公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。
譲渡損失の繰越控除|株式・不動産の損失を3年間繰り越す方法
「株で大損した分を来年の利益と相殺できるの?」「マイホームを売って損が出たけど、どうすれば税金が安くなる?」——そんな疑問を持つ投資家・不動産オーナーに向けて、譲渡損失の繰越控除の手続き・必要書類・3年間の節税シミュレーションを完全ガイドします。


「株で大損した分を来年の利益と相殺できるの?」「マイホームを売って損が出たけど、どうすれば税金が安くなる?」——そんな疑問を持つ投資家・不動産オーナーに向けて、譲渡損失の繰越控除の手続き・必要書類・3年間の節税シミュレーションを完全ガイドします。
🏆 結論:確定申告すれば、譲渡損失を翌年から3年間繰り越して将来の利益と相殺できる
上場株式等の譲渡損失は、確定申告をすることで翌年以後3年間繰り越し、将来の株式譲渡益や上場株式の配当と相殺できます。居住用財産(マイホーム)の譲渡損失は、一定の要件を満たせば給与所得などの他の所得との損益通算+3年間の繰越控除が可能です。最も重要なルールは「取引がない年も含めて、毎年連続して確定申告書を提出すること」。1年でも申告を飛ばすと、繰り越した損失が消滅します。
譲渡損失の繰越控除とは、資産を譲渡(売却)したことで生じた損失を、その年の所得で控除しきれなかった場合に、翌年以後3年間にわたって繰り越し、将来の利益から差し引くことができる制度です。
たとえば、今年200万円の株式譲渡損失が出た場合、来年80万円の譲渡益が出ても、繰り越した損失と相殺して課税ゼロにできます。残りの120万円はさらに翌年に繰り越せます。
なお、この制度を使うには確定申告が必須です。源泉徴収ありの特定口座を利用している方でも、繰越控除を受けるためには確定申告が必要になります。
損益通算の基本的なしくみについては「損益通算とは?対象となる所得と通算できないケースを完全解説」で詳しく解説しています。
すべての損失が繰越控除の対象になるわけではありません。以下の5つの類型に限定されています。
| 損失の類型 | 繰越期間 | 通算可能な所得 | 主な要件 |
|---|---|---|---|
| 上場株式等の譲渡損失 | 3年間 | 上場株式等の譲渡益・配当所得(申告分離課税選択時) | 付表+計算明細書を添付した確定申告を連続提出 |
| 先物取引に係る損失 | 3年間 | 先物取引に係る雑所得等(FX・商品先物・オプション等) | 付表を添付した確定申告を連続提出 |
| 居住用財産の買換え等の譲渡損失 | 3年間 | 給与所得・事業所得等(総所得金額等から控除) | 所有期間5年超+買換え資産の住宅ローンあり |
| 特定居住用財産の譲渡損失 | 3年間 | 給与所得・事業所得等(総所得金額等から控除) | 所有期間5年超+住宅ローン残高が売却価額を超える |
| 純損失(青色申告者) | 3年間 | 全所得(総所得金額等から控除) | 青色申告で期限内に確定申告書を提出 |
⚠️ 繰越控除できない損失
暗号資産(仮想通貨)の損失、一般株式等(非上場株式)の譲渡損失、マイホーム以外の土地建物の譲渡損失、ゴルフ会員権の譲渡損失には繰越控除制度がありません。また、NISA口座で生じた損失は、そもそも税務上「なかったもの」とみなされるため、繰越控除の対象外です。
上場株式等の譲渡損失の繰越控除を受けるための手続きは、全部で5ステップです。
譲渡損失が発生した年の翌年3月15日までに、以下の書類を添付した確定申告書を提出します。
損失を翌年に繰り越すためには、翌年も付表を添付した確定申告書を提出する必要があります。株式の取引が一切なかった年でも、確定申告は必要です。これが最も忘れやすく、最も重要なルールです。
繰り越した損失を実際に利益と相殺する年は、付表に加えて計算明細書も添付します。
繰越控除は最長3年間。損失が全額消化されるか、3年が経過するまで、毎年連続して確定申告書を提出します。
損失が全額消化されたら、翌年以降は繰越控除のための申告は不要です。源泉徴収ありの特定口座のみの方は、確定申告不要に戻ることもできます。
💡 実務のポイント
年間200件以上の確定申告を支援してきた経験上、繰越控除で最も多い失敗は「損失を繰り越しているのに、翌年の確定申告を忘れた」ケースです。特に、株式取引をしなかった年に「申告不要だと思った」という方が多く見られます。カレンダーアプリに「3月:繰越控除の確定申告」とリマインダーを設定しておくことをおすすめします。
参考: 国税庁「No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」
📐 シミュレーション前提条件
| 年度 | 譲渡益/損失 | 配当所得 | 繰越損失の控除額 | 繰越残高 | 節税額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1年目 | ▲200万円 | 20万円 | 20万円(配当と通算) | ▲180万円 | 約4.1万円 |
| 2年目 | 80万円 | 15万円 | 95万円 | ▲85万円 | 約19.3万円 |
| 3年目 | 150万円 | 10万円 | 85万円(残高全額) | 0円 | 約17.3万円 |
| 3年間の節税額合計 | 約40.7万円 | ||||
※概算値です。復興特別所得税の端数処理等により実際の金額とは異なります。
繰越控除を使わなければ、2年目と3年目の利益に合計約50万円の税金がかかるところ、1年目の損失と相殺することで約40.7万円の節税になります。確定申告の手間はかかりますが、投資金額が大きい方ほど効果は絶大です。
