【税理士×公認会計士のダブル監修】事業承継税制とは?法人版・個人版の適用要件と特例措置を完全ガイド

【税理士×公認会計士のダブル監修】事業承継税制とは?法人版・個人版の適用要件と特例措置を完全ガイド
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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事業承継税制とは?法人版・個人版の適用要件と特例措置を完全ガイド

「自社株を後継者に渡したいが相続税・贈与税が数千万円かかる」「特例措置の期限が迫っているが何から始めればいいかわからない」とお悩みの中小企業経営者に向けて、法人版・個人版の事業承継税制を体系的に解説します。この記事を読めば、自社に適用できるかの判断と、手続きのスケジュールがわかります。

🏆 結論:特例承継計画の提出期限は2026年3月末。検討中なら今すぐ動くべき

事業承継税制とは、後継者が先代経営者から非上場株式(法人版)や事業用資産(個人版)を贈与・相続で取得した際に、贈与税・相続税の納税が猶予・免除される制度です。特例措置では納税猶予割合が100%(実質的に税負担ゼロ)になり、対象株式数の上限も撤廃されています。ただし、特例承継計画の提出期限は2026年3月31日、法人版の事業承継実施期限は2027年12月31日と期限が迫っています。適用後も5年間の雇用維持要件や継続届出が必要で、取消事由に該当すると猶予された税金を一括納付するリスクもあります。メリット・デメリットを十分理解した上で、認定支援機関(税理士等)と相談しながら判断してください。

📢 特例承継計画の提出期限が迫っています

特例措置の適用に必要な「特例承継計画」の提出期限は2026年3月31日です。法人版の事業承継実施期限は2027年12月31日、個人版は2028年12月31日です。計画の提出は適用を確定させるものではなく「オプションの確保」ですので、少しでも検討中であれば先に計画だけ提出しておくことを強くおすすめします。

事業承継税制とは?制度の基本的なしくみ

事業承継税制とは、中小企業の後継者が先代経営者から会社の株式や事業用資産を贈与・相続で取得した際に、一定の要件を満たせば贈与税・相続税の納税が猶予され、最終的に免除される制度です。

制度には「法人版」と「個人版」の2種類があり、それぞれに「一般措置」と「特例措置」があります。

区分 法人版 個人版
対象非上場会社の株式等事業用の土地・建物・減価償却資産
対象者中小企業の後継者(経営者)個人事業主の後継者
猶予される税贈与税・相続税贈与税・相続税
特例措置の事業承継期限2027年12月31日2028年12月31日
計画提出期限2026年3月31日(法人版・個人版共通)

参考: 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」

特例措置と一般措置の違い【比較表】

事業承継税制の「一般措置」は恒久的な制度ですが、「特例措置」は期限付き(10年間)で大幅に拡充されたものです。現在検討するなら、ほぼ全てのケースで特例措置を選ぶべきです。

比較項目 一般措置 特例措置
事前の計画策定不要必要(特例承継計画を2026年3月末まで提出)
適用期限なし(恒久措置)2027年12月31日まで(法人版)
対象株式数発行済株式の2/3まで全株式(上限なし)
納税猶予割合贈与100%・相続80%贈与・相続とも100%
後継者の人数1人最大3人
承継元先代経営者1人のみ全株主から(複数の株主から承継可)
雇用確保要件5年間平均8割維持必須8割を下回っても理由報告で猶予継続
売却・廃業時の減免なしあり(売却・廃業時の株価で再計算)
相続時精算課税の適用推定相続人・孫のみ親族外含む全ての後継者

💡 実務のポイント

一般措置では相続時の猶予割合が80%にとどまるため、株式評価額の20%分は相続税を納付する必要があります。自社株評価額が3億円なら約6,000万円の相続税が残る計算です。特例措置なら100%猶予のため、実質的に税負担ゼロ。この差は非常に大きいため、期限内に特例措置を選ぶべきです。

