従業員給与・賞与の損金算入ルール|未払賞与の要件と注意点

従業員給与・賞与の損金算入ルール|未払賞与の要件と注意点
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

「決算賞与を出したいが税務上のルールがわからない」「未払賞与を損金にできる条件を知りたい」という経営者・経理担当者に向けて、従業員給与・賞与の損金算入ルールを完全ガイドします。この記事を読めば、未払賞与の3要件を正しく理解し、税務調査で否認されない決算賞与の実務を実行できるようになります。

🏆 結論:未払賞与の損金算入には3要件すべてを満たすことが必須

従業員給与は支給時に損金算入されるのが原則ですが、決算賞与(未払賞与)は「①期末までに各人別・全員に支給額を通知」「②翌期開始から1ヶ月以内に全額支給」「③通知した事業年度で損金経理」の3要件をすべて満たせば、未払計上した事業年度の損金として認められます。ただし就業規則に「支給日在籍要件」がある場合は、退職者がゼロでも全額が損金不算入になるため要注意です。

従業員給与・賞与の損金算入の基本ルール

従業員給与・賞与の損金算入時期は、支給形態によって異なります。まずは全体像を把握しましょう。

支給形態 損金算入時期 根拠条文 注意点
毎月の給与実際に支給した日の属する事業年度法人税法第22条第3項締め日と支給日のズレに注意
通常の賞与(夏・冬)実際に支給した日の属する事業年度法人税法施行令第72条の3原則は支給日基準
支給予定日が到来している未払賞与支給予定日または通知日の遅い方の属する事業年度法人税法施行令第72条の3第1号資金繰り都合で未支給の場合
決算賞与(未払賞与)3要件を満たせば通知した事業年度法人税法施行令第72条の3第2号要件不備は全額否認

このうち、実務で最も重要かつ税務調査で頻繁に指摘されるのが「決算賞与(未払賞与)」の損金算入です。以下で詳しく解説します。

決算賞与(未払賞与)の損金算入3要件

決算賞与を未払計上して当期の損金に算入するためには、法人税法施行令第72条の3第2号に定められた以下の3要件をすべて満たす必要があります。1つでも欠けると全額が損金不算入となります。

要件①:期末までに各人別・全員に支給額を通知

事業年度終了日までに、その支給額を「各人別に」かつ「同時期に支給を受けるすべての使用人に対して」通知していること。

ここで重要なのは「各人別に」という点です。「従業員全員に一律10万円」という通知であっても、各人に対して個別に「あなたには10万円支給します」という通知が必要です。部署ごとの総額通知や、掲示板への一括掲示では要件を満たさないと解されています。

💡 実務のポイント

税務調査では「本当に期末日までに通知したのか」が必ず確認されます。口頭の通知では証拠が残らないため、書面またはメールで通知し、受領確認のサインをもらっておくことが最善です。通知書には日付・氏名・支給額を明記し、コピーを保管しましょう。実務では「決算賞与支給通知書」のテンプレートを用意しておくと便利です。

要件②:翌期開始から1ヶ月以内に全額支給

通知した金額を、通知したすべての使用人に対し、通知した日の属する事業年度終了の日の翌日から1ヶ月以内に支払っていること。

3月決算法人であれば4月30日までに支給が完了している必要があります。1日でも遅れると要件を満たしません。また、通知した金額と実際の支給額が1円でも異なる従業員が1人でもいると、その従業員分だけでなく全員分の未払賞与が損金不算入になります。

要件③:通知した事業年度で損金経理

その支給額につき、通知をした日の属する事業年度において損金経理(会計帳簿に費用として計上)をしていること。

具体的には、決算仕訳で「賞与 ××× / 未払金(または未払費用) ×××」と計上します。賞与引当金として計上した場合は、税務上は引当金繰入額が損金不算入となるため、あくまで「未払金」として確定債務を計上する形にする必要があります。

