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法人の赤字(欠損金)を最大10年間繰り越して将来の黒字と相殺できる「欠損金の繰越控除」を完全ガイド。中小法人と大法人の控除限度額の違い、適用要件、繰戻し還付の選択判断まで、税理士が実務目線で解説します。
🏆 結論:赤字事業年度の損失を未来の黒字で取り戻せる最強の節税制度
欠損金の繰越控除は、青色申告法人が事業年度に生じた欠損金(赤字)を翌期以降10年間繰り越し、将来の黒字所得から控除できる制度です(法人税法第57条)。中小法人(資本金1億円以下)は所得の100%まで控除可能、大法人は50%が限度。創業期の赤字を活用するベンチャー企業や、業績変動が大きい中小企業にとって不可欠の節税制度です。代替として、1年間の赤字を前期黒字に遡って法人税還付を受ける「繰戻し還付」も中小法人なら選択可能。両制度の選択判断には、将来の業績見通しと資金繰りの両面からの分析が必要です。
欠損金の繰越控除とは|制度の全体像
欠損金とは、法人税法上の所得(益金 − 損金)がマイナスとなった金額のことです。欠損金の繰越控除は、この赤字を翌期以降の事業年度に繰り越し、将来の黒字所得から控除できる制度で、法人税法第57条に規定されています。
制度の根拠と意義
事業の業績は年度ごとに変動するため、単年度の所得だけで課税すると、利益が出た年と損失が出た年の通算ができず、税負担が不公平になります。欠損金の繰越控除はこの不均衡を是正する制度で、複数年度をまたいで法人税負担を平準化する役割を果たします。創業期に大きな投資をして赤字となるベンチャー企業、業績変動が大きい中小企業にとって特に重要な制度です。
繰越控除の基本ルール3点
| ルール | 内容 |
|---|---|
| ①繰越期間 | 10年間(平成30年4月1日以後開始事業年度に発生した欠損金) |
| ②控除限度額 | 中小法人等は所得の100%、大法人は所得の50% |
| ③適用要件 | 青色申告書を提出+10年間の帳簿書類等保存 |
💡 実務のポイント
実務では、繰越欠損金は「将来の節税の弾」として大切に管理されます。例えば創業初年度に1,000万円の赤字が出た場合、その後9年以内に黒字化すれば、最大1,000万円の所得を相殺できる=最大約300万円(実効税率約30%)の法人税が節税できる計算です。ただし、繰越期間の途中で資本金を1億円超に増資すると大法人扱いとなり控除限度が50%に変わるため、増資のタイミングも繰越欠損金の使い切り戦略を踏まえて決定する必要があります。
繰越期間の遡及|9年と10年の境目
欠損金の繰越期間は、過去の税制改正により段階的に延長されてきました。平成28年度税制改正により、平成30年4月1日以後開始事業年度に発生した欠損金は10年繰越となりました。それ以前は9年繰越でした。
発生事業年度別の繰越期間一覧
| 欠損金発生事業年度 | 繰越期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 平成20年4月1日〜平成29年4月1日前 | 9年 | 平成23年12月改正 |
| 平成30年4月1日以後 | 10年 | 平成28年度税制改正 |
※3月決算法人の場合、平成30年3月期までに発生した欠損金は9年繰越、平成31年3月期以降は10年繰越となります。実務では、過去の繰越欠損金管理表でいつ発生した欠損金かを記録しておくことが重要です。
遡及計算の具体例
🧮 3月決算法人の遡及期間判定
令和7年3月期に控除可能な繰越欠損金:
・10年繰越分:平成31年3月期(2018年度)発生の欠損金まで
・9年繰越分:平成28年3月期(2015年度)発生分は令和7年3月期で切り捨て
つまり: 古い欠損金から順に使うことが税務上の鉄則(FIFO方式)
中小法人と大法人の控除限度額の違い
繰越欠損金の控除限度額は、その事業年度終了の時点での法人の規模によって変わります。中小法人等は所得の100%まで控除できる一方、大法人は50%が限度となります。
中小法人等の定義(法57条11項1号)
| 中小法人等に該当する法人 | 該当の条件 |
|---|---|
| 普通法人(株式会社・合同会社等) | 資本金1億円以下(かつ大法人の100%子法人等を除く) |
| 資本を有しない法人 | 合同会社等で資本金を定めないもの |
