【税理士が解説】退職金の源泉徴収|計算方法と「退職所得の受給に関する申告書」の取扱い

【税理士が解説】退職金の源泉徴収|計算方法と「退職所得の受給に関する申告書」の取扱い
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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退職金の源泉徴収|計算方法と「退職所得の受給に関する申告書」の取扱い

従業員や役員に退職金を支給する際の源泉徴収の計算方法でお困りの経理担当者に向けて、退職所得控除額の算出から税額計算までを5ステップで完全ガイドします。この記事を読めば、申告書の有無による税額差や3つの退職手当区分の判定方法がわかります。

🏆 結論:退職金の源泉徴収で押さえるべき3つのポイント

❶「退職所得の受給に関する申告書」の提出があれば退職所得控除と1/2課税が適用され、税額が大幅に下がる。未提出なら一律20.42%が源泉徴収される。❷退職手当等は「一般」「短期(勤続5年以下の従業員)」「特定役員(勤続5年以下の役員等)」の3区分で計算方法が異なる。❸同じ退職金1,000万円・勤続20年でも、申告書の有無で源泉税額に約180万円の差が生じる。申告書の回収漏れは実務で最も多いミスのひとつ。

退職金にかかる源泉徴収の基本的なしくみ

退職所得が「分離課税」である理由

退職金にかかる税金は、給与所得や事業所得とは合算せず、退職所得だけで独立して計算します。これを「分離課税」といいます。長年の勤務に対する報償としてまとめて受け取る性質があるため、他の所得と合算して累進税率が適用されると税負担が過大になってしまうことを防ぐためです。

所得税法第30条の規定により、退職所得の計算では退職所得控除が認められ、控除後の金額はさらに1/2に圧縮されます。給与所得と比べて大幅に税負担が軽減される仕組みです。

申告書の提出あり・なしで何が変わるか

退職金を受け取る人が「退職所得の受給に関する申告書」を支払者に提出しているかどうかで、源泉徴収の方法がまったく異なります。

項目 申告書あり 申告書なし
退職所得控除適用あり適用なし
1/2課税適用あり(一般退職手当等の場合)適用なし
源泉徴収税率退職所得に応じた超過累進税率退職金額面×20.42%(一律)
確定申告原則不要(他に控除がなければ)還付を受けるには確定申告が必要
住民税退職所得に対して10%を特別徴収退職金額面×10%を特別徴収

⚠️ 注意

申告書の提出がないまま退職金を支給すると、額面に対して一律20.42%の所得税および復興特別所得税が源泉徴収されます。退職金1,000万円なら約204万円が天引きされ、本来の税額との差額を取り戻すには本人が確定申告をする必要があります。経理担当者は、退職金を支給する前に必ず申告書の回収を確認してください。

退職金の源泉徴収額を計算する5ステップ

退職金の源泉徴収額の計算は、全部で5ステップです。「退職所得の受給に関する申告書」が提出されている場合の計算手順を順番に見ていきましょう。

【ステップ1】勤続年数を確認する

退職金の支払いの基因となった勤務期間を確認し、勤続年数を計算します。勤続年数に1年未満の端数がある場合は、たとえ1日であっても切り上げて1年として扱います。たとえば、勤続10年3か月なら勤続年数は「11年」です。

なお、障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、後述の退職所得控除額に100万円が加算されます。

【ステップ2】退職所得控除額を計算する

勤続年数 退職所得控除額の計算式
20年以下40万円 × 勤続年数(80万円未満の場合は80万円)
20年超800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

たとえば勤続25年なら、800万円 + 70万円 ×(25年 − 20年)= 1,150万円が退職所得控除額です。

【ステップ3】退職手当等の区分を判定する

退職手当等は「一般退職手当等」「短期退職手当等」「特定役員退職手当等」の3つに区分されます。区分によって課税退職所得金額の計算方法が異なります。詳細は後述の「一般・短期・特定役員の3区分の判定方法」のセクションで解説します。

