【税理士監修】租税条約と源泉徴収|届出書の提出方法と還付請求を完全ガイド

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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租税条約と源泉徴収|届出書の提出方法と還付請求を完全ガイド
「租税条約で源泉税率が下がるらしいけど、どう手続きすればいいの?」「届出書を出し忘れて国内法の税率で源泉徴収してしまった…還付は受けられる?」。そんな経理担当者に向けて、租税条約による源泉徴収の軽減・免除を受けるための届出書の提出手順から、主要国との税率比較、還付請求の方法まで完全ガイドします。
🏆 結論:届出書1枚で源泉税率が大幅に下がる。出し忘れても還付請求で取り戻せる
租税条約を活用すれば、非居住者への支払いにかかる源泉徴収税率を国内法の20.42%から大幅に引き下げることができます。たとえば日米条約では使用料が免税、配当が10%(親子間5%)です。適用を受けるには「租税条約に関する届出書」を支払日の前日までに支払者経由で税務署に提出するだけです。届出書を出し忘れた場合も、後日「還付請求書」を提出すれば差額を取り戻せます。手続きの流れは5ステップ、必要書類は届出書・居住者証明書・特典条項に関する付表の3点です。
租税条約とは?源泉徴収との関係
租税条約とは、国家間で締結される条約で、国際的な二重課税の排除と脱税・租税回避の防止を主な目的としています。日本は現在、80以上の国・地域と租税条約を締結しており、非居住者への支払いにかかる源泉徴収税率の軽減・免除を定めています。
租税条約は国内法に優先して適用されます(所得税法第162条)。そのため、条約の限度税率が国内法の税率より低い場合は条約の税率が適用され、逆に条約の限度税率が国内法の税率より高い場合は国内法の税率が適用されます。つまり「条約を適用したら税金が増えた」ということはありません。
非居住者の課税のしくみの全体像は「非居住者に対する課税のしくみ|国内源泉所得と源泉徴収を完全解説」を、非居住者への具体的な支払いの源泉徴収については「非居住者への支払いと源泉徴収|不動産賃貸料・土地購入・報酬」をご覧ください。
租税条約で軽減される3つの投資所得
租税条約で特に重要なのは、投資所得(配当・利子・使用料)に対する源泉地国の課税を制限する規定です。OECDモデル租税条約に基づき、ほとんどの条約で以下の3つの所得について限度税率が設定されています。
| 所得の種類 |
国内法の税率 |
租税条約での取扱い |
| 配当 | 20.42% | 源泉地国の税率上限を設定(5〜15%が多い。親子間配当はさらに低率) |
| 利子 | 15.315%〜20.42% | 源泉地国の税率上限を設定(10%が多い。免税の場合あり) |
| 使用料 | 20.42% | 免税の条約が多い(日米・日英等)。10%の条約もあり |
主要10カ国との租税条約の限度税率比較表
日本が締結している主要な租税条約の配当・利子・使用料の限度税率を一覧にまとめます。経理担当者は、取引相手の居住地国の条約を確認するところから始めましょう。
| 国・地域 |
配当(一般) |
配当(親子間) |
利子 |
使用料 |
特典条項 |
BEPS条約 |
| 米国 | 10% | 5%(免税※) | 10%(免税※) | 免税 | あり | − |
| 英国 | 10% | 免税 | 免税 | 免税 | あり | 適用 |
| ドイツ | 15% | 5% | 10%(免税※) | 免税 | あり | 適用 |
| フランス | 10% | 5%(免税※) | 10%(免税※) | 免税 | あり | 適用 |
| 中国 | 10% | 10% | 10% | 10% | なし | 適用 |
| 韓国 | 15% | 5% | 10% | 10% | なし | 適用 |
| シンガポール | 15% | 5% | 10% | 10% | あり | − |
| オーストラリア | 15% | 5% | 10% | 5% | あり | 適用 |
| インド | 10% | 10% | 10% | 10% | なし | − |
| 台湾 | 10% | 10% | 10% | 10% | − | − |
※「免税※」は一定の要件(金融機関間の利子、議決権50%以上保有の親子間配当等)を満たす場合に限り免税。親子間配当の持株要件は条約により異なる(10%・25%・50%等)。上記は概要であり、詳細は各条約の条文をご確認ください。
💡 実務のポイント
使用料が免税になる条約(日米・日英・日独・日仏等)は、ソフトウェアライセンス料や特許権のロイヤルティを海外に支払う企業にとって大きなメリットがあります。年間1,000万円の使用料であれば、届出書1枚の提出で約204万円の源泉徴収が不要になります。取引先が条約締結国に所在する場合は、必ず条約の適用を検討しましょう。