通常、土地・建物の譲渡損失は他の所得と損益通算できませんが、マイホーム(居住用財産)の譲渡損失には2つの特例があります。
| 特例の種類 | 適用場面 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除 | マイホームを売却して新しいマイホームに買い換えた場合 | 旧宅の所有期間5年超+新宅の住宅ローン(返済期間10年以上)あり |
| 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除 | マイホームを売却し、住宅ローン残高が売却価額を超える場合 | 所有期間5年超+売却価額がローン残高を下回る |
📐 シミュレーション前提条件
| 年度 | 給与所得 | 控除額 | 課税所得 | 繰越残高 | 節税額 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売却年 | 520万円 | 520万円 | 0円 | ▲980万円 | 約111万円 |
| 2年目 | 520万円 | 520万円 | 0円 | ▲460万円 | 約111万円 |
| 3年目 | 520万円 | 460万円 | 60万円 | 0円 | 約93万円 |
| 3年間の節税額合計(所得税+住民税) | 約315万円 | ||||
※概算値です。住宅ローン控除との併用時の計算は個別に異なります。
参考: 国税庁「No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき」
| 口座の種類 | 繰越控除の適用 | 確定申告の要否 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 特定口座(源泉徴収あり) | ○ | 確定申告が必要 | 申告すると合計所得金額に算入され、国保料・配偶者控除に影響する場合あり |
| 特定口座(源泉徴収なし) | ○ | 確定申告が必要 | そもそも確定申告が必要な口座タイプ |
| 一般口座 | ○ | 確定申告が必要 | 自分で計算明細書を作成する必要がある |
| NISA口座 | × | — | 損失はなかったものとみなされるため、繰越控除・損益通算ともに不可 |
💡 実務のポイント
「源泉徴収ありの特定口座」を利用している方が繰越控除のために確定申告すると、その口座の譲渡益や配当が合計所得金額に算入されます。これにより、国民健康保険料が上がったり、配偶者控除・配偶者特別控除の適用が受けられなくなったりする場合があります。繰越控除による節税額と、合計所得金額増加による負担増を比較して、確定申告すべきかどうかを判断することが重要です。
| 書類名 | 損失発生年 | 繰越年(取引なし) | 繰越年(取引あり) |
|---|---|---|---|
| 確定申告書第一表・第二表 | 必須 | 必須 | 必須 |
| 確定申告書第三表(分離課税用) | 必須 | 必須 | 必須 |
| 付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用) | 必須 | 必須 | 必須 |
| 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書 | 必須 | — | 必須 |
| 特定口座年間取引報告書 | あれば添付 | — | あれば添付 |
確定申告の全体的な手順については「確定申告の基礎知識」をご参照ください。各種所得控除の全体像は「所得控除一覧」もあわせてご確認ください。
上場株式等の譲渡損失の繰越控除は、純損失の繰越控除(青色申告)とは異なり、期限内申告が絶対要件ではありません。期限後申告でも、付表と計算明細書を添付した確定申告書を提出すれば、繰越控除の適用を受けられる場合があります。
繰越控除を受けるためには、損失が発生した年から控除を受ける年まで、「連続して」確定申告書を提出することが要件です。途中の年を飛ばして後から申告しても、連続性が認められないと繰越控除が否認される可能性があります。
⚠️ 注意:源泉徴収あり特定口座の損失を後から申告する場合
源泉徴収ありの特定口座で生じた損失について、損失発生年の確定申告で「記載しないことを選択」した場合、後から更正の請求で繰越控除を適用することは原則としてできません。これは「記載しなかったこと」が計算誤りではなく正当な選択であるため、更正の請求の要件を満たさないからです。損失が出た年にすぐ確定申告することが極めて重要です。
| No. | チェック項目 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 1 | 損失がNISA口座で発生していないか? | NISA口座の損失は繰越控除不可 |
| 2 | 損失が発生した年に確定申告書を提出したか? | 付表+計算明細書の添付が必要 |
| 3 | 翌年以降、毎年連続して確定申告書を提出しているか? | 取引がない年も付表の添付が必要 |
| 4 | 配当所得を申告分離課税で申告しているか? | 総合課税を選択した配当とは通算不可 |
| 5 | 合計所得金額の増加による不利益がないか? | 国保料・配偶者控除への影響を確認 |
| 6 | 損失が3年以内のものか? | 4年前以前の損失は繰越不可 |
📊 公認会計士の視点
法人であれば欠損金の繰越控除期間は10年間ですが、個人の譲渡損失の繰越控除は3年間に限定されています。保有株式に含み損がある場合、年末に一度売却して損失を確定させ(損出し)、翌営業日に買い戻すという「節税売り」のテクニックがあります。ただし、同一日の売買は平均取得単価に影響するため、翌営業日以降に買い戻すのが安全です。
📋 この記事のポイント