代償分割と相続税|代償金の課税価格の計算方法

代償分割と相続税|代償金の課税価格の計算方法
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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「実家を相続したいけど兄弟にどう補償すればいい?」とお悩みの方に向けて、代償分割の手続き・代償金の決め方・相続税の課税価格の計算方法を完全ガイドします。この記事を読めば、代償分割を選ぶべきかの判断と、税務上有利な進め方がわかります。

🏆 結論:代償分割は「評価方法の選択」で各相続人の税額が変わる

代償分割とは、特定の相続人が不動産などの現物財産を取得し、他の相続人に代償金(現金など)を支払う分割方法です。代償金を相続税評価額で決めた場合と時価で決めた場合とで、各相続人の課税価格の計算式が異なります。相続税の総額は変わりませんが、各相続人が実際に負担する税額の按分比率が変わるため、評価方法の選択が実務上の重要ポイントです。遺産分割協議書には必ず「代償分割」であることを明記しましょう。記載がないと代償金が贈与とみなされるリスクがあります。

代償分割とは?4つの遺産分割方法との比較

代償分割とは、遺産の分割にあたって共同相続人のうちの1人または数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が他の共同相続人に対して代償金(債務)を支払う分割方法です。相続財産が自宅不動産など分割が難しい資産に偏っている場合に有効です。

遺産分割方法の4種類比較

分割方法 内容 メリット デメリット
現物分割財産をそのままの形で分ける手続きが簡単財産の価値が偏りやすい
代償分割現物取得者が他の相続人に代償金を支払う不動産を維持しながら公平に分割できる代償金を支払う資力が必要
換価分割財産を売却し現金で分配最も公平に分割可能売却に時間がかかる。譲渡所得税が発生
共有分割財産を共有名義にする全員が名義を持てる売却・活用に全員の同意が必要。将来トラブルの原因

💡 実務のポイント

実務で最も多い相談は「自宅を相続した長男が、他のきょうだいにどう補償するか」というケースです。共有名義にすると将来の売却や建て替えで全員の同意が必要になり、相続人が増えるほどトラブルの温床になります。自宅に住み続ける相続人がいる場合は、代償分割が最も実務的な選択肢です。

代償分割の手続きの流れ【5ステップ】

代償分割の手続きは、全部で5つのステップです。相続開始から相続税の申告期限(10ヶ月)までに完了させる必要があります。

STEP 手続き 内容 目安期間
1相続財産の調査・評価不動産の相続税評価額と時価(実勢価格)をそれぞれ算出1〜2ヶ月
2代償金の評価基準の決定代償金を相続税評価額・時価のどちらで算出するか全員で合意
3代償金の金額・支払方法の合意金額・一括or分割・支払期限を決定1〜3ヶ月
4遺産分割協議書の作成「代償分割」である旨と代償金の詳細を必ず明記2〜4週間
5相続税の申告・代償金の支払い課税価格の計算に代償金を反映して申告。代償金を支払い申告期限まで

⚠️ 注意

遺産分割協議書に「代償分割」である旨の記載がないと、代償金の支払いが相続人間の贈与とみなされ、贈与税が課税されるリスクがあります。「甲は相続財産である○○を取得する代わりに、乙に対して代償金として金○○万円を支払う」と明確に記載してください。

代償金の課税価格の計算方法【2つのパターン】

代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算方法は、国税庁タックスアンサーNo.4173に定められています。代償金の評価基準が相続税評価額か時価かによって計算式が異なります。

パターンA:代償金が相続税評価額を基準に決められた場合

代償金の金額をそのまま加減算します。最もシンプルな計算方法です。

📐 計算式

  • 代償金を支払った人:相続税評価額 − 代償金額
  • 代償金を受け取った人:(他の取得財産)+ 代償金額

パターンB:代償金が時価を基準に決められた場合

代償金の金額に「相続税評価額÷時価」の調整率を掛けて計算します。

📐 計算式

  • 代償金を支払った人:相続税評価額 − {代償金額 ×(相続税評価額 ÷ 時価)}
  • 代償金を受け取った人:(他の取得財産)+ {代償金額 ×(相続税評価額 ÷ 時価)}

