【社労士が解説】有給休暇の年5日取得義務と時季指定|管理簿作成・計画的付与・罰則対応

【社労士が解説】有給休暇の年5日取得義務と時季指定|管理簿作成・計画的付与・罰則対応
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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有給休暇の年5日取得義務と時季指定|管理簿作成・計画的付与・罰則対応

「年5日取得させていない従業員がいて心配」という経営者に向けて、取得義務の対象者・時季指定の方法・管理簿の作り方を完全ガイドします。この記事を読めば、罰金30万円を回避しつつ現実的な運用ができるようになります。

🏆 結論:年5日取得義務は「対象者特定→基準日管理→不足者への時季指定」の3ステップで確実に運用する

2019年4月施行の労働基準法第39条第7項により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に、使用者は年5日以上の取得を確実にさせる義務を負います。違反は労働者1人につき30万円以下の罰金。実務では「年次有給休暇管理簿(3年保存)」の作成、計画的付与制度の導入、不足者への使用者による時季指定の3つで対応します。管理監督者・パート・有期契約も付与日数が10日以上なら対象になる点に注意が必要です。

年5日取得義務とは|2019年4月施行の働き方改革による法改正

年5日の年次有給休暇取得義務は、働き方改革関連法による労働基準法第39条第7項の新設で2019年4月から施行された制度です。日本の有給休暇取得率が長年50%台に低迷していた状況を改善するため、使用者に「取得させる義務」を直接課したものです。

制度の目的と背景

法改正前は、有給休暇は「労働者の請求権」でした。つまり労働者が請求しなければ使用者は付与義務を果たしていました。しかし実務では、職場の空気や上司への遠慮から請求できない労働者が多く、有給取得率は50%前後で推移していました。この状況を是正し、政府目標の取得率70%を達成するため、使用者に取得させる義務を課したのが今回の改正です。

📢 ポイント整理

従来は「労働者の請求があれば付与する義務」でしたが、2019年4月以降は「年10日以上付与される労働者には、使用者が主導して年5日取得させる義務」に変わりました。企業規模にかかわらず、全事業者が対象です。

対象となる労働者の判定基準

年5日取得義務の対象となるのは、基準日時点で年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者です。雇用形態を問わず、正社員・管理監督者・有期契約・パートアルバイト・派遣社員を含みます。厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得」で詳細が公表されています。

雇用区分 対象となる典型条件 義務発生
正社員(フルタイム)入社6か月経過で10日付与基準日から1年以内に5日
管理監督者労基法41条該当でも付与同上(除外されない)
週4日パート継続勤務3年6か月以上で10日10日付与時点から
週3日パート継続勤務5年6か月以上で10日10日付与時点から
週2日以下パート10日付与に達しない対象外
有期契約・派遣社員条件を満たせば10日付与10日付与時点から

💡 実務のポイント

管理監督者が取得義務の対象外という誤解が実務でよくあります。労働時間規制は適用除外でも、有給休暇の規定(労基法39条)は適用されます。飲食業の店長クラス・IT企業のマネージャー層で見落としが発生しやすく、労基署調査で指摘されるケースが多い領域です。

年5日の計算ルール|基準日・繰越・時効の実務

基準日の考え方

「基準日」とは、年10日以上の有給休暇が付与された日を指します。全社一斉の基準日を設定している会社では、全員が同じ日を基準日として扱えますが、入社日ベースで管理している会社では、従業員ごとに基準日が異なります。

例えば2026年4月1日入社の新卒社員は、6か月経過後の2026年10月1日が初回の基準日です。この日から1年以内(2027年9月30日まで)に5日以上取得させる必要があります。次の基準日は2027年10月1日で、ここから翌2028年9月30日までに5日取得が新たな義務となります。

前年度繰越分との関係

有給休暇は2年で時効消滅しますが、1年で使い切れない分は翌年に繰り越されます。年5日取得義務のカウントでは、当年度付与分であっても前年度繰越分であっても、基準日から1年以内に取得された5日であれば義務を果たしたことになります。

🧮 具体例:基準日と5日カウント

2026年10月1日に新卒社員に10日付与。2026年11月〜2027年3月に3日取得。2027年4月〜9月に2日取得(前年度繰越分7日の中から使用)。この場合、基準日2026年10月1日から1年以内に5日取得しており、年5日義務を履行したことになります。取得した有給が「当年度付与分」か「前年度繰越分」かは問いません。