届出書の提出手続き【5ステップ】
租税条約による源泉徴収の軽減・免除を受けるための手続きは、全部で5ステップです。最初にその所得の支払を受ける日の前日までに、届出書を提出する必要があります。
ステップ1:届出書の種類を選ぶ
届出書は支払内容によって様式が異なります。主な様式は以下のとおりです。
| 様式番号 |
対象となる所得 |
典型的なケース |
| 様式1 | 配当に対する軽減・免除 | 外国法人への配当金の支払い |
| 様式2 | 利子に対する軽減・免除 | 外国法人への貸付金利子の支払い |
| 様式3 | 使用料に対する軽減・免除 | ソフトウェアライセンス料、特許権のロイヤルティ |
| 様式7 | 短期滞在者等の報酬・給与に対する免除 | 183日以内の短期滞在者への給与 |
| 様式8 | 教授等・留学生の報酬に対する免除 | 大学の交換教授への報酬 |
| 様式17 | 特典条項に関する付表 | 特典条項のある条約の場合に届出書に添付 |
ステップ2:居住者証明書を取得する
特典条項がある条約の場合、非居住者は自国の税務当局が発行する「居住者証明書」を取得する必要があります。証明書の交付には国によって2〜3ヶ月かかる場合があるため、早めの手配が重要です。
ステップ3:届出書を正副2部作成する
非居住者が届出書を正副2部作成し、支払者(源泉徴収義務者)に提出します。e-Taxでの電磁的提出も可能です。
ステップ4:支払者が税務署に提出する
支払者は届出書の正本を、自社の所轄税務署長に持参または送付します。提出期限は最初にその所得の支払を受ける日の前日までです。
ステップ5:軽減税率で源泉徴収する
届出書が受理されれば、支払時に条約の限度税率で源泉徴収します。条約の限度税率以下であれば復興特別所得税は課されません。
⚠️ 注意
届出書は支払者ごとに作成が必要です。同じ非居住者が複数の支払者から所得を受ける場合、それぞれの支払者に対して別々の届出書を提出します。また、届出書の記載事項に変更が生じた場合(住所変更、適用条約条文の変更等)は、速やかに異動届出書を提出する必要があります。
参考: 国税庁「No.2888 租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)」
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届出書を出し忘れた場合の還付請求手続き
届出書を支払日の前日までに提出できなかった場合、支払者は国内法の税率で源泉徴収しなければなりません。しかし、後日「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書(様式11)」を提出することで、国内法の税率と条約の限度税率との差額の還付を受けられます。
還付請求の手続きフロー
| 順序 |
手続き |
提出書類 |
注意点 |
| 1 | 支払者が国内法の税率で源泉徴収・納付 | − | 翌月10日までに納付 |
| 2 | 非居住者が必要書類を準備 | 居住者証明書・支払内容確認書類の写し | 特典条項がある条約は付表(様式17)も必要 |
| 3 | 非居住者が届出書+還付請求書を作成 | 届出書(正副2部)+還付請求書(様式11、正副2部) | 支払者の欄に証明記載が必要 |
| 4 | 支払者が還付請求書の「4」欄を証明 | − | 支払者が源泉徴収の事実を証明する |
| 5 | 支払者が所轄税務署に提出 | 届出書+還付請求書+添付書類一式 | e-Taxでも提出可 |
| 6 | 税務署から差額が還付される | − | 通常1〜2ヶ月程度 |
💡 実務のポイント
還付請求に期限の定めはありませんが、源泉徴収の時から5年を経過すると時効により還付を受けられなくなる可能性があります(国税通則法第74条)。届出書の提出を忘れたことに気づいたら、できるだけ早く還付請求の手続きを始めましょう。
参考: 国税庁「No.2889 租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求」
特典条項(LOB)と主要目的テスト(PPT)
近年の租税条約では、条約の濫用を防ぐために「特典条項(LOB:Limitation on Benefits)」や「主要目的テスト(PPT:Principal Purpose Test)」が導入されています。これらは、租税条約の軽減・免税を受けるための追加的な要件です。
特典条項の適用判定フロー
特典条項がある条約(日米・日英・日独・日仏・日豪・日シンガポール等)の適用を受けるには、非居住者が以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
| テスト名 |
内容 |
該当しやすいケース |
| 適格居住者テスト | 個人、政府機関、公開会社、年金基金等に該当 | 個人・政府は自動的にパス |
| 上場会社テスト | 相手国の公認の証券取引所に上場している法人 | 上場企業 |