💡 実務のポイント

不動産の場合、相続税評価額は時価の7〜8割程度であることが一般的です。パターンBでは代償金に調整率(0.7〜0.8程度)が掛かるため、パターンAと比べて代償金を支払った人の課税価格が高くなり、受け取った人の課税価格が低くなる傾向があります。相続税の総額は変わりませんが、各人の負担割合が変わるため、どちらの評価基準を使うかは相続人全員でよく話し合いましょう。

参考: 国税庁 No.4173 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算

評価方法の違いによる課税価格シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 被相続人:父
  • 相続人:長男・次男の2人
  • 相続財産:自宅土地建物のみ(相続税評価額6,000万円、時価8,000万円)
  • 長男が自宅を取得し、次男に代償金を支払う
  • 代償金額:法定相続分(1/2)に基づき計算

パターンA:相続税評価額ベースで代償金を計算した場合

代償金 = 6,000万円 × 1/2 = 3,000万円

相続人 計算式 課税価格
長男(代償金支払い)6,000万円 − 3,000万円3,000万円
次男(代償金受取り)0円 + 3,000万円3,000万円
合計6,000万円

パターンB:時価ベースで代償金を計算した場合

代償金 = 8,000万円 × 1/2 = 4,000万円
調整率 = 6,000万円 ÷ 8,000万円 = 0.75

相続人 計算式 課税価格
長男(代償金支払い)6,000万円 −(4,000万円 × 0.75)3,000万円
次男(代償金受取り)0円 +(4,000万円 × 0.75)3,000万円
合計6,000万円

この例では法定相続分に沿って代償金を計算しているため結果が同じになりますが、代償金の金額が法定相続分と異なる場合(たとえば、次男の取り分を多くした場合)は、パターンAとBで各人の課税価格に差が出ます。

代償金が法定相続分と異なる場合の比較

📐 追加条件

  • 次男が「時価の半分でなく、時価の4割でいい」と合意した場合
  • 代償金 = 8,000万円 × 0.4 = 3,200万円(時価ベース)
相続人 パターンA(評価額ベース) パターンB(時価ベース)
長男の課税価格6,000万 − 3,200万 = 2,800万円6,000万 −(3,200万 × 0.75)= 3,600万円
次男の課税価格3,200万円3,200万 × 0.75 = 2,400万円
合計6,000万円6,000万円

合計は同じ6,000万円ですが、パターンAでは長男の負担が軽く(2,800万円)、パターンBでは次男の負担が軽く(2,400万円)なります。どちらの評価基準を使うかで各人が実際に負担する相続税額が変わるため、事前に税理士を交えてシミュレーションすることをおすすめします。

※概算値です。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

相続税の計算方法の全体像については「相続税の計算方法」で詳しく解説しています。

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代償金を現金以外で支払った場合の税金リスク

代償金は現金で支払うのが一般的ですが、現金以外の財産(不動産・株式など)で支払うことも可能です。ただし、現金以外で支払う場合には譲渡所得税が発生する可能性があるため注意が必要です。

代償財産の種類別の課税関係

代償財産の種類 支払った側の税金 受け取った側の税金
現金なしなし(相続税のみ)
不動産(自己所有)譲渡所得税+住民税不動産取得税+登録免許税
株式(自己所有)値上がり分に譲渡所得税なし(相続税のみ)

⚠️ 注意

たとえば、長男が自己所有の土地(取得費1,000万円、時価3,000万円)を代償財産として次男に渡した場合、長男には時価3,000万円で譲渡したとみなされ、差額2,000万円に対して譲渡所得税(約400万円)が課されます。代償金はできる限り現金で支払う方が税務上のリスクが低いです。

代償分割で贈与税が課されるケース

代償分割は本来、相続税の範囲で処理されるものですが、以下のケースでは贈与税が課される可能性があります。

贈与税が課される3つのパターン

パターン 具体例 リスク
遺産分割協議書に代償分割の記載がない長男から次男への金銭の移動が贈与と判断される🔴 代償金全額に贈与税
代償金が相続分を大幅に超過本来の相続分1,000万円なのに2,000万円を支払った🟡 超過分(1,000万円)に贈与税
相続税申告後の遺産分割のやり直し一度確定した分割を変更して財産を移動させた🔴 移動分が贈与とみなされるリスク