使用者による時季指定の手続きと就業規則への記載

使用者の時季指定権とは

年5日に満たない労働者がいる場合、使用者は「いつ有給休暇を取るか」を指定して取得させることができます。これが使用者による時季指定です。従来からある「労働者による時季指定(自発的請求)」と区別されます。

就業規則への記載義務

使用者が時季指定する場合、就業規則に「対象労働者の範囲」と「時季指定の方法」を記載しなければなりません。記載を怠った状態で時季指定すると、就業規則不備として30万円以下の罰金(労基法89条・120条)が科される可能性があります。

具体的な規定例としては「使用者は、年次有給休暇の日数のうち5日について、基準日から1年以内の期間に、労働者の意見を聴取した上、その意見を尊重し、取得時季を指定して取得させる」といった条文を設けます。

⚠️ 注意:就業規則の記載漏れ

「年5日取得義務は法律に書いてあるから就業規則に書かなくていい」と考える経営者がいますが、使用者が時季指定する権限は就業規則に明記して初めて発生します。古い就業規則のままの企業は、2019年施行前の条文になっている可能性が高いため、早急な改訂が必要です。

労働者の意見聴取と尊重

使用者が時季指定する際は、事前に労働者の意見を聴取し、その意見を尊重して決定する必要があります。「何日を希望するか」を書面・口頭・電子ツールで確認し、可能な限り希望に沿って指定します。一方的な指定は、労使トラブルの原因になります。

年次有給休暇管理簿の作成・保存義務

管理簿の3つの必須記載事項

労働基準法施行規則第24条の7により、使用者は労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する義務を負います。記載必須事項は3つです。

  1. 取得時季:実際に有給休暇を取得した年月日
  2. 取得日数:1日単位・半日単位・時間単位の別と日数
  3. 基準日:年10日以上が付与された日

管理簿の保存期間と媒体

保存期間は3年間です。賃金台帳や労働者名簿と一体で管理することも可能ですが、上記3項目が一覧できる形式であれば、紙でもExcelでも勤怠管理システムでも問題ありません。労基署調査時には提示を求められますので、いつでも印刷・出力できる状態にしておくことが重要です。

💡 実務のポイント

弊所が顧問先の労務監査を行う際、最も管理簿の不備が多いのは従業員20〜50人規模の成長企業です。勤怠ソフトは導入しているが「年次有給休暇管理簿」として必要3項目を抽出する機能を使っていないケース。労基署調査が来た時に管理簿を提出できず、それだけで「労務管理が杜撰」と評価されるため、今すぐ確認することを強く推奨します。

計画的付与制度|労使協定による5日以下の計画年休

計画的付与制度とは

計画的付与制度は、労使協定を締結することで、年次有給休暇のうち5日を超える部分について、あらかじめ取得日を計画的に定められる制度です(労基法39条6項)。例えば20日付与されている労働者なら、15日までを計画的付与の対象にできます(5日分は本人の自由時季のため残す)。

3つの運用パターン

パターン 具体例 向く業種
全社一斉お盆期間・年末年始前後製造業・事務系
グループ別交替部署A休・部署B稼働サービス業
個人別誕生日休暇・記念日休暇業種問わず

計画的付与で年5日義務をクリアする方法

計画的付与で年5日以上を取得させるよう設計すれば、個別の時季指定を省略できます。例えば夏季休暇3日・年末年始2日を計画的付与に設定すれば、その時点で全員が年5日の取得義務を達成します。労務管理の手間を大幅に削減できる手法です。厚生労働省「年次有給休暇の時季指定」リーフレットにモデル書式が掲載されています。

🧮 シミュレーション:計画的付与 vs 個別時季指定

従業員50人の会社の年5日義務管理コストを試算すると、個別時季指定の場合は各従業員ごとに取得状況を月次モニタリング+不足者への書面指定で、年間労務管理コスト約40時間(時給3,000円換算で12万円)。一方、計画的付与制度を導入すれば、導入初年度の労使協定締結+就業規則改定で約20時間(6万円)、翌年度以降は年間数時間で済みます。50人以上の企業では計画的付与のコスト優位が顕著です。

違反時の罰則と労基署調査での指摘事例

3つの罰則パターン

年5日取得義務違反は、以下の3パターンで罰則対象になります。

違反類型 根拠条文 罰則
年5日取得させていない労基法39条7項・120条労働者1人につき30万円以下の罰金
時季指定の記載を就業規則に欠く労基法89条・120条30万円以下の罰金
労働者の請求に時季変更権乱用労基法39条・119条6か月以下の懲役または30万円以下の罰金

