【税理士×社労士が解説】中途入社・中途退職の年末調整と確定申告|対応フローを解説

【税理士×社労士が解説】中途入社・中途退職の年末調整と確定申告|対応フローを解説
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

中途入社・中途退職の年末調整と確定申告|対応フローを解説

「中途入社した従業員の年末調整はどう処理する?」「年の途中で退職した場合は確定申告が必要?」と悩む経理担当者・転職者に向けて、前職の源泉徴収票の取扱い・入手できない場合の対処法・離職期間中の社会保険料控除まで、10パターンの対応フローを完全ガイドします。

🏆 結論:年末調整か確定申告か、3つの条件で判断する

年内に転職し12月末時点で在籍+②前職の源泉徴収票を提出済み+③給与年収2,000万円以下の3条件をすべて満たす場合、転職先で前職分を合算して年末調整が行われます。いずれかを満たさない場合は、本人が確定申告で税額を精算します。なお、中途退職して年内に再就職しなかった場合は、源泉徴収で税金を多く払いすぎている可能性が高く、確定申告で還付を受けられるケースがほとんどです。

あなたはどのケース?10パターンの対応判定表

中途入社・中途退職の年末調整は、転職のタイミングや前職の状況によって対応が異なります。まず以下の判定表で、ご自身のケースを確認しましょう。

# ケース 年末調整 確定申告
1年内に転職し、12月末まで在籍+前職の源泉徴収票を提出済み⭕ 転職先で実施原則不要
2年内に転職したが、前職の源泉徴収票が間に合わない❌ 自社分のみ⭕ 必要
3年の途中で退職し、年内に再就職しなかった❌ 対象外⭕ 還付の可能性大
412月に転職したが、年内に給与支払いがない❌ 対象外⭕ 必要
5年内に複数回転職した(2社以上の前職あり)⭕ 全前職分を合算原則不要
6前職がフリーランス・個人事業主だった⭕ 給与分のみ⭕ 事業所得分は別途申告
7前職と合算で年収2,000万円を超える❌ 対象外⭕ 必要
8前職が乙欄適用(副業・ダブルワーク)だった⭕ 甲欄分のみ⭕ 乙欄分は別途申告
9退職金を受け取った(退職所得の受給に関する申告書を提出済み)⭕ 給与分のみ退職所得は原則不要
10定年退職で年内に再就職しなかった❌ 対象外⭕ 還付の可能性大

💡 実務のポイント

年間200社以上の年末調整を支援してきた経験上、中途入社者で最もトラブルが多いのはケース2(前職の源泉徴収票が間に合わない)です。前職に何度依頼しても発行が遅れるケースや、前職が小規模事業者で担当者が対応しないケースが毎年発生します。「12月○日までに未提出の場合は自社分のみで年末調整を行い、確定申告をご案内します」というデッドラインを入社時に伝えておくことが重要です。

年末調整の基本的なしくみや対象者については、「【税理士×社労士が解説】年末調整とは?しくみ・対象者・手続きの流れを完全ガイド」で詳しく解説しています。

中途入社者の年末調整の手順【経理担当者向け】

中途入社者の年末調整は、通年勤務の従業員と異なり、前職分の給与・税額・社会保険料を合算する作業が必要です。以下の4ステップで進めましょう。

ステップ1:入社時に前職の源泉徴収票の提出を依頼する

入社手続きの時点で「前職の源泉徴収票が年末調整に必要」であることを案内し、提出を依頼します。退職時に受け取っているはずですが、紛失している場合は前職への再発行依頼を促しましょう。源泉徴収票の発行は所得税法第226条で雇用主の義務とされており、退職後1か月以内に交付しなければなりません。

ステップ2:前職の源泉徴収票の記載内容を確認する

提出された源泉徴収票で以下の3点を確認します。

確認項目 確認内容 NGの場合の対応
甲欄/乙欄の区分「乙欄」の記載がないことを確認乙欄適用分は合算不可。その分は確定申告へ
支払金額の妥当性在職期間に対して金額が妥当かチェック明らかな誤りがあれば前職に修正依頼
社会保険料等の金額空欄や「0円」になっていないか正社員だったのに空欄の場合は前職に確認

