【税理士監修】損益通算とは?対象となる所得と通算できないケースを完全解説

【税理士監修】損益通算とは?対象となる所得と通算できないケースを完全解説
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

損益通算とは?対象となる所得と通算できないケースを完全解説

「副業の赤字で所得税を減らせるって本当?」「株の損失は給料と相殺できないの?」——そんな疑問をお持ちの経営者・個人事業主に向けて、損益通算の対象となる所得・通算順序・通算できないケースを図解付きで完全ガイドします。この記事を読めば、自分の損失を節税に使えるかどうかを判断できます。

🏆 結論:損益通算できるのは「不動産・事業・譲渡・山林」の4所得の赤字だけ

損益通算とは、所得税の計算で赤字の所得と黒字の所得を相殺し、課税対象額を減らせる制度です。ただし、赤字を他の所得と相殺できるのは「不動産所得」「事業所得」「譲渡所得」「山林所得」の4つだけ。株式の譲渡損失・FXの損失・暗号資産の損失は、給与所得や事業所得とは通算できません。また、不動産所得の赤字でも、土地取得の借入金利子に対応する部分は通算対象外です。通算には順序があり、グループ内→グループ間→山林・退職所得の3段階で進みます。

損益通算とは?基本的なしくみをわかりやすく解説

赤字の所得と黒字の所得を相殺する制度

損益通算とは、所得税法第69条に基づき、1年間の各種所得の計算上生じた損失(赤字)を、他の所得の金額(黒字)から差し引くことができる制度です。

たとえば、会社員として年収600万円(給与所得)を得ている方が、不動産投資で100万円の赤字(不動産所得の損失)を出した場合、損益通算により給与所得から100万円を差し引くことができます。その結果、課税対象となる所得が減り、所得税・住民税が安くなります。

🧮 かんたん計算例

給与所得 436万円(年収600万円)+ 不動産所得 ▲100万円
→ 損益通算後の総所得金額:336万円
→ 所得税の節税効果:約20万円(所得税率20%の場合)+住民税約10万円 = 合計約30万円の節税

損益通算と「内部通算」の違い

損益通算と混同しやすいのが「内部通算」です。内部通算とは、同じ所得区分の中で赤字と黒字を相殺することです。たとえば、複数の不動産を所有していて、A物件で100万円の利益、B物件で50万円の損失がある場合、まず不動産所得の中で通算して50万円の利益とし、その後に他の所得との損益通算に進みます。

損益通算を行う前に、まず各所得区分の中で内部通算を済ませておく必要があります。

損益通算できる所得は4つだけ|10種類の所得の判定表

損益通算とは、「不動産所得」「事業所得」「譲渡所得」「山林所得」の4つの所得の赤字に限り、他の所得の黒字から差し引くことができる制度です。覚え方は「ふ・じ・さん・じょう」(不・事・山・譲)です。

所得区分 赤字を他の所得と通算できるか 備考
不動産所得○ 通算可一部制限あり(後述)
事業所得○ 通算可個人事業主の赤字が対象
譲渡所得○ 通算可総合課税の譲渡所得に限る。株式・土地建物は原則不可
山林所得○ 通算可5年超保有の山林の伐採・譲渡
利子所得— 赤字が発生しない必要経費の控除がない
配当所得× 通算不可赤字が出ても0とみなされる
給与所得× 通算不可赤字が出ても0とみなされる
退職所得— 赤字が発生しない退職所得控除を超える部分のみ課税
一時所得× 通算不可赤字が出ても0とみなされる
雑所得× 通算不可赤字が出ても0とみなされる

参考: 国税庁「No.2250 損益通算」

💡 実務のポイント

年間300件以上の確定申告を支援してきた経験上、最も多い勘違いが「副業の赤字で給与から節税できる」というものです。副業がアルバイト(給与所得)の場合は損益通算できません。副業が個人事業(事業所得)として認められる場合のみ可能です。ただし、継続的な営利性がなく、実態が趣味的な活動の場合は「雑所得」に分類され、やはり損益通算できません。

損益通算の順序【4ステップで図解】

損益通算には法令で定められた順序があります(所得税法第69条、所得税法施行令第198条)。10種類の所得を3つのグループに分けて、段階的に通算していきます。

グループ分け:経常所得・非経常所得A・非経常所得B

グループ 含まれる所得 通算できる赤字
経常所得グループ利子・配当・不動産・事業・給与・雑不動産所得・事業所得の赤字
非経常所得グループA譲渡所得・一時所得総合課税の譲渡所得の赤字
非経常所得グループB山林所得・退職所得山林所得の赤字

