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純損失の繰越控除と繰戻還付|青色申告者の特典を活用する方法
「開業初年度の赤字を来年以降の利益と相殺できるの?」「去年払った税金を取り戻す方法があるって本当?」——そんな疑問をお持ちの個人事業主に向けて、青色申告者だけが使える純損失の繰越控除(3年間)と繰戻還付の手続き・計算方法・選び方を完全ガイドします。


「開業初年度の赤字を来年以降の利益と相殺できるの?」「去年払った税金を取り戻す方法があるって本当?」——そんな疑問をお持ちの個人事業主に向けて、青色申告者だけが使える純損失の繰越控除(3年間)と繰戻還付の手続き・計算方法・選び方を完全ガイドします。
🏆 結論:青色申告者は赤字を「未来に繰り越す」か「過去に戻して還付を受ける」か選べる
青色申告の個人事業主が損益通算してもなお赤字(純損失)が残る場合、2つの特典を選択できます。「繰越控除」は翌年以後3年間、将来の黒字から差し引いて税金を減らす方法。「繰戻還付」は前年に支払った所得税を再計算して差額の還付を受ける方法です。繰越控除は所得税・住民税の両方に効きますが、繰戻還付は所得税のみ(住民税には適用されない)。どちらが有利かは前年の所得水準と翌年以降の見通しで判断します。いずれの場合も、確定申告書の期限内提出が要件です。
純損失とは、不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得で生じた赤字を、他の所得(給与所得・雑所得など)と損益通算した後でも、なお残ってしまった赤字の金額です。所得税法第70条に規定されています。
たとえば、個人事業の事業所得が▲500万円、アルバイト収入の給与所得が150万円の場合、損益通算すると▲350万円になります。この350万円が「純損失」です。
損益通算の基本的なしくみについては「損益通算とは?対象となる所得と通算できないケースを完全解説」で詳しく解説しています。
| 項目 | 青色申告者 | 白色申告者 |
|---|---|---|
| 繰越控除の対象 | 純損失の全額 | 変動所得の損失+被災事業用資産の損失のみ |
| 繰越期間 | 3年間 | 3年間(対象範囲が狭い) |
| 繰戻還付 | 利用可能 | 利用不可 |
| 申告要件 | 期限内に確定申告書を提出 | 期限内に確定申告書を提出 |
白色申告者は、通常の事業赤字では純損失を繰り越すことができません。繰越控除を最大限に活用するなら青色申告が必須です。青色申告のメリット全般については「青色申告のメリット」で解説しています。
💡 実務のポイント
年間300件以上の確定申告を支援してきた経験上、開業初年度に赤字になる個人事業主は非常に多いです。設備投資や広告宣伝費で赤字になっても、青色申告をしていれば翌年以降の利益と相殺して税金を大幅に減らせます。「赤字の年こそ確定申告が大切」——これは繰り返しお伝えしたい鉄則です。
純損失の繰越控除を受けるための手続きは、全部で5ステップです。
翌年3月15日までに、以下の書類を提出します。
第四表(一)には損益通算の計算を、第四表(二)には翌年に繰り越す純損失の金額を記載します。
繰り越した純損失を使うためには、翌年以降も連続して確定申告書を提出する必要があります。翌年が黒字であれば繰越控除を適用し、赤字が続く場合はさらに翌年に繰り越します。
黒字が出た年の確定申告書第四表(二)の「前年から繰り越された損失額」欄に、繰り越した純損失の金額を記載します。
繰越控除は、古い年度の損失から順番に差し引きます(先入先出法)。たとえば、1年目と2年目の両方に純損失がある場合、3年目の黒字からはまず1年目の損失を控除し、残りがあれば2年目の損失を控除します。
純損失の繰越期間は最長3年間。4年目以降に繰り越すことはできません。
⚠️ 注意:期限内申告が必須
純損失の繰越控除は、損失が発生した年分の確定申告書を期限内(翌年3月15日まで)に提出していることが要件です(所得税法第70条第4項)。期限後に提出した場合、純損失の繰越控除は原則として認められません。上場株式等の譲渡損失の繰越控除(期限後申告も可)とは要件が異なりますので注意してください。
📐 シミュレーション前提条件
| 年度 | 事業所得 | 繰越控除額 | 課税所得 | 繰越残高 | 節税額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1年目 | ▲500万円 | — | 0円 | ▲500万円 | — |
| 2年目 | 200万円 | 200万円 | 0円 | ▲300万円 | 約15.3万円 |
| 3年目 | 350万円 | 300万円 | 0円(※) | 0円 | 約37.8万円 |
| 4年目 | 400万円 | 0円 | 302万円 | — | — |
| 3年間の節税額合計(所得税+住民税) | 約53.1万円 | ||||
