出向者・転籍者の税務|出向先負担金・較差補填金の取扱い

出向者・転籍者の税務|出向先負担金・較差補填金の取扱い
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

「グループ会社に従業員を出向させたいが、給与の負担関係をどう整理すればいいかわからない」という経理担当者に向けて、出向・転籍の税務処理を完全ガイドします。この記事を読めば、給与負担金・較差補填金の損金算入要件と寄附金認定リスクを正確に理解できます。

🏆 結論:出向者の給与は「労務提供先が負担する」のが税務の原則

出向者の給与は、労務の提供を受ける出向先法人が負担するのが税務上の基本原則です(応益負担の原則)。出向元が負担すべき金額を超えて給与を負担すると、超過部分が出向先への「寄附金」として認定されます。ただし、出向先の給与水準が出向元より低い場合の「較差補填金」は、合理的な理由があれば出向元の損金に算入されます(法基通9-2-47)。出向契約書の整備と負担金額の合理的な根拠の明確化が、税務リスクを回避する最大のポイントです。

出向・転籍・労働者派遣の違い

3つの形態の定義と比較

従業員を他社で働かせる方法には「出向」「転籍」「労働者派遣」の3つがあり、税務処理はそれぞれ大きく異なります。まず定義を整理しましょう。

区分 出向元との雇用関係 出向先との雇用関係 給与負担の原則
在籍出向継続新たに発生出向先が負担
転籍(移籍出向)終了新たに発生転籍先が全額負担
労働者派遣継続発生しない派遣元が負担(派遣料として回収)

本記事では、中小企業のグループ間で最も多い「在籍出向」を中心に、「転籍」についても退職金の取扱いを含めて解説します。

出向と転籍で最も大きな違い:給与と退職金の負担関係

在籍出向では出向元との雇用契約が維持されるため、出向元は出向者に対して従前の労働条件を保証する義務があります。一方、転籍では元の会社との雇用関係が完全に終了するため、転籍後の給与は転籍先の給与規程に従います。退職金については、転籍時に精算するか、在職年数を通算するかで税務処理が異なり、後述する3つの支給形態を理解する必要があります。

出向者の給与負担金の税務処理

基本原則:給与は労務提供先(出向先)が負担する

税務上の基本原則は、「給与は、その従業員の労務の提供を受けた法人が負担すべき」というものです。出向の場合、出向者は出向先で労務を提供するため、出向先が給与を負担するのが原則です。

実務では、出向元が出向者に給与を支払い続け、出向先が出向元に「給与負担金」を支払う間接支給方式が多く採用されています。この場合、出向先が出向元に支払う給与負担金は、出向先において出向者に対する給与として取り扱われます(法基通9-2-45)。

💡 実務のポイント

出向先が出向元に支払う給与負担金は、名目が「経営指導料」であっても、実質が給与相当額であれば給与として取り扱われます。経営指導料の中に給与相当額と純粋な経営指導部分が混在している場合は、必ず内容を区分しておいてください。区分されていないと、全額が給与負担金として扱われるか、あるいは税務調査で指摘を受けるリスクがあります。

消費税の取扱い:給与負担金は不課税取引

出向先が出向元に支払う給与負担金は、実質的に出向者に対する給与の支払いであるため、消費税の課税対象外(不課税取引)です(消基通5-5-10)。「経営指導料」という名目で支払っていても、その実質が給与であれば不課税取引として処理する必要があります。

ただし、給与負担金を超えて支払われる純粋な経営指導部分は、役務の提供に対する対価として消費税の課税取引になります。この区分を誤ると消費税の過大控除につながりますので、出向契約書で金額を明確に区分しておくことが重要です。

給与負担金の4パターンと寄附金認定リスク

出向者の給与と給与負担金の金額関係によって、税務上の取扱いが大きく変わります。以下の4パターンを理解しておきましょう。

パターン 状況 税務上の取扱い リスク
①負担金=給与出向先の負担金と出向元が支払う給与が同額問題なし(応益負担が成立)なし
②負担金<給与出向先の給与水準が低く、差額を出向元が負担合理的理由あり → 較差補填金として出向元の損金
合理的理由なし → 出向先への寄附金
中(理由の合理性が論点)
③負担金>給与出向先が給与以上の金額を出向元に支払う超過分に合理的理由なし → 出向先から出向元への寄附金高(寄附金認定リスク大)
④出向元が全額負担出向先が負担金を一切支払わない合理的理由なし → 出向元から出向先への寄附金高(寄附金認定リスク大)

