【社労士が解説】36協定の届出と特別条項|月100時間未満・年720時間の上限規制と罰則

【社労士が解説】36協定の届出と特別条項|月100時間未満・年720時間の上限規制と罰則
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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「残業は当然あるもの」と思っていませんか。36協定を届け出ていない状態での残業命令は違法で、1回でも労基署の調査が入れば直ちに是正対象です。本記事では、36協定の原則上限(月45時間・年360時間)と特別条項の例外ルール、違反時の罰則を解説します。

🏆 結論:36協定なしの残業命令は労基法第32条違反

法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超える残業・休日労働には、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)の締結と労基署への届出が必要です。特別条項を付けても、単月100時間未満・2〜6ヶ月平均80時間以内・年720時間以内・月45時間超は年6回までの4つの上限を超えることはできません。違反すれば6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金です。

36協定とは|残業命令の法的根拠

36協定とは、労働基準法第36条に基づいて締結する労使協定の通称です。使用者が労働者に対して法定労働時間を超える残業や法定休日の労働を命じるためには、労働者の過半数代表者(または過半数労働組合)との間でこの協定を締結し、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。

参考: e-Gov法令検索「労働基準法」第36条

法定労働時間と所定労働時間の違い

36協定の対象となるのは、法定労働時間を超える労働です。法定労働時間は労働基準法第32条で「1日8時間・1週40時間」と定められており、この範囲内での所定労働時間の増減(7時間勤務→8時間勤務など)は36協定の対象外です。

区分 定義 36協定
法定労働時間労基法で定められた上限(1日8時間・1週40時間)超過には必要
所定労働時間各会社が就業規則で定める労働時間法定内であれば不要
法定休日週1日(または4週4日)の休日労働させるなら必要
所定休日会社が定める法定休日以外の休日週40時間超えなければ不要

💡 実務のポイント

所定労働時間が7時間の会社で1時間の残業をした場合、合計8時間で法定内のため36協定は不要です。しかし、9時間目の残業(=法定時間外)には36協定が必要になります。また、法定外残業には25%以上の割増賃金(労基法第37条)が発生し、こちらは所定外残業とは別の要件です。

36協定なしの残業命令のリスク

36協定を届け出ていない状態で残業を命じた場合、労働基準法第32条(法定労働時間)違反となり、使用者は第119条第1号により6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。労働者側は、違法な残業命令を拒否する権利があります。

時間外労働の上限規制|4つのルール

2019年4月(中小企業は2020年4月)から働き方改革関連法により、36協定における時間外労働の上限が法律上明記されました。36協定を締結していても、以下の4つの上限を超えることはできません。

原則の上限(特別条項なし)

項目 上限 対象
月の時間外労働45時間休日労働は含まない
年の時間外労働360時間休日労働は含まない

この原則上限は、特別条項を付けない限り絶対に超えられません。毎月の残業が45時間を超えそうな事業場では、特別条項の締結が必要です。

特別条項の上限(例外的に延長可能)

臨時的・特別な事情がある場合に限り、「特別条項付き36協定」を締結することで原則上限を超えることができます。ただし、以下の4つの上限をすべて満たす必要があります。

上限 内容 休日労働
単月の上限時間外+休日労働で100時間未満含む
複数月平均の上限2〜6ヶ月平均で時間外+休日労働80時間以内含む
年の上限時間外労働720時間以内含まない
月45時間超の回数年6回まで含まない

⚠️ よくある誤解

「単月100時間以内」ではなく「100時間未満」です。ちょうど100時間は違反になります。また「720時間」は時間外労働のみで、休日労働は含まれません。一方「単月100時間」と「複数月平均80時間」は休日労働を含むため、同じ月でも2つの計算式で管理する必要があります。

参考: 厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」(PDF)

違反パターン早見表

実務で起こりやすい違反パターンを整理します。

パターン 違反する上限
時間外労働120時間・休日労働ゼロ単月100時間未満
時間外90時間・休日労働20時間(計110時間)単月100時間未満
時間外60時間を毎月(年720時間)月45時間超が年12回(6回超)
時間外90・時間外80・時間外70(3ヶ月平均80時間)複数月平均80時間以内(ギリギリ適合するが実務上要注意)

36協定の締結と届出の手順

36協定の締結から届出までの流れを、ステップごとに解説します。

ステップ1:労働者代表の選出

労働組合がない事業場では、労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)を選出します。選出は以下の要件を満たす必要があります。

