公認会計士 第47928号・税理士 第159175号
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2023年4月に労働基準法施行規則の改正で解禁されたデジタル給与払い。2024年8月に初めてPayPayが指定を受け、現在は4社(PayPay・楽天ペイ・au PAY・COIN+)が対応。導入には労使協定の締結と個別同意取得が必須です。指定資金移動業者の選び方から就業規則改定、システム改修、運用時の注意点まで、中小企業の人事担当者向けに体系的に解説します。


2023年4月に労働基準法施行規則の改正で解禁されたデジタル給与払い。2024年8月に初めてPayPayが指定を受け、現在は4社(PayPay・楽天ペイ・au PAY・COIN+)が対応。導入には労使協定の締結と個別同意取得が必須です。指定資金移動業者の選び方から就業規則改定、システム改修、運用時の注意点まで、中小企業の人事担当者向けに体系的に解説します。
🏆 結論:デジタル給与払いの導入は「労使協定→同意書→代替口座確保」の3点セット
デジタル給与払いは、銀行口座への振込と並ぶ賃金支払の選択肢として2023年4月に解禁された制度です。指定資金移動業者は2025年4月時点で4社(PayPay・楽天ペイ・au PAY・COIN+)で、各社の受取上限は10〜30万円とバラつきがあります。導入には過半数労働組合または過半数代表者との労使協定締結、対象従業員からの個別同意書取得、指定代替口座(銀行口座)の確保の3点が必須です。若手・外国人労働者の口座開設ハードルを下げる効果がある一方、システム改修コストや受取上限超過時の複雑な処理など、実務上の課題も多く存在します。
デジタル給与払い(正式名称:資金移動業者の口座への賃金支払)は、労働基準法第24条第1項(賃金の通貨払い原則)の例外として、2023年4月1日施行の労働基準法施行規則改正で創設された制度です。従業員の同意を前提に、厚生労働大臣が指定した資金移動業者(PayPay・楽天ペイ等)の口座で賃金を受け取れるようになりました。制度の詳細は厚生労働省「賃金のデジタル払いについて」で公開されています。
| 支払方法 | 根拠 | 従業員同意 |
|---|---|---|
| 現金(通貨払い) | 労基法第24条第1項(原則) | 不要 |
| 銀行口座振込 | 労基法施行規則第7条の2第1号 | 必要(個別) |
| 証券総合口座振込 | 労基法施行規則第7条の2第2号 | 必要(個別) |
| 資金移動業者口座(デジタル給与) | 労基法施行規則第7条の2第1項第3号 | 必要(個別) |
デジタル給与払いの政策的な狙いは、次の3点です。
デジタル給与払いに利用できる資金移動業者は、厚生労働大臣の指定を受けた業者のみです。金融庁に登録された約80社の資金移動業者のうち、厚労省指定は2025年4月時点で4社です。
| 業者名 | サービス名 | 受取上限 | 指定受領日 |
|---|---|---|---|
| PayPay株式会社 | PayPay給与受取 | 20万円 | 2024年8月9日 |
| 株式会社リクルートMUFGビジネス | COIN+(スタンダード) | 30万円 | 2024年10月 |
| 楽天Edy株式会社 | 楽天ペイ給与受取 | 10万円 | 2025年3月 |
| auペイメント株式会社 | au PAY 給与受取 | 10万円 | 2025年頃 |
参考: 厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(指定業者一覧)」
💡 実務のポイント
従業員のニーズが多様なため、複数の指定業者を選択できるようにするのが実務上望ましい運用です。弊所が担当する飲食チェーン(従業員100名)では、労使協定でPayPayと楽天ペイの2社を並行指定し、従業員が好みで選べる制度設計にしました。若年層はPayPay、楽天経済圏ユーザーは楽天ペイといった利用実態に合わせた選択肢提供が定着しやすくなります。
デジタル給与払いを実際に導入する際の手順を、厚生労働省の指針に沿って解説します。
事業場に過半数労働組合がある場合はその組合と、ない場合は過半数代表者と、次の4項目を含む労使協定を締結します。
