【税理士監修】非居住者への支払いと源泉徴収|不動産賃貸料・土地購入・報酬の実務

【税理士監修】非居住者への支払いと源泉徴収|不動産賃貸料・土地購入・報酬の実務
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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非居住者への支払いと源泉徴収|不動産賃貸料・土地購入・報酬の実務

「海外転勤したオーナーに家賃を払っているが、源泉徴収は必要?」「非居住者から土地を買ったときの税金の処理がわからない」。そんな経理担当者や不動産管理会社に向けて、非居住者への3大支払い(不動産賃貸料・土地購入・報酬)の源泉徴収ルールを、具体的な計算例と判定表つきで完全ガイドします。

🏆 結論:支払いの種類と相手の属性で源泉徴収の要否・税率が決まる

非居住者への支払いで源泉徴収が必要かどうかは、①支払いの種類(賃料・譲渡代金・報酬等)、②支払者の属性(法人か個人か)、③用途(居住用か事業用か)の3つで判断します。不動産賃貸料は20.42%、土地等の譲渡対価は10.21%、報酬・給与は20.42%が基本税率です。ただし、個人が自己居住用に借りる場合や、個人が自己居住用に1億円以下で購入する場合は免除されます。判断に迷ったら「法人が支払うなら基本的に源泉徴収が必要」と覚えておきましょう。

非居住者への支払いと源泉徴収の全体像

非居住者への支払いと源泉徴収とは、日本国内に住所も1年以上の居所も持たない個人(非居住者)に対して国内源泉所得を支払う際、支払者が所得税と復興特別所得税を差し引いて税務署に納付する制度です。非居住者の課税のしくみの全体像については、「非居住者に対する課税のしくみ|国内源泉所得と源泉徴収を完全解説」で詳しく解説しています。

本記事では、実務で特に頻度が高い3つのケース(不動産賃貸料・土地購入・報酬)に焦点を当てて、源泉徴収の要否判定から計算、納付手続きまでを具体的に解説します。

源泉徴収が必要な主な支払いと税率の早見表

支払いの種類 税率 免除される場合
不動産賃貸料(家賃・権利金・礼金)20.42%個人が自己・親族の居住用に借りる場合
土地等の譲渡対価(売買代金)10.21%個人が自己・親族の居住用に取得し、対価が1億円以下の場合
給与・報酬(人的役務の提供)20.42%役務提供が全て国外で完結する場合
退職手当等20.42%国内勤務期間に対応する部分のみ課税

不動産賃貸料の源泉徴収|借主の属性別の判定

非居住者が所有する日本国内の不動産から生じる賃貸料は、国内源泉所得(所得税法第161条第1項第7号)に該当します。借主が支払いの際に20.42%を源泉徴収し、翌月10日までに税務署に納付するのが原則です。

借主の属性と用途による源泉徴収の要否

借主の属性 使用目的 源泉徴収 根拠
法人事業用(オフィス・倉庫等)必要所法212①
法人社員の社宅用必要法人契約のため
個人自己・親族の居住用不要所法213①一ロ
個人事業用(店舗・事務所)必要居住用でないため
個人居住用+事務所の併用事務所部分のみ必要按分計算

💡 実務のポイント

実務で多いのが「法人が社員の社宅として借りているから居住用扱いで源泉不要では?」という誤解です。免除されるのは「個人が自己又はその親族の居住の用に供するために借り受けた」場合だけです。法人名義で契約した時点で、たとえ実際に住むのが従業員であっても源泉徴収が必要です。この違いは税務調査で指摘されやすいポイントです。

賃料の源泉徴収額シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 借主は法人(源泉徴収義務あり)
  • 税率20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%)
  • 非居住者オーナーの年間経費を賃料の30%と仮定
月額賃料 月額源泉徴収額 オーナー月額手取り 年間源泉徴収額 確定申告での還付目安
10万円20,420円79,580円245,040円約19万円
20万円40,840円159,160円490,080円約33万円
50万円102,100円397,900円1,225,200円約71万円
100万円204,200円795,800円2,450,400円約121万円

※還付目安は概算値です。実際の還付額は経費・控除の状況により大きく異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

