ストックオプションの税金|行使時の課税と確定申告の方法

ストックオプションの税金|行使時の課税と確定申告の方法
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

ストックオプション(SO)を付与された方に向けて、税制適格・税制非適格・有償の3タイプ別に、課税タイミング・税率・確定申告の要否を解説します。行使益1,000万円のシミュレーションと令和5〜6年度の改正ポイントも整理しています。

🏆 結論:ストックオプションのタイプで税負担は2倍以上変わる

税制適格ストックオプションは株式売却時に1回だけ約20.315%の譲渡所得課税で済みます。一方、税制非適格ストックオプションは権利行使時に最大55.945%の給与所得課税+売却時に約20.315%の譲渡所得課税で計2回課税されます。行使益1,000万円の場合、税制適格なら約203万円、税制非適格なら約370万円以上の差が生じます。

ストックオプションとは?3つのタイプの基本

ストックオプションとは、会社が役員や従業員に対して付与する、自社株式をあらかじめ決められた価格(権利行使価額)で購入できる権利です。株価が上昇したタイミングで権利を行使して株式を取得し、売却すれば、権利行使価額と売却価額の差額(キャピタルゲイン)を得ることができます。

3タイプの分類

ストックオプションは課税関係の観点から以下の3タイプに分類されます。

  1. 税制適格ストックオプション:租税特別措置法第29条の2の要件を満たす無償SO。権利行使時に課税されない。
  2. 税制非適格ストックオプション:適格要件を満たさない無償SO。権利行使時に給与所得として課税される。
  3. 有償ストックオプション:取得時に適正な時価を支払って購入するSO。権利行使時の課税はなく、売却時に譲渡所得として課税される。

3タイプ別の課税関係【完全比較表】

ストックオプションの税金を理解するうえで最も重要なのが、タイプごとの課税タイミングと税率の違いです。

比較項目 税制適格 税制非適格(無償) 有償
付与時の課税なしなしなし(時価で購入)
権利行使時の課税なし(繰延べ)給与所得(最大55.945%)なし
株式売却時の課税譲渡所得(20.315%)譲渡所得(20.315%)譲渡所得(20.315%)
課税回数1回2回1回
権利行使価額契約時の時価以上制限なし(1円SOも可)制限なし
年間行使限度額年3,600万円(改正後)制限なし制限なし
権利行使期間付与決議後2〜10年(※)制限なし制限なし

※設立5年未満の非上場企業は付与決議後2〜15年に延長(令和5年度改正)

💡 実務のポイント

税制非適格SOの最大の問題は、権利行使時に現金が手に入らないにもかかわらず課税される点です。株式を取得しただけで手元にキャッシュがない状態で、給与所得として最大55.945%の税金が発生します。実務ではこの「担税力のない課税」が大きな問題となり、権利行使を躊躇する従業員も少なくありません。

行使益1,000万円の場合の税額シミュレーション【3タイプ比較】

📐 シミュレーション前提条件

  • 権利行使価額:500円/株 × 10,000株 = 500万円
  • 権利行使時の株価:1,500円/株 → 行使益:1,000万円
  • 株式売却時の株価:1,500円/株(行使直後に売却と仮定)
  • 他の給与所得:600万円(課税所得350万円と仮定)
項目 税制適格 税制非適格 有償
行使時の税金(給与所得)0円約290万円0円
売却時の税金(譲渡所得)約203万円0円(※)約203万円
税金合計約203万円約290万円約203万円
手取り額約797万円約710万円約797万円

※非適格SOで行使直後に売却した場合、売却時の譲渡所得は行使時株価との差額0円。概算値です。正確な計算は税理士にご相談ください。

税制適格SOと税制非適格SOの手取り差は約87万円です。行使益が大きくなるほど給与所得の累進税率が効いてこの差はさらに拡大します。

税制適格ストックオプションの適格要件

税制適格SOの優遇を受けるには、租税特別措置法第29条の2に定められた以下の要件をすべて満たす必要があります。1つでも満たさなければ税制非適格として扱われます。

要件 内容
付与対象者発行会社またはその子会社の取締役・執行役・使用人(大口株主等を除く)。社外高度人材も一定条件で可(令和6年度改正で拡大)
権利行使価額契約締結時の1株あたりの時価以上
権利行使期間付与決議日後2年〜10年(設立5年未満の非上場企業は2年〜15年)
年間行使限度額年間3,600万円以下(令和6年度改正で1,200万円から引上げ。非上場企業でスタートアップ認定を受けた場合)
譲渡制限新株予約権を他者に譲渡できないこと
保管委託証券会社等への保管委託。または譲渡制限株式の場合は発行会社自身による管理も可(令和6年度改正)
発行形態無償発行であること

