【税理士監修】純損失の繰越控除と繰戻還付|青色申告者の特典を活用する方法

【税理士監修】純損失の繰越控除と繰戻還付|青色申告者の特典を活用する方法
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

純損失の繰越控除と繰戻還付|青色申告者の特典を活用する方法

「開業初年度の赤字を来年以降の利益と相殺できるの?」「去年払った税金を取り戻す方法があるって本当?」——そんな疑問をお持ちの個人事業主に向けて、青色申告者だけが使える純損失の繰越控除(3年間)と繰戻還付の手続き・計算方法・選び方を完全ガイドします。

🏆 結論:青色申告者は赤字を「未来に繰り越す」か「過去に戻して還付を受ける」か選べる

青色申告の個人事業主が損益通算してもなお赤字(純損失)が残る場合、2つの特典を選択できます。「繰越控除」は翌年以後3年間、将来の黒字から差し引いて税金を減らす方法。「繰戻還付」は前年に支払った所得税を再計算して差額の還付を受ける方法です。繰越控除は所得税・住民税の両方に効きますが、繰戻還付は所得税のみ(住民税には適用されない)。どちらが有利かは前年の所得水準と翌年以降の見通しで判断します。いずれの場合も、確定申告書の期限内提出が要件です。

純損失とは?損益通算で控除しきれなかった赤字のこと

損益通算→それでも赤字が残る→それが「純損失」

純損失とは、不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得で生じた赤字を、他の所得(給与所得・雑所得など)と損益通算した後でも、なお残ってしまった赤字の金額です。所得税法第70条に規定されています。

たとえば、個人事業の事業所得が▲500万円、アルバイト収入の給与所得が150万円の場合、損益通算すると▲350万円になります。この350万円が「純損失」です。

損益通算の基本的なしくみについては「損益通算とは?対象となる所得と通算できないケースを完全解説」で詳しく解説しています。

青色申告者と白色申告者で繰越の範囲が違う

項目 青色申告者 白色申告者
繰越控除の対象純損失の全額変動所得の損失+被災事業用資産の損失のみ
繰越期間3年間3年間(対象範囲が狭い)
繰戻還付利用可能利用不可
申告要件期限内に確定申告書を提出期限内に確定申告書を提出

白色申告者は、通常の事業赤字では純損失を繰り越すことができません。繰越控除を最大限に活用するなら青色申告が必須です。青色申告のメリット全般については「青色申告のメリット」で解説しています。

💡 実務のポイント

年間300件以上の確定申告を支援してきた経験上、開業初年度に赤字になる個人事業主は非常に多いです。設備投資や広告宣伝費で赤字になっても、青色申告をしていれば翌年以降の利益と相殺して税金を大幅に減らせます。「赤字の年こそ確定申告が大切」——これは繰り返しお伝えしたい鉄則です。

純損失の繰越控除の手続き【5ステップ】

純損失の繰越控除を受けるための手続きは、全部で5ステップです。

ステップ1:赤字が発生した年の確定申告書を期限内に提出する

翌年3月15日までに、以下の書類を提出します。

  1. 確定申告書第一表・第二表
  2. 確定申告書第四表(損失申告用)——(一)と(二)の両方
  3. 青色申告決算書(損益計算書+貸借対照表)

第四表(一)には損益通算の計算を、第四表(二)には翌年に繰り越す純損失の金額を記載します。

ステップ2:翌年も確定申告書を提出する(黒字でも赤字でも必須)

繰り越した純損失を使うためには、翌年以降も連続して確定申告書を提出する必要があります。翌年が黒字であれば繰越控除を適用し、赤字が続く場合はさらに翌年に繰り越します。

ステップ3:繰越控除を適用する年の第四表に記載する

黒字が出た年の確定申告書第四表(二)の「前年から繰り越された損失額」欄に、繰り越した純損失の金額を記載します。

ステップ4:繰越控除額を計算して課税所得から差し引く

繰越控除は、古い年度の損失から順番に差し引きます(先入先出法)。たとえば、1年目と2年目の両方に純損失がある場合、3年目の黒字からはまず1年目の損失を控除し、残りがあれば2年目の損失を控除します。

ステップ5:損失が消化されるか3年経過するまで継続する

純損失の繰越期間は最長3年間。4年目以降に繰り越すことはできません。

⚠️ 注意:期限内申告が必須

純損失の繰越控除は、損失が発生した年分の確定申告書を期限内(翌年3月15日まで)に提出していることが要件です(所得税法第70条第4項)。期限後に提出した場合、純損失の繰越控除は原則として認められません。上場株式等の譲渡損失の繰越控除(期限後申告も可)とは要件が異なりますので注意してください。

