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「8時間超えたら残業代」は半分正解で半分誤りです。法定労働時間と所定労働時間を正しく区別できないと、過払いか未払残業代かのどちらかが発生します。残業代計算のもっとも基本の基本を、具体例で整理します。


「8時間超えたら残業代」は半分正解で半分誤りです。法定労働時間と所定労働時間を正しく区別できないと、過払いか未払残業代かのどちらかが発生します。残業代計算のもっとも基本の基本を、具体例で整理します。
🏆 結論:割増賃金の対象は「法定労働時間を超えた分」のみ
法定労働時間は労働基準法第32条により「1日8時間・週40時間」と定められた上限で、これを超える労働には25%以上の割増賃金が必要です。所定労働時間は会社が就業規則で独自に定めた労働時間(例:7時間)で、法定労働時間より短く設定するのが一般的です。所定を超え法定内に収まる残業(法定内残業)は法律上の割増義務はなく、会社規定で1.0倍〜1.25倍で支払えば足ります。
法定労働時間とは、労働基準法第32条により定められた労働時間の上限です。使用者は、労働者に法定労働時間を超えて労働させてはなりません。
| 単位 | 上限 | 超過への対応 |
|---|---|---|
| 1日 | 8時間(休憩時間除く) | 36協定+25%以上の割増賃金 |
| 1週間 | 40時間 | 36協定+25%以上の割増賃金 |
常時10人未満の労働者を使用する商業・映画演劇業・保健衛生業・接客娯楽業については、特例措置として週44時間が認められています(労基則第25条の2)。ただし、1日8時間の上限は同じです。
💡 休憩時間の扱い
法定労働時間の8時間は「休憩時間を除いた実労働時間」です。9:00〜18:00の拘束時間9時間であっても、12:00〜13:00の休憩1時間を除けば実労働8時間となり、法定労働時間内です。休憩時間の取り扱いを誤ると、労働時間計算が根本から狂います。
所定労働時間とは、各会社が就業規則・労働契約で独自に定めた労働時間です。法定労働時間を超えない範囲で自由に設定できます。
所定労働時間を法定労働時間より短く設定している会社では、所定を超え法定内に収まる残業(=法定内残業)が発生します。この残業は、法律上の割増義務がないため、会社規定によって扱いが異なります。
所定労働時間を法定労働時間より長く設定することはできません。例えば「所定労働時間9時間」と就業規則に書いても、8時間超過分は法定労働時間違反となり、当該部分は無効です(労契法第12条)。
所定労働時間を超える残業には、法定内残業と法定外残業の2種類があります。この区別ができないと、残業代計算を間違えます。
| 区分 | 定義 | 割増賃金 | 36協定 |
|---|---|---|---|
| 法定内残業 | 所定超・法定内(例:所定7時間→8時間) | 不要(会社規定次第) | 不要 |
| 法定外残業(時間外労働) | 法定超(例:8時間超) | 25%以上必須 | 必須 |
所定9:00〜17:00(休憩1時間・実労働7時間)の会社で、従業員が19:00まで勤務した場合を考えます。
| 時間帯 | 区分 | 賃金(時給1,500円想定) |
|---|---|---|
| 9:00〜12:00 | 所定内労働(3時間) | 1,500円×3=4,500円 |
| 12:00〜13:00 | 休憩 | なし |
| 13:00〜17:00 | 所定内労働(4時間) | 1,500円×4=6,000円 |
| 17:00〜18:00 | 法定内残業(1時間) | 1,500円×1=1,500円(割増なし) |
| 18:00〜19:00 | 法定外残業(1時間) | 1,500円×1×1.25=1,875円 |
| 合計 | 実労働9時間 | 13,875円 |
17:00〜18:00は所定労働時間を超えていますが、法定労働時間(8時間)の範囲内のため、割増率は1.0倍(通常賃金)で支払えば足ります。18:00以降が法定外残業となり、25%増しが必要です。
⚠️ 実務でよくある誤解
「定時(17:00)を超えたら全部25%増し」とまとめて計算している会社が多いですが、これは誤りです。17:00〜18:00は法定内残業のため1.0倍で足ります。逆に、会社によっては「所定超過分から1.25倍で支払う」と就業規則で定めている場合もあり、この場合は会社規定が優先します。
時間外労働・深夜労働・休日労働のそれぞれに割増率が定められています。複数の要件が重なる場合は割増率が加算されます。
| 区分 | 割増率 | 根拠 |
|---|---|---|
| 時間外労働(法定外残業) | 25%以上 | 労基法第37条第1項 |
| 月60時間超の時間外労働 | 50%以上 | 労基法第37条第1項ただし書(2023年4月中小企業適用) |
