【社労士が解説】裁量労働制(専門業務型・企画業務型)の導入要件と実務上の注意点

【社労士が解説】裁量労働制(専門業務型・企画業務型)の導入要件と実務上の注意点
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

裁量労働制(専門業務型・企画業務型)の導入要件と実務上の注意点

「裁量労働制を導入したいが2024年改正で何が変わったか」という経営者・人事担当者に向けて、20業務リスト・本人同意要件・健康福祉確保措置を完全ガイドします。この記事を読めば、適法要件を満たした導入・継続ができるようになります。

🏆 結論:2024年4月改正で本人同意と健康福祉確保措置が必須化。既存導入企業も労使協定の再締結が必要

裁量労働制は、業務遂行方法を労働者の裁量に委ね、みなし労働時間で賃金を計算する制度です。専門業務型(労基法38条の3)は20業務限定、企画業務型(38条の4)は企業の中枢業務限定。2024年4月施行の改正により、①本人同意の取得、②健康福祉確保措置の強化、③労使協定・決議の記載事項追加が必須化されました。既存導入企業も再届出が必要となり、対応を怠ると制度自体が無効化し、実労働時間ベースの残業代遡及請求リスクが生じます。

裁量労働制とは|労働時間を「みなす」制度

裁量労働制は、業務の性質上、業務遂行の手段・方法・時間配分を使用者が具体的に指示することが困難な業務について、実際の労働時間にかかわらず、労使協定で定めた時間を労働したものと「みなす」制度です。労働基準法第38条の3(専門業務型)と第38条の4(企画業務型)で規定されています。

裁量労働制の特徴

裁量労働制でも残業代はゼロにならない

⚠️ よくある誤解

「裁量労働制なら残業代を払わなくていい」という誤解が根強くあります。実際には、みなし労働時間が8時間を超える場合はその超過分の割増賃金が発生し、深夜(22時〜5時)や法定休日の労働には別途25%・35%の割増賃金が発生します。残業代の完全免除ではなく、「みなし時間でまとめて支払う仕組み」と理解すべきです。

2024年4月改正の3つのポイント

改正ポイント1:本人同意の取得が必須

従来、本人同意が必要だったのは企画業務型のみでしたが、2024年4月以降は専門業務型でも本人同意の取得が必須となりました。労使協定に「対象労働者の同意を得なければならない」「同意しなかった労働者に不利益な取扱いをしない」旨を定める必要があります。

改正ポイント2:同意の撤回手続き

労働者が一度同意した後でも、その同意を撤回する手続きを労使協定等に定める必要があります。撤回した場合、裁量労働制の適用は終了し、実労働時間ベースでの管理に戻ります。

改正ポイント3:健康福祉確保措置の強化

従来は企画業務型のみに求められていた健康福祉確保措置が、専門業務型にも同等の対応が望ましいとされました。厚生労働省「専門業務型裁量労働制の解説(2024/3)」に詳細が記載されています。

カテゴリ 実施が望まれる措置(各1つ以上)
長時間労働抑制(全員対象)①勤務間インターバル
②深夜業回数の制限
③一定時間超過時の適用解除
④連続年休取得
勤務状況・健康改善(個別対応)①医師の面接指導
②代償休日または特別休暇
③健康診断の実施
④カウンセリング等の提供

📢 2024年4月改正(既存導入企業も対応必須)

改正施行前から専門業務型裁量労働制を導入していた企業も、2024年4月以降、新しい要件を満たした労使協定を締結し直し、労基署に再度届出を行う必要があります。再届出を怠ったまま運用を続けていると、制度自体が無効と判断され、実労働時間ベースで残業代の遡及請求リスクが発生します。

専門業務型裁量労働制の対象20業務

専門業務型裁量労働制は、労働基準法施行規則第24条の2の2および告示により、以下の20業務に限定されています。これ以外の業務には適用できません。

20業務の一覧

労働基準法施行規則第24条の2の2と関連告示により、以下の20業務が対象です。

分類 対象業務
研究・開発系①新商品・新技術の研究開発/②人文科学・自然科学に関する研究
IT・設計系③情報処理システムの分析・設計/④ソフトウェア開発に該当するシステムコンサルタント
マスコミ・デザイン系⑤取材・編集(新聞・出版・放送)/⑥衣服等のデザイン/⑦放送番組等のプロデューサー/⑧コピーライター/⑨放送番組等のディレクター
士業系⑩公認会計士/⑪弁護士/⑫建築士/⑬不動産鑑定士/⑭弁理士/⑮税理士/⑯中小企業診断士
その他⑰ゲーム用ソフトウェアの創作/⑱証券アナリスト/⑲金融工学等を用いた金融商品開発/⑳M&Aアドバイザー(2024年追加)