ステップ1:各グループ内で通算する(第一次通算)

まず、各グループ内で赤字と黒字を相殺します。

ステップ2:グループ間で通算する(第二次通算)

ステップ1でまだ赤字が残っている場合、他のグループの黒字と相殺します。

ステップ3:山林所得・退職所得と通算する(第三次通算)

ステップ2でもまだ赤字が残っている場合、山林所得の金額から差し引きます。それでも赤字が残る場合は退職所得の金額から差し引きます。

ステップ4:損益通算後もまだ赤字が残る場合

全ステップを経ても赤字が残る場合は「純損失」となります。青色申告者は、純損失を翌年以後3年間繰り越すことができます(純損失の繰越控除)。白色申告者は原則として繰り越せませんが、災害による損失は繰越可能です。

譲渡損失の繰越控除については「譲渡損失の繰越控除|株式・不動産の損失を3年間繰り越す方法」で詳しく解説しています。

📊 公認会計士の視点

法人税では「益金−損金=所得」で全所得を一括計算しますが、所得税は10種類に分類して計算するため、損益通算という仕組みが必要になります。法人化を検討している個人事業主の方は、法人の方が損益の通算がシンプルで有利になるケースがあります。

損益通算「できそうでできない」8パターン|○×判定表

実務で「これは通算できるのか?」と迷いやすいパターンを整理しました。

損失の種類 通算したい相手の所得 結論 理由
株式の譲渡損失給与所得×申告分離課税の所得は他の所得と通算不可
株式の譲渡損失上場株式の配当所得申告分離課税を選択すれば通算可能
FX(外国為替証拠金取引)の損失事業所得×先物取引に係る雑所得等は他の所得と通算不可
FXの損失他のFX・商品先物の利益同じ分離課税グループ内で通算可能
暗号資産(仮想通貨)の損失給与所得・事業所得×雑所得の赤字は他の所得と通算不可
土地・建物の譲渡損失給与所得×分離課税。ただしマイホームの買換え損失は特例あり
ゴルフ会員権の譲渡損失事業所得×生活に通常必要でない資産の損失は通算不可
副業(継続的な事業)の赤字給与所得事業所得として認められれば通算可能

⚠️ 注意:副業の赤字を事業所得として通算する場合

副業の赤字で給与所得と損益通算するには、その副業が「事業所得」に該当する必要があります。2022年(令和4年)の国税庁通達改正により、「帳簿書類を保存していて、かつ社会通念上事業と認められる規模」でなければ事業所得ではなく雑所得に分類されます。実務では、継続的に取引があり、営利目的で、相当の労力を費やしているか——この3つが判断のポイントです。赤字を出すためだけに開業届を提出しても、実態がなければ税務調査で否認されるリスクがあります。

不動産所得の損益通算で通算対象外になる3つのケース

不動産所得は損益通算の対象ですが、赤字の原因によっては通算が制限される場合があります。不動産投資をされている方は必ず確認してください。

ケース1:土地取得のための借入金利子

不動産所得の赤字のうち、土地を取得するために要した借入金の利子に対応する部分は、損益通算の対象外です(租税特別措置法第41条の4)。建物部分の借入金利子は問題ありません。

🧮 具体例:土地取得の借入金利子の計算

不動産所得の赤字:▲200万円
うち土地取得の借入金利子:80万円
→ 損益通算できる金額:200万円 − 80万円 = 120万円
(80万円分は他の所得と通算できない)

ケース2:別荘など生活に通常必要でない資産の貸付け

別荘やリゾートマンションなど、生活に通常必要でない資産の貸付けによって生じた赤字は、損益通算の対象外です。自分が使わないときだけ貸し出しているような別荘の赤字は、他の所得から差し引くことができません。

ケース3:国外中古建物の簡便法による減価償却費

2021年分以降、国外にある中古建物から生じた不動産所得の損失のうち、耐用年数を「簡便法」で計算した減価償却費に相当する部分の金額は、なかったものとみなされます。これは、国外中古不動産を利用した過度な節税スキームを防止するために導入された規制です。