【ステップ4】課税退職所得金額を計算する

一般退職手当等の場合、課税退職所得金額は次の算式で求めます。

📐 計算式

課税退職所得金額 =(退職金の額面 − 退職所得控除額)× 1/2

※1,000円未満の端数は切り捨て

【ステップ5】速算表で税額を計算する

ステップ4で求めた課税退職所得金額を「退職所得の源泉徴収税額の速算表」に当てはめ、所得税額を計算します。さらに所得税額の2.1%が復興特別所得税として上乗せされます。

課税退職所得金額(A) 税率 控除額 税額の算式
195万円以下5%0円A×5%×102.1%
195万円超〜330万円以下10%97,500円(A×10%−97,500)×102.1%
330万円超〜695万円以下20%427,500円(A×20%−427,500)×102.1%
695万円超〜900万円以下23%636,000円(A×23%−636,000)×102.1%
900万円超〜1,800万円以下33%1,536,000円(A×33%−1,536,000)×102.1%
1,800万円超〜4,000万円以下40%2,796,000円(A×40%−2,796,000)×102.1%
4,000万円超45%4,796,000円(A×45%−4,796,000)×102.1%

参考: 国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」

💡 実務のポイント

実務では、退職金の支給額が退職所得控除額以下であれば源泉徴収税額はゼロになります。勤続20年で退職所得控除が800万円のケースなら、退職金が800万円以下であれば所得税はかかりません。「退職金を出すけど税金はかからない」という結果になるケースは中小企業では珍しくありません。ただし、申告書の提出がなければ額面×20.42%が強制的に天引きされますので、控除額以下だからといって申告書を省略してはいけません。

5ステップの計算を具体例で確認する

計算例:勤続25年・退職金2,000万円の場合

📐 シミュレーション前提条件

  • 勤続年数:25年(一般退職手当等に該当)
  • 退職金額面:2,000万円
  • 「退職所得の受給に関する申告書」提出あり

ステップ1:勤続年数 = 25年

ステップ2:退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 ×(25年 − 20年)= 1,150万円

ステップ3:一般退職手当等に該当(勤続5年超の従業員)

ステップ4:課税退職所得金額 =(2,000万円 − 1,150万円)× 1/2 = 425万円

ステップ5:所得税額 =(425万円 × 20% − 427,500円)× 102.1% = 431,382円(1円未満切捨て)

住民税は課税退職所得金額425万円 × 10% = 425,000円です。

退職金2,000万円のうち、所得税等431,382円と住民税425,000円の合計856,382円を差し引いた約1,914万円が手取り額になります。

一方、申告書の提出がない場合は、2,000万円 × 20.42% = 4,084,000円が源泉徴収されます。本来の所得税等との差額(約365万円)を取り戻すには、本人が翌年以降に確定申告をする必要があります。

申告書「あり」vs「なし」の税額差を12パターンで比較

退職金の額と勤続年数の組み合わせによって、「退職所得の受給に関する申告書」の提出あり・なしでどれだけ税額に差が出るかを確認しましょう。以下は所得税および復興特別所得税の金額です。

退職金 勤続年数 申告書あり 申告書なし 差額
500万円10年25,525円1,021,000円995,475円
500万円20年0円1,021,000円1,021,000円
1,000万円10年158,393円2,042,000円1,883,607円
1,000万円20年51,050円2,042,000円1,990,950円
1,000万円30年0円2,042,000円2,042,000円
2,000万円10年1,103,652円4,084,000円2,980,348円
2,000万円20年431,382円4,084,000円3,652,618円
2,000万円30年51,050円4,084,000円4,032,950円
3,000万円10年2,685,682円6,126,000円3,440,318円
3,000万円20年1,479,112円6,126,000円4,646,888円
3,000万円30年431,382円6,126,000円5,694,618円

※一般退職手当等に該当する前提。住民税は含まず。概算値であり個別の状況により異なります。

💡 実務のポイント

実務で最も多いのは「退職する従業員に申告書の提出を案内し忘れた」というケースです。退職日が突然決まった場合や、退職者との連絡が取りにくい場合に起きやすく、結果として本人が確定申告で還付を受けるまで数十万〜数百万円の過大源泉徴収が発生します。退職が決まったら、退職金計算と同時に申告書の回収を経理チェックリストに組み込むことをおすすめします。