ステップ3:前職分と自社分を合算して年末調整を実施

前職の源泉徴収票に記載された「支払金額」「源泉徴収税額」「社会保険料等の金額」を自社分に合算し、年間の給与収入・税額・控除額を確定させます。所得控除(基礎控除・扶養控除など)は勤務月数に関係なく年間の全額が適用されます。月割り計算は不要です。

ステップ4:離職期間中の社会保険料を社会保険料控除に含める

転職までに離職期間がある場合、その間に本人が支払った国民年金保険料や国民健康保険料も社会保険料控除の対象となります。控除証明書の提出を促しましょう。

参考: 国税庁「No.2674 中途就職者の年末調整」

前職の源泉徴収票が入手できない場合の5つの対処法

前職の源泉徴収票が入手できないケースは少なくありません。理由別に対処法を整理しました。

# 入手できない理由 対処法
1紛失した前職に再発行を依頼する。発行は会社の法的義務なので拒否できない
2前職が発行を拒否する税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出する。税務署から前職に発行を指導してもらえる
3前職が倒産・廃業した破産管財人に発行を依頼するか、税務署に届出をして給与明細等で確定申告を行う
4年末調整の締切に間に合わない自社分のみで年末調整を行い、「年調未済」の源泉徴収票を発行。本人に確定申告を案内
5源泉徴収票に明らかな誤りがある前職に修正版の発行を依頼。修正不可の場合は「年調未済」として本人の確定申告で精算

⚠️ 注意:乙欄適用の源泉徴収票は合算できない

前職でダブルワーク(副業)をしていた場合、副業側の給与は「乙欄」で源泉徴収されています。乙欄適用の源泉徴収票は年末調整で合算できません。甲欄(扶養控除等申告書を提出した本業側)の源泉徴収票のみが合算の対象です。乙欄分は本人が確定申告で精算する必要があります。

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中途退職者の確定申告と還付シミュレーション

年の途中で退職して年内に再就職しなかった場合、毎月の給与から源泉徴収された所得税は年間の給与を想定した税額で計算されています。実際には年の途中で退職しているため、年間所得が想定より少なくなり、所得税を多く払いすぎている可能性が高いです。

還付シミュレーション:年収500万円ペースで7月末に退職したケース

📐 シミュレーション前提条件

  • 月額給与:約41.7万円(年収500万円ペース、賞与なしと仮定)
  • 1〜7月の給与支給額:約292万円
  • 毎月の源泉徴収税額:約1万円/月(扶養なし、甲欄)→ 7か月で約7万円
  • 社会保険料:約44万円(7か月分)
  • 8月以降は無収入、年内に再就職なし

🧮 シミュレーション結果

①給与収入:292万円
②給与所得控除:約98万円
③給与所得:292万円 − 98万円 = 194万円
④所得控除:基礎控除88万円(所得200万円以下の暫定措置)+社会保険料44万円 = 132万円
⑤課税所得:194万円 − 132万円 = 62万円
⑥年税額:62万円 × 5% ≒ 約3.1万円
⑦源泉徴収済み税額:約7万円
⑧還付見込額:7万円 − 3.1万円 ≒ 約3.9万円

※概算値です。復興特別所得税、住民税は別途。個別の状況により異なります。

参考: 国税庁「No.1910 中途退職で年末調整を受けていないとき」

💡 実務のポイント

中途退職者の還付申告は、退職した年の翌年1月1日から5年以内であればいつでも提出可能です。「確定申告の期間(2月16日〜3月15日)を過ぎてしまった」と諦める方が多いですが、還付申告は期間制限がありません。過去に退職時の確定申告を忘れていた方は、5年分まで遡って還付を受けられます。

離職期間中の社会保険料控除チェックリスト

転職までに離職期間がある場合、その間に自分で支払った社会保険料は年末調整(または確定申告)で社会保険料控除の対象になります。控除し忘れると税金を多く払うことになるため、以下のチェックリストで確認してください。