未払賞与が否認される5つのパターン【税務調査で指摘多発】

税務調査において決算賞与の否認は頻出の指摘事項です。以下の5パターンに該当しないか、必ず確認しましょう。

# 否認パターン 具体例 結果 対策
1支給日在籍要件がある就業規則に「支給日に在籍する者のみ支給」の規定がある×全額否認就業規則を修正(後述)
2通知漏れの従業員がいる産休中の従業員に通知し忘れた×全額否認全従業員リストで漏れチェック
3支給額を変更した通知額10万円に対して8万円しか支給しなかった×全額否認通知後の変更は絶対禁止
41ヶ月超後に支給した3月決算で5月2日に振込×全額否認4月中旬までに支給完了
5通知の証拠がない口頭で伝えただけで書面がない×否認リスク大書面通知+受領サイン

⚠️ 注意:「支給日在籍要件」は最も見落としやすい否認パターン

就業規則や賃金規程に「賞与は支給日に在籍する者に対して支給する」という記載がある場合、たとえ退職者が1人もいなくても決算賞与の未払計上は認められません(法人税基本通達9-2-43)。これは、支給日在籍要件があると「決算日時点で債務が確定していない」とみなされるためです。決算賞与を活用するなら、就業規則の賞与支給条件を必ず確認してください。

就業規則の「支給日在籍要件」への対応方法

多くの中小企業の就業規則には「賞与は支給日に在籍する者に支給する」という支給日在籍要件が含まれています。この要件がある限り、決算賞与の未払計上による損金算入はできません。

対応方法:賞与規程を修正する

決算賞与を未払計上したい場合は、賞与規程に以下のような条項を追加・修正します。

📝 賞与規程の修正例

「決算賞与については、賞与の算定対象期間に在籍した従業員に対して支給する。支給日前に退職した場合であっても、算定対象期間に在籍していた場合は支給対象とする。」

この修正により、決算日時点で支給額が確定する(=債務が確定する)ため、未払計上が認められるようになります。なお、通常の夏季・冬季賞与は従来どおり支給日在籍要件を維持しても問題ありません。決算賞与と通常賞与で異なる条件を設けることは法的に可能です。

🔷 社労士の視点

就業規則の変更は、労働基準法第90条により従業員代表の意見聴取が必要です。また、変更後は所轄の労働基準監督署への届出も必要です。決算賞与の活用を決めたら、決算期よりも前に就業規則の変更手続きを完了させておきましょう。変更手続きの流れについては「会社設立の流れと手続きの完全ガイド」でも解説しています。

決算賞与の節税シミュレーション【3パターン】

決算賞与を支給すると、どの程度の節税効果があるのか、具体的なシミュレーションで確認しましょう。

📐 シミュレーション前提条件

  • 中小法人(資本金1億円以下)、法人税実効税率約33%
  • 決算賞与の社会保険料(会社負担分)は支給額の約15%
  • 従業員10名に一律支給
項目 A:利益500万円 B:利益1,000万円 C:利益2,000万円
決算賞与総額(1人あたり)200万円(20万円)500万円(50万円)1,000万円(100万円)
会社負担の社保料(約15%)約30万円約75万円約150万円
実質的なキャッシュアウト約230万円約575万円約1,150万円
法人税等の削減額(約33%)約66万円約165万円約330万円
実質コスト(キャッシュアウト-税削減)約164万円約410万円約820万円

※概算値です。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

💡 実務のポイント

決算賞与の「節税効果」を正しく理解することが重要です。上の表を見ると、パターンAでは200万円の賞与に対して法人税が約66万円減りますが、会社のキャッシュアウトは230万円(賞与+社保料)です。つまり、「200万円の賞与を出して66万円しか戻ってこない」のが実態です。節税目的だけで決算賞与を出すと、手元資金が大幅に減少します。決算賞与は「節税」ではなく「従業員への利益還元+副次的な税効果」として位置づけるべきです。