一般・短期・特定役員の3区分の判定方法

退職手当等は3つの区分に分類され、それぞれ課税退職所得金額の計算方法が異なります。判定の最大のポイントは「勤続年数が5年以下かどうか」と「役員等かどうか」です。

区分 対象者 1/2課税 300万円超ルール 課税退職所得金額の計算式
一般退職手当等勤続5年超の従業員・役員全額に適用(収入−控除額)× 1/2
短期退職手当等勤続5年以下の従業員(役員等以外)300万円以下の部分のみ300万円超の部分は1/2なし300万円以下:(収入−控除額)× 1/2
300万円超:150万円 +(収入 − 300万円 − 控除額)
特定役員退職手当等勤続5年以下の役員等適用なし収入 − 控除額(1/2なし)

判定フローチャート

判定ステップ 質問 はい いいえ
勤続年数は5年を超えるか?→ 一般退職手当等→ ②へ
退職者は役員等(取締役・監査役・国会議員・公務員等)か?→ 特定役員退職手当等→ 短期退職手当等

参考: 国税庁「No.2737 特定役員退職手当等」

⚠️ 注意

「使用人兼務役員」の期間がある場合は、役員等勤続年数と一般勤続年数が重複します。この場合、退職所得控除額の計算で「重複勤続年数」を考慮した調整計算が必要になります。国税庁のNo.2737およびNo.2741で具体的な計算例が公開されていますので、該当する場合は必ず確認してください。

短期退職手当等の計算方法と具体例

令和4年1月1日以降に支給される退職手当等から、勤続5年以下の従業員に対する「短期退職手当等」の課税方法が変更されました。退職所得控除後の金額が300万円を超える部分には、1/2課税が適用されません。

控除後300万円以下のケース

📐 シミュレーション前提条件

  • 勤続年数:4年(端数切上げ後)
  • 退職金:400万円
  • 退職所得控除額:40万円 × 4年 = 160万円

控除後金額 = 400万円 − 160万円 = 240万円 ≦ 300万円なので、一般退職手当等と同じ計算です。

課税退職所得金額 = 240万円 × 1/2 = 120万円

所得税等 = 120万円 × 5% × 102.1% = 61,260円

控除後300万円超のケース

📐 シミュレーション前提条件

  • 勤続年数:4年
  • 退職金:1,000万円
  • 退職所得控除額:40万円 × 4年 = 160万円

控除後金額 = 1,000万円 − 160万円 = 840万円 > 300万円なので、300万円超ルールが適用されます。

課税退職所得金額 = 150万円 +(1,000万円 − 300万円 − 160万円)= 690万円

所得税等 =(690万円 × 20% − 427,500円)× 102.1% = 972,313円

もし一般退職手当等として計算した場合は、(840万円 × 1/2 = 420万円)に対する税額は約42万円です。短期退職手当等に該当すると税額が倍以上になる点は、経理担当者が見落としやすいポイントです。

退職所得控除額や1/2課税の基本的なしくみについては、「所得控除の一覧と適用条件」も参考になります。

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特定役員退職手当等の計算方法と具体例

勤続5年以下の役員等が受け取る退職金は「特定役員退職手当等」に分類され、1/2課税が一切適用されません。退職所得控除後の全額が課税退職所得金額となります。

特定役員のみの退職金のケース

📐 シミュレーション前提条件

  • 役員等勤続年数:4年
  • 退職金:600万円
  • 退職所得控除額:40万円 × 4年 = 160万円

課税退職所得金額 = 600万円 − 160万円 = 440万円(1/2適用なし)

所得税等 =(440万円 × 20% − 427,500円)× 102.1% = 461,565円

仮に1/2課税が適用される一般退職手当等であれば、課税退職所得金額は220万円となり、税額は約12.5万円です。特定役員退職手当等に該当すると税負担が約3.7倍に増える計算です。