罰金リスクの規模感

労働者1人につき30万円という点が実務で重要です。対象者が100人の会社で全員5日未満だと、理論上は最大3,000万円の罰金リスクとなります。実際には検察送致される前に労基署から是正勧告が出されるため、勧告に従えば罰金までいかない運用が一般的ですが、改善が見られない悪質ケースでは実際に送致・罰金命令が下った事例も報告されています。

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取得状況の把握と不足者への対応プロセス

実務で推奨する月次モニタリング

年5日取得義務を確実に履行するには、基準日から6か月経過時点での進捗確認が決定的に重要です。弊所では顧問先に対し、以下のタイムラインでのチェックを推奨しています。

  1. 基準日から3か月:取得ゼロの労働者をリストアップ、面談して希望聴取
  2. 基準日から6か月:取得2日未満の労働者に、残り6か月での取得計画を立案
  3. 基準日から9か月:取得4日未満の労働者に、使用者による時季指定を書面で通知
  4. 基準日から11か月:最終確認と駆け込み取得の調整

時季指定の書面例

📄 使用者による時季指定通知書(例)

貴殿の本年度の年次有給休暇取得状況は○日であり、労働基準法第39条第7項に基づく年5日取得義務の履行のため、就業規則第○条により、下記の日を年次有給休暇として指定します。なお、指定日の変更を希望される場合は、代替日をご相談ください。
■指定日:2027年◯月◯日、○月○日、○月○日(計3日)

半日単位・時間単位有給休暇の取扱い

半日有給は0.5日でカウント

労使協定または就業規則の定めがあれば、半日単位で有給休暇を取得させることができます。年5日義務のカウントでも、半日取得は0.5日として合算できます。例えば午前半休×10回=5日取得で、義務履行となります。

時間単位有給は年5日義務に算入不可

時間単位有給(労基法39条4項、上限5日分まで)は、年5日取得義務のカウントには算入できません。これは年5日義務が「日単位で休むこと」を目的としているためで、時間単位の細切れ取得では制度趣旨を満たさないと解釈されています。e-Gov 労働基準法第39条で条文を確認できます。

⚠️ よくある勘違い

「時間単位有給を年40時間取得したから5日達成」は誤りです。時間単位有給分は別カウントで、年5日義務には1日単位と半日単位の合計が5日必要です。時間単位を多用しているIT業界・士業事務所で見落としが頻発するため注意してください。

時季変更権との関係|使用者の時季変更権は別制度

時季変更権とは

時季変更権は、労働者が請求した有給休暇日を使用者が別日に変更する権利です(労基法39条5項)。これは「事業の正常な運営が妨げられる場合」に限って認められます。年5日取得義務における使用者の時季指定とは、まったく別の制度です。

時季変更権を行使できる具体的ケース

裁判例(時事通信社事件・最判平4.6.23等)では、時季変更権が認められるには「当該労働者の請求時季に年休を取得させることが事業の正常な運営を妨げる」ことが客観的に必要とされます。単なる「忙しい」「代替要員がいない」では不十分で、代替要員確保の努力を尽くしたが確保できなかった場合に限って有効とされます。

制度 性質 発動主体
労働者の時季指定権労働者の請求権労働者
使用者の時季変更権使用者の変更権(例外的)使用者
使用者の時季指定(5日義務)使用者の指定義務使用者

業種別の運用課題と対応策

業種別の取得率の実態

厚生労働省「就労条件総合調査」によれば、業種別の有給休暇取得率には大きな差があります。製造業・金融業は高水準(60〜70%)ですが、宿泊業・飲食サービス業は40%台と低く、年5日義務の達成も容易ではない実態があります。

業種別の実務課題と対応

業種 課題 推奨対応
飲食・小売人手不足で休めないグループ別計画的付与+シフト調整
建設業工期優先で休めない週休2日工事と連動した計画的付与
運輸業ドライバー不足曜日別計画的付与+代替要員確保
医療・介護シフト調整が複雑個人別誕生日休暇+年2日の一斉付与
IT・士業繁忙期集中・納期プレッシャーお盆・年末年始の一斉付与で5日確保

