国外転出時課税(出国税)のしくみと適用要件【税理士が解説】

国外転出時課税(出国税)のしくみと適用要件【税理士が解説】
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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国外転出時課税(出国税)のしくみと適用要件

1億円以上の有価証券等を保有したまま海外移住・海外赴任する方、海外の親族に株式を相続・贈与する方に向けて、国外転出時課税の適用要件・計算方法・納税猶予制度・課税の取消し条件を完全ガイドします。

🏆 結論:1億円以上の有価証券等を持つ人が出国する際に含み益に課税される

国外転出時課税は、時価1億円以上の有価証券等を保有する居住者が海外に転出する際、実際に売却していなくても含み益に所得税が課される制度です。2015年7月1日から適用されています。対象は本人の出国だけでなく、海外居住の親族への相続・贈与も含まれます。ただし、5年以内(延長で10年以内)に帰国すれば課税を取り消せるほか、納税猶予制度も用意されています。

国外転出時課税(出国税)とは

制度が創設された背景

租税条約上、株式等の売却益(キャピタルゲイン)への課税権は売却者の居住国にあるとされています。これを利用して、日本で含み益を抱えた有価証券を保有したまま、キャピタルゲイン非課税の国(シンガポール・香港など)に移住し、移住後に売却することで日本の課税を免れるケースが問題視されていました。

この租税回避行為を防ぐため、平成27年度税制改正により国外転出時課税制度(所得税法第60条の2)が創設され、2015年7月1日から適用されています。出国時点で有価証券等を「売却したものとみなして」含み益に課税するしくみです。

居住者・非居住者の判定基準については「居住者と非居住者の区分|判定基準と課税範囲の違い」で解説しています。

適用される3つの場面

場面 概要 申告義務者 申告期限
①本人の国外転出居住者が海外に移住本人翌年3/15まで(納税管理人あり)
出国時まで(なし)
②相続・遺贈居住者の死亡→海外居住の相続人が取得相続人(準確定申告)死亡日翌日から4ヶ月以内
③贈与居住者→海外居住者に贈与贈与者本人翌年3/15まで

参考: 国税庁「No.1478 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」

適用要件|誰が・いくらから対象になるか

2つの要件を両方満たす場合に適用

国外転出時課税の適用対象者は、以下の2つの要件を両方満たす居住者です。

適用要件

要件① 国外転出時に対象資産の時価合計が1億円以上
要件② 国外転出の日前10年以内に、国内に住所・居所を有していた期間の合計が5年超

💡 実務のポイント:1億円の判定タイミング

1億円の判定は出国日の3ヶ月前の時価、または出国時の時価のいずれかで行います。株式市場の変動により、気づかないうちに1億円を超えていたというケースもあります。海外移住を検討し始めた段階で、保有有価証券の時価を棚卸しすることをお勧めします。

対象資産と対象外資産

資産の種類 対象 備考
上場株式国内・海外市場問わず
非上場株式自社株を含む
投資信託公社債投信を含む
公社債国債・社債等
匿名組合契約の出資持分
未決済の信用取引・デリバティブ取引先物取引・オプション取引等
現金・預金×含み益が発生しないため
不動産×別途の課税制度で対応
暗号資産(仮想通貨)×現行法では対象外(今後の税制改正で変更の可能性あり)
ゴルフ会員権×有価証券に該当しないため

課税される金額の計算方法

基本的な計算式

国外転出時課税では、対象資産を出国時の時価で売却したものとみなして、含み益に対して所得税が課税されます。実際に売却する必要はありません。

みなし譲渡所得 = 出国時の時価 − 取得費

株式等の場合、申告分離課税として15.315%(所得税15% + 復興特別所得税0.315%)の税率が適用されます。住民税は、1月1日に国内に住所がない場合は非課税です。

シミュレーション:含み益3,000万円のケース

📐 シミュレーション前提条件

  • 上場株式の取得費:7,000万円
  • 出国時の時価:1億円
  • 含み益:3,000万円
項目 即時納付 納税猶予→5年以内帰国 納税猶予→満了時納付
みなし譲渡所得3,000万円3,000万円3,000万円
所得税(15.315%)約459万円約459万円約459万円
出国時の納付額約459万円0円(猶予)0円(猶予)
5年以内に帰国した場合取消し→還付課税取消し→納付不要
猶予期間満了時の納付約459万円+利子税

※概算値です。他の所得との合算や各種控除により実際の金額は異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