使用人期間と役員期間が重複するケース

使用人として10年勤務した後、役員として4年勤務して退職するケースでは、退職金のうち役員部分が特定役員退職手当等、使用人部分が一般退職手当等として分けて計算されます。重複勤続年数がある場合は退職所得控除額の調整計算が必要です。

参考: 国税庁「No.2741 同じ年に一般退職手当等のほか短期退職手当等や特定役員退職手当等がある場合」

個人事業主の期間を通算して退職金を支給する場合の勤続年数

法人成りした会社が従業員に退職金を支給する際、法人化する前の個人事業主時代の勤務期間を退職金の計算基礎に含めるケースがあります。この場合、個人事業主時代の期間も勤続年数に通算できます。

所得税法施行令第69条第1項第3号の規定により、「退職手当等の支払金額の計算の基礎に含まれる期間」は、前の使用者の下での勤務期間であっても勤続年数に算入されます。つまり、退職給与規程などで「個人事業時代の勤務期間を含む」と定めていれば、その期間も勤続年数にカウントされ、退職所得控除額が大きくなります。

🧮 シミュレーション

個人事業を8年営んだ後に法人化し、従業員Aさんが個人事業時代から通算15年勤務して退職する場合。退職金規程で「個人事業時代の勤務期間を含む」と定めていれば、勤続年数は15年となり、退職所得控除額は40万円 × 15年 = 600万円です。一方、通算しなければ法人化後の7年分(280万円)しか控除を受けられません。差額は320万円となり、課税退職所得金額に大きな影響を与えます。

💡 実務のポイント

法人成りしたクライアントから「個人事業時代の期間は退職金に含められるのか」という相談を受けることは少なくありません。ポイントは退職給与規程に「個人事業当時の勤務期間を通算する」旨を明記しておくことです。規程がなければ税務調査で否認されるリスクがあります。法人成りのタイミングで退職給与規程を整備しておくことが重要です。

法人成りの手続き全般については、「【税理士×社労士が解説】年末調整とは?しくみ・対象者・手続きの流れを完全ガイド」の中でも源泉徴収との関連で触れています。

「退職所得の受給に関する申告書」の記載を間違えた場合の是正方法

「退職所得の受給に関する申告書」に、過去に他社から受け取った退職金の情報を記載しないまま提出してしまった場合、退職所得控除額の計算が誤ったまま源泉徴収が行われる可能性があります。

よくある間違いパターン

前年以前4年以内に他の会社から退職金を受け取っている場合は、その退職金に係る勤続期間と今回の勤続期間の重複期間分の退職所得控除額を差し引く必要があります。この記載を漏らすと、退職所得控除額が過大に計算され、結果として源泉徴収税額が過少になります。

是正の3ステップ

申告書の記載漏れが判明した場合の対処方法は次のとおりです。

ステップ 対応内容 留意点
1退職者に連絡し、正しい情報(前の退職金の支給額・勤続期間)を入手する前の会社から受け取った「退職所得の源泉徴収票」の写しを提供してもらう
2正しい退職所得控除額で源泉徴収税額を再計算する重複期間分の控除額の調整を忘れない
3不足税額を翌月の源泉所得税と一緒に納付する。源泉徴収票も訂正して交付する退職者が確定申告で精算する方法もあるが、支払者が是正するのが原則

💡 実務のポイント

この論点で税務調査において指摘されるケースは意外に多くあります。特に転職が多い従業員が退職する際に、過去の退職金受給歴を正しく申告書に記載していないと、退職所得控除額の「重複期間調整」が漏れたまま源泉徴収が行われます。退職金の支給額が大きい場合、不足税額も大きくなるため、申告書の受領時に「前年以前4年以内に他社から退職金を受け取ったことがありますか?」と必ず確認する運用を推奨します。

退職金にかかる住民税の計算方法

住民税の計算式

退職金にかかる住民税は、所得税と同じ課税退職所得金額に対して一律10%(都道府県民税4% + 市区町村民税6%)を乗じて計算します。退職所得控除や1/2課税は所得税と同じ金額が適用されます。

