【税理士×社労士が解説】従業員の退職金制度の種類と税務|中退共・確定拠出年金・確定給付年金

【税理士×社労士が解説】従業員の退職金制度の種類と税務|中退共・確定拠出年金・確定給付年金
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

従業員の退職金制度の種類と税務|中退共・確定拠出年金・確定給付年金

「従業員に退職金制度を導入したいが、どの制度を選べばいいかわからない」という中小企業経営者に向けて、6つの退職金制度の特徴・税務上の取扱い・選び方を完全ガイドします。この記事を読めば、自社に最適な退職金制度を選び、掛金の損金算入と従業員への課税関係を正しく理解できるようになります。

🏆 結論:中小企業の第一候補は「中退共」か「企業型DC」

従業員10名以下の小規模企業なら、導入コストがほぼゼロで国の助成もある「中退共(中小企業退職金共済)」が最も手軽です。従業員の資産形成意識が高い企業や役員も加入させたい場合は「企業型DC(確定拠出年金)」が有力候補です。いずれの制度も掛金は全額損金算入でき、従業員の掛金拠出時には所得税が課されません。ただし制度ごとに「役員加入の可否」「運用リスクの負担者」「中途退職時の取扱い」が異なるため、自社の状況に合った制度選定が重要です。

従業員の退職金制度6種類の全体像【比較表】

中小企業が選択できる退職金制度は、大きく「共済型」「企業年金型」「社内積立型」の3カテゴリ・6種類に分類できます。まずは全体像を比較表で確認しましょう。

制度 掛金上限/月 役員加入 運用リスク 中途退職時 導入コスト 国の助成
中退共3万円×不可機構が運用直接受取可ほぼゼロあり
特定退職金共済(特退共)3万円×不可商工会等が運用直接受取可ほぼゼロなし
企業型DC5.5万円○可能従業員が運用60歳まで引出不可中〜高なし
確定給付年金(DB)制限なし○可能会社が負担規約によるなし
iDeCo+(イデコプラス)2.3万円×不可従業員が運用60歳まで引出不可なし
社内積立(退職一時金)制限なし○可能会社が負担退職金規程によるなし

※企業型DCの掛金上限は他の企業年金がない場合。DBと併用する場合は月額2.75万円が上限。

各制度の掛金の損金算入と従業員への課税関係

退職金制度を選ぶ際に経営者が最も気にするのは「掛金は経費になるのか」「従業員に税金がかかるのか」という2点です。制度ごとに整理しましょう。

制度 掛金の法人税上の取扱い 従業員の拠出時課税 従業員の受取時課税
中退共全額損金算入課税なし退職所得(一時金)or 雑所得(年金)
特退共全額損金算入課税なし退職所得(一時金)or 雑所得(年金)
企業型DC全額損金算入課税なし(社保料も対象外)退職所得(一時金)or 雑所得(年金)
確定給付年金(DB)全額損金算入課税なし退職所得(一時金)or 雑所得(年金)
iDeCo+事業主拠出分は損金算入本人拠出分は小規模企業共済等掛金控除退職所得 or 雑所得
社内積立支給時に損金算入(積立時は不可)なし退職所得

💡 実務のポイント

社内積立(退職一時金制度)は、積立時に損金算入できない点が最大のデメリットです。会計上は「退職給付引当金」として費用計上しますが、税務上は引当金が損金不算入のため、実際に退職金を支給するまで損金にはなりません。中退共や企業型DCであれば掛金を拠出した時点で損金になるため、資金準備と節税を同時に実現できます。

中小企業退職金共済(中退共)の詳細と注意点

中退共は、中小企業の従業員のための国の退職金制度です。厚生労働省所管の独立行政法人が運営しており、導入企業は約37万社、加入者は約360万人と、中小企業の退職金制度としては最も普及しています。

中退共の加入要件:「中小企業」の定義

中退共に加入できるのは「中小企業」に限られます。業種によって基準が異なるため、自社が該当するか確認しましょう。

業種 資本金(出資金) 常用従業員数
一般業種(製造・建設等)3億円以下300人以下
卸売業1億円以下100人以下
サービス業5,000万円以下100人以下
小売業5,000万円以下50人以下

※資本金・従業員数のいずれかを満たせば加入可能です。

中退共のメリットと注意点

中退共の最大のメリットは導入・運営コストがほぼゼロという点です。掛金は月額5,000円〜30,000円の16段階から選択でき、新規加入時は最初の1年間、掛金の2分の1(上限5,000円)の国の助成が受けられます。

一方、注意すべき点もあります。役員(使用人兼務役員を除く)は加入できないこと、掛金の減額には従業員の同意または厚生労働大臣の認定が必要なこと、そして短期間(2年未満)で退職した場合は掛金総額を下回る退職金しか支給されないことです。

