【税理士×社労士が解説】源泉徴収義務者とは?個人事業主も対象になるケースと手続き

【税理士×社労士が解説】源泉徴収義務者とは?個人事業主も対象になるケースと手続き
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

源泉徴収義務者とは?個人事業主も対象になるケースと手続き

「自分は源泉徴収をする必要があるのか」「届出は何を出せばいいのか」と迷っている個人事業主・法人の経理担当者に向けて、源泉徴収義務者の判定基準・届出手続き・納期の特例の申請方法・納め過ぎた場合の対処法を完全ガイドします。この記事を読めば、自社が源泉徴収義務者かどうかを判定し、必要な届出を漏れなく行えます。

🏆 結論:「給与を支払う」なら源泉徴収義務者

源泉徴収義務者とは、給与や特定の報酬を支払う際に所得税を天引きし、国に納付する義務がある者です。法人はもちろん、個人事業主でもパート・アルバイトを1人でも雇えば源泉徴収義務者になります。唯一の例外は「常時2人以下の家事使用人のみに給与を支払う個人」です。従業員を雇用したら1か月以内に「給与支払事務所等の開設届出書」を税務署に提出してください。

源泉徴収義務者とは?基本的な定義

源泉徴収義務者とは、給与・報酬・退職金などを支払う際に、所得税および復興特別所得税をあらかじめ差し引いて国に納付する義務がある者をいいます。所得税法第6条に基づく制度で、法人・個人を問わず、会社、官公庁、社団法人、学校など、給与や報酬の支払いをするすべての者が該当します。

簡単に言えば、「誰かに給与を払っているなら、あなたは源泉徴収義務者」です。

「あなたは源泉徴収義務者?」6パターンの判定表

パターン 給与の支払い 源泉徴収義務 報酬の源泉徴収
法人(従業員あり)ありあり必要
1人法人(役員報酬のみ)あり(自分へ)あり必要
個人事業主(従業員あり)ありあり必要
個人事業主(青色専従者のみ)ありあり必要
個人事業主(従業員なし・報酬のみ支払い)なしなし不要
個人(家事使用人2人以下のみ)あり(家事のみ)なし不要(ホステス報酬を除く)

💡 実務のポイント

年間100社以上の法人設立・開業支援を行ってきた経験上、最も見落とされやすいのは「1人法人」のケースです。従業員はいなくても、自分自身に役員報酬を支払う法人は源泉徴収義務者です。法人設立と同時に「給与支払事務所等の開設届出書」を提出し忘れると、後になって税務署から指摘を受けることがあります。

参考: 国税庁「No.2502 源泉徴収義務者とは」

個人事業主が源泉徴収義務者になるケース・ならないケース

個人事業主の場合は法人と異なり、「従業員を雇っているかどうか」で義務の有無が分かれます。

源泉徴収義務者になるケース

ケース 具体例 報酬の源泉徴収も必要?
パート・アルバイトを1人以上雇用飲食店でホールスタッフを雇用はい(税理士報酬等にも源泉徴収が必要)
青色事業専従者に給与を支給配偶者に専従者給与を支給はい
正社員を雇用IT系の個人事業主がエンジニアを1名雇用はい

源泉徴収義務者にならないケース

ケース 具体例 税理士報酬の源泉徴収は?
従業員ゼロの個人事業主フリーランスエンジニアが1人で業務不要
家事使用人2人以下のみ雇用家政婦1人を個人宅で雇用不要
給与を支払わずに報酬のみ支払い会社員が副業で税理士に報酬を支払い不要

⚠️ 注意:「給与を支払っていない個人」がポイント

従業員を雇っていない個人事業主が税理士やデザイナーに報酬を支払う場合、源泉徴収は不要です。しかし、1人でもパート・アルバイトを雇った時点で源泉徴収義務者になり、それ以降は報酬の支払いについても源泉徴収が必要になります。「従業員を雇い始めた瞬間」が分岐点です。

源泉徴収義務者になったときの届出手続き

源泉徴収義務者になった場合に必要な届出は、主に2つです。

届出①:給与支払事務所等の開設届出書

項目 内容
提出期限給与の支払いを開始した日から1か月以内
提出先給与を支払う事務所の所在地を管轄する税務署
提出方法書面(税務署の窓口・郵送)またはe-Tax
例外個人事業主が開業届に「給与等の支払の状況」を記入済みであれば、別途提出不要

💡 実務のポイント

現場でよくあるのが、「開業時は1人だったが、半年後にアルバイトを雇い始めた」というケースです。開業届に給与の支払い予定を記載していなかった場合は、アルバイトを雇用した日から1か月以内に「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する必要があります。提出を忘れてもペナルティはありませんが、年末調整や法定調書の提出時にトラブルになる可能性があります。

届出②:源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(任意)