| 所有・侵食テスト | 議決権の50%超を条約相手国の居住者が保有し、かつ所得の50%超が第三国に流出していない | 条約相手国の居住者が株主の非公開会社 |
| 能動的事業活動テスト | 相手国で実質的な事業活動を行い、その所得が事業活動に関連 | 相手国で実業を営む法人 |
| 権限のある当局による認定 | 上記のいずれにも該当しない場合に、税務署長への申請で認定を受ける | 上記テストに不合格だが条約の趣旨に合致する場合 |
📊 公認会計士の視点
BEPS防止措置実施条約(MLI)の発効により、多くの租税条約にPPT(主要目的テスト)が導入されています。PPTとは、「取引の主要な目的の一つが条約の特典を得ることであった場合は、その特典を与えない」という一般的な濫用防止規定です。たとえば、条約の特典を得るためだけに第三国にペーパーカンパニーを設立して取引を迂回させるようなケースは、PPTにより特典が否認される可能性があります。
台湾との取引における特殊な取扱い
台湾は国家として承認されていないため、日本との間に正式な「租税条約」は存在しません。代わりに、公益財団法人日本台湾交流協会と台湾日本関係協会との間の民間租税取決めがあり、これを日本国内で実施するための法律が「外国居住者等所得相互免除法」です。
台湾との主な限度税率
| 所得の種類 |
国内法の税率 |
取決めによる限度税率 |
| 配当 | 20.42% | 10% |
| 利子 | 15.315%〜20.42% | 10% |
| 使用料 | 20.42% | 10% |
手続きは通常の租税条約と同様に届出書を提出します。ただし、届出書の記載で「適用される租税条約」欄には「外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律」と記載する点が通常の条約と異なります。
BEPS防止措置実施条約(MLI)の影響
BEPS防止措置実施条約(MLI:Multilateral Instrument)は、2国間の租税条約を一括で修正するための多国間条約です。日本は2018年に署名し、2019年から順次発効しています。MLIにより、既存の租税条約にPPT(主要目的テスト)が追加されたり、PE認定の範囲が変更されたりする場合があります。
MLIの主な影響
| 影響項目 |
内容 |
| PPTの導入 | 条約の特典を得ることが取引の主要目的の一つである場合、特典を否認 |
| PE認定の拡大 | 準備的・補助的活動の例外の厳格化、代理人PEの範囲拡大 |
| 相互協議手続きの改善 | 仲裁規定の導入により紛争解決を迅速化 |
💡 実務のポイント
MLIの適用状況は国ごとに異なります。財務省の「我が国の租税条約等の一覧」で各条約のMLI適用状況を確認できます。特にMLIによりPPTが導入された条約では、取引の事業上の目的を明確に説明できる資料を用意しておくことが、税務調査対策として重要です。
シミュレーション|届出書の提出で年間いくら節約できるか
実際に届出書を提出した場合と提出しなかった場合で、源泉徴収額がどれだけ変わるかをシミュレーションします。
📐 シミュレーション前提条件
- 日本法人が米国法人に年間1,200万円のソフトウェアライセンス料を支払い
- 日米租税条約では使用料は免税
| 項目 |
届出書なし(国内法) |
届出書あり(日米条約) |
| 年間支払額 | 12,000,000円 | 12,000,000円 |
| 源泉徴収税率 | 20.42% | 0%(免税) |
| 年間源泉徴収額 | 2,450,400円 | 0円 |
| 米国法人の年間手取り | 9,549,600円 | 12,000,000円 |
💰 年間節約額:2,450,400円
届出書1枚の提出で年間約245万円の差額が生じます。5年間の契約であれば約1,225万円です。確定申告の基本的な流れは「確定申告の基礎知識」をご覧ください。
よくある間違いと正しい対応
| No. |
よくある間違い |
正しい取扱い |
対応策 |
| 1 | 届出書なしで条約の税率を適用してしまう | 届出書が未提出なら国内法の税率で源泉徴収 | 差額を追納し、不納付加算税を覚悟 |
| 2 | 条約の限度税率に復興特別所得税を加算 | 条約の限度税率が国内法以下なら復興特別所得税は不要 | 条約適用時は復興税を加算しない |
| 3 | 特典条項の付表を添付し忘れる | 特典条項のある条約では様式17の添付が必須 | 条約に特典条項があるか事前に確認 |
| 4 | 居住者証明書の原本を提示せず写しだけ添付 | 原本を届出書に添付するか、支払者に提示 | 原本の事前取得をスケジュールに組み込む |
| 5 | 台湾との取引に通常の租税条約様式を使用 | 外国居住者等所得相互免除法に基づく手続き | 条約欄に正しい法律名を記載 |
よくある質問(FAQ)
租税条約の届出書は毎年提出し直す必要がありますか?