2024年4月に追加された「M&Aアドバイザー」

2024年4月改正で、銀行・証券会社等の金融機関におけるM&Aアドバイザリー業務が対象業務に追加されました。高度専門職として業務遂行の裁量性が高いことが評価されたものです。

対象業務の判定で注意すべき点

「研究開発」「ソフトウェア開発」など抽象的な業務名だけでは適用できません。実態が以下を満たす必要があります。

AYUSAWA PARTNERS

裁量労働制の導入・再届出は鮎澤パートナーズへ

2024年改正対応の労使協定作成、健康福祉確保措置の設計、労基署届出まで社労士がワンストップで対応します。初回相談無料。

鮎澤パートナーズに相談する

企画業務型裁量労働制の適用要件

適用できる事業場と業務

企画業務型裁量労働制は労基法38条の4に規定され、以下の全要件を満たす業務に適用できます。

  1. 事業の運営に関する事項についての業務であること(企業の中枢業務)
  2. 企画・立案・調査・分析の業務であること
  3. 業務遂行の手段・時間配分の決定等を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務であること
  4. 業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる旨の使用者の具体的指示を受けて行われる業務であること

適用できる事業場

以下のいずれかに該当する事業場が対象です。

支店・工場・店舗など、本社決定事項を遂行するのみの事業場では導入できません。

労使委員会の設置が必要

企画業務型は専門業務型と違い、労使委員会の設置と5分の4以上の多数決が必要です。単なる労使協定では導入できません。労使委員会は以下の要件を満たす必要があります。

専門業務型と企画業務型の比較

項目 専門業務型 企画業務型
根拠条文労基法38条の3労基法38条の4
対象業務法定20業務のみ企画・立案・調査・分析業務
対象事業場制限なし本社・支社等の中枢事業場
導入手続き労使協定+労基署届出労使委員会の5/4決議+労基署届出
本人同意必要(2024年〜)必要(従前から)
報告義務定期報告なし6か月以内ごとに定期報告

労使協定・労使委員会決議の記載事項(2024年改正版)

専門業務型の労使協定に必要な記載事項

  1. 対象業務(20業務のうちどれか)
  2. みなし労働時間
  3. 対象業務遂行の手段・時間配分決定について具体的指示をしない旨
  4. 対象労働者の同意を得る旨(2024年改正)
  5. 同意しなかった労働者への不利益取扱い禁止(2024年改正)
  6. 同意の撤回に関する手続き(2024年改正)
  7. 苦情処理措置
  8. 健康福祉確保措置(2024年改正で内容強化)
  9. 協定の有効期間
  10. 労働者ごとの労働時間・健康福祉措置・同意等の記録の保存(3年)

企画業務型の労使委員会決議に必要な記載事項

専門業務型の記載事項に加え、以下が必要です。

みなし労働時間の設定と割増賃金

みなし時間の設定方法

みなし労働時間は、労使協定等で具体的な時間数として定めます。業務の性質と実態を踏まえて設定しますが、実労働時間から著しく乖離していると、裁量労働制そのものが無効と判断されるリスクがあります。

みなし時間別の割増賃金

🧮 具体例:みなし労働時間9時間の場合の賃金計算

基本給25万円、月所定労働時間160時間(1日8時間×20日)のケースでみなし9時間設定。
■時給換算:250,000円 ÷ 160時間 = 1,562.5円
■日額(みなし9時間):1,562.5円 × 8時間 + 1,562.5円 × 1.25 × 1時間 = 14,453円
■月額(20日):14,453円 × 20日 = 289,060円
毎月の基本給とは別に、20日×1時間×1.25 = 25時間分の時間外割増相当額が発生します。固定残業代として織り込むのが実務です。

深夜・休日労働は別計算

みなし労働時間は平日の所定労働時間の「みなし」であり、深夜(22時〜5時)と法定休日労働は別途割増賃金が発生します。深夜労働の自己申告漏れを防ぐため、勤怠管理システムで労働時間の状況を把握することが必要です。