⚠️ 注意:実際に売却していなくても納税資金が必要

国外転出時課税は「みなし譲渡」であり、実際には資産を売却していないため、現金収入がないまま数百万〜数千万円の税負担が生じます。即時納付を選ぶ場合は、出国前に一部の有価証券を売却して納税資金を用意するか、納税猶予制度を活用する必要があります。

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納税猶予制度のしくみと手続き

最長5年(延長で10年)の猶予が可能

国外転出時課税の適用を受ける方が一定の手続きを行った場合、国外転出の日から最長5年間(延長届出で最長10年間)、所得税の納税が猶予されます。猶予期間中に帰国すれば課税を取り消すことも可能です。

納税猶予の適用要件

No. 要件 詳細
1納税管理人の届出国外転出時までに所轄税務署長に届出
2確定申告書への記載納税猶予の適用を受ける旨を記載し、付表を添付
3担保の提供猶予税額+利子税相当額の担保を提供
4継続適用届出書の提出猶予期間中、毎年3月15日までに届出書を提出

💡 実務のポイント:令和5年度改正で非上場株式の担保提供が簡素化

令和5年4月1日以降、非上場株式を担保として提供する際に株券を発行する必要がなくなりました。一定の書類を提出し質権を設定することで、株券不発行のまま担保提供が可能です。スタートアップ企業の役員が自社株を保有したまま海外赴任するケースなど、実務上のハードルが大きく下がりました。

納税猶予の手続きタイムライン

時期 手続き
出国前納税管理人の届出書を提出
翌年3/15まで確定申告書を提出(付表添付)+担保提供
毎年3/15まで継続適用届出書を提出(対象資産の種類・数量等を記載)
出国から5年目猶予期間満了→延長届出書を提出すればさらに5年延長可能
猶予期間満了日から4ヶ月以内猶予税額+利子税を納付(帰国して取消しされない場合)

課税の取消しと減額措置

課税が取り消される4つのケース

納税猶予の適用を受けた場合、以下のケースでは課税が取り消され、税金を支払う必要がなくなります(すでに納付済みの場合は還付されます)。

ケース 内容 手続き期限
帰国して資産を継続保有5年(延長で10年)以内に帰国し、対象資産を保有し続けている帰国日から4ヶ月以内に更正の請求
対象資産を日本居住者に贈与猶予期間中に対象資産を日本の居住者に贈与した贈与日から4ヶ月以内に更正の請求
対象資産を日本居住者が相続国外転出者が死亡し、日本の居住者が対象資産を相続した相続開始日から4ヶ月以内に更正の請求
猶予期間満了時に時価下落満了日の時価が出国時より下落→下落後の時価で再計算満了日から4ヶ月以内に更正の請求

💡 実務のポイント:海外赴任は帰国予定があるなら納税猶予一択

海外赴任で数年後に帰国する予定がある場合は、納税猶予を選択して帰国時に課税を取り消すのが最も有利です。即時納付してしまうと、帰国時に還付手続きが必要になり、還付までに時間がかかります。海外赴任の出国前には、必ず税理士に相談して納税猶予の手続きを済ませておいてください。

ストックオプション保有者の特例

税制適格ストックオプションの取扱い

税制適格ストックオプション(SO)の権利行使により取得した株式を保有したまま国外転出する場合も、国外転出時課税の対象になります。ストックオプション自体は「株式を取得できる権利」であり有価証券に該当しませんが、権利行使して取得した株式は対象資産です。

また、税制適格SOの権利行使により取得した株式を非居住者が海外で譲渡した場合は、前記事「海外勤務と所得税」で解説した「非居住者の株式譲渡で課税される6つの例外パターン」の1つとして日本で課税されます。

ストックオプションの返還・移転があった場合

国外転出時課税の適用後にストックオプションを発行会社に返還した場合、または会社の組織再編により移転があった場合は、一定の要件のもとで課税の調整が行われます。詳細は税理士に確認してください。

相続・贈与と国外転出時課税

国外転出(相続)時課税

日本の居住者が亡くなり、時価1億円以上の対象資産を海外居住の相続人が取得する場合、被相続人の所得として国外転出時課税が適用されます。相続人が被相続人の死亡日の翌日から4ヶ月以内に準確定申告を行い、納税します。

国外転出(贈与)時課税

日本の居住者が、時価1億円以上の対象資産を海外居住者に贈与する場合、贈与者本人に対して国外転出時課税が適用されます。贈与者が翌年3月15日までに確定申告を行い、納税します。