たとえば、先ほどの計算例(勤続25年・退職金2,000万円)では、課税退職所得金額425万円 × 10% = 425,000円が住民税です。

住民税の特別徴収と納付期限

退職金にかかる住民税は、退職金の支給時に支払者が「特別徴収」として天引きし、翌月の10日までに退職者の1月1日現在の住所地の市区町村に納付します。退職日が年の途中であっても、翌年まで持ち越すことはありません。退職した年に課税・徴収が完結する点が、給与にかかる住民税とは異なります。

💡 実務のポイント

3月31日付で定年退職する従業員の場合、4月分と5月分の給与にかかる住民税(未徴収分)を退職金から一括徴収するケースがあります。退職金にかかる住民税と、給与にかかる未徴収住民税を混同しないように、「退職所得に対する住民税」と「給与所得に対する住民税の一括徴収」を明確に分けて処理してください。

退職金の源泉徴収に関する経理チェックリスト

退職金の支給は頻繁に発生する業務ではないため、手順を体系的にまとめておくことが重要です。以下は、退職金を支給する際に経理担当者が確認すべき項目を時系列で整理したものです。

順序 タイミング チェック項目 注意点
1退職日決定時「退職所得の受給に関する申告書」を退職者に配布・回収退職金の支給日までに回収。過去4年以内の他社退職金の有無を確認
2退職日決定時勤続年数の確認入社日〜退職日で計算。1年未満の端数は切上げ。個人事業時代の通算有無も確認
3退職日決定時退職手当等の区分判定(一般/短期/特定役員)勤続5年以下かつ役員等 → 特定役員。勤続5年以下かつ非役員 → 短期。その他 → 一般
4支給前退職所得控除額の計算と源泉徴収税額の計算速算表の年分を確認(退職所得の帰属する年分のもの)
5支給前住民税の特別徴収額を計算課税退職所得金額 × 10%。1月1日時点の住所地を確認
6支給日退職金から所得税等・住民税を控除して支給給与の未徴収住民税(一括徴収)がある場合は別途控除
7翌月10日まで所得税等の納付(e-Taxまたは金融機関)納期の特例を適用している場合でも退職所得は原則翌月10日
8退職日から1か月以内「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」を退職者に交付法人の役員に対する退職金は税務署・市区町村にも提出義務あり

源泉徴収義務者の全体像については、「源泉徴収義務者とは?個人事業主も対象になるケースと手続き」で詳しく解説しています。

退職金を分割支給した場合の源泉徴収

退職金を一括ではなく、2回〜3回に分けて支給するケースがあります。この場合でも、退職金の総額をベースに源泉徴収税額を計算し、各回の支給時に按分して徴収します。

具体的には、退職金の総額から計算した源泉徴収税額を、各回の支給額に応じて按分します。1回目の支給時に総額ベースで計算した税額の按分額を徴収し、2回目以降も同様に処理します。

⚠️ 注意

退職金の分割支給と年金形式の受取りは別の概念です。年金形式で受け取る場合は「雑所得」として総合課税の対象になり、退職所得としての優遇措置(分離課税・1/2課税)は適用されません。退職金制度の設計段階で、一括受取りと年金受取りの税務上の違いを把握しておくことが重要です。

退職金の源泉徴収でよくある間違いと対処法

間違いパターン別の対処法

間違いパターン 影響 対処法
申告書を回収せずに20.42%で源泉徴収税額が過大退職者が確定申告で還付を受ける。または支払者が申告書を事後回収し、正しい税額で再計算して差額を還付
短期退職手当等の300万円超ルールを見落とし税額が過少不足税額を速やかに計算し、翌月の源泉所得税と一緒に納付。源泉徴収票も訂正交付
勤続年数の端数を切り捨てた控除額が過小→税額が過大正しい勤続年数(端数切上げ)で再計算。過大徴収分は退職者に還付
他社退職金の重複期間調整を忘れた控除額が過大→税額が過少前述の「是正の3ステップ」で対処
死亡退職金に所得税を源泉徴収してしまった源泉徴収不要なのに徴収死亡退職金は相続税の課税対象であり所得税の対象外。過大徴収分を遺族に還付