参考: 国税庁「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」

💡 実務のポイント

不動産投資で「節税目的で赤字を出す」という提案を受けることがありますが、損益通算の制限ルールを理解していないと期待通りの節税効果が得られません。特に土地の割合が高い物件(マンション等)は、借入金利子のうち土地部分が通算対象外になるため要注意です。不動産投資の節税効果を正確に試算するには、土地と建物の借入金利子を分けて計算する必要があります。

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ケース別・損益通算の節税シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 年収600万円の会社員(給与所得436万円、所得控除は基礎控除48万円+社会保険料控除90万円のみ)
  • 所得税率20%(課税所得330万円超695万円以下の区分)の部分で計算
  • 住民税は一律10%で概算

ケース1:副業(個人事業)で赤字100万円のケース

項目 損益通算なし 損益通算あり
給与所得436万円436万円
事業所得▲100万円
総所得金額436万円336万円
課税所得金額298万円198万円
節税額(所得税+住民税)約30万円

ケース2:不動産投資で赤字200万円(うち土地取得借入金利子60万円)のケース

項目 金額
不動産所得の赤字▲200万円
うち土地取得借入金利子(通算不可)▲60万円
損益通算できる金額▲140万円
節税額(所得税+住民税)約42万円

ケース3:株式売却で損失150万円のケース

株式の譲渡損失は、給与所得や事業所得とは損益通算できません。ただし、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得・特定公社債の利子所得とは通算可能です。さらに、通算しきれない損失は翌年以後3年間繰り越せます。

項目 金額
株式の譲渡損失▲150万円
上場株式の配当金(申告分離課税選択)30万円
通算後の損失(翌年へ繰越可能)▲120万円
今年の節税額(配当の源泉徴収税額の還付)約6万円

※概算値です。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

分離課税の所得と損益通算の関係

原則:分離課税の損失は他の所得と通算できない

申告分離課税の対象となる所得で生じた損失は、原則として他の所得と損益通算できません。これは、分離課税が「他の所得と合算せず別々の税率で税額を計算する」しくみだからです。

例外:同じ分離課税グループ内では通算可能

分離課税の所得であっても、同じグループ内であれば通算できます。

分離課税グループ 通算可能な範囲
上場株式等の譲渡所得等上場株式等の配当所得(申告分離選択時)・特定公社債の利子所得と通算可
土地・建物の譲渡所得短期譲渡と長期譲渡の間で通算可。ただし通算後の赤字は他の所得と通算不可
先物取引に係る雑所得等FX・商品先物・日経225先物の間で通算可

特例:マイホームの買換え等の場合の損益通算の特例

一定の居住用財産(マイホーム)を譲渡して損失が生じた場合には、一定の要件のもとで他の所得との損益通算が認められます(居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算の特例、特定居住用財産の譲渡損失の損益通算の特例)。通算しきれない損失は翌年以後3年間繰り越せます。

参考: 国税庁「No.3203 不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合」

損益通算の確定申告の手続き方法

必要な書類と申告書の記載方法

損益通算を行うためには、確定申告が必要です。会社員で年末調整を受けている方でも、損益通算を行う年は確定申告書を提出しなければなりません。

必要な書類は以下の通りです。

  1. 確定申告書第一表・第二表:所得金額・控除額・税額を記載
  2. 確定申告書第三表:分離課税の所得がある場合
  3. 確定申告書第四表(損失申告用):損益通算で控除しきれない損失がある場合(繰越控除の適用を受ける場合)
  4. 各所得の計算根拠となる書類:給与の源泉徴収票、不動産所得の収支内訳書(または青色申告決算書)、事業所得の青色申告決算書 等

確定申告の全体的な手順については「確定申告の基礎知識」をご参照ください。また、青色申告の繰越控除のメリットについては「青色申告のメリット」で解説しています。

e-Taxでの申告が便利

国税庁の確定申告書作成コーナーやe-Taxを利用すると、所得金額を入力するだけで損益通算の順序に従った自動計算が行われます。特に複数の所得がある方は、手計算よりもe-Taxの利用をおすすめします。

💡 実務のポイント

損益通算で注意すべきは、「赤字の年こそ確定申告が大切」ということです。青色申告者が確定申告を行わないと、純損失の繰越控除を受ける権利を失います。事業がうまくいかず赤字だった年こそ、翌年以降の節税のために確定申告を忘れずに行ってください。

損益通算と繰越控除の関係

青色申告者は純損失を3年間繰り越せる

損益通算を行ってもなお赤字が残る場合(純損失)、青色申告者は翌年以後3年間にわたり繰り越すことができます。たとえば、今年200万円の純損失が残った場合、来年の黒字から200万円を差し引いて課税所得を減らせます。