給与の支給人員が常時10人未満の事業者は、毎月ではなく年2回の納付にまとめることができます。これが「納期の特例」です。

納期の特例の仕組みと申請手順【5ステップ】

源泉徴収した所得税の納付は原則として翌月10日ですが、常時10人未満の事業所では年2回にまとめられます。中小企業や個人事業主にとって、毎月の納付事務の負担を大幅に軽減できる制度です。

納期の特例の適用後の納付スケジュール

対象期間 納付期限 対象となる源泉徴収税額
1月〜6月分7月10日給与・退職金・士業報酬の源泉税
7月〜12月分翌年1月20日給与・退職金・士業報酬の源泉税

⚠️ 納期の特例の対象にならない報酬

納期の特例の対象は「給与・退職金・弁護士等の士業報酬」に限られます。原稿料、デザイン料、講演料、プロスポーツ選手の報酬など(所得税法204条1号等)は納期の特例の対象外であり、翌月10日までに毎月納付が必要です。報酬・料金の源泉徴収の詳細は「報酬・料金等の源泉徴収」をご確認ください。

申請から適用までの5ステップ

ステップ 内容 ポイント
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を記入国税庁サイトからダウンロード可能
所轄税務署に提出(書面・e-Tax)提出時期に制限なし(いつでも可)
提出した月の翌月末日にみなし承認税務署から通知はない(自動承認)
承認月の翌月以降の源泉税から特例適用承認前の分は原則どおり翌月10日納付
年2回の納付スケジュールで運用開始7月10日と翌年1月20日の2回

参考: 国税庁「A2-8 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」

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源泉徴収義務者が行う実務の全体像

源泉徴収義務者になったら、毎月の源泉徴収事務と年次の届出事務の両方を行う必要があります。

源泉徴収義務者の年間スケジュール

時期 作業内容 届出先・備考
毎月(原則)給与・報酬からの源泉徴収+翌月10日までに納付所得税徴収高計算書(納付書)で納付
7月10日1〜6月分の源泉税を納付(納期の特例適用時)特例適用者のみ
11〜12月年末調整(甲欄適用者)過不足の精算・還付
翌年1月20日7〜12月分の源泉税を納付(納期の特例適用時)特例適用者のみ
翌年1月31日法定調書合計表・支払調書・源泉徴収票の提出税務署へ提出、市区町村に給与支払報告書

年末調整の具体的な手順については「【税理士×社労士が解説】年末調整とは?しくみ・対象者・手続きの流れを完全ガイド」で詳しく解説しています。

源泉所得税を納め過ぎた場合の2つの救済方法

源泉徴収税額を誤って多く納付してしまった場合、以下の2つの方法で還付を受けられます。

2つの方法の比較表

比較項目 方法A:翌月以降の源泉税から控除 方法B:還付請求
手続き翌月以降の納付額から差し引く「源泉所得税及び復興特別所得税の誤納額の還付請求」を税務署に提出
適するケース過納額が少額で翌月以降の源泉税で相殺できる過納額が大きい、または事業を廃止して控除できる源泉税がない
時効納付日から5年
実務上の注意納付書に控除額を記載する必要あり還付まで1〜2か月程度かかる

💡 実務のポイント

年末調整で還付が発生した場合は、方法Aが一般的です。12月の年末調整で確定した過不足を、翌月(1月)以降の納付額から控除します。控除しきれない場合は2月、3月と繰り越して控除し、それでも控除しきれなければ方法Bの還付請求に切り替えます。

個人事業主が初めて従業員を雇用した場合のチェックリスト

チェック項目 期限 届出先
□ 給与支払事務所等の開設届出書雇用日から1か月以内税務署
□ 納期の特例の承認申請書(任意・10人未満)随時(早めの提出推奨)税務署
□ 扶養控除等申告書の回収最初の給与支給日の前日まで事業者が保管
□ 源泉徴収税額表の入手最初の給与計算前国税庁サイトからダウンロード
□ 労働保険の加入手続き雇用日から10日以内労基署・ハローワーク
□ 社会保険の加入手続き(法人の場合は必須)雇用日から5日以内年金事務所

🔷 社労士の視点

初めて従業員を雇用すると、税務の届出だけでなく、労働保険(労災保険・雇用保険)や社会保険(健康保険・厚生年金)の加入手続きも同時に必要になります。個人事業主の場合、常時5人以上の従業員を雇用すると社会保険の強制適用事業所になるケースがあります。税務と労務の届出を一度に済ませるために、税理士と社労士がいるワンストップ事務所に相談するのが効率的です。

源泉徴収を怠った場合のペナルティ

源泉徴収義務者が源泉徴収を怠った場合、または納付が遅れた場合には、以下のペナルティが課されます。

ペナルティの種類と金額

ペナルティ 税率・金額 免除要件
不納付加算税原則10%(自主的に納付した場合は5%)期限から1か月以内の自主納付+過去1年間に遅延なし
延滞税年7.3%〜14.6%(期間に応じて変動)