賃金支払方法が就業規則(常時10人以上事業場)または給与規程に明記されている場合、デジタル給与払いの選択肢を追加する改定が必要です。労基法第89条第2号で賃金の支払方法は絶対的必要記載事項とされているため、条文の書き換えと労基署への届出(過半数代表者の意見書添付)を行います。労基法施行規則の条文はe-Gov法令検索「労働基準法施行規則」で参照できます。
対象従業員に対して、次の事項を説明します。説明は資金移動業者に委託することも可能ですが、同意取得は会社が行う必要があります。
デジタル給与払いを希望する従業員から、書面または電磁的記録で同意書を取得します。厚労省のひな形では次の情報を記載します。
📐 同意書の記載事項(厚労省ひな形)
既存の給与計算システム・勤怠システム・振込データ作成機能が資金移動業者APIに対応しているかを確認します。未対応の場合は改修・バージョンアップが必要です。2024年11月時点で、freee人事労務、マネーフォワードクラウド給与、SmartHR、ジョブカン給与計算、奉行クラウド等の主要SaaSはPayPay連携に対応済みです。
締め日・支給日に合わせて、各従業員の選択に応じた金額を銀行口座と資金移動業者口座に分割して振込みます。振込データの作成は給与ソフトが自動処理する運用が主流です。
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賃金のデジタル払いに関する労使協定書(例)
株式会社○○(以下「会社」)と△△△△(労働者の過半数代表者、以下「組合」)は、労働基準法施行規則第7条の2第1項第3号の規定に基づき、次のとおり協定する。
第1条(対象労働者) 本協定による賃金の支払を希望し、会社に対し必要な同意書を提出した労働者を対象とする。
第2条(対象賃金) 毎月の給与および賞与(各労働者の希望額の範囲内)とする。
第3条(指定資金移動業者) 厚生労働大臣の指定を受けた次の資金移動業者の口座とする。(1)PayPay株式会社(2)楽天Edy株式会社
第4条(実施開始時期) 令和○年○月○日から実施する。
デジタル給与払いを選択しても、必ず預貯金口座(銀行口座)を代替口座として登録する必要があります。これは労基法施行規則第7条の2第1項第3号イで明記された要件で、次の3つの役割を果たします。
| 代替口座の役割 | 運用の流れ |
|---|---|
| 受取上限超過分の自動出金 | PayPay20万円を超える部分を銀行口座に自動送金 |
| 指定業者破綻時の弁済 | 資金移動業者破綻後6営業日以内に代替口座へ弁済 |
| 取引制限時の受け皿 | アカウント凍結等で受取不能時の給与支払経路確保 |
⚠️ 注意:代替口座がない従業員はデジタル給与払い不可
デジタル給与払いの政策目的に「銀行口座のない外国人労働者への対応」が含まれていますが、実際には代替口座(銀行口座)の保有が必須のため、完全に銀行口座なしで運用することはできません。これは制度設計上のジレンマで、銀行口座をまだ持てない外国人・未成年・失業給付受給者等には、実質的にデジタル給与払いが使えません。銀行口座開設ハードルが下がる他の制度改正を待つ必要があります。
各指定業者の受取上限を超える金額を振り込む場合、超過分は指定代替口座(銀行口座)へ自動出金される仕組みです。
🧮 シミュレーション:月給28万円のPayPay給与受取
月給28万円(手取りベース)の従業員がPayPayで受け取る場合、受取上限20万円を超える8万円は銀行口座へ自動出金されます。結果として、PayPayアカウントに20万円、銀行口座に8万円が分割して着金します。従業員は「PayPayアカウントを生活資金にし、残りは銀行口座で管理」という使い分けが自然にできます。
同意書で従業員は「受け取り希望額」を指定できます。全額のデジタル給与払いを希望する従業員、給与の一部(例:5万円のみ)をデジタル払いにする従業員など、個別の設定が可能です。これにより、生活費の一部だけをキャッシュレス専用に切り分けるといった運用もできます。
| 対象 | メリット |
|---|---|
| 従業員(受取側) | 即時決済に使える・チャージの手間削減・銀行口座ない場合の受取手段 |
| 会社(支払側) | 振込手数料削減の可能性・若手採用の訴求力・外国人雇用の手続簡素化 |
| 社会 | キャッシュレス推進・金融包摂の拡大・ギグエコノミー対応 |