いずれの場合も、納税猶予制度を利用することが可能です。相続の場合は相続人が、贈与の場合は贈与者が、それぞれ手続きを行います。

📊 公認会計士の視点

非上場会社のオーナーが海外の子どもに自社株を贈与する場合は、国外転出時課税のほかに贈与税の問題も絡みます。自社株の評価方法は、国外転出時課税では「純資産価額等を参酌した通常取引価額」が使われ、相続税の「財産評価基本通達による評価(類似業種比準方式等)」とは異なります。一般的に前者の方が高額になるケースが多いため、想定以上の税負担が生じることがあります。事前のシミュレーションが不可欠です。

確定申告の手続きと必要書類

納税管理人の届出がある場合とない場合

項目 納税管理人の届出あり 届出なし
申告期限翌年3月15日まで出国時まで
対象資産の評価時点出国時 or 出国3ヶ月前の時価出国時の時価
納税猶予の適用可能原則不可
減額措置の適用可能不可

納税管理人の届出をしないで出国すると、納税猶予も減額措置も受けられません。必ず出国前に納税管理人を届け出てください。確定申告の基本については「確定申告の基礎知識」で解説しています。

添付書類

確定申告書に添付が必要な主な書類は以下のとおりです。

①対象資産の明細書(確定申告書付表)、②納税猶予を受ける場合は「納税猶予分の所得税及び復興特別所得税の額の計算書」、③対象資産の時価を証明する書類(証券会社の残高証明書等)、④担保提供に関する書類(有価証券の預り証など)。

よくある質問(FAQ)

海外赴任(会社命令)でも国外転出時課税は適用されますか?
はい。海外赴任であっても、1億円以上の対象資産を保有し、かつ過去10年中5年超の国内居住要件を満たせば適用されます。海外赴任は帰国予定があるため、納税猶予を選択して帰国時に課税を取り消すのが一般的です。
含み損がある資産も1億円の判定に含まれますか?
はい。1億円の判定は対象資産の「時価の合計額」で行うため、含み損がある銘柄の時価も合算されます。ただし、国外転出時課税で課税されるのは含み益がある資産のみであり、含み損がある資産は課税対象になりません。含み損と含み益を通算することは可能です。
納税猶予の期間中に株式を売却するとどうなりますか?
猶予期間中に対象資産を譲渡した場合、譲渡した資産に係る猶予税額について猶予の期限が確定し、譲渡日から4ヶ月以内に税額と利子税を納付する必要があります。残りの対象資産の猶予は継続します。
5年以内に帰国したが対象資産の一部を海外で売却していた場合はどうなりますか?
帰国時に保有し続けている対象資産の分のみ課税が取り消されます。海外で売却済みの資産については、売却時点で猶予の期限が確定しているため、課税は取り消されません。
暗号資産(仮想通貨)は国外転出時課税の対象ですか?
現行法では暗号資産は対象外です。対象資産は有価証券(株式・投資信託・公社債等)、匿名組合契約の出資持分、未決済の信用取引・デリバティブ取引に限定されています。ただし、今後の税制改正で暗号資産が対象に追加される可能性はあるため、動向に注意してください。
外国税額控除との関係はどうなりますか?
国外転出時課税で日本に所得税を納付し、その後に転出先の国でも同じ資産の売却益に課税された場合、二重課税が生じます。この場合、転出先で納付した外国所得税について外国税額控除を適用し、二重課税を調整することが可能です。詳しくは「外国税額控除の計算方法」で解説しています。
非上場株式の時価はどのように評価しますか?
国外転出時課税における非上場株式の評価は、「純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」によります。相続税の財産評価基本通達の「類似業種比準方式」は使えません。一般的に純資産価額ベースの評価の方が高額になることが多いため、想定以上の税負担が生じる場合があります。自社株を保有する経営者は特に注意が必要です。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 国外転出時課税は、1億円以上の有価証券等を保有する居住者が出国する際に含み益に課税される制度
  • 対象は本人の出国だけでなく、海外居住者への相続・贈与も含まれる
  • 適用要件は「対象資産1億円以上」かつ「過去10年中5年超の国内居住」の2つ
  • 納税猶予制度を利用すれば最長5年(延長で10年)猶予可能
  • 5年以内に帰国して資産を保有し続けていれば課税を取り消せる
  • 納税管理人の届出をしないで出国すると納税猶予も減額措置も受けられない
  • 非上場株式の評価方法は相続税の評価と異なるため、事前シミュレーションが不可欠

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