💡 実務のポイント

源泉徴収を全く行わなかった場合でも、不足税額の負担は原則として源泉徴収義務者(支払者側)に生じます。つまり、会社が天引きを忘れた場合、会社が従業員に代わって不足分を負担し、さらに不納付加算税と延滞税を支払う必要があります。後から従業員に請求することは可能ですが、退職済みの場合など回収が困難なケースも多く、最初から正しく源泉徴収することが最も重要です。

源泉徴収義務者でなくなった場合の手続き

事業を廃止した場合や、従業員が全員退職して給与の支払いがなくなった場合は、「給与支払事務所等の廃止届出書」を税務署に提出します。提出期限は廃止した日から1か月以内です。

なお、廃止届を出す前に、未納付の源泉徴収税額がないかを確認してください。年末調整で還付が発生している場合は、還付請求の手続きも忘れずに行いましょう。確定申告の基礎については「確定申告の基礎知識」をご参照ください。

よくある質問(FAQ)

従業員を雇っていない個人事業主が税理士に報酬を支払う場合、源泉徴収は必要ですか?
不要です。給与について源泉徴収義務を有しない個人が支払う報酬・料金については、源泉徴収をする必要はありません。例えば、フリーランスのデザイナーが1人で事業を営んでいる場合、税理士への顧問料から源泉徴収する義務はありません。ただし、パートを1人でも雇い始めたら、その時点から税理士報酬にも源泉徴収が必要になります。
1人法人(役員が自分だけ)でも源泉徴収義務者ですか?
はい。法人は従業員の有無に関わらず、自分自身に役員報酬を支払うだけでも源泉徴収義務者です。法人設立時に「給与支払事務所等の開設届出書」を提出し、役員報酬から毎月所得税を天引きして納付してください。
納期の特例はいつから適用されますか?
申請書を提出した月の翌月末日に「みなし承認」となり、承認月の翌月以降に支払う給与等の源泉税から特例が適用されます。税務署から承認の通知は届きませんので、提出日を記録しておくことをおすすめします。例えば4月15日に提出した場合、5月末にみなし承認、6月以降の源泉税から特例適用です。
従業員が10人を超えた場合、納期の特例はどうなりますか?
給与の支給人員が常時10人以上になった場合は、納期の特例の要件を満たさなくなるため、「源泉所得税の納期の特例の要件に該当しなくなったことの届出書」を提出する必要があります。届出後は原則どおり翌月10日の毎月納付に戻ります。「常時10人」の判定はパート・アルバイトを含む人数です。
源泉徴収の対象となる所得には具体的にどのようなものがありますか?
主な対象は、給与・賞与、退職金、報酬・料金等(原稿料、士業報酬、デザイン料、講演料等)、利子・配当などです。給与の源泉徴収については「給与の源泉徴収の仕組み」、報酬・料金については「報酬・料金等の源泉徴収」で詳しく解説しています。
源泉徴収税額が0円の月でも納付書の提出は必要ですか?
はい、必要です。給与等の支払いがあったが源泉徴収税額が0円だった場合でも、「0円」と記載した所得税徴収高計算書を税務署に提出します。e-Taxでの送信も可能です。提出しないと税務署から提出督促が届く場合があります。
源泉徴収した所得税の納付方法にはどのようなものがありますか?
主な納付方法は5つあります。e-Tax(ダイレクト納付・インターネットバンキング)、金融機関の窓口、税務署の窓口、コンビニ納付(バーコード付納付書)、クレジットカード納付です。毎月の手間を減らすにはe-Taxのダイレクト納付が便利で、事前に届出をすれば口座から自動引き落としが可能です。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 源泉徴収義務者とは、給与や特定の報酬を支払う際に所得税を天引き・納付する義務がある者
  • 法人は従業員の有無に関わらず源泉徴収義務者(1人法人も対象)
  • 個人事業主は「従業員を雇っているか」が分岐点。従業員なし+報酬のみ支払いなら義務なし
  • 従業員を雇用したら1か月以内に「給与支払事務所等の開設届出書」を税務署に提出
  • 常時10人未満なら「納期の特例」で年2回納付に。申請書提出の翌月末にみなし承認
  • 源泉税を納め過ぎた場合は「翌月以降の控除」か「還付請求」(時効5年)の2つの方法がある
  • 源泉徴収を怠ると不納付加算税(最大10%)+延滞税のペナルティ

源泉徴収義務者かどうかの判断は、「給与を支払っているかどうか」でシンプルに決まります。個人事業主が初めて従業員を雇用するタイミングは、税務・労務の手続きが一度に発生するため、税理士・社労士に相談してスムーズに対応することをおすすめします。

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