【社労士が解説】法定労働時間と所定労働時間の違い|残業時間の正しいカウント方法

【社労士が解説】法定労働時間と所定労働時間の違い|残業時間の正しいカウント方法
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

「8時間超えたら残業代」は半分正解で半分誤りです。法定労働時間と所定労働時間を正しく区別できないと、過払いか未払残業代かのどちらかが発生します。残業代計算のもっとも基本の基本を、具体例で整理します。

🏆 結論:割増賃金の対象は「法定労働時間を超えた分」のみ

法定労働時間は労働基準法第32条により「1日8時間・週40時間」と定められた上限で、これを超える労働には25%以上の割増賃金が必要です。所定労働時間は会社が就業規則で独自に定めた労働時間(例:7時間)で、法定労働時間より短く設定するのが一般的です。所定を超え法定内に収まる残業(法定内残業)は法律上の割増義務はなく、会社規定で1.0倍〜1.25倍で支払えば足ります。

法定労働時間とは|労働基準法第32条の上限

法定労働時間とは、労働基準法第32条により定められた労働時間の上限です。使用者は、労働者に法定労働時間を超えて労働させてはなりません。

参考: e-Gov法令検索「労働基準法」第32条

法定労働時間の原則

単位 上限 超過への対応
1日8時間(休憩時間除く)36協定+25%以上の割増賃金
1週間40時間36協定+25%以上の割増賃金

例外:特例措置対象事業場

常時10人未満の労働者を使用する商業・映画演劇業・保健衛生業・接客娯楽業については、特例措置として週44時間が認められています(労基則第25条の2)。ただし、1日8時間の上限は同じです。

💡 休憩時間の扱い

法定労働時間の8時間は「休憩時間を除いた実労働時間」です。9:00〜18:00の拘束時間9時間であっても、12:00〜13:00の休憩1時間を除けば実労働8時間となり、法定労働時間内です。休憩時間の取り扱いを誤ると、労働時間計算が根本から狂います。

所定労働時間とは|会社が定める労働時間

所定労働時間とは、各会社が就業規則・労働契約で独自に定めた労働時間です。法定労働時間を超えない範囲で自由に設定できます。

所定労働時間の典型例

  • 9:00〜17:00(休憩1時間)=所定労働時間7時間
  • 9:00〜18:00(休憩1時間)=所定労働時間8時間
  • 10:00〜19:00(休憩1時間)=所定労働時間8時間
  • 8:30〜17:30(休憩1時間)=所定労働時間8時間

所定労働時間が法定より短い場合

所定労働時間を法定労働時間より短く設定している会社では、所定を超え法定内に収まる残業(=法定内残業)が発生します。この残業は、法律上の割増義務がないため、会社規定によって扱いが異なります。

所定労働時間が法定を超えた場合

所定労働時間を法定労働時間より長く設定することはできません。例えば「所定労働時間9時間」と就業規則に書いても、8時間超過分は法定労働時間違反となり、当該部分は無効です(労契法第12条)。

法定内残業と法定外残業の違い

所定労働時間を超える残業には、法定内残業と法定外残業の2種類があります。この区別ができないと、残業代計算を間違えます。

2種類の残業の対比

区分 定義 割増賃金 36協定
法定内残業所定超・法定内(例:所定7時間→8時間)不要(会社規定次第)不要
法定外残業(時間外労働)法定超(例:8時間超)25%以上必須必須

具体例:所定労働時間7時間の会社

所定9:00〜17:00(休憩1時間・実労働7時間)の会社で、従業員が19:00まで勤務した場合を考えます。

時間帯 区分 賃金(時給1,500円想定)
9:00〜12:00所定内労働(3時間)1,500円×3=4,500円
12:00〜13:00休憩なし
13:00〜17:00所定内労働(4時間)1,500円×4=6,000円
17:00〜18:00法定内残業(1時間)1,500円×1=1,500円(割増なし)
18:00〜19:00法定外残業(1時間)1,500円×1×1.25=1,875円
合計実労働9時間13,875円

17:00〜18:00は所定労働時間を超えていますが、法定労働時間(8時間)の範囲内のため、割増率は1.0倍(通常賃金)で支払えば足ります。18:00以降が法定外残業となり、25%増しが必要です。

⚠️ 実務でよくある誤解

「定時(17:00)を超えたら全部25%増し」とまとめて計算している会社が多いですが、これは誤りです。17:00〜18:00は法定内残業のため1.0倍で足ります。逆に、会社によっては「所定超過分から1.25倍で支払う」と就業規則で定めている場合もあり、この場合は会社規定が優先します。