会社側が一方的に指名した代表者では、36協定そのものが無効と判断されるリスクがあります。

ステップ2:協定書の作成

36協定では以下の事項を具体的に定めます(労基法施行規則第17条)。

ステップ3:労基署への届出

所轄の労働基準監督署長に「時間外労働・休日労働に関する協定届」(様式第9号または第9号の2)を提出します。特別条項を付ける場合は様式第9号の2を使用します。届出は、事業場ごとに行う必要があります。

参考: 厚生労働省「36協定届の記載例」

🧮 電子申請の活用

e-Gov電子申請により、24時間365日いつでも届出可能です。複数事業場を持つ会社では、本社一括届出という特例もあり(要件:すべての事業場で同一内容の協定)、毎年の更新作業を大幅に効率化できます。紙での届出は署名押印が必要ですが、電子申請なら不要です。

ステップ4:労働者への周知

締結した36協定は、労働基準法第106条により労働者への周知義務があります。事業場の見やすい場所への掲示、書面交付、電子媒体での閲覧可能化のいずれかで対応します。周知していないと、就業規則と同様に効力自体が否定されるリスクがあります。

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特別条項が使える「臨時的・特別な事情」とは

特別条項は、通常予見可能ではない業務量の急増など、臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合にのみ認められます(労基法第36条第5項)。

認められる事由の具体例

認められない事由の具体例

💡 実務のポイント

特別条項の発動事由が抽象的だと、労基署の調査時に「実質的に毎月特別条項を発動している=恒常的残業」と指摘されるリスクがあります。具体的事由を複数列挙し、予見困難性を明記することが実務上の安全策です。

健康確保措置の明記義務

特別条項を使う場合、以下の健康・福祉確保措置から1つ以上を選択して協定書に明記する必要があります。

適用除外・猶予対象の業種

時間外労働の上限規制は、一部の業種では適用除外または猶予が設けられています。

完全適用除外

ただし、研究開発業務でも月100時間を超えた場合は医師の面接指導が義務となります。管理監督者は36協定の対象外ですが、深夜割増(22時〜5時)と有給休暇は適用されます。

特例適用業種(2024年4月から新上限)

2024年4月から、従来猶予されていた建設業・自動車運転者・医師・鹿児島県と沖縄県の砂糖製造業にも上限規制が適用されました。ただし、業種ごとに独自の上限があります。

業種 年の上限 その他
建設業(災害復旧除く)720時間災害復旧は月100時間未満・複数月平均80時間以内が不適用
自動車運転者960時間月100時間未満・複数月平均80時間は不適用
医師A水準960時間(特例1,860時間)面接指導・休息時間確保が必須

違反時の罰則とリスク

36協定の上限規制に違反した場合のリスクを整理します。

刑事罰

労働基準法第119条第1号により、36協定の上限規制違反は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。さらに、両罰規定(第121条)により、違反行為者(直属上司など)と法人の両方が処罰対象です。

送検・企業名公表

重大な違反や再三の指導にも従わないケースでは、労働基準監督署による送検(刑事手続き)と、厚生労働省による企業名公表が行われます。労働関係法令違反に係る公表制度により、送検事件および重大悪質事案は都道府県労働局のウェブサイトに掲載されます。採用活動や取引先からの信頼に大きな悪影響を及ぼします。

民事損害賠償

過労死・過労自殺が発生した場合、遺族から使用者に対して安全配慮義務違反(労働契約法第5条)を根拠とする損害賠償請求がなされます。判例では1人当たり1億円前後の賠償命令が出るケースも珍しくありません(最高裁判決「電通事件」平成12年3月24日)。

⚠️ 過労死ラインとの関係

月100時間・複数月平均80時間という上限規制は、労災認定における「過労死ライン」と一致しています。この水準の残業が続いた後に脳・心臓疾患やうつ病を発症した場合、労災認定される可能性が高く、企業の安全配慮義務違反も同時に問われます。罰金よりも民事損害賠償の方が圧倒的にリスクが大きいのが実情です。

36協定の管理を楽にする実務のコツ

コツ1:勤怠管理システムで自動アラート

エクセル管理では、月末にならないと残業時間の超過が見えず、違反が発覚してから対応することになります。勤怠管理システム(KING OF TIME・ジョブカン勤怠・ジンジャー勤怠など)を使えば、月45時間に達する前にアラート通知できるため、事前の業務調整が可能になります。