📝 行政書士の視点

遺産分割協議書への記載は代償分割の「生命線」です。記載例としては「甲は、下記不動産を取得する代償として、乙に対し、代償金として金○○○○万円を、令和○年○月○日までに、乙名義の○○銀行○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○)に振り込む方法により支払う」と、金額・期限・方法を具体的に記載してください。

遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の課税関係

遺言書がある場合でも、相続人全員の合意があれば遺言書と異なる遺産分割をすることが可能です。この場合の課税関係は、国税庁タックスアンサーNo.4176に定められています。

遺言と異なる遺産分割が認められる4つの要件

遺言書と異なる遺産分割を行うには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。

No. 要件
1相続人全員が遺言の内容を知った上で、異なる分割に同意していること
2相続人以外の受遺者がいる場合は、その受遺者が同意していること
3遺言執行者がいる場合は、遺言執行者の同意があること
4遺言で遺産分割を禁止していないこと

遺言と異なる分割をした場合の課税パターン

ケース 相続税の扱い 贈与税の扱い
相続人全員の合意で初回の分割を変更分割協議の内容に基づいて課税贈与税は課されない
申告後に遺産分割をやり直した場合当初の分割が有効贈与税が課される可能性あり
一部の相続人のみの合意で変更遺言書の内容が優先贈与とみなされるリスクあり

💡 実務のポイント

国税庁の質疑応答事例では、相続人全員の合意による遺言と異なる分割について、受遺者である相続人が「遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われた」とみなすことで、贈与税は課されないとしています。ただし、これはあくまで最初の分割協議で合意した場合の話です。一度確定した遺産分割を後から「やり直す」場合には、新たな贈与や交換として課税される可能性が高いため、最初の協議で慎重に決めることが重要です。

参考: 国税庁 No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税

贈与税の基本的なしくみについては「贈与税のしくみと基礎知識」で詳しく解説しています。

代償分割と小規模宅地等の特例の併用

自宅の土地を代償分割で取得した場合、要件を満たせば小規模宅地等の特例(最大80%減額)を適用できます。特例の適用は代償金の支払い前の相続税評価額に対して行われるため、代償分割との併用で大きな節税効果が期待できます。

小規模宅地等の特例を適用した場合のシミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 被相続人と同居していた長男が自宅(土地評価額5,000万円)を取得
  • 特例適用後の評価額:5,000万円 × 20% = 1,000万円
  • 次男への代償金:時価8,000万円の半分 = 4,000万円
  • 調整率:1,000万円 ÷ 8,000万円 = 0.125
相続人 特例なし 特例適用後
長男の課税価格5,000万 −(4,000万 × 0.625)= 2,500万円1,000万 −(4,000万 × 0.125)= 500万円
次男の課税価格4,000万 × 0.625 = 2,500万円4,000万 × 0.125 = 500万円
合計5,000万円1,000万円

小規模宅地等の特例を適用することで、課税価格の合計が5,000万円から1,000万円に減額されます。基礎控除(3,000万円+600万円×2人=4,200万円)以下となるため、相続税がゼロになる可能性もあります。

小規模宅地等の特例の詳細は「小規模宅地等の特例の概要」をご覧ください。

代償分割を成功させるための実務チェックリスト

代償分割を円滑に進め、税務上のリスクを回避するためのチェック項目を整理します。

No. チェック項目 確認
1代償金を支払う相続人に十分な資力があるか確認したか
2不動産の相続税評価額と時価の両方を算出したか
3代償金の評価基準(相続税評価額 or 時価)を全員で合意したか
4各相続人の課税価格と相続税額をシミュレーションしたか
5遺産分割協議書に「代償分割」である旨を明記したか
6代償金の金額・支払期限・支払方法を明記したか
7代償金は現金で支払う予定か(現金以外の場合は譲渡所得税を考慮)
8小規模宅地等の特例の適用可否を検討したか