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割増賃金率の全パターン

時間外労働・深夜労働・休日労働のそれぞれに割増率が定められています。複数の要件が重なる場合は割増率が加算されます。

参考: 厚生労働省「時間外労働の割増賃金率」

基本の割増率

区分 割増率 根拠
時間外労働(法定外残業)25%以上労基法第37条第1項
月60時間超の時間外労働50%以上労基法第37条第1項ただし書(2023年4月中小企業適用)
深夜労働(22:00〜5:00)25%以上労基法第37条第4項
法定休日労働35%以上労基法第37条第1項

割増率の加算(組み合わせ)

複数の要件が同時に発生する場合、割増率が加算されます。具体的なパターンは次のとおりです。

パターン 割増率
時間外労働+深夜労働50%以上(25%+25%)
月60時間超時間外+深夜75%以上(50%+25%)
法定休日労働+深夜労働60%以上(35%+25%)
法定休日の時間外労働35%以上(時間外との加算なし)

💡 月60時間超の割増率

月60時間超の時間外労働に対する50%割増は、大企業では2010年から、中小企業でも2023年4月から適用されています。月60時間を超えた部分のみ50%割増であり、60時間までは25%割増です。代替休暇制度(割増率を50%ではなく25%にして、超過部分に代わる有給休暇を付与)を労使協定で設定することも可能です。

割増賃金の計算方法【5ステップ】

ステップ1:1時間あたりの賃金を算出

月給制の場合、1時間あたりの賃金は次の式で算出します。

1時間あたりの賃金=月給 ÷ 月平均所定労働時間

月平均所定労働時間は、年間所定労働日数×1日の所定労働時間÷12ヶ月で計算します。年間休日120日・1日8時間の会社なら、(365-120)×8÷12 = 163.3時間が月平均所定労働時間です。

ステップ2:割増計算の対象から除外する手当を確認

割増賃金計算の基礎となる賃金からは、次の手当を除外できます(労基法第37条第5項、労基則第21条)。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金
  • 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)

ステップ3:割増対象時間を法定内・法定外に区分

総労働時間を、所定内/法定内残業/法定外残業/深夜/法定休日に区分します。タイムカード・勤怠システムの記録を基に、分単位で区分します。

ステップ4:各区分に割増率を適用

区分ごとの時間数に、該当する割増率を掛けて支払額を算出します。

ステップ5:支払額の合計

すべての区分の支払額を合算し、その月の残業代として支給します。

労働時間の「労働時間性」判断

どこからが労働時間か、どこまでが労働時間でないかの判断も実務で重要です。最高裁は「使用者の指揮命令下にある時間」を労働時間と定義しています(最高裁「三菱重工長崎造船所事件」平成12年3月9日)。

労働時間に含まれるもの

  • 実際の作業時間
  • 手待ち時間(作業指示を待つ時間)
  • 準備行為の時間(制服着替え・工具準備など業務上義務付けられたもの)
  • 業務に関連する研修・教育時間
  • 業務命令による待機時間
  • 朝礼・終礼の時間
  • 業務連絡のための社内移動時間

労働時間に含まれないもの

  • 通勤時間(自宅〜職場)
  • 休憩時間(労働義務がない時間)
  • 任意参加の懇親会・社員旅行
  • 自発的な残業・業務外の勉強

⚠️ 業務と関連する移動時間

出張中の移動時間、現場から現場への移動時間は、業務上の指揮命令がある場合は労働時間に含まれます。「移動中に業務の電話・メール対応を命じている」場合も労働時間と判断されます。営業職・外回り社員の残業計算で誤りが多い領域です。

労働時間制度の種類

通常の労働時間管理(1日8時間・週40時間)以外に、業務実態に合わせた労働時間制度が用意されています。

変形労働時間制

1ヶ月・1年などの期間で平均して週40時間以内に収まれば、特定の日・週に8時間・40時間を超えてもよい制度です。繁閑の差がある業種(小売・観光・製造など)で活用されます。

フレックスタイム制

労働者自身が始業・終業時刻を決定できる制度です。清算期間(最長3ヶ月)全体で法定労働時間を超える場合に時間外労働が発生します。

裁量労働制

業務遂行の裁量を労働者に委ね、実労働時間ではなくみなし時間で評価する制度です。専門業務型(研究者・記者・弁護士等)と企画業務型があります。

事業場外労働のみなし時間制

営業職など事業場外で業務を行い労働時間の算定が困難な場合に、所定労働時間または労使協定で定めた時間をみなし時間とする制度です。

未払残業代のリスク

時効と支払額

賃金請求権の時効は、2020年4月の労基法改正により2年から3年に延長されました(将来的には5年への再延長が予定されています)。3年分を遡って請求されると、従業員1人あたり数百万円、会社全体で数千万円〜億単位の支払になるケースがあります。

