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相続税の債務控除と葬式費用|控除できる範囲と注意点
「借入金は相続税から引ける?」「葬式費用はどこまで控除できる?」とお悩みの方に向けて、債務控除の対象となる借入金・未払税金から、葬式費用の○×判定表、節税効果シミュレーションまで完全ガイドします。この記事を読めば、控除漏れなく申告できるようになります。


「借入金は相続税から引ける?」「葬式費用はどこまで控除できる?」とお悩みの方に向けて、債務控除の対象となる借入金・未払税金から、葬式費用の○×判定表、節税効果シミュレーションまで完全ガイドします。この記事を読めば、控除漏れなく申告できるようになります。
🏆 結論:債務と葬式費用は相続財産から差し引ける
相続税の計算では、被相続人の借入金・未払税金などの債務と、通夜・葬儀にかかった費用を遺産総額から差し引くことができます。ただし、全ての債務や葬式費用が対象ではありません。団信付き住宅ローンや墓地のローンは控除不可、香典返しや法事の費用も対象外です。控除漏れがあると相続税を余計に払うことになるため、項目ごとに○×を確認しましょう。
債務控除とは、相続税を計算する際に、被相続人が残した借入金や未払金などの債務を遺産総額から差し引くことができる制度です。相続税法第13条に規定されており、「正味の遺産額」で相続税を計算しようという考え方に基づいています。
🧮 シミュレーション
遺産1億円 − 債務2,000万円 − 葬式費用200万円 = 正味の遺産額7,800万円
この正味の遺産額から基礎控除を差し引いて相続税を計算します。
全ての相続人が債務控除を使えるわけではありません。適用できる人・できない人は以下のとおりです。
| 対象者 | 債務控除 | 葬式費用の控除 |
|---|---|---|
| 相続人(無制限納税義務者) | ○ | ○ |
| 包括受遺者 | ○ | ○ |
| 相続放棄した人 | × | ○(負担分のみ) |
| 特定受遺者 | × | × |
参考: 国税庁「No.4126 相続財産から控除できる債務」
💡 実務のポイント
相続放棄した人は債務控除を使えませんが、葬式費用だけは例外です。相続放棄した人が実際に負担した葬式費用は、遺贈により取得した財産(例:生命保険金)から控除することができます。
控除できる債務は「被相続人が死亡したときに現に存在する債務で確実と認められるもの」です。ここでは具体的な項目ごとに○×を判定します。
| 債務の種類 | 具体例 | 控除時の注意点 |
|---|---|---|
| 借入金 | 銀行ローン、住宅ローン(団信なし)、カードローン | 残高証明書を取得して確認 |
| 未払税金 | 所得税、住民税、固定資産税、事業税 | 死亡日時点で未納のもの。準確定申告の税額も含む |
| 未払医療費 | 入院費、治療費、薬代の未払分 | 死亡後に支払った場合も対象 |
| 未払家賃・水道光熱費 | 賃貸の家賃、電気・ガス・水道の未払分 | 死亡日までの分が対象 |
| 事業上の買掛金・未払金 | 個人事業の仕入代金、外注費等の未払い | 帳簿で確認 |
| 預り敷金・保証金 | 貸家・貸室の入居者からの預り金 | 返還義務があるもの |
| 債務の種類 | 控除できない理由 |
|---|---|
| 団信付き住宅ローン | 団体信用生命保険で弁済されるため、死亡時に債務が消滅する |
| 墓地・墓石のローン | 墓地・墓石は非課税財産であり、非課税財産に関する債務は控除不可 |
| 仏壇・仏具のローン | 同上(祭祀財産は非課税のため) |
| 保証債務(主債務者が弁済不能でない場合) | 主債務者に弁済能力がある限り、債務として確実とはいえない |
| 相続開始後に発生した費用 | 遺産分割にかかる弁護士費用、相続登記費用、税理士報酬等 |
⚠️ 注意:団信付き住宅ローンは要注意
実務で最も多い誤りの一つが、団体信用生命保険(団信)付きの住宅ローンを債務控除してしまうケースです。団信があれば被相続人の死亡時にローンが保険金で完済されるため、債務は消滅します。一方で不動産自体は相続財産として評価されるので、ローンを差し引けない分、課税対象が大きくなる点にご注意ください。