繰越控除が使える損失の種類

損失の種類 繰越期間 要件
純損失(青色申告)3年間期限内に確定申告書を提出
純損失(白色申告・災害損失のみ)3年間期限内に確定申告書を提出
上場株式等の譲渡損失3年間確定申告(分離課税)を選択
居住用財産の譲渡損失3年間一定の要件を満たすこと
先物取引に係る損失3年間確定申告(分離課税)を選択

損益通算を活用するための実務チェックリスト

No. チェック項目 確認のポイント
1赤字の所得は「不動産・事業・譲渡・山林」のいずれかに該当するか?雑所得・一時所得の赤字は通算不可
2総合課税の所得か、分離課税の所得か?分離課税の損失は原則として他の所得と通算不可
3不動産所得の赤字に「土地取得借入金利子」が含まれていないか?含まれている場合はその部分を除外
4副業の赤字は「事業所得」として認められるか?帳簿保存・継続性・営利性がなければ雑所得
5損益通算後もまだ赤字が残るか?青色申告者は繰越控除を検討
6確定申告の期限内に申告書を提出したか?繰越控除は期限内申告が要件

よくある質問(FAQ)

損益通算できる所得を覚える方法はありますか?
「ふ・じ・さん・じょう」(不動産・事業・山林・譲渡)の語呂合わせで覚えられます。この4つの所得の赤字だけが、他の所得の黒字と相殺できます。
会社員が副業で赤字を出した場合、必ず損益通算できますか?
副業が「事業所得」として認められる場合のみ可能です。継続的な営利活動で帳簿書類を備えていることが要件です。副業収入が年間300万円以下で帳簿保存がない場合や、趣味の延長のような活動は「雑所得」に分類され、赤字を損益通算することはできません。
株式投資の損失は給与所得と損益通算できますか?
できません。株式の譲渡損失は申告分離課税の対象であり、給与所得などの総合課税の所得とは通算できません。ただし、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得・特定公社債の利子所得とは通算可能です。通算しきれない損失は3年間繰り越せます。
FXの損失は事業所得と損益通算できますか?
できません。FX(外国為替証拠金取引)の損失は「先物取引に係る雑所得等」として申告分離課税の対象となり、事業所得や給与所得とは通算できません。ただし、他のFX取引・商品先物取引・日経225先物取引等の間では通算可能で、3年間の繰越控除もあります。
暗号資産(仮想通貨)の損失は損益通算できますか?
現行制度では、暗号資産の損失は「雑所得」に分類されるため、他の所得との損益通算はできません。また、繰越控除の制度もありません。同じ年の他の雑所得(暗号資産間を含む)との内部通算は可能です。
不動産所得の赤字は全額損益通算できますか?
全額通算できるとは限りません。不動産所得の赤字のうち、土地を取得するための借入金の利子に対応する部分、別荘など生活に通常必要でない資産の貸付けによる損失、国外中古建物の簡便法による減価償却費相当額は、損益通算の対象外です。
損益通算しても赤字が残った場合はどうなりますか?
青色申告者であれば、残った赤字(純損失)を翌年以後3年間繰り越して、将来の黒字から差し引くことができます(純損失の繰越控除)。ただし、損失が発生した年に確定申告書を期限内に提出していることが要件です。白色申告者は、災害による損失を除き繰越控除を受けることはできません。
損益通算の順序を間違えた場合はどうなりますか?
損益通算の順序は所得税法施行令第198条で定められており、間違えると税額が変わる可能性があります。ただし、国税庁の確定申告書作成コーナーやe-Taxを利用すれば自動計算されるため、手計算でなければ順序の間違いはほとんど発生しません。不安な方は税理士にご相談ください。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 損益通算できるのは「不動産・事業・譲渡・山林」の4つの所得の赤字だけ
  • 通算には順序がある:経常所得グループ内→非経常所得グループ内→グループ間→山林・退職
  • 株式・FX・暗号資産の損失は給与所得・事業所得とは通算できない
  • 不動産所得の赤字でも、土地取得の借入金利子に対応する部分は通算対象外
  • 副業の赤字で損益通算するには「事業所得」として認められることが必要
  • 損益通算後もまだ赤字が残る場合、青色申告者は3年間の繰越控除が使える
  • 赤字の年こそ確定申告が大切——繰越控除の権利を確保するため

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