付加金のリスク

未払残業代を裁判で争った場合、労働者は労基法第114条により、同額の付加金の支払いも請求できます。つまり、未払残業代300万円の事案では、最大600万円の支払が命じられる可能性があります。

労基署の是正指導

労働者の申告により労基署の監督が入ると、過去2年間(2026年時点で3年に延長済み)の未払残業代の遡及支払が命じられます。全従業員に対する遡及のため、総額は極めて大きくなります。

よくある質問

所定労働時間が7時間の会社で、毎日1時間残業しても割増賃金は不要ですか
法律上の割増賃金支払義務は発生しません。所定7時間+1時間=8時間は法定労働時間の範囲内のため、法律上は通常賃金(1.0倍)で足ります。ただし、多くの会社では就業規則で「所定外労働には1.25倍を支払う」と独自に定めているため、会社規定に従って支払う必要があります。労働契約書と就業規則を確認してください。
週の労働時間が40時間を超えた場合、何曜日の残業が時間外労働ですか
週40時間超過分は、週の後半に発生した労働について時間外労働として扱います。例えば月〜金を8時間ずつ勤務(計40時間)し、土曜に3時間勤務した場合、土曜の3時間は週40時間超過分として時間外労働となります。1日8時間以内でも、週40時間を超えれば時間外労働になる点が実務の盲点です。
管理職は残業代が不要というのは本当ですか
労働基準法第41条第2号の「管理監督者」に該当する場合のみ、時間外労働と法定休日労働の割増賃金が不要です。ただし、深夜労働の割増賃金は管理監督者にも適用されます。また、管理監督者の判定は肩書きではなく実態判断で、経営方針への関与・出退勤の自由・賃金の優遇の3要件が必要です。「名ばかり管理職」では管理監督者と認められません。
残業代の計算単位は1分ですか、15分ですか
1分単位が原則です。労働時間は1分単位で把握・計算すべきとされています(昭和63年3月14日基発150号)。ただし、1ヶ月の残業時間合計において30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる端数処理は労働者の不利益にならない範囲で認められます。日々の1分単位カットはすべて未払賃金と判断されます。
固定残業代(みなし残業代)を導入している会社は追加の残業代は不要ですか
固定残業代の時間数を超えた場合は、超過分の残業代を追加で支払う必要があります。また、固定残業代が有効となるには、通常の賃金と固定残業代が明確に区分されていること、固定残業代がカバーする残業時間数が明示されていること、超過分を支払う旨の規定があることの3要件を満たす必要があります(最高裁「医療法人康心会事件」平成29年7月7日など)。
休憩時間中に電話番をさせると、それは労働時間になりますか
労働時間になります。電話番・来客対応など、使用者の指揮命令下にある時間は休憩時間ではなく労働時間です(手待ち時間)。「休憩時間」として記録していても、実態が手待ちであれば労働時間として残業代計算の対象になります。本当の休憩時間は、完全に労働義務から離れて自由に使える時間でなければなりません。
在宅勤務・テレワーク中の労働時間はどう管理すべきですか
テレワークでも労働時間の把握義務は変わりません(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)。勤怠システムでのログイン・ログアウト、チャット開始・終了、PC操作ログなど客観的資料による把握が必要です。自己申告のみによる管理は、後日の紛争リスクが高くなります。

📋 この記事のポイント

  • 法定労働時間は労基法第32条により1日8時間・週40時間
  • 所定労働時間は会社が独自に定める労働時間(法定以内)
  • 法定内残業(所定超・法定内)は法律上の割増義務なし
  • 法定外残業は25%以上の割増、月60時間超は50%以上
  • 深夜労働(22:00〜5:00)は25%以上、法定休日は35%以上
  • 複数の要件が重なる場合は割増率を加算
  • 労働時間は使用者の指揮命令下にある時間(三菱重工長崎造船所事件)
  • 未払残業代は時効3年+付加金で実質2倍のリスク

まとめ

法定労働時間と所定労働時間の違いは、残業代計算の最も基本的な土台です。両者を正確に区別できないと、法律上不要な割増賃金を支払って損失が出るか、逆に必要な割増賃金を払わず未払残業代リスクを抱えるかのどちらかになります。

特に、所定7時間の会社で「所定超=全部25%増し」と計算している会社は、法定内残業分で月数万円〜数十万円の過払が発生しているケースがあります。逆に「定時1時間前から業務指示を出している」のに労働時間としてカウントしていない会社は、未払残業代リスクを抱えています。勤怠システムの設定と就業規則・賃金規程の整合性を定期的に確認することが重要です。

労働時間の上限規制については「36協定の届出と特別条項」で詳しく解説しています。割増賃金の基礎となる就業規則の整備は「就業規則の作成義務と記載事項」を参照してください。

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