法人版事業承継税制の適用要件

会社の要件

法人版事業承継税制の対象となるのは、中小企業基本法に定める「中小企業」に該当する非上場会社です。以下の会社は対象外です。

⚠️ 注意

「資産管理会社」の判定は要注意です。不動産賃貸業を営む同族会社や、投資有価証券を多く保有する持株会社は、資産管理会社に該当して事業承継税制を使えない可能性があります。ただし、一定の従業員数(5人以上)があり、事務所を有し、3年以上事業を継続している場合は除外されるケースもあるため、個別に判定が必要です。

先代経営者(贈与者・被相続人)の要件

後継者(受贈者・相続人)の要件

要件 贈与の場合 相続の場合
代表者就任贈与時に代表者であること相続開始から5ヶ月以内に代表者就任
役員就任期間贈与直前まで役員就任(2025年改正で緩和)相続開始直前に役員であること
年齢18歳以上制限なし
議決権同族関係者と合わせて50%超、かつ同族内で筆頭株主等
特例承継計画計画に記載された後継者であること(特例措置の場合)

参考: 国税庁「法人版事業承継税制のあらまし」

個人版事業承継税制の概要

個人版事業承継税制は、個人事業主が後継者に事業用資産(土地400㎡まで、建物800㎡まで、一定の減価償却資産)を贈与・相続で移転する際に、贈与税・相続税の納税を100%猶予する制度です。

法人版との主な違いは、対象が「株式」ではなく「事業用資産」である点と、事業承継実施期限が2028年12月31日とやや長い点です。

個人版の詳しい要件と手続きは「個人版事業承継税制」で解説しています。

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手続きの流れ【6ステップ】

ステップ1:特例承継計画の作成・提出(2026年3月31日まで)

認定経営革新等支援機関(税理士法人、公認会計士事務所等)の指導・助言を受けたうえで、特例承継計画を作成し、都道府県庁に提出します。記載内容は後継者の氏名、事業承継の予定時期、承継後5年間の事業計画等で、A4用紙3枚程度のボリュームです。

💡 実務のポイント

特例承継計画の提出は、事業承継税制の「予約」のようなものです。計画を提出しても、実際に適用するかどうかは後から決められます。提出しなければ特例措置のオプションが消滅するため、少しでも検討中であれば先に計画だけ提出しておくべきです。計画の変更届も可能です。

ステップ2:贈与・相続の実行(2027年12月31日まで)

先代経営者から後継者へ、実際に株式の贈与または相続を行います。贈与の場合、先代経営者は贈与時までに代表者を退任している必要があります。

ステップ3:都道府県知事の認定申請

贈与の場合は翌年1月15日まで、相続の場合は相続発生後8ヶ月以内に、都道府県知事に認定申請書を提出します。

ステップ4:税務署への申告(担保提供を含む)

認定書の写しを添付して、贈与税・相続税の申告書を税務署に提出します。猶予税額および利子税に見合う担保(通常は猶予対象の株式そのもの)を提供します。

ステップ5:申告後5年間の年次報告

都道府県庁に「年次報告書」を、税務署に「継続届出書」を毎年提出します。雇用が5年平均8割を下回った場合は、その理由と認定支援機関の所見を記載した報告書も必要です。

ステップ6:6年目以降の継続届出

6年目以降は、税務署に継続届出書を3年に1回提出します。後継者の死亡や、次の後継者への再贈与により猶予税額が最終的に免除されます。

納税猶予が「免除」される5つのケース

猶予された税金は以下のいずれかに該当した時点で免除(=払わなくてよくなる)されます。

No. 免除事由 補足
1後継者が死亡した猶予税額の全額が免除
2次の後継者に事業承継税制を適用して贈与贈与税の猶予税額が免除(相続税は切替え)
3先代経営者(贈与者)が死亡した贈与税は免除→相続税の猶予に切替え
4会社が破産・特別清算した猶予税額の全額が免除
5一定の障害等により後継者が代表者を退任やむを得ない事由として免除