支払った保険料 控除対象 証明書類 注意点
国民年金保険料社会保険料(国民年金保険料)控除証明書(日本年金機構から届く)証明書がないと控除不可。10月頃に届く
国民健康保険料支払った金額がわかる納付書・口座振替明細証明書不要。金額を自己申告で記入
任意継続の健康保険料健康保険組合からの納付額証明書退職後2年間加入可能。保険料は全額自己負担

🔷 社労士の視点

退職後の健康保険は「任意継続」「国民健康保険」「家族の扶養」の3つの選択肢があります。任意継続は退職後20日以内に手続きが必要で、保険料は在職時の約2倍(会社負担分がなくなるため)になりますが、国保より安くなるケースもあります。いずれを選んでも支払った保険料は社会保険料控除の対象です。入社手続きの際に「離職中にどの保険に加入していたか」を確認し、控除漏れを防ぎましょう。

経理担当者向け:中途入社者の年末調整タイムライン

中途入社者がいる場合の経理担当者の年間タスクを時系列で整理します。

時期 タスク ポイント
入社時扶養控除等申告書の提出を受ける。前職の源泉徴収票の提出を依頼入社日から最初の給与支払日前までに提出が必要
10月頃前職源泉徴収票の提出状況を確認。未提出者にリマインドデッドラインを設定し、「○月○日までに提出がなければ確定申告へ」と案内
11月年末調整書類を配布。離職期間中の社会保険料控除の申告も促す国民年金の控除証明書の添付を忘れずに
12月前職分と自社分を合算して年末調整を実施。源泉徴収票を作成前職源泉徴収票が未提出の場合は「年調未済」で処理
翌年1月末源泉徴収票を本人に交付。給与支払報告書を市区町村に提出「年調未済」の従業員には確定申告の方法を案内

中途退職者の確定申告の手順【従業員本人向け4ステップ】

ステップ1:源泉徴収票を用意する

退職時に会社から交付された源泉徴収票を用意します。「年末調整」欄が空欄(年調未済)であることを確認してください。紛失した場合は前職に再発行を依頼しましょう。

ステップ2:控除証明書を集める

生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書、国民年金の控除証明書、医療費の領収書など、所得控除に必要な書類を集めます。離職期間中に支払った社会保険料の記録も忘れずに準備してください。

ステップ3:確定申告書を作成する

国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使えば、画面の案内に沿って金額を入力するだけで確定申告書が完成します。源泉徴収票に記載された「支払金額」「源泉徴収税額」「社会保険料等の金額」を転記し、各種控除を申告します。

ステップ4:e-Taxまたは書面で提出する

マイナンバーカードがあればe-Taxでオンライン提出できます。還付申告の場合は翌年1月1日から提出可能です。還付金は申告から1〜2か月程度で指定口座に振り込まれます。

確定申告の基本的な手続きは、「確定申告とは?対象者・必要書類・手続きの流れを完全ガイド」で詳しく解説しています。

年末調整と確定申告が両方必要になるケース

中途入社者であっても、年末調整だけでは完結しない控除や所得があります。以下のケースに該当する場合は、年末調整に加えて確定申告も必要です。

ケース 年末調整の扱い 確定申告で行うこと
入社前にフリーランスだった入社後の給与分のみ年末調整フリーランス期間の事業所得を申告
住宅ローン控除の初年度給与の年末調整は通常通り住宅ローン控除を確定申告で適用(2年目以降は年末調整で可)
医療費控除を受けたい給与の年末調整は通常通り医療費控除を確定申告で適用
副業の給与所得がある(乙欄)甲欄分のみ年末調整乙欄の給与を合算して確定申告
ふるさと納税の寄付金控除を受けたい給与の年末調整は通常通りワンストップ特例を使わない場合は確定申告で申告

💡 実務のポイント

現場で最もよくあるパターンが、年末調整で所得控除を適用した後に、確定申告で住宅ローン控除や医療費控除を追加申告するケースです。この場合、確定申告書には年末調整済みの源泉徴収票の数値をすべて転記したうえで、追加の控除を申告します。年末調整の結果を無視して一から計算するのではなく、年末調整の結果を「引き継いで」追加控除を適用するイメージです。