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未払賞与に係る社会保険料の損金算入タイミング

決算賞与を未払計上する際に見落としやすいのが、社会保険料の取扱いです。賞与本体と社会保険料で損金算入のタイミングが異なります。

賞与本体と社保料の損金算入時期の違い

項目 損金算入時期 理由
決算賞与(賞与本体)3要件を満たせば当期の損金法人税法施行令第72条の3
社会保険料(会社負担分)翌期の損金社保料の債務は実際に賞与を支給した時点で確定するため

決算賞与を未払計上しても、それに対応する社会保険料の会社負担分は当期の損金にはなりません。社会保険料の債務が確定するのは、実際に賞与を支給し「賞与支払届」を提出した時点です。期末時点ではまだ賞与が支払われていないため、社保料の債務は未確定です。

📊 公認会計士の視点

会計上は、未払計上した決算賞与に対応する社保料も当期の費用として賞与引当金または未払費用に含めるのが一般的です(発生主義)。しかし税務上は損金不算入のため、申告書の別表四で加算調整が必要です。この会計と税務のズレを見落とすと、申告漏れになるので注意してください。

従業員給与の「不相当に高額」な部分の損金不算入

役員報酬と異なり、従業員給与には「不相当に高額」による損金不算入のルールは原則として適用されません。ただし、同族会社においてオーナーの親族である従業員に対して、職務内容に比べて著しく高額な給与を支給している場合は、税務調査で実質的な利益の社外流出(親族への利益供与)として否認されるリスクがあります。

否認されやすいケースの判断基準

ケース リスク 対策
社長の配偶者に月額100万円の給与(経理補助業務)職務内容と労働時間を明確に記録
同業他社の同職種と比較して著しく高い給与水準の根拠資料を整備
勤務実態がない親族への給与支給極高タイムカード・業務記録で勤務実態を証明

役員報酬の損金算入ルールとの違いについては「役員報酬の基礎知識と決め方の完全ガイド」で詳しく解説しています。

決算賞与を活用するための実務チェックリスト

決算賞与の未払計上を検討している場合は、以下のチェックリストで要件を確認しましょう。

# チェック項目 確認タイミング チェック
1就業規則に「支給日在籍要件」がないか確認した決算前
2支給対象者の全従業員リストを作成した決算前
3各人別の支給額を決定した期末日まで
4期末日までに全員に書面で通知した(日付・氏名・金額入り)期末日まで
5従業員から受領確認のサインを取得した通知時
6決算仕訳で「賞与/未払金」として損金経理した決算時
7翌期開始から1ヶ月以内に通知額と同額を全員に支給した翌期1ヶ月以内
8通知額と支給額が1円も違わないことを確認した支給後

給与の締め日と決算日のズレへの対応

毎月の給与についても、締め日と決算日が一致しない場合の処理は実務上よく問題になります。

末日締め・翌月10日払いの3月決算法人の場合

3月分の給与(3月1日〜3月31日分)は4月10日に支給されます。この場合、3月分の給与を当期の損金に算入できるかが論点です。

結論としては、3月分の給与は「3月末日に債務が確定している」ため、未払計上により当期の損金に算入できます。締め日が月末であれば、決算日と一致するため問題ありません。一方、20日締めの場合は、3月21日〜3月31日の11日分について日割り計算で未払計上するかどうかは、継続適用を前提に法人の判断に委ねられます。

法人決算の全体的な流れについては「法人決算の流れと手続きの完全ガイド」を参照してください。

使用人兼務役員の賞与の取扱い

使用人兼務役員(部長等の職務を持つ取締役など)に支給する賞与のうち、使用人としての職務に対応する部分は、従業員賞与と同じ損金算入ルールが適用されます。

ただし、使用人兼務役員の賞与を損金算入するためには、他の使用人と同じ基準で支給されていることが必要です。使用人兼務役員だけに特別に高額な賞与を支給している場合は、役員賞与として損金不算入とされるリスクがあります。役員報酬全般の最適化については「役員報酬の基礎知識と決め方の完全ガイド」もあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