💡 実務のポイント:保証債務の例外
保証債務は原則として控除できませんが、主債務者が弁済不能の状態であり、かつ被相続人が保証債務を履行しなければならない場合で、主債務者に求償しても返還を受ける見込みがないときは、その弁済不能部分に限り債務控除の対象になります。中小企業の連帯保証では、この判定が重要になります。
葬式費用は被相続人の債務ではありませんが、相続に伴い必然的に発生する費用であるため、債務控除と同様に遺産総額から差し引くことが認められています。ただし、全ての費用が対象ではありません。
| 費用の種類 | 判定 | 備考 |
|---|---|---|
| 通夜・告別式の費用(葬儀社への支払い) | ○ | 祭壇・棺・骨壺・会場使用料等 |
| 通夜振る舞い・精進落としの飲食費 | ○ | 会葬者への接待費用 |
| 火葬・埋葬・納骨の費用 | ○ | 火葬料、納骨料、遺骨回送費用 |
| 遺体の搬送費用 | ○ | 霊柩車代、搬送車両代 |
| お布施・読経料・戒名料 | ○ | 領収書不要(メモで可) |
| 会葬御礼(当日渡し) | ○ | 通夜・告別式当日に全員に配るもの |
| 死亡診断書の発行費用 | ○ | 医師が発行する文書料 |
| 遺体の捜索・運搬費用 | ○ | 事故等で捜索が必要な場合 |
| 喪主負担の生花代 | ○ | 喪主以外が負担した分は対象外 |
| 香典返し | × | 香典自体が非課税のため、お返しも控除不可 |
| 墓石・墓地の購入費用 | × | 非課税財産に関する費用 |
| 初七日以降の法事費用 | × | 葬儀後の行事であり葬式費用に該当しない |
| 繰上げ初七日(告別式と同日) | △ | 告別式と費用が区別されていなければ○、区別されていれば× |
| 参列者の交通費・宿泊費 | × | 参列者が自己負担すべき費用 |
| 仏壇・仏具の購入費用 | × | 非課税財産に関する費用 |
参考: 国税庁「No.4129 相続財産から控除できる葬式費用」
お布施・戒名料・心付けなどは領収書が発行されないことが一般的です。この場合はメモ書きを作成し、相続税申告書に添付することで控除が認められます。
| 記載項目 | 記載例 |
|---|---|
| 支払日 | 令和8年○月○日 |
| 支払先名称 | ○○寺(東京都新宿区○○町1-2-3) |
| 支払内容 | 読経料・戒名料 |
| 支払金額 | ○○万円 |
| 支払者 | 相続人 ○○太郎 |
💡 実務のポイント
葬儀の支払いは矢継ぎ早に発生するため、「いつ・誰に・いくら」を支払った直後にメモしておくことが重要です。後から思い出そうとすると金額があいまいになりがちです。また、お布施であっても領収書を発行してくれるお寺もあるので、まずは聞いてみることをおすすめします。
債務控除と葬式費用がどれだけ相続税の節税につながるか、遺産総額別に試算します。
📐 シミュレーション前提条件
| 比較項目 | 遺産8,000万円 | 遺産1億円 | 遺産1.5億円 |
|---|---|---|---|
| 控除前の課税遺産総額 | 3,200万円 | 5,200万円 | 1億200万円 |
| 債務+葬式費用の合計 | 1,200万円 | ||
| 控除後の課税遺産総額 | 2,000万円 | 4,000万円 | 9,000万円 |
| 控除前の相続税額(概算) | 約350万円 | 約630万円 | 約1,495万円 |
| 控除後の相続税額(概算) | 約170万円 | 約450万円 | 約1,240万円 |
| 節税効果 | 約180万円 | 約180万円 | 約255万円 |
※概算値です。配偶者の税額軽減を適用後の子の税額合計で計算。個別の状況により異なります。
債務1,000万円+葬式費用200万円の控除で、180万〜255万円の節税になります。控除漏れがあればこの分だけ余計に税金を支払うことになるため、申告前にしっかり確認することが重要です。
相続税の計算方法の詳細は「相続税の計算方法」で解説しています。
葬式費用の負担者に法律上の決まりはなく、一般的には喪主が負担します。しかし相続税の観点からは、誰が負担するかによって節税効果が異なります。