| 公益法人等 | 公益社団法人・公益財団法人等 |
| 協同組合等 | 農業協同組合・信用金庫等 |
| 人格のない社団等 | マンション管理組合等 |
大法人の100%子法人等は中小法人扱いから除外
資本金1億円以下でも、資本金5億円以上の大法人の100%子法人等は中小法人扱いから除外されます(法人税法57条11項1号、措置法42条の3の2)。これは「親会社が大法人なら子会社も実質大法人として扱う」考え方で、形式的な資本金引き下げによる租税回避を防止する措置です。
所得別の控除額シミュレーション
🧮 控除限度額の比較(繰越欠損金1,000万円・当期所得800万円)
中小法人(資本金1億円以下):
控除限度額:所得800万円×100% = 800万円
当期使用額:800万円(欠損金全額が控除可能だが、所得を超えない範囲)
残繰越欠損金:1,000万 − 800万 = 200万円(翌期以降に繰越)
当期法人税:0円(課税所得ゼロ)
大法人(資本金1億円超):
控除限度額:所得800万円×50% = 400万円
当期使用額:400万円
残繰越欠損金:1,000万 − 400万 = 600万円(翌期以降に繰越)
当期法人税:400万円×23.2% ≒ 約93万円
⚠️ 増資時の控除限度切替リスク
資本金を1億円超に増資した瞬間から、その後の事業年度で大法人扱いとなり控除限度が50%に縮小します。例えば創業期に大きな赤字(5,000万円超)を繰越している中小法人が、資金調達のために増資して1億円超になると、突然繰越欠損金の使用が50%制限となり、毎期の節税効果が半減します。実務では「繰越欠損金が大きい間は資本金を1億円以下に抑える」「増資ではなく資本準備金として受け入れる」等の戦略が重要です。
適用要件3つ|青色申告・帳簿保存・連続提出
欠損金の繰越控除を受けるためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります(法57条10項)。
3つの適用要件
| 要件 | 具体的な内容 |
|---|---|
| ①青色申告書の連続提出 | 欠損金の生じた事業年度において青色申告書を提出。その後の各事業年度においても連続して確定申告書(白色申告書でも可)を提出 |
| ②帳簿書類等の保存 | 欠損金が生じた事業年度の帳簿書類等を10年間保存 |
| ③別表七(一)への記載 | 控除を受ける事業年度の確定申告書に別表七(一)「欠損金又は災害損失金の損金算入等に関する明細書」を添付 |
💡 実務のポイント
実務で要注意なのが、要件①の「連続提出」です。欠損金発生年度は青色申告だったが、その後の事業年度で確定申告書の提出を1年でも怠ると、それ以降の繰越控除が全額否認されます。たとえ翌期から青色申告に戻しても、過去の繰越欠損金は復活しません。M&Aで取得した法人の繰越欠損金を承継する場合は、過去の連続提出履歴を必ず確認することが必要です。帳簿書類等の保存(要件②)も同様に重要で、欠損金が発生した事業年度の帳簿は最低10年保管が必要です。
連続提出が崩れる主なケース
| ケース | 影響 |
|---|---|
| 期限後申告 | 2期連続で期限後申告→青色申告承認取消し→繰越欠損金が消滅 |
| 無申告 | 確定申告書未提出→連続提出要件違反→繰越控除否認 |
| 休眠期間の申告漏れ | 事業休止中も確定申告は必要→無申告で繰越欠損金消滅リスク |
繰越控除の計算方法|別表七(一)の流れ
繰越欠損金の控除計算は、別表七(一)「欠損金又は災害損失金の損金算入等に関する明細書」で行います。基本的な計算フローは以下の通りです。
計算の5ステップ
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| STEP1 | 繰越欠損金控除前の所得金額を別表四から算出 |
| STEP2 | 過年度発生の繰越欠損金を発生年度の古い順に並べる(FIFO方式) |
| STEP3 | 控除限度額を計算(中小法人:所得×100%、大法人:所得×50%) |
| STEP4 | 古い欠損金から順に、控除限度額に達するまで控除 |
| STEP5 | 使い切れなかった欠損金は翌期以降に繰越(発生年度ごとに区分管理) |
具体的な計算例
🧮 計算例(中小法人・3月決算)
当期(令和7年3月期)の所得: 600万円