決算賞与の通知はメールでも有効ですか?
メールでの通知も有効と解されています。重要なのは、期末日までに各人に個別に支給額を通知した証拠が残ることです。メールであれば送信日時が記録されるため、書面よりもむしろ証拠力が高い場合もあります。ただし、全員が確実にメールを確認したことを記録しておくため、既読確認や返信での受領確認を併用することが望ましいです。
産休・育休中の従業員にも決算賞与の通知は必要ですか?
「同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知」が要件であるため、産休・育休中の従業員も支給対象に含める場合は通知が必要です。逆に、就業規則で産休・育休中の従業員を賞与の支給対象外としている場合は、そもそも支給対象者に含まれないため通知は不要です。ただし、賞与の支給対象から除外する規定が合理的かどうかは労務面での確認も必要です。
通知した金額より多く支給しても問題ありませんか?
通知した金額と異なる金額(多くても少なくても)を支給した従業員が1人でもいると、全員分の未払賞与が損金不算入になります。これは「通知金額の変更」と見なされ、要件②を満たさなくなるためです。やむを得ず追加で支給したい場合は、通知額通りに一旦支給した後、別途の臨時賞与として翌期の損金とするのが安全です。
パート・アルバイトにも決算賞与を支給できますか?
支給できます。パート・アルバイトであっても「使用人」に該当するため、決算賞与の対象に含めることが可能です。ただし、「同時期に支給を受けるすべての使用人に通知」という要件があるため、正社員のみに通知してパート・アルバイトに通知しなかった場合は要件を満たしません。支給対象を正社員のみに限定したい場合は、就業規則にその旨を明記しておく必要があります。
決算賞与を出すと会社の資金繰りに影響しませんか?
決算賞与は実際にキャッシュアウトを伴うため、資金繰りへの影響は避けられません。200万円の決算賞与を支給すると、賞与本体に加えて社会保険料の会社負担分(約15%=約30万円)も発生し、合計約230万円のキャッシュアウトになります。法人税の削減効果は約66万円(実効税率33%の場合)ですから、実質的な手出しは約164万円です。資金繰りに余裕がある場合にのみ検討しましょう。
賞与引当金と未払賞与の違いは何ですか?
会計上の「賞与引当金」は将来の賞与支給に備えた見積計上であり、税務上は損金不算入です。一方、「未払賞与(未払金)」は決算日時点で債務が確定している確定債務の計上であり、3要件を満たせば税務上も損金算入が認められます。決算賞与を損金にしたい場合は、賞与引当金ではなく未払金として計上する必要があります。
翌期開始から1ヶ月以内の「1ヶ月」は暦日ですか?
暦日で判断します。3月決算法人の場合は4月30日が期限です。4月30日が土日祝日であっても、翌営業日に繰り延べるルールはありません。銀行振込の場合は着金日ではなく振込手続日で判断されますが、余裕を持って4月中旬までに支給を完了させることをお勧めします。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 従業員賞与は原則として支給日の属する事業年度の損金だが、3要件を満たせば未払計上で当期損金にできる
  • 3要件:①期末までに各人別・全員に通知 ②翌期1ヶ月以内に通知額どおり全額支給 ③通知した事業年度で損金経理
  • 就業規則に「支給日在籍要件」がある場合は退職者ゼロでも全額否認される
  • 通知額と支給額が1円でも異なる従業員が1人でもいると全員分が否認
  • 未払賞与に対応する社保料(会社負担分)は当期の損金にならない(翌期の損金)
  • 決算賞与は「節税」だけでなく「従業員への利益還元+モチベーション向上」として活用する

決算賞与は適切に運用すれば、従業員のモチベーション向上と税効果の両方を実現できる有効な手段です。ただし、要件が厳格であるため、事前の準備と正確な実務が欠かせません。

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