🧮 シミュレーション

源泉徴収額は賃料総額の20.42%ですが、確定申告では経費(管理費・修繕費・減価償却費・固定資産税等)を差し引いた「所得」に対して税額が計算されます。そのため、源泉徴収額が実際の税額を大幅に上回り、確定申告で還付を受けられるケースが大半です。非居住者オーナーには「確定申告で還付がある」ことを事前に説明し、納税管理人の選任を促しましょう。

参考: 国税庁「No.2880 非居住者等に不動産の賃借料を支払ったとき」

非居住者から土地等を購入したときの源泉徴収

非居住者が所有する日本国内の土地・建物を購入する場合、買主は売買代金の支払い時に10.21%を源泉徴収する義務があります(所得税法第161条第1項第5号)。この源泉徴収義務は法人だけでなく個人の買主にも課されるため、注意が必要です。

買主の属性と金額による源泉徴収の要否

買主の属性 使用目的 売買価格 源泉徴収
法人事業用金額を問わず必要
法人社員寮用金額を問わず必要
個人自己・親族の居住用1億円以下不要
個人自己・親族の居住用1億円超必要
個人投資・事業用金額を問わず必要

⚠️ 注意

個人の買主が免除されるのは「自己又はその親族の居住用」かつ「対価が1億円以下」の両方を満たす場合だけです。投資用マンションを個人名義で9,000万円で購入しても、居住用でなければ源泉徴収が必要です。また、1億円の判定は土地と建物の合計額で行います。

土地購入時の源泉徴収額シミュレーション

売買価格 源泉徴収額(10.21%) 売主への支払額 買主の注意点
3,000万円3,063,000円26,937,000円翌月10日までに納付
5,000万円5,105,000円44,895,000円手付金・中間金も源泉徴収対象
1億5,000万円15,315,000円134,685,000円個人居住用でも1億円超は源泉必要

※概算値です。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

💡 実務のポイント

不動産売買では代金を手付金・中間金・残金と分割して支払うケースが多いですが、源泉徴収は各支払いの都度行う必要があります。「残金支払い時にまとめて源泉徴収する」という処理は認められません。また、売主が非居住者だと知らずに源泉徴収せずに支払ってしまった場合でも、買主に源泉徴収義務がある以上、不納付加算税・延滞税の対象になります。売買契約の段階で売主の居住者区分を確認する仕組みを作っておきましょう。

参考: 国税庁「No.2879 非居住者等から土地等を購入したとき」

報酬・給与の源泉徴収|人的役務の提供と退職金

非居住者に対して国内での人的役務の提供に対する報酬を支払う場合は、20.42%の源泉徴収が必要です(所得税法第161条第1項第6号・第12号)。ただし、役務提供が全て国外で完結する場合は国内源泉所得に該当しないため、源泉徴収は不要です。

報酬・給与の種類別の源泉徴収ルール

支払いの種類 税率 注意点
国内勤務に基づく給与20.42%月額表・日額表は使わず、支払額×20.42%で一律計算
非居住者の役員報酬20.42%国内法人の役員報酬は、国内勤務部分のみ課税。按分が必要な場合あり
コンサルティング報酬(国内で提供)20.42%来日してコンサルティングを行う場合
コンサルティング報酬(国外で完結)国内源泉所得に該当しないため源泉徴収不要
芸能人・スポーツ選手の出演料20.42%租税条約でも免税にならないケースが多い
退職手当等20.42%国内勤務期間に按分。選択課税で還付可能

退職金の「選択課税」で大幅に税金が減るケース

非居住者に退職金を支払う場合、原則として国内勤務期間に対応する部分に20.42%を一律で源泉徴収します。しかし、非居住者は確定申告で「退職所得の選択課税」(所得税法第171条)を選ぶことができ、居住者と同じ退職所得控除を適用して税額を再計算できます。

📐 シミュレーション前提条件

  • 退職金総額:2,000万円
  • 勤続年数:20年(うち国内勤務15年・海外勤務5年)
  • 国内勤務対応分:2,000万円×15/20=1,500万円
計算方法 税額 計算過程
原則:20.42%一律源泉3,063,000円1,500万円×20.42%
選択課税:退職所得控除適用約252,500円退職所得控除800万円、課税退職所得350万円×1/2=175万円、所得税率5%〜10%
💰 還付額の目安:約281万円

選択課税を利用すると、このケースでは約281万円の還付が受けられます。退職金が高額な場合の差額はさらに大きくなるため、非居住者に退職金を支払う際は選択課税の存在を必ず案内しましょう。