| 深夜労働(22:00〜5:00) | 25%以上 | 労基法第37条第4項 |
| 法定休日労働 | 35%以上 | 労基法第37条第1項 |
複数の要件が同時に発生する場合、割増率が加算されます。具体的なパターンは次のとおりです。
| パターン | 割増率 |
|---|---|
| 時間外労働+深夜労働 | 50%以上(25%+25%) |
| 月60時間超時間外+深夜 | 75%以上(50%+25%) |
| 法定休日労働+深夜労働 | 60%以上(35%+25%) |
| 法定休日の時間外労働 | 35%以上(時間外との加算なし) |
💡 月60時間超の割増率
月60時間超の時間外労働に対する50%割増は、大企業では2010年から、中小企業でも2023年4月から適用されています。月60時間を超えた部分のみ50%割増であり、60時間までは25%割増です。代替休暇制度(割増率を50%ではなく25%にして、超過部分に代わる有給休暇を付与)を労使協定で設定することも可能です。
月給制の場合、1時間あたりの賃金は次の式で算出します。
1時間あたりの賃金=月給 ÷ 月平均所定労働時間
月平均所定労働時間は、年間所定労働日数×1日の所定労働時間÷12ヶ月で計算します。年間休日120日・1日8時間の会社なら、(365-120)×8÷12 = 163.3時間が月平均所定労働時間です。
割増賃金計算の基礎となる賃金からは、次の手当を除外できます(労基法第37条第5項、労基則第21条)。
総労働時間を、所定内/法定内残業/法定外残業/深夜/法定休日に区分します。タイムカード・勤怠システムの記録を基に、分単位で区分します。
区分ごとの時間数に、該当する割増率を掛けて支払額を算出します。
すべての区分の支払額を合算し、その月の残業代として支給します。
どこからが労働時間か、どこまでが労働時間でないかの判断も実務で重要です。最高裁は「使用者の指揮命令下にある時間」を労働時間と定義しています(最高裁「三菱重工長崎造船所事件」平成12年3月9日)。
⚠️ 業務と関連する移動時間
出張中の移動時間、現場から現場への移動時間は、業務上の指揮命令がある場合は労働時間に含まれます。「移動中に業務の電話・メール対応を命じている」場合も労働時間と判断されます。営業職・外回り社員の残業計算で誤りが多い領域です。
通常の労働時間管理(1日8時間・週40時間)以外に、業務実態に合わせた労働時間制度が用意されています。
1ヶ月・1年などの期間で平均して週40時間以内に収まれば、特定の日・週に8時間・40時間を超えてもよい制度です。繁閑の差がある業種(小売・観光・製造など)で活用されます。
労働者自身が始業・終業時刻を決定できる制度です。清算期間(最長3ヶ月)全体で法定労働時間を超える場合に時間外労働が発生します。
業務遂行の裁量を労働者に委ね、実労働時間ではなくみなし時間で評価する制度です。専門業務型(研究者・記者・弁護士等)と企画業務型があります。
営業職など事業場外で業務を行い労働時間の算定が困難な場合に、所定労働時間または労使協定で定めた時間をみなし時間とする制度です。
賃金請求権の時効は、2020年4月の労基法改正により2年から3年に延長されました(将来的には5年への再延長が予定されています)。3年分を遡って請求されると、従業員1人あたり数百万円、会社全体で数千万円〜億単位の支払になるケースがあります。
未払残業代を裁判で争った場合、労働者は労基法第114条により、同額の付加金の支払いも請求できます。つまり、未払残業代300万円の事案では、最大600万円の支払が命じられる可能性があります。
労働者の申告により労基署の監督が入ると、過去2年間(2026年時点で3年に延長済み)の未払残業代の遡及支払が命じられます。全従業員に対する遡及のため、総額は極めて大きくなります。
📋 この記事のポイント
法定労働時間と所定労働時間の違いは、残業代計算の最も基本的な土台です。両者を正確に区別できないと、法律上不要な割増賃金を支払って損失が出るか、逆に必要な割増賃金を払わず未払残業代リスクを抱えるかのどちらかになります。
特に、所定7時間の会社で「所定超=全部25%増し」と計算している会社は、法定内残業分で月数万円〜数十万円の過払が発生しているケースがあります。逆に「定時1時間前から業務指示を出している」のに労働時間としてカウントしていない会社は、未払残業代リスクを抱えています。勤怠システムの設定と就業規則・賃金規程の整合性を定期的に確認することが重要です。
労働時間の上限規制については「36協定の届出と特別条項」で詳しく解説しています。割増賃金の基礎となる就業規則の整備は「就業規則の作成義務と記載事項」を参照してください。
労働時間管理・残業代計算でお悩みの場合は、社会保険労務士・税理士・公認会計士・行政書士がワンストップで対応する鮎澤パートナーズまでご相談ください。給与計算の定期レビューから就業規則の整備まで、未払賃金リスクを予防するアプローチでサポートします。