⚠️ 注意

出向元と出向先に完全支配関係がある場合(100%親子会社など)は、グループ法人税制の適用により、寄附金は全額損金不算入、受贈益は全額益金不算入となります。つまり、寄附金認定されると一方的に課税が生じるため、グループ間出向ではより一層の注意が必要です。

較差補填金の損金算入要件

較差補填金が認められる3つのケース

出向元法人が出向先法人との給与条件の較差を補填するために出向者に支給した給与は、出向元法人の損金に算入されます(法基通9-2-47)。これは出向元が出向者との雇用契約に基づき労働条件を保証する必要があるためです。

法人税基本通達で較差補填金として認められるケースは以下の3つです。

ケース 内容 根拠
給与水準の較差出向先の給与水準が出向元より低い場合の差額法基通9-2-47
経営不振による賞与出向先が経営不振等で賞与を支給できず、出向元が負担法基通9-2-47 注書き
海外出向の留守宅手当出向先が海外にあり、出向元が留守宅手当を支給法基通9-2-47 注書き

なお、較差補填金は出向元が出向者に直接支給しても、出向先法人を経由して支給しても、同じ取扱いになります。

較差補填金の計算シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 出向者:親会社の課長職、出向元での年収700万円(月額45万円+賞与160万円)
  • 出向先:子会社、子会社の同等職位の年収は500万円(月額35万円+賞与80万円)
  • 法人税等の実効税率:約34%
項目 出向元(親会社) 出向先(子会社)
出向者への年間給与支給額700万円
出向先からの給与負担金△500万円(収入)500万円(損金)
較差補填金200万円(損金)
出向元の実質負担額200万円
法人税等の削減効果(200万×34%)約68万円

※概算値です。個別の状況により異なります。

較差補填金200万円は出向元の損金に算入され、約68万円の法人税等の削減効果があります。しかし、この200万円の負担自体は出向元のキャッシュアウトですので、出向の目的(子会社の経営改善、人材育成など)と照らし合わせて判断する必要があります。

AYUSAWA PARTNERS

出向・転籍の税務処理でお困りの方へ

初回相談無料。公認会計士・税理士・社労士・行政書士がワンストップで対応します。

鮎澤パートナーズに相談する

出向者が出向先で役員になる場合の特別ルール

出向役員の給与負担金が損金算入されるための2要件

親会社の従業員を子会社に出向させ、子会社で役員(取締役など)に就任させるケースはグループ経営では一般的です。この場合、出向先が支払う給与負担金は「役員給与」として法人税法第34条の規制を受けます。

出向先で給与負担金を損金算入するためには、以下の2つの要件を両方満たす必要があります(法基通9-2-46)。

要件 内容 実務上の対応
①株主総会の決議給与負担金の額について、役員給与として出向先の株主総会等の決議がされていること株主総会議事録に出向役員の報酬額を記載
②出向契約での明記出向契約等において出向期間及び給与負担金の額があらかじめ定められていること出向契約書に期間・月額報酬・賞与額を明記

出向役員への賞与の取扱い

出向元が従業員として賞与を支給し、その金額を出向先(子会社)が負担する場合、子会社にとってはこの賞与部分が「定期同額給与」に該当しないため、原則として役員賞与として損金不算入になります。

これを回避するには2つの方法があります。第1に、子会社が事前確定届出給与として税務署に届出をする方法。第2に、賞与部分を出向元(親会社)の負担として、較差補填金として処理する方法です。

💡 実務のポイント

グループ全体の税負担を最適化するなら、出向役員への賞与は親会社の較差補填として親会社が負担し、子会社には毎月の定期同額給与分だけを負担金として請求する設計にすることをおすすめします。この方針を出向契約書に明記しておくことで、税務調査での指摘リスクも最小化できます。役員報酬の基本的なルールについては「役員報酬の基礎知識」もご参照ください。

給与負担金の支払いサイクルの注意点

出向役員の場合、給与負担金は毎月支払う必要があります。たとえば3ヶ月分をまとめて四半期ごとに支払うと、定期同額給与の要件(1ヶ月以下の一定期間ごとの支給)を満たさなくなり、損金不算入となる可能性があります。四半期払いにしたい場合は、事前確定届出給与として届出をする対応が必要です。

出向者の社会保険・労働保険の取扱い

社会保険(健康保険・厚生年金)

間接支給方式(出向元が給与を支払い、出向先が負担金を支払う)の場合、健康保険・厚生年金の被保険者資格は出向元で継続するのが一般的です。保険料は出向元が納付し、その費用を出向先に請求する形になります。