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源泉徴収免除証明書の取得方法

非居住者がPE(恒久的施設)を通じて事業を行っている場合、一定の要件を満たせば「源泉徴収免除証明書」の交付を受けて、特定の国内源泉所得について源泉徴収を免除してもらえます。不動産賃貸業を営む非居住者にとって特に有用な制度です。

免除証明書の取得要件と対象所得

項目 内容
取得要件(3つ全て必要)①開業届出書を提出済み、②納税管理人の届出を提出済み、③前年分の確定申告書を提出済み
対象となる所得人的役務の提供対価、不動産等の賃料、貸付金の利子、使用料等(PE帰属所得に限る)
対象外の所得預金・公社債の利子、配当、匿名組合分配金
有効期間交付の日から翌年3月31日まで(毎年更新が必要)
申請先非居住者の納税地の所轄税務署長

💡 実務のポイント

免除証明書を取得した非居住者オーナーは、借主(法人等)に証明書の写しを提示することで源泉徴収を免除してもらえます。借主側は証明書の写しを保管しておくことで、税務調査時に源泉徴収しなかったことの正当性を説明できます。なお、免除証明書は毎年更新が必要で、有効期限切れの証明書は無効ですので、期限管理に注意してください。

マスターリース方式による源泉徴収の回避

非居住者のオーナーが不動産を賃貸する場合、法人の借主は源泉徴収の手間が発生します。これを避ける実務上の手法として「マスターリース方式」があります。

マスターリースの仕組み

マスターリースとは、非居住者のオーナーが不動産管理会社に一括で賃貸し(マスターリース契約)、管理会社がエンドテナントに転貸する仕組みです。

項目 マスターリースなし マスターリースあり
源泉徴収義務者エンドテナント(法人)不動産管理会社
エンドテナントの手間毎月源泉徴収・納付が必要通常の賃料支払いのみ
入居者募集のしやすさ源泉徴収の手間を嫌う法人テナントが敬遠通常の物件と同じ条件で募集可能
オーナーのデメリット管理会社の手数料が発生

📝 行政書士の視点

海外転勤で自宅を賃貸に出す場合、マスターリース契約の締結と同時に、賃貸借契約の名義変更(サブリース契約への切替え)が必要になります。この際、定期建物賃貸借契約とするのか普通建物賃貸借契約とするのかで帰国後の取扱いが大きく変わりますので、契約内容は事前に専門家と相談しましょう。

みなし国内払いと国外送金時の注意点

非居住者への支払いを海外の口座に送金する場合でも、支払者が日本国内に住所・居所または事務所等を有するときは「みなし国内払い」として源泉徴収が必要です(所得税法第212条第2項)。

みなし国内払いの要件と通常払いとの違い

項目 国内での支払い(原則) みなし国内払い(海外送金)
適用場面非居住者に国内で直接支払う場合支払者が国内に住所等を有し、海外に送金する場合
源泉徴収義務ありあり
納付期限翌月10日翌月末日(事務手続き考慮)

⚠️ 注意

「海外送金だから源泉徴収は不要」は最もよくある誤解です。支払者が日本国内に住所・事務所を有する限り、送金先が海外であっても源泉徴収義務があります。この間違いは税務調査で高い確率で指摘されます。源泉徴収せずに支払った場合、不納付加算税(原則10%)と延滞税が課されますので注意してください。

非居住者側の確定申告と還付

源泉徴収された非居住者は、確定申告を行うことで源泉徴収税額と実際の税額との差額の還付を受けられるケースが多くあります。特に不動産賃貸所得は経費控除後の所得が賃料総額より大幅に少なくなるため、還付額が大きくなる傾向があります。

非居住者の確定申告のポイント

項目 内容
申告期限翌年2月16日〜3月15日(居住者と同じ)
申告先納税管理人の住所地ではなく、非居住者の納税地の所轄税務署
適用できる所得控除雑損控除・寄附金控除・基礎控除の3つのみ
納税管理人非居住者に代わって申告・納税を行う者。届出が必要
還付までの期間通常1〜2ヶ月。e-Tax利用なら3週間程度に短縮される場合あり

確定申告の基本的な流れは、「確定申告の基礎知識|はじめてでもわかる手順と必要書類」をご覧ください。年末調整の対象となる場合は「【税理士×社労士が解説】年末調整とは?しくみ・対象者・手続きの流れを完全ガイド」も参考になります。