⚠️ 注意:退職金は中退共から従業員に直接支給される

中退共の退職金は、会社を経由せず中退共から従業員に直接支払われます。つまり、懲戒解雇の場合でも会社が退職金を不支給にすることは原則としてできません(厚生労働大臣の認定を受ければ減額は可能)。この点は社内積立型の退職金制度との大きな違いです。退職金規程で「懲戒解雇の場合は不支給」と定めている会社は、中退共だけでは対応できないため、社内積立との併用を検討する必要があります。

企業型確定拠出年金(企業型DC)の詳細と注意点

企業型DCは、会社が掛金を拠出し、従業員自身が運用商品を選択する制度です。運用成果によって将来の受取額が変動するため、「確定拠出(掛金が確定)」と呼ばれます。

企業型DCの最大の特徴:社会保険料の削減効果

企業型DCの掛金は、社会保険料の算定基礎となる「報酬月額」から除外されます。つまり、給与の一部を企業型DCの掛金として拠出する「選択制DC」を導入すれば、従業員・会社双方の社会保険料を削減できる可能性があります。

📊 公認会計士の視点

企業型DCの会計処理はシンプルです。掛金を拠出した時点で「確定拠出年金費用」として費用計上し、それ以降は追加的な費用負担が発生しません。確定給付年金(DB)のように退職給付債務の計算や数理計算上の差異の処理が不要なため、中小企業にとっては会計面でも管理しやすい制度です。

企業型DCの注意点

企業型DCでは、従業員が自ら運用商品を選択するため、投資教育の実施が事業主の努力義務として定められています。また、原則として60歳まで資金を引き出せないため、中途退職した従業員はiDeCoに移換して運用を継続する必要があります。若い従業員が多い企業では「60歳まで引き出せない」というデメリットが退職金制度としての魅力を下げる可能性がある点に留意が必要です。

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確定給付企業年金(DB)の詳細と注意点

確定給付企業年金(DB)は、将来の給付額をあらかじめ約束し、その給付に必要な掛金を会社が拠出・運用する制度です。従業員にとっては将来の受取額が確定している安心感がありますが、運用リスクは会社が負います。

DBが向いている企業

DBは掛金上限がないため、高額な退職金を準備したい企業に適しています。また、運用を会社側でコントロールできるため、従業員に投資教育を行う負担がありません。ただし、運用成績が悪化した場合は追加の掛金拠出(掛金の引上げ)が必要になるリスクがあり、中小企業にとっては資金繰りへの影響が懸念されます。

実務では、近年「はぐくみ企業年金」のようなDB型の制度が中小企業向けにパッケージ化されており、以前よりも導入のハードルが下がっています。

従業員数・予算別のおすすめ制度判断フロー

「結局、うちの会社にはどの制度が合うのか?」を判断するために、従業員数と予算に応じた判断フローを整理しました。

企業の状況 おすすめ制度 理由
従業員5名以下・導入コスト最小中退共手続き簡単・助成金あり・運営コストゼロ
役員も加入させたい企業型DC役員も加入可能・社保料削減効果あり
従業員の資産形成意識が高い企業型DC運用の選択肢が豊富・マッチング拠出可能
高額な退職金を確約したいDB(確定給付年金)掛金上限なし・給付額が確定
従業員300名以下・企業年金なしiDeCo+従業員のiDeCoに上乗せ・導入コスト最小
懲戒解雇時に不支給としたい社内積立+中退共の併用社内積立部分で不支給条件を設定可能

💡 実務のポイント

年間100社以上の法人設立を支援してきた経験上、従業員10名以下の創業間もない会社には中退共を勧めることが多いです。理由は、導入が最も簡単で(申込書を記入するだけ)、国の助成もあり、運営の手間がほぼかからないからです。会社が成長して従業員が増えたり、役員も制度に加入させたくなった段階で、企業型DCへの移行や併用を検討するのが現実的なステップです。

制度間の移換・併用のルール

事業拡大や制度見直しの際に、既存の制度から別の制度へ資産を移すことが可能です。主な移換パターンを整理しました。

移換元 移換先 可否 条件・注意点
中退共企業型DC合併等に伴う場合に限る
中退共DB合併等に伴う場合に限る
企業型DCiDeCo退職時に移換
DB企業型DC規約で定めた場合
中退共+企業型DC—(併用)併用可能(それぞれの掛金上限は別枠)

会社設立時の制度選定については「会社設立の流れと手続きの完全ガイド」を、法人決算における退職金の会計処理は「法人決算の流れと手続きの完全ガイド」もあわせて参照してください。

退職金の受取時の税金(退職所得控除)

従業員が退職金を一時金で受け取る場合は「退職所得」として課税されます。退職所得には退職所得控除という大きな控除枠があり、通常の給与所得に比べて税負担が大幅に軽減されます。

退職所得控除額の計算

勤続年数 退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤続年数(最低80万円)
20年超800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

たとえば勤続30年の従業員であれば、退職所得控除額は800万円+70万円×10年=1,500万円です。退職金が1,500万円以下であれば所得税・住民税はゼロとなります。