| 負担者 | 節税効果 | 理由 |
|---|---|---|
| 配偶者 | △ 効果が薄い場合がある | 配偶者の税額軽減(1億6,000万円まで非課税)があるため、そもそも配偶者の相続税がゼロになるケースが多い |
| 子 | ○ 効果が大きい | 子には配偶者のような大幅な税額軽減がないため、葬式費用の控除が直接節税に効く |
💡 実務のポイント
相続税のことだけを考えれば、子が葬式費用を負担した方が節税効果は高くなります。ただし、実際には家族の慣習や感情面もあるため、「節税のために子が払うべき」と一方的に決めるのではなく、家族間で相談して決めるのが良いでしょう。領収書の宛名を子の名前にしておくと、後の申告手続きがスムーズです。
債務控除と葬式費用は、相続税申告書の第13表「債務及び葬式費用の明細書」に記載します。
| ステップ | 記載内容 |
|---|---|
| ①債務の明細 | 債務の種類・金額・債権者名を記載。負担する相続人ごとに振り分け |
| ②葬式費用の明細 | 葬式費用の種類・金額・支払先を記載。負担した相続人ごとに振り分け |
| ③合計額を第1表に転記 | 第13表の合計額を第1表の「債務及び葬式費用の金額」欄と第15表に転記 |
負担者が確定していない債務がある場合は、法定相続分(ではなく相続分)の割合で按分して記載します。たとえば債務200万円で相続人が配偶者・長男・次男の場合、配偶者100万円(1/2)、長男50万円(1/4)、次男50万円(1/4)と記載します。
添付書類として、領収書(なければメモ書き)のほか、借入金の残高証明書、固定資産税の納税通知書なども準備しておきましょう。
住宅ローンの残高を債務として控除したが、実は団体信用生命保険が付いていたため、死亡時にローンは完済済み。税務調査で修正申告を求められ、過少申告加算税が課されました。
四十九日後の香典返し約100万円を葬式費用として申告してしまったケース。香典自体が非課税(受け取っても課税されない)であるため、そのお返しの費用は控除対象外です。
お布施として50万円を支払ったが、領収書もメモも残しておらず、申告時に金額を証明できなかったケース。税務調査で「証拠がない」として控除が認められませんでした。
不動産の相続登記にかかった司法書士報酬を債務として控除してしまったケース。相続開始後に発生した費用は、たとえ相続手続きに必要な費用であっても債務控除の対象外です。
💡 実務のポイント
控除漏れを防ぐには、被相続人の死亡後に届いた請求書や通知書を全て保管しておくことが基本です。固定資産税の納税通知書、水道光熱費の請求書、医療費の請求書などは、捨てずに全て税理士に渡してください。逆に控除できないものを入れてしまう過大計上も税務調査の対象になりますので、○×判定表に照らして確認することが大切です。
債務控除は「死亡時に存在する債務」が対象ですが、生前から意識しておくことで相続税対策にもつながります。
墓地や仏壇は非課税財産であり、相続税がかかりません。生前に現金で購入しておけば、課税対象の現金を非課税財産に変えることができます。ただし死亡後に購入した場合の費用は葬式費用にも債務にもなりません。また、死亡時に墓地や仏壇のローンが残っていても、非課税財産に関する債務は控除不可です。
不動産投資のために借り入れたローン(団信なし)は、不動産の評価額に対して借入残高を債務控除でき、差額分の課税を抑える効果があります。ただし、節税目的だけで不要な借入金を作ることは本末転倒ですので、投資判断は慎重に行ってください。
相続税の全体像は「相続税の仕組みと基礎知識」、小規模宅地等の特例による自宅の評価減については「小規模宅地等の特例の概要」で詳しく解説しています。
📋 この記事のポイント
債務控除と葬式費用の控除は、漏れなく正確に申告することで相続税の負担を大きく軽減できます。特に葬儀直後は慌ただしく、領収書の保管やメモの作成が後回しになりがちですが、後から証拠を用意するのは困難です。支払いが発生したら、その場で記録を残す習慣をつけましょう。贈与税との関係については「贈与税の仕組みと基礎知識」も参考にしてください。