雇用保険

雇用保険は「主たる賃金を支払う事業主」の元で適用します。間接支給方式で出向元が給与を支払っている場合は、出向元で雇用保険を適用します。

労災保険

労災保険は、出向者が実際に勤務する出向先で適用します。出向先は出向元から出向者の給与額の通知を受け、それに基づいて労災保険料を算定・納付する必要があります。

🔷 社労士の視点

出向者の社会保険で最も注意すべきは、出向元と出向先の両方から給与が支払われるケース(直接支給方式で較差補填金がある場合など)です。この場合、2つの事業所で被保険者資格を取得する「二以上事業所勤務届」の提出が必要になることがあります。届出を怠ると保険料の計算が正しくなくなるため、出向契約の締結時に社労士に相談することをおすすめします。

出向元・出向先・出向者の税務処理を一覧で整理

出向に関わる3者の税務処理を、法人税・源泉所得税・社会保険・消費税の4つの切り口で整理します。

項目 出向元 出向先 出向者(個人)
法人税給与支給額を損金算入。負担金受取額を収入計上。較差補填金は損金。給与負担金を損金算入(出向者への給与として扱う)
源泉所得税出向者への給与支給時に源泉徴収負担金支払時の源泉徴収は不要出向元で年末調整
社会保険被保険者資格を継続(間接支給の場合)労災保険のみ適用出向元の保険を継続
消費税負担金の受取は不課税負担金の支払は不課税(仕入税額控除不可)

※間接支給方式(出向元が給与を支払い、出向先が負担金を支払う)を前提としています。

転籍者の退職金の税務処理

転籍時の退職金3つの支給形態

転籍では出向元との雇用関係が終了するため、退職金の取扱いが重要になります。法人税基本通達9-2-52で、転籍者の退職金については以下の3つの支給形態が認められています。

形態 内容 転籍者への影響
①転籍時に直接支給転籍前の法人が転籍時に本人に退職金を直接支給転籍時に退職所得として課税。勤続年数は転籍前のみ
②転籍先に負担金として支出転籍前の法人が転籍先に退職給与負担金を支出実際の退職時まで課税繰延べ。在職年数通算の場合あり
③実際の退職時に支給転籍者が転籍先を退職する時に支給(直接 or 転籍先経由)在職年数通算で退職所得控除額が大きくなる

実務では、在職年数を通算して退職時に支給する方法(②③)が転籍者にとって有利になることが多く、グループ間の転籍ではこの方式が一般的です。退職金制度の設計については「法人決算の流れ」も参考にしてください。

⚠️ 注意

転籍前の法人と転籍後の法人がそれぞれ退職金を支給した場合、在職期間に照らして明らかに一方が他方の負担すべき退職金を肩代わりしていると認められるときは、その部分が相手方法人への「贈与」(寄附金)として課税されます。退職金の負担配分は客観的な根拠に基づいて決定し、書面で合意しておくことが不可欠です。

出向に関する退職金の特別な取扱い

出向期間中の退職金負担金

出向先法人が、出向者の出向期間に対応する退職金相当額を定期的に出向元法人に支出している場合、その金額は出向先法人の損金に算入されます(法基通9-2-48)。これは出向者が出向先で役員になっている場合でも認められます。

出向者が出向元を退職した場合

出向者が出向元を退職した場合に、出向先が出向期間に対応する退職金相当額を出向元に支出したときは、出向者が出向先で引き続き勤務していても、その支出した事業年度の損金に算入されます(法基通9-2-49)。

出向契約書の作成チェックリスト

税務リスクを回避するために、出向契約書には以下の項目を必ず記載してください。

📝 出向契約書の必須記載事項チェックリスト

□ 出向期間(開始日・終了日・更新条件)
□ 出向先での職位・業務内容
□ 給与負担金の月額と算定根拠
□ 較差補填金がある場合はその金額と負担方法
□ 賞与の負担方法(出向先負担 or 出向元の較差補填)
□ 社会保険・労働保険の適用関係
□ 退職金の負担区分と計算方法
□ 出向者が出向先で役員に就任する場合の株主総会決議の予定
□ 消費税の取扱い(給与負担金は不課税である旨)
□ 出向解除・復帰の条件

会社設立後にグループ間出向を行う際の全体的な手続きについては「会社設立の流れ」をご参照ください。

税務調査で指摘されやすいポイントと対策

指摘ポイント 具体例 対策
負担金額の合理性出向先の同等職位の給与水準を大幅に超える負担金出向先の給与規程に基づく金額を根拠として書面で明示
経営指導料との区分給与負担金を経営指導料に含めて支払い、消費税の仕入税額控除を適用出向契約書で給与負担金と経営指導料を明確に区分
出向役員の定期同額出向役員への負担金を四半期まとめ払い毎月払いにするか、事前確定届出給与の届出を行う
較差補填の根拠較差補填金の金額を合理的に説明できない出向元と出向先の給与テーブルの差を書面で保存
親会社の全額負担子会社が負担金を一切払わず親会社が全額負担子会社は最低限自社の給与水準相当額を負担金として支払う