🔷 社労士の視点

退職金制度の導入・変更には就業規則(賃金規程・退職金規程)の整備が不可欠です。特に中退共を導入する場合は、退職金規程に「退職金は中退共から支給されるものとする」旨を明記し、社内積立分との関係も明確にしておく必要があります。退職金規程が不備な状態で制度を運用すると、退職時にトラブルが発生するリスクがあります。役員報酬の退職金設計については「役員報酬の基礎知識と決め方の完全ガイド」もご覧ください。

掛金シミュレーション:月1万円×10年間の積立効果

📐 シミュレーション前提条件

  • 掛金月額1万円(会社全額負担)
  • 勤続10年(120ヶ月)
  • 法人税実効税率33%
項目 中退共 企業型DC 社内積立
掛金総額(10年間)120万円120万円120万円
損金算入のタイミング毎月毎月退職時のみ
10年間の法人税削減効果約39.6万円約39.6万円0円(退職時に一括)
退職金の受取額(概算)約127万円運用次第規程に準拠
国の助成(新規加入時)最大6万円なしなし

※中退共の退職金額は予定運用利回り1%で概算。企業型DCは運用成績により変動。

よくある質問(FAQ)

中退共と企業型DCは併用できますか?
併用できます。中退共と企業型DCはそれぞれ独立した制度であるため、同時に加入することが可能です。掛金の上限もそれぞれ別枠で適用されます(中退共:月額3万円、企業型DC:月額5.5万円)。中退共で基本的な退職金を確保しつつ、企業型DCで上乗せするという設計は実務でもよく見られるパターンです。
中退共に加入できない役員はどの制度を使えますか?
役員が加入できる制度は「企業型DC」「確定給付年金(DB)」「小規模企業共済」の3つが代表的です。企業型DCとDBは厚生年金被保険者である役員が加入可能です。小規模企業共済は従業員20名以下の小規模企業の経営者・役員が個人で加入する制度で、掛金は全額所得控除の対象です。
従業員が2年未満で退職した場合、中退共の退職金はどうなりますか?
加入から12ヶ月未満の退職では退職金は支給されません。12ヶ月以上〜24ヶ月未満の場合は、掛金総額を下回る金額の退職金が支給されます。24ヶ月以上(一部は43ヶ月以上)で掛金総額を上回る退職金が支給されるようになります。短期間の退職では掛金が戻らないため、離職率が高い業種では注意が必要です。
企業型DCの掛金は社会保険料の計算に含まれますか?
企業が拠出する企業型DCの掛金は、社会保険料の算定基礎となる「報酬月額」に含まれません。そのため、給与の一部を企業型DCの掛金として拠出する「選択制DC」を導入した場合、社会保険料が減少する効果があります。ただし、標準報酬月額が下がることで将来の厚生年金受給額や傷病手当金が減少する点にも留意が必要です。
退職金制度を途中で変更することはできますか?
可能ですが、手続きが必要です。中退共から企業型DCへの移換は合併等に伴う場合のみ認められます。制度を完全に変更する場合は、既存の中退共を解約(従業員の同意が必要)し、解約手当金を従業員に支給したうえで、新たな制度を導入する流れになります。就業規則の変更も必要であるため、専門家と相談しながら進めることをお勧めします。
確定給付年金(DB)の掛金に上限はありますか?
DBの掛金には法令上の上限はありません。将来の給付額に必要な掛金を数理計算で算出し、その金額を拠出します。ただし、掛金が不相当に高額であると税務上否認されるリスクはあります。実務的には、年金アクチュアリーが計算した掛金であれば損金算入が認められるのが一般的です。
パート・アルバイトも中退共に加入させる必要がありますか?
中退共は原則として全従業員を加入させる必要がありますが、期間を定めて雇用される者や短時間労働者については、就業規則等で加入対象外とすることが可能です。ただし、短時間労働者向けに月額2,000円〜4,000円の特例掛金が設定されており、この特例掛金には追加の国の助成(月額300〜500円)があります。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 中小企業の退職金制度は「共済型」「企業年金型」「社内積立型」の3カテゴリ・6種類
  • 中退共・企業型DC・DBの掛金はいずれも全額損金算入でき、従業員の拠出時には課税されない
  • 社内積立(退職一時金)は支給時まで損金にならないため、外部積立制度が税務上有利
  • 中退共は導入コストほぼゼロ・国の助成ありで最も手軽だが、役員は加入不可
  • 企業型DCは役員も加入可能・社保料削減効果あり、ただし投資教育と60歳引出制限に注意
  • 制度間の移換・併用も可能なため、会社の成長に合わせて段階的に制度を発展させるアプローチが有効

退職金制度の選定は、法人税の損金算入効果だけでなく、人材確保・従業員満足度・資金繰りへの影響まで含めた総合的な判断が必要です。法人設立の初期段階から検討し、会社の成長に合わせて最適な制度を選びましょう。

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