経理担当者向け実務チェックリスト

非居住者への支払いが発生した場合に、経理担当者が確認すべき項目を一覧にまとめます。

No. チェック項目 確認書類・方法
1支払先が非居住者に該当するか確認住所・在留資格・渡航予定期間
2支払いが国内源泉所得に該当するか確認契約書・業務内容の確認
3免除要件に該当しないか確認居住用/1億円以下/免除証明書の有無
4租税条約の軽減・免税の適用可否を確認条約の有無・届出書の提出期限
5正しい税率で源泉徴収額を計算賃料20.42%、土地10.21%、報酬20.42%
6非居住者用の納付書を使用「非居住者・外国法人の所得についての所得税徴収高計算書」
7期限内に納付翌月10日(みなし国内払いは翌月末日)
8支払調書を作成・提出翌年1月31日までに税務署へ

非居住者の居住者判定に関する詳細は、「居住者と非居住者の区分|判定基準と住所の推定規定」をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

不動産管理会社を通じて賃料を支払う場合、源泉徴収は誰が行いますか?
マスターリース契約の場合は不動産管理会社が源泉徴収義務者になります。管理会社が単に集金代行を行うだけ(オーナーと借主の直接契約)の場合は、借主が源泉徴収義務者です。契約形態によって義務者が変わるため、契約書で確認してください。
非居住者に権利金・礼金を支払った場合も源泉徴収は必要ですか?
はい、返還されない権利金・礼金は賃借料と同様に20.42%の源泉徴収が必要です。一方、退去時に返還される敷金(保証金)は所得に該当しないため、源泉徴収は不要です。
非居住者から個人が自宅用にマンションを8,000万円で購入する場合、源泉徴収は必要ですか?
不要です。個人が自己または親族の居住用に取得し、対価が1億円以下の場合は源泉徴収が免除されます。ただし、後から投資用に転用した場合は、取得時の免除が取り消されることはありませんが、売却時の確定申告に影響する場合があります。
売買代金を手付金・残金と分割して支払う場合、源泉徴収はいつ行いますか?
各支払いの都度、源泉徴収を行います。手付金100万円を支払う際は100万円×10.21%=102,100円を源泉徴収し、残金の支払い時にも同様に源泉徴収します。まとめて最終支払い時に行うことはできません。
非居住者への退職金で「選択課税」はどうやって申請しますか?
選択課税は確定申告で適用します。退職金の支払い時は原則どおり20.42%を源泉徴収し、非居住者(または納税管理人)が確定申告で退職所得の選択課税を選んで税額を再計算します。差額が還付されます。
以前は居住者だった取引先が海外に転居した場合、いつから源泉徴収が必要ですか?
出国の日から非居住者となります。出国以降の支払いから源泉徴収が必要です。ただし、1年未満の出張や短期渡航では非居住者にならない場合もあるため、渡航目的と予定期間を確認してください。
源泉徴収を忘れて全額支払ってしまった場合はどうすればいいですか?
速やかに税務署に相談し、自主的に納付してください。源泉徴収義務は支払者にあるため、非居住者から源泉税額を回収できなくても支払者が負担することになります。自主的な修正であれば不納付加算税が5%に軽減されます(通常は10%)。遅延日数に応じた延滞税も課されます。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 不動産賃貸料は20.42%、土地購入は10.21%、報酬は20.42%が基本税率
  • 個人が自己居住用に借りる場合と、居住用に1億円以下で購入する場合は免除
  • 法人が借主・買主の場合は金額・用途に関わらず原則として源泉徴収が必要
  • 海外送金でも支払者が国内にいれば「みなし国内払い」で源泉徴収義務あり
  • 退職金は「選択課税」で退職所得控除を適用すると大幅な還付が得られる
  • 源泉徴収免除証明書やマスターリース方式で実務負担を軽減できる
  • 源泉徴収を忘れた場合は支払者が責任を負う。取引先の住所変更の定期確認を

非居住者への支払いで判断に迷ったら、「法人が支払う場合は基本的に源泉徴収が必要」と覚えておきましょう。個人が支払う場合の免除には条件がありますので、事前に税理士へ相談することで、源泉徴収の漏れや過払いを防ぐことができます。所得控除の詳細は「所得控除の種類一覧と適用条件」もあわせてご確認ください。

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