繰越欠損金:
・令和2年3月期発生分:200万円
・令和5年3月期発生分:500万円
合計:700万円
計算:
控除限度額 = 600万円 × 100% = 600万円
古い順に控除:令和2年期200万 → 令和5年期分から残り400万を控除
結果:
当期使用額:600万円
残繰越欠損金:令和5年期100万円(令和15年3月期まで繰越可)
当期所得:0円 → 法人税ゼロ(節税効果約138万円)
欠損金の繰戻し還付|前期の法人税を取り戻す
欠損金の繰戻し還付(法人税法第80条)は、当期に生じた欠損金を前期に繰り戻して、前期に納付した法人税の還付を受ける制度です。繰越控除が「将来の節税」であるのに対し、繰戻し還付は「過去の法人税の取り戻し」となります。
繰戻し還付の対象法人
| 対象 | 該当条件 |
|---|---|
| 中小法人等 | 資本金1億円以下の普通法人等(大法人100%子法人を除く) |
| 清算法人 | 解散・清算中の事業年度 |
| 災害損失欠損金 | 災害により生じた欠損金(中小法人以外も適用可) |
※平成4年4月以降、原則として大法人の繰戻し還付は停止されていますが、中小法人等については継続適用されています。
還付額の計算式
🧮 還付額の計算式
還付金額 = 前期の法人税額 ×(当期の欠損金額 ÷ 前期の所得金額)
※当期の欠損金額が前期の所得金額を超える場合、超過分は通常の繰越控除に回せる
繰戻し還付の具体例
🧮 繰戻し還付の計算例
前期(令和6年3月期): 所得800万円・法人税額約153万円
当期(令和7年3月期): 欠損金500万円
還付額計算:
153万円 × (500万円 ÷ 800万円) = 約95万円
結果:
当期に約95万円の法人税還付
当期の欠損金は還付に充当されたため、繰越欠損金には残らない
繰越控除 vs 繰戻し還付|どちらを選ぶか
中小法人が当期に欠損金を生じた場合、繰越控除と繰戻し還付のいずれかを選択できます。どちらが有利かは将来の業績見通しと資金繰り状況で判断します。
選択判断の比較表
| 判断軸 | 繰越控除有利 | 繰戻し還付有利 |
|---|---|---|
| 資金繰り | 逼迫していない | 逼迫している(即時の資金注入が必要) |
| 将来の黒字見通し | 10年以内に黒字化見込み | 将来も赤字継続見込み |
| 前期の所得 | 少ない or なし | 大きい(法人税納付済み) |
| 税務調査リスク | 回避したい | 調査リスクを許容できる |
| 将来の税率変動 | 税率上昇予想(将来の方が節税効果大) | 税率低下予想(過去の方が節税効果大) |
⚠️ 繰戻し還付の税務調査リスク
繰戻し還付請求書を提出すると、国税庁通達により実地税務調査が原則として行われます(国税通則法第36条参照)。前期の所得計算と当期の欠損金計算の両方が調査対象となるため、調査リスクが大幅に上昇します。実務では、還付額が100万円程度なら繰戻し還付を選ぶ法人も多いですが、500万円超になると調査負担を考慮して繰越控除を選ぶケースが増えます。中小企業の資金繰りが逼迫している場合は繰戻し還付が有効ですが、調査対応の負担とのバランスを見て判断する必要があります。
繰戻し還付の手続きと提出書類
繰戻し還付を受けるためには、確定申告書の提出と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出します。期限内提出が原則ですが、災害損失欠損金の場合は別途取扱いあります。
提出書類と期限
| 書類 | 提出期限 |
|---|---|
| 欠損金の繰戻しによる還付請求書 | 欠損金事業年度の確定申告書の提出期限(原則、事業年度終了日の翌日から2か月以内) |
| 確定申告書(別表七(一)を含む) | 通常の確定申告期限 |
| 還付前期の法人税申告書のコピー | 還付請求書に添付 |
還付までの期間
繰戻し還付の請求書提出から実際の還付までは、税務署の調査・審査を経て約3〜6か月程度かかります。資金繰りに余裕がない場合は、還付までの時間も含めて判断する必要があります。
事業承継・M&A時の繰越欠損金の取扱い
M&A・合併・分割等の組織再編を行う場合、繰越欠損金の引継ぎ可否が大きな論点になります。組織再編税制の適格・非適格判定、特定資産譲渡損失の損金算入制限、みなし共同事業要件等、複雑な税務判断が必要です。