最初の支払いを受ける日の前日までに1回提出すれば、記載事項に変更がない限り再提出は不要です。ただし、記載事項に異動が生じた場合(住所変更、持株比率の変更等)は異動届出書を提出する必要があります。
届出書を出し忘れた場合、還付請求に期限はありますか?
法律上の明確な提出期限はありませんが、国税通則法第74条の規定により、源泉徴収の日から5年を経過すると還付請求権が時効で消滅する可能性があります。できるだけ早く手続きしましょう。
租税条約の限度税率に復興特別所得税は加算されますか?
条約の限度税率が国内法の税率以下であれば、復興特別所得税は課されません。たとえば日米条約で配当の限度税率が10%の場合、源泉徴収税率はちょうど10%です(10.21%ではありません)。
租税条約を締結していない国の非居住者への支払いはどうなりますか?
国内法の税率がそのまま適用されます。たとえば配当なら20.42%、使用料なら20.42%です。条約がなければ軽減・免除の余地はありませんので、二重課税が生じる場合は外国税額控除で調整することになります。
e-Taxで届出書を提出できますか?
はい。支払者(源泉徴収義務者)がe-Taxソフトで届出書を電子提出できます。非居住者から電磁的方法で届出書に記載すべき事項の提供を受け、支払者がe-Taxで提出する方法も認められています。
相手国と日本の両方で特典条項がある場合、どちらの要件を満たす必要がありますか?
日本での源泉徴収の軽減・免除を受ける場合は、日本側の特典条項の要件を満たす必要があります。特典条項に関する付表(様式17)で要件の充足状況を記載し、届出書に添付して提出します。
確定申告と租税条約の届出書は別の手続きですか?
別の手続きです。租税条約の届出書は源泉徴収の段階で軽減・免税を受けるための事前届出であり、確定申告は所得全体に対する年間の税額を精算する手続きです。非居住者がPE帰属所得を有する場合は確定申告も必要です。確定申告の基本は「
確定申告の基礎知識」をご覧ください。
まとめ
📋 この記事のポイント
- 租税条約で配当・利子・使用料の源泉徴収税率を大幅に引き下げ可能
- 適用を受けるには「租税条約に関する届出書」を支払日の前日までに提出
- 届出書は支払者経由で所轄税務署長に正副2部を提出(e-Taxも可)
- 特典条項がある条約は「付表(様式17)」と「居住者証明書」の添付が必要
- 届出書を出し忘れても「還付請求書(様式11)」で差額を取り戻せる
- 台湾との取引は「外国居住者等所得相互免除法」に基づく手続きが必要
- BEPS防止措置実施条約(MLI)によりPPTが導入された条約は事業目的の整理が重要
租税条約を活用すれば、年間で数百万円単位の源泉徴収税を節約できるケースも珍しくありません。非居住者との取引が発生した時点で、まず「条約があるか」「限度税率はいくらか」を確認する習慣をつけましょう。居住者と非居住者の区分の詳細は「居住者と非居住者の区分」をご覧ください。
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