所得控除の全体像については、「所得控除の一覧と適用条件」で14種類の控除を比較表で整理しています。

退職金の税金と年末調整の関係

中途退職時に退職金を受け取った場合、退職金に対する所得税は原則として「退職所得」として分離課税されます。退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、退職金の税額は会社が源泉徴収して納税が完了するため、確定申告は不要です。

ただし、以下の場合は確定申告が必要になることがあります。

ケース 対応
「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった退職金の20.42%が一律で源泉徴収されるため、確定申告で正しい税額に精算(多くの場合還付)
同じ年に複数の退職金を受け取った退職所得控除額の調整計算が必要になる場合がある

よくある質問(FAQ)

転職先が年末調整をしてくれたら、前職分の確定申告は不要ですか?
はい、前職の源泉徴収票を転職先に提出し、前職分を含めて年末調整が行われた場合は、原則として確定申告は不要です。ただし、医療費控除や住宅ローン控除(初年度)など、年末調整で対応できない控除を受ける場合は、別途確定申告が必要になります。
前職の源泉徴収票を紛失しました。再発行してもらえますか?
源泉徴収票の発行は所得税法第226条で会社の義務とされているため、前職に連絡すれば再発行してもらえます。発行を拒否された場合は、税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出すると、税務署から前職に発行を指導してもらえます。
年の途中で退職して確定申告しないとどうなりますか?
中途退職の場合、源泉徴収された所得税が多すぎることがほとんどです。確定申告(還付申告)をしないと、払いすぎた税金が戻ってきません。ペナルティはありませんが、お金が戻るチャンスを逃すことになります。還付申告は退職した年の翌年1月1日から5年間いつでも提出できます。
12月に転職して年内に給与が支払われない場合はどうなりますか?
年内に転職先で給与の支払いがない場合、転職先では年末調整を行うことができません。この場合、前職の源泉徴収票をもとに本人が確定申告を行います。前職に年末調整を依頼できるケースもありますが、前職の規定や退職のタイミングにより対応が異なるため、事前に確認しましょう。
前職がフリーランスだった場合、給与所得と事業所得をまとめて年末調整できますか?
年末調整で合算できるのは「甲欄適用の給与所得」のみです。フリーランス時代の事業所得は年末調整の対象外のため、確定申告で申告する必要があります。年末調整では入社後の給与分のみを処理し、事業所得は別途確定申告書に記載してください。
離職期間中に支払った国民年金保険料は年末調整で控除できますか?
控除できます。日本年金機構から届く「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」を年末調整の書類とあわせて提出すれば、社会保険料控除として所得から差し引かれます。国民健康保険料も控除対象ですが、こちらは証明書不要で金額を自己申告します。
同じ年に3社で働きました。年末調整はどうなりますか?
12月末時点で在籍している会社(3社目)が、1社目と2社目の源泉徴収票を合算して年末調整を行います。すべての前職の源泉徴収票を揃えて転職先に提出してください。1社でも源泉徴収票が提出できない場合は、年末調整で合算できず、確定申告が必要になります。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 中途入社者の年末調整は、前職の源泉徴収票を合算して転職先が実施する
  • 前職の源泉徴収票が間に合わない場合は「年調未済」として処理し、本人に確定申告を案内
  • 乙欄適用(副業側)の源泉徴収票は年末調整で合算できない。確定申告で精算
  • 中途退職して年内に再就職しなかった場合、確定申告で数万円の還付を受けられる可能性が高い
  • 離職期間中の国民年金保険料・国民健康保険料・任意継続保険料は社会保険料控除の対象
  • 還付申告は退職した年の翌年1月1日から5年以内ならいつでも提出可能

中途入社者の年末調整は「前職の源泉徴収票の回収」がすべての起点です。入社時に提出を依頼し、10月頃にリマインドし、デッドラインを設定して、間に合わなければ確定申告に誘導する。この流れを定型化しておけば、年末に慌てることなく処理できます。

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