| 対象 | デメリット |
|---|---|
| 従業員(受取側) | 預金保険対象外・ポイント失効・アカウント凍結リスク・使えない場面 |
| 会社(支払側) | 労使協定・就業規則改定の工数・給与システム改修コスト・個人情報管理 |
| 制度 | 受取上限の低さ・代替口座必須の矛盾・限られた指定業者数 |
💡 実務のポイント
弊所が担当する企業20社超でデジタル給与払いの導入状況を確認すると、実際に希望する従業員は全体の5〜15%程度にとどまります。すでに全員が銀行口座を持っている環境では、わざわざ移行する動機が弱いためです。最も導入効果が大きいのは、外国人労働者比率が高い建設業・飲食業・製造業で、採用ブランディングと事務工数削減の両方に効きます。
デジタル給与払いに対応する主要給与計算SaaSは以下のとおりです。PayPayが先行したため、多くのシステムがPayPay連携を優先実装しています。
| 給与システム | PayPay対応 | その他対応 |
|---|---|---|
| freee人事労務 | 対応済 | 楽天・au検討中 |
| マネーフォワードクラウド給与 | 対応済 | 順次対応 |
| SmartHR | 対応済 | 順次対応 |
| ジョブカン給与計算 | 対応済 | 順次対応 |
| 奉行クラウド | 対応済 | 順次対応 |
| 弥生給与 | 検討中 | — |
| 自社開発システム | 個別改修必要 | 個別改修必要 |
| エクセル管理 | 手動振込で対応可 | 手動振込で対応可 |
デジタル給与払いは単体の制度ではなく、働き方改革の流れの中で登場しました。特に関連するのが、2019年4月から努力義務化された「勤務間インターバル制度」(労働時間等設定改善法第2条第1項)です。
勤務間インターバル制度は、1日の終業から翌日の始業までの間に一定時間以上の休息時間を設けることを義務付ける制度です。EU指令では11時間が最低基準ですが、日本では努力義務のため9〜11時間の間で企業が自主的に設定するのが一般的です。
📢 働き方改革関連法の動向
勤務間インターバル制度は現時点で努力義務ですが、助成金(勤務間インターバル導入コース・働き方改革推進支援助成金)が用意されているほか、将来的に法的義務化される可能性もあります。デジタル給与払いと合わせて、勤怠管理・給与支払のデジタル化を進める中小企業は、補助金・助成金を活用しやすい状況となります。
| 失敗パターン | 原因 | 予防策 |
|---|---|---|
| 労使協定なしで導入 | 法令要件の確認不足 | 導入前に社労士に協定文面チェックを依頼 |
| 就業規則改定なしで運用 | 労基法第89条違反 | 改定後に労基署届出・意見書添付 |
| 個別同意書なしで振込 | 説明不足・書面管理不備 | 同意書を全員分ファイリング |
| 代替口座未指定のまま運用 | 労基法施行規則違反 | 同意書のフォーマットで必須化 |
| 受取上限超過分の処理ミス | システム設定の確認漏れ | テスト振込で自動出金を確認 |
| 破綻時の対応遅延 | 代替口座情報の管理不備 | 代替口座情報を常時更新 |
📋 デジタル給与払いのポイント
デジタル給与払いは、キャッシュレス社会推進と金融包摂の目的で2023年4月に解禁された新しい賃金支払の選択肢です。2024年8月のPayPay指定から始まり、2025年4月時点で4社の指定業者が稼働しています。中小企業が導入する際は、労使協定の締結・就業規則改定・個別同意取得・給与システム改修の4段階の準備が必要となります。
給与計算の基礎は給与計算の基礎|社会保険料・源泉所得税・住民税の天引きの仕組みと手順、源泉所得税の詳細は給与の源泉所得税の計算と納付|甲欄・乙欄・丙欄の使い分けで解説しています。労使協定を含む就業規則の整備は就業規則の作成と届出|法定記載事項・モデル条文・労基署手続き、社会保険の全体像は社会保険の全体像|健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険の仕組み、人材活用の助成金はキャリアアップ助成金の活用|正社員化コースの要件と申請手順をご確認ください。
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