、中小企業向け・中堅企業向けの制度は現時点で変更の予定はなく、令和9年3月31日まで継続します。

大企業については、賃上げの現状を踏まえた新たな制度設計が令和8年度改正で行われる見込みです。中小企業経営者は現行制度を引き続き活用できますが、制度の改廃は毎年の税制改正で見直されるため、最新の情報を税理士に確認することをお勧めします。

令和7年度税制改正の法人税関連の全体像については、「令和7年度税制改正のポイント(法人税関連)|防衛特別法人税・賃上げ税制・経営強化税制」で詳しく解説しています。

よくある質問(FAQ)

賃上げ促進税制を利用するために事前届出は必要ですか?
中小企業向けの場合、事前届出は不要です。確定申告書に適用額明細書と控除額の計算明細書を添付するだけで適用できます。ただし、教育訓練費の上乗せを利用する場合は、教育訓練の記録書類を自社で作成・保存しておく必要があります。
パート・アルバイトの給与は含まれますか?
はい、含まれます。雇用者給与等支給額には、正社員・パート・アルバイトを問わず、国内の事業所に勤務する全ての雇用者の給与が含まれます。社会保険適用促進手当も対象です。ただし、役員報酬(使用人兼務役員の使用人分を除く)は含まれません。
賞与の増額だけでも適用できますか?
はい、賞与も雇用者給与等支給額に含まれるため、賞与の増額だけでも適用可能です。ただし、翌期に賞与を元に戻すと増加率が満たせなくなる可能性があるため、ベースアップとの組み合わせが望ましいです。
赤字の年でも賃上げ促進税制は使えますか?
中小企業向けであれば使えます。赤字で法人税額がゼロの場合、控除額の全額を5年間繰り越して、黒字に転じた年度から控除を受けられます。この繰越控除制度は中小企業向けにのみ認められた措置です。
くるみん認定やえるぼし認定はどこで取得できますか?
いずれも厚生労働省の認定制度です。くるみん認定は都道府県労働局、えるぼし認定も同様に都道府県労働局に申請します。認定の取得には一定の実績期間が必要なため、適用を狙う場合は早めの準備が必要です。詳細は厚生労働省のWebサイトで確認できます。
設立1期目の法人は適用できますか?
設立事業年度(設立の日を含む事業年度)は賃上げ促進税制を適用できません。前期の比較対象がないためです。2期目から適用可能になります。
前期と当期で事業年度の月数が異なる場合はどうしますか?
決算期の変更等で事業年度の月数が異なる場合は、前期の給与支給額を当期の月数に按分して比較します。たとえば、前期が12ヶ月で当期が9ヶ月の場合、前期の給与支給額を9/12倍して比較します。
中小企業向けと全企業向け、どちらを選ぶべきですか?
資本金1億円以下の法人であれば、ほぼ全てのケースで中小企業向けが有利です。理由は、①基本要件のハードルが低い(1.5%以上 vs 3%以上)、②控除率が高い(最大45% vs 35%)、③繰越控除が使える(5年間)の3点です。
他の税額控除制度と併用できますか?
中小企業経営強化税制や研究開発税制など、他の税額控除制度との併用は可能です。ただし、同じ「賃上げ促進税制」の3制度(全企業向け・中堅企業向け・中小企業向け)は重複適用できず、いずれか1つを選択する必要があります。
適用を忘れた場合、後から申告できますか?
確定申告書への記載が要件とされているため、当初申告で適用していない場合は原則として適用できません。ただし、更正の請求により認められる場合もあります。制度の適用漏れを防ぐためにも、決算前に顧問税理士と賃上げ促進税制の適否を確認するルーティンを設けることをお勧めします。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 賃上げ促進税制は事前届出不要。確定申告時に書類を添付するだけで最大45%の税額控除
  • 中小企業向けは基本要件が給与増加率1.5%以上と低ハードル。2.5%以上で控除率が倍増(30%)
  • 控除しきれなかった額は5年間繰越可能(中小企業のみ)。赤字年度でも賃上げの税制メリットを享受できる
  • 教育訓練費の上乗せ(+10%)にはeラーニング・外部研修が該当。記録の保存が必要
  • くるみん・えるぼし認定でさらに+5%。取得には一定期間が必要なため早めの準備を
  • 社会保険料の増加を考慮しても、税額控除+損金算入効果で実質コストは給与増加額の約46%に圧縮できる

賃上げ促進税制は、「税制の恩恵を受けながら従業員の待遇を改善し、人材確保につなげる」ための制度です。特に中小企業向けは要件のハードルが低く、繰越控除も使えるため、活用しない手はありません。まずは前期の給与総額を確認し、1.5%以上の増加が達成できそうか試算してみてください。

法人設立後の各種届出や手続きの全体像は「会社設立の流れ|設立手続き・届出・費用を完全ガイド」で解説しています。法人成りを検討中の方は「法人成りのタイミング|個人事業主が法人化すべき売上の目安」もあわせてご覧ください。

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