参考: 国税庁「No.1540 ストック・オプション税制の適用を受けて取得した株式を譲渡した場合」

税制非適格ストックオプションの課税関係

権利行使時の所得区分

税制非適格SOを行使した場合、権利行使時の株価と権利行使価額の差額(行使益)に対して課税されます。所得区分は、SOの付与者と行使者の関係によって異なります。

付与関係 所得区分 備考
雇用関係に基因(在職中に行使)給与所得総合課税。源泉徴収の対象
退職に基因して行使可能(退職SO)退職所得退職所得控除・1/2課税の適用あり
退職後に行使(職務遂行と無関係)雑所得総合課税

収入計上時期と金額の算定方法

税制非適格SOの給与所得における収入計上時期は、権利を行使した日(=株式を取得した日)です。収入金額は「権利行使時の株式の時価 − 権利行使価額」で計算します。

権利行使時の時価は、上場株式であれば行使日の終値、非上場株式であれば類似業種比準方式や純資産価額方式などの評価方法によります。

⚠️ 注意

非適格SOの行使益は、現金が入るわけではなく「含み益のある株式を取得しただけ」の状態で課税されます。会社が源泉徴収を行う場合、行使した従業員は源泉徴収相当額の現金を会社に支払う必要があり、資金繰りに影響する可能性があります。

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令和5〜6年度の税制改正ポイント【一覧表】

スタートアップ・エコシステムの強化を目的として、税制適格SOの要件が大幅に緩和されています。

改正項目 改正前 改正後 改正年度
権利行使期間(設立5年未満非上場)付与決議後2〜10年付与決議後2〜15年令和5年度
年間行使限度額年1,200万円年2,400万円〜3,600万円(※)令和6年度
株式の保管委託証券会社等への保管委託が必須譲渡制限株式は発行会社自身による管理も可令和6年度
付与対象者(社外高度人材)国家資格者等(3年以上の実務経験要件あり)実務経験要件廃止。大学教授・スタートアップ役員経験者等を追加令和6年度

※年間行使限度額の引上げ額は、設立年数・上場の有無により異なる

📢 令和6年度改正の実務への影響

発行会社自身による株式管理が認められたことで、非上場企業はIPO前に証券口座を開設する必要がなくなりました。M&AによるEXITの際にも機動的な権利行使が可能になり、スタートアップにとって大きなメリットです。ただし、管理帳簿の作成と改ざん防止措置が必要です。

ストックオプションの確定申告手順【5ステップ】

ストックオプションの確定申告が必要かどうかは、SOのタイプと行使・売却のタイミングによって異なります。

ステップ1:確定申告の要否を判定する

SOのタイプと状況 確定申告
税制適格SO:権利行使のみ(株式保有中)不要
税制適格SO:株式を売却した必要(譲渡所得の申告)
税制非適格SO:在職中に行使(会社が源泉徴収)原則不要(年末調整で精算)
税制非適格SO:行使+売却必要(譲渡所得の申告)
税制非適格SO:退職後に行使必要(雑所得として申告)

ステップ2:所得区分を確認する

権利行使時の行使益は、前述の通り付与関係により給与所得・退職所得・雑所得のいずれかに分類されます。売却時の譲渡益は「株式等に係る譲渡所得等」として分離課税(20.315%)です。

ステップ3:必要書類を準備する

確定申告に必要な書類は、SOのタイプに応じて異なります。共通して必要なのは、株式の取得価額がわかる書類(権利行使価額の通知書等)と、売却時の取引報告書です。税制適格SOの場合は、適格要件を満たす旨の契約書の写しも保管しておきましょう。

ステップ4:確定申告書を作成する

国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使えば、画面の案内に従って入力するだけで申告書が作成できます。株式の譲渡所得は「株式等の譲渡所得等」の欄に、給与所得は「給与所得」の欄に記入します。確定申告の基本的な流れについては「確定申告とは?基本の流れ・必要書類・期限をわかりやすく解説」をご覧ください。

ステップ5:申告書を提出する(e-Tax推奨)