事業承継税制を使うべきケースと使わない方がいいケース

判断基準 使うべきケース 使わない方がいいケース
自社株評価額数億円以上(納税額が大きい)数千万円以下(他の対策で対応可能)
後継者の確定度後継者が明確に決まっている後継者が未定・M&Aを検討中
事業の継続性長期的に事業を継続する意思あり近い将来の売却・廃業を検討中
管理コスト税理士報酬等の継続コストを許容できる猶予税額に比して税理士報酬が高すぎる

📊 公認会計士の視点

事業承継税制を適用すると、株式を第三者に売却する際に猶予税額の一括納付が必要になるため、M&Aの柔軟性が失われます。将来的にM&Aの可能性を残しておきたい場合は、事業承継税制ではなく、株価引き下げ対策(役員退職金の支給、不動産の取得等)で自社株評価額を下げてから贈与する方法も検討すべきです。

デメリットとリスク(概要)

事業承継税制には大きなメリットがある一方、以下のリスクを十分理解しておく必要があります。

デメリットとリスクの詳細は「事業承継税制のデメリットとリスク」で解説しています。

寄附金の特例措置との関係

事業承継の文脈では、公益法人等への寄附による株価引き下げが検討されることがあります。特定公益増進法人や認定NPO法人に対する寄附は、法人税の損金算入枠が拡大される特例があり、結果として自社株評価額の引き下げ効果が生じます。ただし、寄附金控除は事業承継税制とは別の制度であり、株価引き下げの効果は限定的です。事業承継税制の方が直接的な節税効果が大きいため、自社株評価額が高い場合はまず事業承継税制の適用を検討し、補完的に寄附金の特例を活用する、という優先順位が妥当です。

事業承継税制の節税効果シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 先代経営者(70歳)が後継者(40歳・長男)に全株式を贈与
  • 相続人:配偶者+子2人(基礎控除4,800万円)
  • 株式以外の相続財産:1億円
自社株評価額 通常の贈与税 事業承継税制適用後 節税額
1億円約4,800万円0円約4,800万円
3億円約1億5,800万円0円約1億5,800万円
5億円約2億7,300万円0円約2億7,300万円

※特例措置(猶予割合100%)の場合。一般措置では相続税の猶予割合は80%。概算値であり、実際の税額は他の控除や遺産構成により異なります。

2025年度税制改正のポイント(役員就任要件の緩和)

2025年度(令和7年度)税制改正により、特例措置における後継者の役員就任要件が大幅に緩和されました。

項目 改正前 改正後
贈与の場合贈与前3年以上の役員就任贈与直前に役員就任していればOK
個人版の場合贈与前3年以上事業に従事贈与直前に事業に従事していればOK
適用開始2025年1月1日以後の贈与から

この改正により、後継者が他社で修業中だったケースや、急な経営悪化で承継を前倒しにしたいケースでも、特例措置を利用しやすくなりました。

🔷 社労士の視点

事業承継税制の雇用維持要件では「常時使用する従業員」の人数が問われます。パート・アルバイトの取り扱いは、雇用保険の被保険者であるかどうかが基準になります。週20時間以上勤務して雇用保険に加入している従業員はカウント対象です。事業承継前に雇用体制を整理しておくことをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