純損失の繰越控除|4年間の節税シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • IT系の個人事業主(青色申告・65万円控除適用)
  • 1年目:開業初年度で設備投資が嵩み事業所得▲500万円(他の所得なし)
  • 2年目:事業所得200万円 / 3年目:事業所得350万円 / 4年目:事業所得400万円
  • 所得控除:基礎控除48万円+社会保険料控除50万円=98万円
年度 事業所得 繰越控除額 課税所得 繰越残高 節税額
1年目▲500万円0円▲500万円
2年目200万円200万円0円▲300万円約15.3万円
3年目350万円300万円0円(※)0円約37.8万円
4年目400万円0円302万円
3年間の節税額合計(所得税+住民税)約53.1万円

※3年目は事業所得350万円−繰越控除300万円=50万円。所得控除98万円で課税所得は0円以下。概算値。個別の状況により異なります。

純損失の繰戻還付とは?前年の税金を取り戻す方法

繰戻還付のしくみ

純損失の繰戻還付とは、今年の赤字(純損失)を前年の所得に適用し直して、前年に納めた所得税の一部を還付してもらう制度です(所得税法第140条)。繰越控除が「未来に繰り越す」のに対し、繰戻還付は「過去に戻す」制度です。

繰戻還付の要件

  1. 前年分も青色申告書を提出していること
  2. 今年の確定申告書を期限内に提出すること
  3. 「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を確定申告期限内に提出すること

繰戻還付の計算方法

📐 還付金額の計算式

還付金額 = 前年の所得税額 −(前年の課税所得 − 今年の純損失)に対する所得税額

🧮 具体例:前年所得400万円・今年の純損失300万円の場合

前年の課税所得:400万円 − 98万円(所得控除) = 302万円
前年の所得税額:302万円 × 10% − 9.75万円 = 20.45万円

繰戻後の課税所得:(400万円 − 300万円) − 98万円 = 2万円
繰戻後の所得税額:2万円 × 5% = 0.1万円

還付金額:20.45万円 − 0.1万円 = 約20.35万円

⚠️ 住民税には繰戻還付がない

繰戻還付は所得税のみの制度であり、住民税・個人事業税には適用されません。住民税については、繰り戻した分を翌年以降に繰り越すことで住民税の軽減を受けることができます。ただし、所得税と住民税で繰越金額が異なるため、住民税の申告で別途「純損失の繰越控除額明細書」の提出が必要になる場合があります。

繰越控除と繰戻還付のどちらを選ぶべきか|判断基準

比較項目 繰越控除 繰戻還付
効果の方向将来の税金を減らす過去の税金を取り戻す
対象税目所得税+住民税所得税のみ
還付のタイミング翌年以降の申告時申告後1〜2ヶ月で還付
期間3年間前年1年分のみ
適用できる申告者青色申告者(白色は一部のみ)青色申告者のみ
税務調査のリスク通常の申告と同じ還付請求に伴い調査が入る可能性がやや高い
併用の可否繰戻還付した金額を除いた残りの純損失を繰り越すことは可能

判断のポイント

実務では以下の基準で判断します。

状況 おすすめ 理由
今すぐ資金が必要(資金繰りが厳しい)繰戻還付1〜2ヶ月で現金が還付される
翌年以降に大きな利益が見込める繰越控除所得税+住民税の両方に効く(節税額が大きい)
前年の所得税率が高かった(20%以上)繰戻還付高税率で払った税金を取り戻せる
翌年以降の見通しが不透明繰戻還付確実に還付が受けられる(将来の黒字が不確定なら繰越しても使えない)

💡 実務のポイント

繰戻還付は「すぐにお金が戻る」メリットがある一方、還付請求に伴って税務調査が入る可能性がやや高まるとされています。実際の調査率は高くありませんが、帳簿書類がきちんと整備されていることが前提です。また、繰戻還付した分を除いた残りの純損失は翌年以降に繰り越せるため、両方を組み合わせることも可能です。