裁量労働制の導入5ステップ

ステップ1: 対象業務の適用可能性判定

専門業務型なら20業務のいずれに該当するか、企画業務型なら企業中枢業務に該当するかを判定します。ここでの判定ミスが最も多い失敗ポイントです。

ステップ2: 就業規則・個別労働契約への根拠規定整備

裁量労働制を適用するには、就業規則や個別労働契約に根拠規定を設ける必要があります。労使協定・決議だけでは不十分です。

ステップ3: 労使協定の締結または労使委員会の決議

専門業務型は労使協定、企画業務型は労使委員会の5分の4以上の決議が必要です。2024年改正の本人同意・健康福祉確保措置を必ず含めます。

ステップ4: 労基署への届出

専門業務型・企画業務型ともに労基署への届出が必須です。企画業務型は決議後6か月以内ごとに定期報告も必要です。

ステップ5: 対象労働者から本人同意の取得

書面で本人同意を取得し、記録を3年間保存します。同意しない労働者への不利益取扱いは禁止されています。

実労働時間把握義務と実務対応

みなしでも実労働時間把握は必要

2019年の労働安全衛生法改正により、裁量労働制の適用労働者も実労働時間の把握が事業者の義務となりました。タイムカード・パソコンログ等の客観的記録で把握する必要があります。

みなしと実態の乖離への対応

実労働時間が慢性的にみなし時間を大きく超えている場合、制度自体の見直しまたはみなし時間の引き上げを検討します。放置すると健康障害リスクが高まるだけでなく、制度無効と判断されるリスクも生じます。

💡 実務のポイント

弊所の顧問先で2024年4月改正対応のために裁量労働制の見直しを行ったケースでは、既存の労使協定10社中8社で「本人同意」「同意撤回手続き」の記載漏れがありました。改正対応として新たに労使協定を締結し直し、対象労働者80名から個別同意書を取得、労基署への再届出を完了しました。未対応のまま続けていた場合、制度無効で遡及残業代が発生していた可能性があります。

よくある質問

裁量労働制を導入したら36協定は不要ですか?
36協定は必要です。みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超える場合や、深夜・休日労働を命じる可能性がある場合は、36協定の締結と届出が必要です。36協定の詳細は「36協定の届出と上限規制」で解説しています。
新卒社員にも裁量労働制を適用できますか?
法律上は適用可能ですが、実務ではおすすめしません。業務遂行の裁量性は経験とスキルを前提とするため、新卒社員への適用は「裁量がない」と判断されるリスクが高く、制度無効の可能性があります。一般には入社3〜5年以上の経験者への適用が適切です。
みなし労働時間は1日何時間まで設定できますか?
上限規定はありませんが、36協定の上限(原則月45時間・年360時間の時間外)と健康確保の観点から、実務では1日9〜10時間程度に設定することが多いです。10時間を大きく超える設定は健康障害リスクがあり、裁量労働制の趣旨からも望ましくありません。
労働者が同意を撤回した場合、どう対応しますか?
撤回の意思表示を受けた日以降、その労働者は裁量労働制の適用対象外となり、実労働時間管理に戻ります。撤回を理由に人事上の不利益取扱いをすることは禁止されています。撤回手続き(書面提出等)は労使協定で定めた方法に従います。
企画業務型で「6か月以内ごとの定期報告」を怠るとどうなりますか?
労基法違反として罰則(30万円以下の罰金)が科される可能性があります。また、報告義務の不履行自体が制度運用の不備として、制度無効の根拠にもなります。定期報告は決議日から6か月以内ごとに労基署へ提出し、期限管理を徹底する必要があります。
管理監督者と裁量労働制の違いは?
管理監督者(労基法41条)は時間外労働・休日労働規制の適用除外ですが、深夜労働割増は発生します。裁量労働制はみなし労働時間で時間管理を簡素化する仕組みで、時間外労働規制自体の適用はあります。管理監督者該当性は経営者と一体的な立場・権限・処遇で厳格判断されるため、一般的な管理職は裁量労働制のほうが適している場合が多いです。
裁量労働制の労働者にも有給休暇は付与されますか?
付与されます。裁量労働制は労働時間の計算方法の特例であり、有給休暇付与要件とは独立しています。付与日数は通常の労働者と同じルールが適用されます。付与日数の詳細は「有給休暇の付与日数と比例付与」で解説しています。

📋 この記事のポイント

  • 2024年4月改正で本人同意・健康福祉確保措置が専門業務型にも必須化
  • 既存導入企業も新しい労使協定の締結と労基署への再届出が必要
  • 専門業務型は20業務限定。M&Aアドバイザーが2024年4月追加
  • 企画業務型は本社等の中枢事業場のみ。労使委員会の5/4決議が必要
  • みなし時間と実労働時間の乖離が大きいと制度無効リスク

AYUSAWA PARTNERS

裁量労働制の導入・2024年改正対応は鮎澤パートナーズへ

対象業務の適用判定、新しい労使協定の作成、本人同意書の整備、労基署届出まで、社労士がワンストップで対応します。初回相談無料。

鮎澤パートナーズに相談する