📊 公認会計士の視点

代償金の支払い原資として生命保険金を活用する方法があります。被相続人が生前に、不動産を取得する予定の相続人を受取人として生命保険に加入しておけば、相続発生時に保険金で代償金を支払うことができます。生命保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠もあるため、相続対策として効果的です。

相続税のしくみ全般については「相続税のしくみと基礎知識」、事業承継との関連については「事業承継税制の概要」もあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

代償分割とは何ですか?
代償分割とは、特定の相続人が不動産などの相続財産を現物で取得し、その代わりに他の共同相続人に対して代償金(現金など)を支払う遺産分割の方法です。自宅や事業用資産など分割が難しい財産がある場合に、公平に遺産を分けるために使われます。
代償金を受け取ったら所得税はかかりますか?
代償金を現金で受け取った場合、所得税はかかりません。代償金は相続による財産取得の一部として扱われるため、相続税の課税対象になりますが、所得税は非課税です。ただし、代償金として不動産や株式などの現物を受け取った場合は、その後の売却時に譲渡所得税がかかる可能性があります。
代償金の評価は相続税評価額と時価のどちらが有利ですか?
一概にどちらが有利とは言えません。相続税の総額は同じですが、各相続人が負担する税額の按分比率が変わります。代償金を支払う側は相続税評価額ベースの方が課税価格が低くなる傾向があり、受け取る側は時価ベースの方が課税価格が低くなる傾向があります。税理士に各パターンのシミュレーションを依頼して、全員にとって最も公平な方法を選ぶことをおすすめします。
遺産分割協議書に代償分割の記載がないとどうなりますか?
遺産分割協議書に代償分割である旨の記載がない場合、代償金の支払いが相続人間の「贈与」とみなされ、贈与税が課税されるリスクがあります。代償金の金額が大きい場合、贈与税は相続税よりも高い税率が適用されるため、多額の税負担となる可能性があります。必ず遺産分割協議書に記載してください。
代償金を分割払いにすることはできますか?
代償金の分割払いは可能です。ただし、相手の同意が必要であり、遺産分割協議書に分割払いの回数・金額・支払期限を明記する必要があります。支払いが滞った場合のトラブルを防ぐため、分割払いの条件は具体的に定めておくことが重要です。
遺言書と異なる遺産分割をした場合、贈与税はかかりますか?
相続人全員の合意で遺言と異なる遺産分割をした場合、贈与税は原則としてかかりません。国税庁タックスアンサーNo.4176では、受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われたとみなすとしています。ただし、一度確定した遺産分割を後からやり直す場合は、新たな贈与とみなされて贈与税がかかる可能性があるため注意が必要です。
代償分割で小規模宅地等の特例は使えますか?
はい、代償分割でも小規模宅地等の特例は適用できます。特例の適用要件(同居の配偶者や親族が取得するなど)を満たしていれば、自宅の土地の評価額を最大80%減額できます。特例適用後の評価額をベースに代償金の課税価格を計算するため、各相続人の税負担が大幅に軽減される可能性があります。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 代償分割は、不動産など分割が難しい財産を特定の相続人が取得し、他の相続人に代償金を支払う方法
  • 代償金を相続税評価額で決めた場合と時価で決めた場合で計算式が異なり、各相続人の税負担按分が変わる
  • 遺産分割協議書に「代償分割」である旨を必ず明記しないと、代償金が贈与とみなされるリスクがある
  • 代償金を現金以外(不動産・株式)で支払うと、譲渡所得税が発生する可能性がある
  • 遺言書と異なる遺産分割は、相続人全員の合意があれば可能であり、贈与税は原則として課されない
  • 小規模宅地等の特例と代償分割の併用で、大幅な節税が可能
  • 代償金の原資として生命保険金を活用する方法も有効

代償分割は遺産の公平な分割と不動産の維持を両立できる有効な方法ですが、評価方法の選択や遺産分割協議書の記載など、税務上の注意点が多くあります。円滑な相続のためにも、早めに税理士に相談することをおすすめします。

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