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個人の純損失と法人の欠損金の比較

個人事業主が法人化を検討する際に、繰越控除の違いは重要な判断材料になります。

比較項目 個人(純損失) 法人(欠損金)
繰越期間3年間10年間
控除限度額全額控除可能中小法人は全額可、大法人は所得の50%まで
繰戻還付前年1年分中小法人のみ可能(前年1年分)
帳簿要件青色申告が要件青色申告が要件+帳簿保存7年(欠損金がある年度は10年)
損益通算の範囲10種類の所得に区分して通算全所得を一括計算(区分なし)

📊 公認会計士の視点

法人であれば欠損金を10年間繰り越せるため、大規模な設備投資や研究開発を行う事業者にとっては大きなメリットです。個人の3年間では赤字を使い切れないケースでは、法人化を検討する価値があります。ただし、法人化には社会保険の加入義務や決算費用の増加といったデメリットもあるため、総合的に判断してください。

特定非常災害の場合の特例:繰越期間が5年に延長

2023年4月1日以降に発生した特定非常災害(地震・台風等で政令指定されたもの)による純損失については、繰越控除期間が通常の3年から5年に延長されます。

具体的には、事業用資産の損失が保有資産の10%以上である場合はその年の全損失が5年間繰越可能。10%未満の場合は災害による損失額のみが5年間の対象です。

純損失の繰越控除を受けるための必要書類一覧

書類名 損失発生年 繰越適用年 繰戻還付
確定申告書第一表・第二表必須必須必須
確定申告書第四表(損失申告用)(一)(二)必須必須必須
青色申告決算書必須必須必須
純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書必須

確定申告の全体的な手順については「確定申告の基礎知識」をご参照ください。所得控除の全体像は「所得控除一覧」もあわせてご確認ください。

よくある質問(FAQ)

白色申告者でも純損失の繰越控除は使えますか?
白色申告者が繰り越せるのは、変動所得の損失と被災事業用資産の損失に限られます。通常の事業赤字は繰り越せません。繰越控除を最大限に活用するなら、青色申告への切り替えをおすすめします。開業届と一緒に「所得税の青色申告承認申請書」を提出するだけで手続きは完了します。
赤字の年に確定申告しないとどうなりますか?
赤字の年に確定申告書を提出しないと、純損失の繰越控除も繰戻還付も受けられなくなります。特に繰越控除は「期限内申告」が要件のため、後から期限後申告をしても認められません。赤字の年こそ確定申告が最も重要です。
繰越控除と繰戻還付は両方使えますか?
はい、併用可能です。たとえば、純損失300万円のうち100万円を繰戻還付に使い、残り200万円を翌年以降に繰り越すことができます。資金繰りの状況と翌年以降の見通しに応じて配分を決めてください。
繰戻還付を受けると税務調査が来ますか?
繰戻還付の請求に伴い税務署の調査が入る可能性は否定できませんが、実際にはほとんどのケースで書面確認のみで完了します。帳簿書類が適切に整備されていれば心配は不要です。
法人の欠損金の繰越控除は何年間ですか?
法人の欠損金の繰越控除期間は10年間です。個人の純損失の3年間と比べて大幅に長いため、大規模な設備投資や研究開発を行う事業者にとっては法人化のメリットの1つになります。ただし、大法人(資本金1億円超)は所得の50%が控除限度額となる制限があります。
繰戻還付で住民税も還付されますか?
いいえ。繰戻還付は所得税のみの制度であり、住民税・個人事業税には適用されません。住民税については、所得税で繰り戻した分を翌年以降に繰り越すことで軽減を受けることが可能です。所得税と住民税で繰越金額が異なる場合は、市区町村に対して別途申告が必要になることがあります。
特定非常災害の場合、繰越期間は何年に延長されますか?
2023年4月1日以降に発生した特定非常災害による純損失は、繰越控除期間が通常の3年間から5年間に延長されます。事業用資産の損失が保有資産の10%以上であれば全損失が対象、10%未満であれば災害による損失額のみが対象です。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 純損失とは、損益通算してもなお残った赤字のこと
  • 青色申告者は純損失を翌年以後3年間繰り越して将来の黒字と相殺できる(繰越控除)
  • 前年の所得税を取り戻す「繰戻還付」も青色申告者だけの特典
  • 繰越控除は所得税+住民税に効くが、繰戻還付は所得税のみ
  • 繰越控除は「期限内申告」が必須要件——遅れたら使えなくなる
  • 法人の欠損金繰越は10年間。個人の3年間では足りない場合は法人化も検討
  • 赤字の年こそ確定申告が最重要——申告しないと繰越も還付も受けられない

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