💡 実務のポイント

出向に関する税務調査で最も重要な防御資料は「出向契約書」と「給与負担金の算定根拠を示す書面」です。出向元と出向先の給与テーブル、出向者の職位・等級、負担金の計算過程を1つのファイルにまとめ、いつでも提示できるようにしておくことが実務上のベストプラクティスです。

よくある質問(FAQ)

出向者の給与を出向元が全額負担しても問題ありませんか?
合理的な理由がない限り、出向先が負担すべき給与を出向元が負担すると、出向元から出向先への寄附金として課税されます。出向先は最低限、自社の給与水準に基づく金額を負担金として支払う必要があります。ただし、出向先が経営不振で賞与を支給できない場合など、合理的な理由がある較差補填金は出向元の損金に算入されます。
給与負担金に消費税はかかりますか?
出向先が出向元に支払う給与負担金は、実質的に出向者への給与であるため消費税の課税対象外(不課税取引)です。ただし、給与負担金を超えて支払われる純粋な経営指導料部分は消費税の課税取引になります。出向契約書で両者を明確に区分してください。
出向先で出向者が役員になった場合、賞与はどうなりますか?
出向先で役員となった場合、出向先が負担する賞与は原則として役員賞与(損金不算入)になります。対策として、賞与部分を親会社の較差補填金として処理するか、出向先で事前確定届出給与の届出をする方法があります。グループ全体の税負担を考えると、親会社の較差補填金として処理する方が有利なケースが多いです。
出向者の源泉所得税はどちらの会社が処理しますか?
間接支給方式(出向元が給与を支払う)の場合、源泉徴収は給与を実際に支払う出向元が行います。出向先が出向元に支払う給与負担金については、出向先での源泉徴収は不要です。年末調整も出向元が行います。
転籍の場合、退職金はいつ支給するのが有利ですか?
転籍者にとっては、在職年数を通算して実際の退職時に支給する方法が最も有利になるケースが多いです。勤続年数が長くなるほど退職所得控除額が大きくなるためです。ただし、転籍前の法人にとっては退職給与負担金の計上時期に影響するため、双方の税務メリットを比較して決定してください。
出向と労働者派遣で税務上の違いはありますか?
最大の違いは消費税の取扱いです。出向の給与負担金は不課税取引ですが、労働者派遣の派遣料は消費税の課税取引(仕入税額控除の対象)です。このため、グループ間で人材を融通する際に「出向」と「派遣」のどちらにするかで消費税の負担が変わります。ただし、派遣業の許可がない場合は労働者派遣はできませんのでご注意ください。
出向期間中にベースアップがあった場合、負担金はどう調整しますか?
出向元のベースアップに伴い出向者の給与が増額された場合、出向先の負担金も増額するのが原則です。出向役員の場合、この増額が期首から3ヶ月以内でなくても、親会社の役員給与の額を参酌して決定する場合に準ずるものとして、定期同額給与として認められると考えられています。出向契約書にベースアップ時の調整方法を明記しておくことをおすすめします。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 出向者の給与は労務提供先(出向先)が負担するのが税務上の原則(応益負担の原則)
  • 出向先が支払う給与負担金は出向先の損金に算入され、消費税は不課税取引
  • 出向元と出向先の給与水準の較差を補填する「較差補填金」は出向元の損金に算入可能
  • 合理的理由のない負担は寄附金認定される(完全支配関係では全額損金不算入)
  • 出向者が出向先で役員の場合、株主総会決議と出向契約での事前明記が損金要件
  • 転籍の退職金は3つの支給形態があり、在職年数通算が転籍者に有利なケースが多い
  • 出向契約書の整備と負担金額の算定根拠の書面化が税務リスク回避の最大のポイント

出向・転籍の税務処理は、出向契約の設計段階から専門家に相談することで多くのリスクを回避できます。特にグループ間出向では寄附金認定のリスクが高いため、出向契約書の作成と負担金の算定根拠の整備を早い段階で進めてください。

AYUSAWA PARTNERS

出向・転籍の税務相談は鮎澤パートナーズへ

初回相談無料。公認会計士・税理士・社労士・行政書士がワンストップで対応します。出向契約書のレビューもお任せください。

鮎澤パートナーズに相談する