※3年目は事業所得350万円−繰越控除300万円=50万円。所得控除98万円で課税所得は0円以下。概算値。個別の状況により異なります。
純損失の繰戻還付とは、今年の赤字(純損失)を前年の所得に適用し直して、前年に納めた所得税の一部を還付してもらう制度です(所得税法第140条)。繰越控除が「未来に繰り越す」のに対し、繰戻還付は「過去に戻す」制度です。
📐 還付金額の計算式
還付金額 = 前年の所得税額 −(前年の課税所得 − 今年の純損失)に対する所得税額
🧮 具体例:前年所得400万円・今年の純損失300万円の場合
前年の課税所得:400万円 − 98万円(所得控除) = 302万円
前年の所得税額:302万円 × 10% − 9.75万円 = 20.45万円
繰戻後の課税所得:(400万円 − 300万円) − 98万円 = 2万円
繰戻後の所得税額:2万円 × 5% = 0.1万円
還付金額:20.45万円 − 0.1万円 = 約20.35万円
⚠️ 住民税には繰戻還付がない
繰戻還付は所得税のみの制度であり、住民税・個人事業税には適用されません。住民税については、繰り戻した分を翌年以降に繰り越すことで住民税の軽減を受けることができます。ただし、所得税と住民税で繰越金額が異なるため、住民税の申告で別途「純損失の繰越控除額明細書」の提出が必要になる場合があります。
| 比較項目 | 繰越控除 | 繰戻還付 |
|---|---|---|
| 効果の方向 | 将来の税金を減らす | 過去の税金を取り戻す |
| 対象税目 | 所得税+住民税 | 所得税のみ |
| 還付のタイミング | 翌年以降の申告時 | 申告後1〜2ヶ月で還付 |
| 期間 | 3年間 | 前年1年分のみ |
| 適用できる申告者 | 青色申告者(白色は一部のみ) | 青色申告者のみ |
| 税務調査のリスク | 通常の申告と同じ | 還付請求に伴い調査が入る可能性がやや高い |
| 併用の可否 | 繰戻還付した金額を除いた残りの純損失を繰り越すことは可能 | |
実務では以下の基準で判断します。
| 状況 | おすすめ | 理由 |
|---|---|---|
| 今すぐ資金が必要(資金繰りが厳しい) | 繰戻還付 | 1〜2ヶ月で現金が還付される |
| 翌年以降に大きな利益が見込める | 繰越控除 | 所得税+住民税の両方に効く(節税額が大きい) |
| 前年の所得税率が高かった(20%以上) | 繰戻還付 | 高税率で払った税金を取り戻せる |
| 翌年以降の見通しが不透明 | 繰戻還付 | 確実に還付が受けられる(将来の黒字が不確定なら繰越しても使えない) |
💡 実務のポイント
繰戻還付は「すぐにお金が戻る」メリットがある一方、還付請求に伴って税務調査が入る可能性がやや高まるとされています。実際の調査率は高くありませんが、帳簿書類がきちんと整備されていることが前提です。また、繰戻還付した分を除いた残りの純損失は翌年以降に繰り越せるため、両方を組み合わせることも可能です。
個人事業主が法人化を検討する際に、繰越控除の違いは重要な判断材料になります。
| 比較項目 | 個人(純損失) | 法人(欠損金) |
|---|---|---|
| 繰越期間 | 3年間 | 10年間 |
| 控除限度額 | 全額控除可能 | 中小法人は全額可、大法人は所得の50%まで |
| 繰戻還付 | 前年1年分 | 中小法人のみ可能(前年1年分) |
| 帳簿要件 | 青色申告が要件 | 青色申告が要件+帳簿保存7年(欠損金がある年度は10年) |
| 損益通算の範囲 | 10種類の所得に区分して通算 | 全所得を一括計算(区分なし) |
📊 公認会計士の視点
法人であれば欠損金を10年間繰り越せるため、大規模な設備投資や研究開発を行う事業者にとっては大きなメリットです。個人の3年間では赤字を使い切れないケースでは、法人化を検討する価値があります。ただし、法人化には社会保険の加入義務や決算費用の増加といったデメリットもあるため、総合的に判断してください。
2023年4月1日以降に発生した特定非常災害(地震・台風等で政令指定されたもの)による純損失については、繰越控除期間が通常の3年から5年に延長されます。
具体的には、事業用資産の損失が保有資産の10%以上である場合はその年の全損失が5年間繰越可能。10%未満の場合は災害による損失額のみが5年間の対象です。
| 書類名 | 損失発生年 | 繰越適用年 | 繰戻還付 |
|---|---|---|---|
| 確定申告書第一表・第二表 | 必須 | 必須 | 必須 |
| 確定申告書第四表(損失申告用)(一)(二) | 必須 | 必須 | 必須 |
| 青色申告決算書 | 必須 | 必須 | 必須 |
| 純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書 | — | — | 必須 |
確定申告の全体的な手順については「確定申告の基礎知識」をご参照ください。所得控除の全体像は「所得控除一覧」もあわせてご確認ください。
📋 この記事のポイント