助成金・支援制度の活用

働き方改革推進支援助成金

厚生労働省の「働き方改革推進支援助成金」には、年休取得促進に取り組む中小企業向けのコースがあります。勤怠管理システム導入・就業規則改定・研修費用などに最大150万円程度の助成が受けられる場合があります。申請期限・要件は年度ごとに変わるため、最新情報は社労士に確認することを推奨します。

都道府県・労働局の無料相談

各都道府県労働局では、年休取得促進の無料相談窓口を設けています。社労士への顧問契約前の初期段階で情報収集したい場合は、労働局の無料相談を活用することも有効です。

💡 実務のポイント

弊所が顧問先で実際に見た改善事例では、年間取得日数4.2日だったサービス業の従業員30人規模の会社で、計画的付与制度(夏3日・年末2日)を導入したところ、初年度から全員が5日以上取得を達成しました。同時に「働き方改革推進支援助成金」で勤怠管理システム導入費用の一部を補填でき、労務管理の精度も上がるという一石二鳥の効果がありました。

よくある質問

入社直後でまだ年次有給休暇が付与されていない従業員も対象ですか?
いいえ、対象外です。年5日取得義務の対象は「年10日以上の有給休暇が付与された労働者」です。入社6か月未満で未付与の期間、または付与日数が10日未満の場合は対象になりません。ただし、6か月経過で10日付与された基準日以降は、翌基準日までの1年以内に5日取得させる義務が発生します。
退職予定者にも年5日取得義務は適用されますか?
基準日から1年以内に退職する場合、退職日までの期間に応じて按分ではなく、基準日時点で取得義務が発生しています。ただし、退職直前に5日まとめて請求されるケースでは、事業の正常な運営に影響しないかぎり承認せざるを得ません。計画的付与で早い段階から取得させておくことがリスク回避になります。
産休・育休中の従業員はどう扱いますか?
育児休業・産前産後休業中は労務の提供義務がないため、年5日取得義務は発生しません。基準日時点ですでに休業中であれば義務対象外です。ただし、基準日後に休業に入った場合は、休業前までに取得済みの日数で判断されるため、復職後まで含めて1年以内に5日達成しているかを確認します。休業期間が長引けば事実上達成困難なケースも生じますが、その場合は労基署に事情を説明できるよう記録を残しておくべきです。
夏季休暇・年末年始休暇を「有給の計画的付与」として就業規則に書けますか?
書けますが条件があります。現在その期間が「会社の公休日」として扱われている場合、それを有給休暇の計画的付与に変更するのは不利益変更に該当するため、労働者への十分な説明と労使協定の締結が必要です。もともと有給扱いだった場合や、新規に休暇日を増やす形での設定なら比較的スムーズに導入できます。
年休取得率の低い従業員を人事評価で不利益に扱ってもいいですか?
逆の扱いが禁止されています。労基法136条により、年次有給休暇を取得したことを理由に賃金減額その他不利益な取扱いをしてはいけません。取得率が高いことを理由に評価を下げる、昇給・賞与で差をつけるといった行為は違法です。年5日取得義務は使用者側の義務であり、取得する労働者を非難する根拠にはなりません。
就業規則の見直しは自社でできますか?
条文の追記自体は可能ですが、時季指定権の発動条件・計画的付与の協定書雛形・関連する休暇制度との整合性など、実務対応で多くの留意点があります。就業規則の改訂は労働基準監督署への届出も必要であり、不備があれば再提出を求められます。社労士のサポートを受けるのが確実です。就業規則全般のルールは「就業規則作成完全ガイド」でも詳しく解説しています。
パート・アルバイトの有給付与日数はどう計算しますか?
週所定労働日数と継続勤務年数に応じた比例付与が適用されます。週4日勤務なら3年6か月継続で10日に達し、年5日義務の対象となります。付与日数の詳細ルールは「有給休暇の付与日数と比例付与」で解説しています。

📋 この記事のポイント

  • 年5日取得義務は年10日以上付与される労働者が対象。管理監督者・パートも付与日数10日以上なら対象
  • 違反は労働者1人につき30万円以下の罰金。就業規則への時季指定規定の記載漏れも別罰則対象
  • 年次有給休暇管理簿の作成・3年保存が必須。労基署調査で必ず確認される
  • 計画的付与制度(夏季・年末年始)を活用すれば、労務管理コストを大幅に削減できる
  • 時間単位有給は年5日義務に算入不可。半日単位は0.5日カウントが可能

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