申告期間は翌年2月16日〜3月15日です。e-Taxであれば自宅から提出できます。

信託型ストックオプションの課税関係と注意点

信託型ストックオプションは、信託を活用してSOを付与するスキームですが、課税関係に注意が必要です。

国税庁の見解

国税庁は信託型SOについて、権利行使時に行使益が給与所得として課税されるとの見解を示しています。信託組成時に受益者が確定していないため、税制適格SOの要件を満たさず、税制非適格として扱われます。

⚠️ 注意

信託型SOは「有償SOとして譲渡所得で済む」という前提で導入された企業が多くありましたが、国税庁は権利行使時に給与所得として課税されるとの見解を明確にしました。過去に信託型SOを行使した従業員は修正申告が必要になる場合があります。

法人側の取扱い(発行会社の税務)

税制適格SOの場合

税制適格SOでは従業員側に給与所得が発生しないため、発行法人側でも新株予約権を対価とする費用の損金算入は認められません。

税制非適格SOの場合

税制非適格SOでは従業員側に給与所得が発生するため、発行法人側では役務提供を受けたものとして損金算入が可能です。ただし、役員への付与の場合は役員給与の損金不算入規定(法人税法第34条)の適用により、損金算入が制限される場合があります。

給与所得の計算方法については「給与所得とは?計算方法・給与所得控除・年収別シミュレーション」、所得控除については「所得控除の全14種類一覧|適用条件・控除額・申告方法を完全解説」もあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

ストックオプションを行使しただけで税金はかかりますか?
税制適格SOであれば、権利行使時には課税されません。株式を売却したときに初めて譲渡所得として課税されます。税制非適格SOの場合は、権利行使時に行使益(行使時株価−行使価額)に対して給与所得として課税されます。
税制適格SOと税制非適格SOの見分け方は?
付与契約書に「租税特別措置法第29条の2に基づく」旨の記載があれば税制適格です。また、権利行使価額が契約時の時価以上であること、年間行使限度額の制限があることなどが税制適格の特徴です。不明な場合は会社の管理部門または税理士に確認してください。
ストックオプションの確定申告はいつまでにすればいいですか?
権利行使または株式売却を行った年の翌年2月16日から3月15日までです。確定申告が必要かどうかは、SOのタイプと行使・売却の状況によって異なります。
退職後にストックオプションを行使した場合の税金は?
税制非適格SOを退職後に行使した場合、行使益は原則として雑所得に分類されます。ただし、退職に基因して権利行使が可能となるSOの場合は退職所得として扱われ、退職所得控除や1/2課税の適用を受けられます。
令和6年度改正で年間行使限度額はいくらに引き上げられましたか?
設立年数や上場の有無により異なりますが、最大で年3,600万円まで引き上げられました(改正前は年1,200万円)。これにより、1回の行使でより多くの株式を取得できるようになりました。
有償ストックオプションの課税はどうなりますか?
有償SOは取得時に適正な時価を支払って購入するため、権利行使時には課税されません。株式を売却したときに、売却価額と取得費(権利行使価額+SO購入費用)の差額に対して譲渡所得として約20.315%が課税されます。
信託型ストックオプションは税制適格として扱われますか?
国税庁の見解では、信託型SOは税制適格の要件を満たさず、権利行使時に給与所得として課税されます。「有償SOとして譲渡所得で済む」と考えていた場合は注意が必要です。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 税制適格SOは売却時に1回だけ約20.315%の譲渡所得課税。税制非適格SOは行使時に最大55.945%の給与所得課税+売却時に譲渡所得課税で2回課税
  • 行使益1,000万円の場合、税制適格と税制非適格で約87万円の手取り差が生じる
  • 令和5〜6年度改正で、権利行使期間の延長・限度額の引上げ・保管委託要件の緩和・付与対象者の拡大が実施
  • 税制非適格SOの行使益は、在職中なら給与所得、退職基因なら退職所得、退職後なら雑所得
  • 信託型SOは税制適格に該当せず、権利行使時に給与所得として課税される
  • 確定申告の要否はSOのタイプと行使・売却のタイミングで異なる

ストックオプションの税金は、タイプごとに課税関係が大きく異なり、判断を誤ると数百万円の税額差が生じることもあります。特に税制適格の要件を満たすかどうか、行使のタイミング、売却の時期などは個別の事情で最適解が変わるため、権利行使の前に税理士に相談することをお勧めします。青色申告の特典については「青色申告のメリット・デメリット|白色申告との違いを徹底比較」もご覧ください。

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