💡 実務のポイント

税務調査で退職金の源泉徴収が問題になるのは、多くの場合「特定役員退職手当等」の判定漏れか、「過去4年以内の退職金受給の未申告」のいずれかです。特に中小企業のオーナー経営者が5年以内に役員を退任するケースでは、特定役員退職手当等に該当するかどうかの判定を見落としやすいので注意してください。

確定申告の基本的な流れについては、「確定申告の基礎知識」で詳しく解説しています。

よくある質問(FAQ)

退職金が退職所得控除額以下であれば、源泉徴収票の交付は不要ですか?
いいえ、源泉徴収税額がゼロであっても、「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」の交付は必要です。所得税法第226条第2項の規定により、退職手当等を支払ったすべての退職者に対して、退職日から1か月以内に交付する義務があります。
退職所得の受給に関する申告書を提出し忘れた場合、後から提出できますか?
退職金の支給後に申告書を提出しても、支払者が源泉徴収をやり直すことは原則として難しい場合があります。その場合は、退職者本人が確定申告をすることで、退職所得控除や1/2課税を適用した正しい税額との差額の還付を受けられます。還付申告は退職した年の翌年1月1日から5年間可能です。
死亡退職金にも源泉徴収は必要ですか?
死亡退職金は所得税の課税対象ではなく、相続税の課税対象です。したがって、所得税および復興特別所得税の源泉徴収は不要です。ただし、死亡後3年を経過してから支給が確定した退職手当等は、遺族の一時所得として所得税の課税対象になる場合があります。
勤続年数が1年未満でも退職所得控除は受けられますか?
はい。勤続年数に1年未満の端数がある場合は1年に切り上げるため、たとえ勤続6か月であっても勤続年数は1年として計算されます。この場合の退職所得控除額は40万円 × 1年 = 40万円ですが、最低80万円の規定があるため、実際の控除額は80万円になります。
中小企業退職金共済(中退共)からの退職金にも源泉徴収が必要ですか?
中退共から直接退職者に支払われる退職金は、中退共が源泉徴収を行います。したがって、事業主が別途源泉徴収する必要はありません。ただし、中退共の退職金と会社独自の退職金の両方がある場合は、それぞれの勤続期間の重複期間の調整が必要になる点に注意してください。
「短期退職手当等」は令和4年からの新ルールですが、それ以前に退職した人にも適用されますか?
いいえ。短期退職手当等の規定は令和4年(2022年)1月1日以降に支給される退職手当等に適用されます。令和3年12月31日以前に退職した人に対して支給する退職金には、改正前の計算方法(全額に1/2課税が適用)が適用されます。
退職金の源泉徴収で「納期の特例」は使えますか?
原則として使えません。納期の特例は給与・退職金・税理士報酬等に対する源泉所得税の納付期限を年2回にまとめる制度ですが、退職所得に対する源泉徴収税額は支給月の翌月10日までに納付するのが原則です。退職金の支給はイレギュラーな業務であるため、通常の給与と同じタイミングで処理を忘れないよう注意してください。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 退職金の源泉徴収は「退職所得の受給に関する申告書」の提出有無で税額が大きく変わる
  • 申告書ありの場合、退職所得控除と1/2課税が適用され、退職金額面×20.42%より大幅に税額が下がる
  • 退職手当等は「一般」「短期」「特定役員」の3区分があり、計算方法が異なる
  • 短期退職手当等(勤続5年以下の従業員)は、控除後300万円超の部分に1/2課税が適用されない
  • 特定役員退職手当等(勤続5年以下の役員等)は、1/2課税が一切適用されない
  • 住民税は課税退職所得金額×10%を退職金支給時に特別徴収する
  • 退職所得の源泉徴収票は退職日から1か月以内に交付義務がある

退職金の支給は頻繁に発生する業務ではないからこそ、手順を見直すタイミングが限られます。本記事のチェックリストを活用して、申告書の回収から税額計算、源泉徴収票の交付まで漏れなく対応してください。

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