コツ2:複数月平均の先読み管理

2〜6ヶ月平均80時間の規制は、「過去5ヶ月の合計が400時間を超えていたら当月は80時間未満に抑える必要がある」など、過去の残業時間との合算で制約が変動します。毎月の残業時間管理表に「過去3ヶ月平均」「過去6ヶ月平均」の列を追加し、常に先読みすることが重要です。

コツ3:本社一括届出の活用

複数事業場を持つ会社では、全事業場で同一内容の36協定なら本社一括届出が可能です。毎年の更新作業を一本化でき、事務負担が大幅に削減されます。

よくある質問

36協定に有効期間の制限はありますか
労基法上の最低有効期間の定めはありませんが、行政通達(平成11年3月31日基発第169号)により、原則1年とすることが望ましいとされています。有効期間が切れた状態で残業命令を出すと、新たな36協定締結まで法定時間外労働はできません。切れる30日前には更新届出を済ませるのが実務の定石です。
管理職は36協定の対象外と考えてよいですか
管理監督者(労基法第41条第2号)であれば、36協定の対象外です。ただし、肩書きが「部長」「課長」であっても、実質的な権限・待遇が伴わない「名ばかり管理職」は管理監督者と認められず、36協定の対象となります。判定基準は、経営方針の決定に関与・出退勤の自由・賃金の優遇の3要件です。
パート・アルバイトも36協定の対象に含めるべきですか
所定労働時間が短いパート・アルバイトでも、法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超える残業があれば36協定の対象となります。ただし、実際には法定内の勤務で収まるケースが多く、対象労働者から除外する実務も一般的です。労働者の範囲を「全従業員」とするか「正社員のみ」とするかは、実態に合わせて選択します。
従業員10人未満でも36協定の届出は必要ですか
必要です。36協定の届出義務は従業員数による基準ではなく、「法定時間外労働をさせる場合」に発生します。10人未満の事業場でも、就業規則の作成義務はなくとも、36協定の届出義務はあります。この違いを混同しないように注意が必要です。詳しくは「就業規則の作成義務と記載事項」をご覧ください。
36協定の有効期間中に労働者代表が退職した場合、協定は無効になりますか
いったん締結された36協定は、労働者代表が退職しても有効期間中は効力を維持します。ただし、次回の協定締結時には、新たに過半数代表者を選出する必要があります。実務では、退職リスクの低い正社員を代表者に選ぶケースが多く見られます。
月45時間超の残業が年6回までという上限は、連続して発動できますか
連続発動も可能ですが、年6回という回数上限は厳守されます。例えば4月〜9月の6ヶ月連続で45時間超の残業があった場合、10月〜翌3月は1回も45時間を超えてはいけません。さらに、複数月平均80時間の上限は連続して発動するほど厳しくなるため、計画的な発動タイミングの設計が重要です。
裁量労働制やフレックスタイム制でも36協定は必要ですか
裁量労働制(専門業務型・企画業務型)は、みなし労働時間制のため原則として時間外労働が発生しません。ただし、深夜労働・休日労働には36協定が必要です。フレックスタイム制は、清算期間全体で法定労働時間を超える場合に36協定が必要となります。フレックスタイム制の清算期間は2019年から最長3ヶ月まで延長されました。

📋 この記事のポイント

  • 法定時間外労働・休日労働には36協定の締結と届出が必要(労基法第36条)
  • 原則上限は月45時間・年360時間(特別条項なし)
  • 特別条項でも4つの上限(単月100時間未満・複数月平均80時間以内・年720時間・月45時間超は年6回まで)を超えられない
  • 違反は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金
  • 過労死ラインと一致する水準のため、民事損害賠償リスクが極めて大きい
  • 建設業・自動車運転者・医師は2024年4月から特例水準の上限規制適用
  • 勤怠管理システムで月中の超過を事前アラートするのが実務の定石

まとめ

36協定は、残業命令の法的根拠となる最重要の労使協定です。届出を怠ると残業命令そのものが違法となり、上限規制を超えれば刑事罰と民事損害賠償の両方のリスクがあります。月100時間未満・複数月平均80時間以内・年720時間以内・月45時間超は年6回までの4つの上限は、働き方改革関連法の施行以降、企業の労務管理で最も重要な数字となっています。

特別条項を使う場合は、具体的事由の明記と健康確保措置の選定が必須です。抽象的な事由では労基署の調査時に指摘され、恒常的な長時間労働と判断されるリスクがあります。

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