特例承継計画を提出した後に撤回できますか?
はい。特例承継計画の提出は「予約」のようなもので、実際に事業承継税制を適用する義務は生じません。計画を提出した後でも、適用しないと判断すれば何もしなくてよいです。また、計画の変更届を提出して後継者や事業計画を変更することも可能です。
事業承継税制を使うと後で株式を売却できなくなりますか?
売却自体はできますが、猶予対象株式を第三者に売却すると猶予されていた税額(+利子税)を一括納付する必要があります。ただし、特例措置では売却時の株価が下落していた場合に差額の減免が受けられるため、一般措置よりは柔軟です。M&Aの可能性がある場合は、事業承継税制の適用前に慎重に検討してください。
雇用の8割維持ができなかったらどうなりますか?
一般措置では猶予が取消されますが、特例措置では8割を下回っても理由を報告すれば猶予が継続します。経営悪化が理由の場合は認定支援機関の指導・助言を受けた旨を報告書に記載する必要がありますが、それだけで猶予は継続するため、雇用維持要件は実質的に撤廃されたと言えます。
先代経営者が亡くなった後も猶予は続きますか?
贈与税の納税猶予を受けている場合、先代経営者が亡くなると贈与税の猶予は免除されます。ただし、猶予対象の株式は相続により取得したものとみなされ、贈与時の評価額で相続税の課税対象になります。この相続税についても事業承継税制の相続税の納税猶予を受けることが可能です。
資産管理会社でも事業承継税制は使えますか?
原則として資産管理会社(有価証券等の保有割合70%以上、または運用収入が総収入の75%以上の会社)は対象外です。ただし、常時使用する従業員が5人以上、事務所を有し、3年以上事業を継続している場合は資産管理会社から除外される特例があります。不動産賃貸業の同族会社は要個別判定です。
後継者が複数いる場合はどうなりますか?
一般措置では後継者は1人に限定されますが、特例措置では最大3人まで後継者を指定できます。各後継者が議決権の10%以上を有し、かつ上位3位以内である必要があります。3人で分散して承継することで、次世代への再承継が柔軟に行えるメリットがあります。
個人版事業承継税制の対象となる資産は何ですか?
個人事業主の確定申告書に記載された事業用の土地(400㎡まで)、建物(800㎡まで)、および一定の減価償却資産(機械装置、器具備品、車両等で、青色申告決算書の貸借対照表に計上されているもの)が対象です。棚卸資産や売掛金は対象外です。詳しくは「個人版事業承継税制」をご覧ください。
農地の納税猶予と事業承継税制は併用できますか?
農地等についての相続税の納税猶予(措法70条の6)と法人版事業承継税制は、対象財産が異なる(農地 vs 非上場株式)ため、要件を満たせば同一の相続で両方の猶予を受けることが可能です。農地の納税猶予については「農地・山林の納税猶予の特例」をご覧ください。
認定経営革新等支援機関とは何ですか?
中小企業に対する経営支援を行う専門家として、国が認定した機関です。税理士法人、公認会計士事務所、弁護士法人、金融機関、商工会議所などが該当します。特例承継計画の作成には認定支援機関の指導・助言が必須要件です。鮎澤パートナーズも認定経営革新等支援機関として登録しています。
事業承継税制の適用後、会社を廃業したらどうなりますか?
一般措置では猶予税額を全額納付する必要がありますが、特例措置では廃業時の会社の純資産額を基に納税額を再計算し、当初の猶予税額との差額が減免されます。会社の価値が下がっていれば、実質的な負担は軽減されます。ただし、自主的な廃業(特別清算・破産)に限られ、事業を継続できる状態での廃業は減免の対象外となる可能性があります。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 事業承継税制は、後継者の贈与税・相続税の納税を猶予・免除する制度(法人版・個人版あり)
  • 特例措置は猶予割合100%・対象株式の上限なし・後継者最大3人と大幅に拡充
  • 特例承継計画の提出期限は2026年3月31日、法人版の事業承継実施期限は2027年12月31日
  • 2025年度税制改正で後継者の役員就任要件が「3年以上」から「直前まで」に緩和
  • 適用後も5年間の雇用維持報告・継続届出が必要(特例措置は雇用要件実質撤廃)
  • M&A・株式売却時は猶予税額の一括納付が必要になるため、将来の選択肢を考慮して判断
  • 自社株評価額が数億円以上で後継者が確定している場合は、特例措置の活用メリットが大きい

事業承継税制は正しく活用すれば数千万円〜数億円規模の節税効果がありますが、適用後の管理コストやM&Aの制約も伴います。必ず認定支援機関である税理士と相談し、自社の状況に最適な判断をしてください。

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