主な組織再編パターンの繰越欠損金取扱い
| 組織再編 | 適格再編 | 非適格再編 |
|---|---|---|
| 合併 | 被合併法人の繰越欠損金を合併法人に引継ぎ(一定要件あり) | 引継ぎ不可 |
| 分割型分割 | 事業に係る欠損金のみ引継ぎ | 引継ぎ不可 |
| 株式取得(M&A) | 対象会社の繰越欠損金はそのまま継続(支配関係発生5年以内に注意) | 同左 |
💡 実務のポイント
M&A実務で要注意なのが「支配関係発生から5年以内の合併」での繰越欠損金引継ぎ制限です。例えば中小企業A社(繰越欠損金5,000万円あり)を中小企業B社が買収し、5年以内に合併した場合、5年前から所有していた特定資産から生じる譲渡損失は損金算入できず、繰越欠損金の使用も制限されます。実務では繰越欠損金が大きい法人を買収する際には、5年待つか、みなし共同事業要件(4要件)を満たす形でM&Aを設計するかが大きな分岐点となります。詳しくは合併・会社分割の税務記事をご覧ください。
繰越欠損金が消滅するケース
繰越欠損金は便利な節税の弾ですが、以下のケースでは消滅・制限されることがあります。
消滅・制限の主なケース
| ケース | 影響 |
|---|---|
| 繰越期間(10年)の経過 | 使い切らなかった欠損金は自動的に消滅 |
| 青色申告承認の取消し | 過去の繰越欠損金がすべて消滅 |
| 2期連続の期限後申告 | 青色申告承認取消し→繰越欠損金消滅 |
| 非適格組織再編 | 合併・分割により繰越欠損金が引継不可 |
| 休業中の無申告 | 連続提出要件違反→繰越控除否認 |
| 税務調査での否認 | 過去の所得計算が否認→繰越欠損金減額 |
令和8年4月以降の防衛特別法人税との関係
令和8年4月1日以降開始する事業年度から、防衛特別法人税(4%)が施行されます。これは法人税額に上乗せ課税される新税で、繰越欠損金の使用との関係も理解しておく必要があります。
防衛特別法人税と繰越欠損金の関係
| 項目 | 取扱い |
|---|---|
| 課税ベース | 繰越欠損金控除後の法人税額に対し4%課税 |
| 基礎控除 | 法人税額500万円までは防衛特別法人税の対象外 |
| 繰越欠損金の使用 | 繰越欠損金を使って法人税額を500万円以下に抑えれば防衛特別法人税ゼロ |
📢 令和8年度税制改正のポイント
令和8年4月以降は、繰越欠損金の節税価値が「法人税の23.2%」だけでなく「防衛特別法人税4%」と「地方法人税10.3%」「住民税」「事業税」も含む実効税率約30〜35%相当に拡大します。繰越欠損金1,000万円の節税価値は、令和7年度では約230万円でしたが、令和8年度以降は防衛特別法人税の上乗せにより約260万円程度まで増加します。古い欠損金から優先的に使うFIFO方式の原則も変わりません。
よくある質問
📋 この記事のポイント
- 欠損金の繰越控除は最大10年間繰り越して将来の黒字と相殺できる節税制度
- 中小法人(資本金1億円以下)は所得の100%控除、大法人は50%が限度
- 適用要件は①青色申告書連続提出、②帳簿書類等10年保存、③別表七(一)添付
- 繰戻し還付は中小法人なら前期法人税を取り戻せる代替制度(調査リスクに注意)
- 古い欠損金から順に使うFIFO方式が税務上の原則
- M&A時の繰越欠損金引継ぎは支配関係発生5年以内に注意が必要
- 青色申告承認取消し・連続提出違反は繰越欠損金消滅の致命的リスク
- 令和8年4月以降の防衛特別法人税4%により繰越欠損金の節税価値が約260万円相当へ拡大
📋 まとめ
- 欠損金の繰越控除は法人税法57条に規定された10年繰越可能な節税制度
- 中小法人は所得の100%控除、大法人は50%が限度(資本金1億円超or大法人100%子法人で大法人扱い)
- 適用要件は青色申告書連続提出+帳簿書類10年保存+別表七(一)添付の3点
- 繰戻し還付は中小法人限定の代替制度で、前期法人税の還付が可能(税務調査リスクあり)
- 創業期・業績変動企業にとって不可欠の節税ツール
- M&A・組織再編時の繰越欠損金引継ぎには5年制限・みなし共同事業要件等の複雑な税務判断が必要
- 2期連続期限後申告・無申告・青色申告承認取消しで繰越欠損金が消滅するリスクに注意
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