【税理士監修】エンジェル税制の活用と確定申告|スタートアップ投資の税制優遇

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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エンジェル税制の活用と確定申告|スタートアップ投資の税制優遇
「エンジェル税制で節税できるって聞いたけど、仕組みがよくわからない」という個人投資家・経営者に向けて、優遇措置A・B・プレシード・シード特例の違いから確定申告の具体的な手順まで完全ガイドします。この記事を読めば、自分に最適な優遇措置を選び、確定申告で正しく適用できます。
🏆 結論:エンジェル税制は「いつ」「何から」控除するかで4つに分かれる
エンジェル税制は、設立10年未満のベンチャー企業に投資した個人投資家が税制優遇を受けられる制度です。投資時点の優遇措置は4種類あり、優遇措置Aは「総所得金額から控除」(所得控除)、優遇措置Bは「株式譲渡益から控除」(課税繰延)、プレシード・シード特例は「株式譲渡益から控除+20億円まで非課税」、起業特例は「自己出資額を株式譲渡益から控除+20億円まで非課税」です。株式譲渡益がある方はB系、給与や事業の所得が多い方はAが有利になる傾向があります。いずれも確定申告が必須です。
エンジェル税制とは?制度の基本的なしくみ
制度の目的と概要
エンジェル税制とは、成長性の高いベンチャー企業(スタートアップ)に投資した個人投資家(エンジェル投資家)が、投資時点と株式売却時点の2つのタイミングで税制上の優遇措置を受けられる制度です。租税特別措置法第37条の13等に基づき、リスクマネーの供給を促進してイノベーションと経済の活性化を図ることを目的としています。
この制度のポイントは、投資先のベンチャー企業と個人投資家の双方が一定の要件を満たす必要があること、そして確定申告をしなければ優遇措置を受けられないことです。年末調整では処理できないため、普段は年末調整だけで済ませている給与所得者も、エンジェル税制を利用する年は確定申告が必須になります。
投資時点と売却時点の2段階の優遇
エンジェル税制の優遇は、大きく「投資した年」と「売却した年」の2つの時点で受けられます。
| タイミング |
優遇の内容 |
対象税目 |
| 投資した年 | 優遇措置A/B/プレシード・シード特例/起業特例のいずれか | 所得税のみ(住民税は対象外) |
| 売却した年 | 売却損失を他の株式譲渡益と通算(相殺)。相殺しきれない損失は翌年以降3年間繰越可能 | 所得税・住民税 |
※投資時点の優遇措置は所得税のみが対象です。住民税には適用されません。一方、売却時の損益通算は所得税・住民税ともに適用されます。
4つの優遇措置の違い【完全比較表】
投資した年に受けられる優遇措置は4種類あります。投資先企業の設立年数や研究開発費の状況によって利用できる措置が異なります。
| 項目 |
優遇措置A |
優遇措置B |
プレシード・シード特例 |
起業特例 |
| 控除の種類 | 所得控除(寄附金控除) | 株式譲渡益からの控除 | 株式譲渡益からの控除 | 株式譲渡益からの控除 |
| 控除額 | 投資額−2,000円 | 投資額全額 | 投資額全額 | 出資額全額 |
| 控除上限 | 総所得金額の40%と800万円のいずれか低い方 | 上限なし | 非課税は20億円まで(超過分は課税繰延) | 非課税は20億円まで |
| 対象企業の設立年数 | 5年未満 | 10年未満 | 10年未満(追加要件あり) | 自ら設立 |
| 株式譲渡益の有無 | 不要 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 取得価額の調整 | あり(課税繰延) | あり(課税繰延) | 20億円まで不要(非課税) | 20億円まで不要(非課税) |
| 選択の可否 | A要件を満たせばBも選択可 | B要件のみの場合はB一択 | 追加要件を満たす場合に選択可 | 自ら起業した場合のみ |
💡 実務のポイント
優遇措置Aの要件を満たす企業に投資した場合、確定申告時にAとBのどちらかを選択できます。逆に、Bの要件のみを満たす企業(設立5年以上10年未満)に投資した場合はBしか選べません。投資先企業から届く「確認書」のチェック位置を見て、どの優遇措置が使えるか判断してください。
優遇措置AとBの選択基準【判定フロー】
Aが有利なケース vs Bが有利なケース
優遇措置AとBのどちらが有利かは、投資家の所得構成と株式譲渡益の有無によって変わります。以下の判定表で自分のケースを確認してください。
| あなたの状況 |
おすすめ |
理由 |
| 株式譲渡益がない+給与所得が高い | A | Bは譲渡益がないと控除できない。Aは総所得から控除 |
| 株式譲渡益が大きい(投資額以上) | B | Bは投資額全額を譲渡益から控除でき、上限なし |
| 所得税率が高い(所得900万円超) | A | 所得控除により高い税率分の節税効果。Bは一律15% |
| 投資額が800万円を大幅に超える | B | Aの上限は800万円だが、Bは上限なし |
| ふるさと納税を多額に利用している | B | Aはふるさと納税と合算で総所得40%が上限 |
総所得金額別の節税シミュレーション
📐 シミュレーション前提条件
- エンジェル税制対象企業に300万円を投資
- 優遇措置A:投資額−2,000円 = 2,998,000円を所得控除
- 優遇措置B:300万円を株式譲渡益から控除(税率15%+住民税5%のうち所得税分のみ)
- 所得控除は基礎控除のみで計算(簡略化)
| 総所得金額 |
措置Aの節税効果 |
措置Bの節税効果 |
有利な方 |
| 500万円(税率20%) | 約60万円 | 約45万円 | A |
| 1,000万円(税率33%) | 約99万円 | 約45万円 | A |
| 2,000万円(税率40%) | 約120万円 | 約45万円 | A |
※措置Bの節税効果は300万円×15%(所得税分)で一律約45万円。措置Aは所得税率が高いほど節税効果が大きくなります。ただし、措置Aは売却時に取得価額が調整されるため、将来売却時の譲渡益が増加します(課税繰延)。実質的な節税効果は売却時の税負担も含めて判断する必要があります。
⚠️ 注意:取得価額の調整を忘れない
優遇措置AまたはBの適用を受けた株式を将来売却する際は、取得価額から優遇措置の適用額を差し引いて譲渡益を計算します(取得価額の調整)。つまり、投資時点の優遇措置A・Bは「税の免除」ではなく「課税の繰延」です。一方、プレシード・シード特例は20億円まで取得価額の調整が不要(=非課税)であり、大きなメリットがあります。
対象となる企業と投資家の要件
企業側の主な要件
| 要件 |
優遇措置A |
優遇措置B |
| 設立年数 | 5年未満 | 10年未満 |
| 外部資本比率 | 1/6以上(A-2は1/20以上) | 1/6以上 |
| 上場の有無 | 未上場であること |
| 大規模法人グループ | 大規模法人グループに属していないこと |
| 風俗営業等 | 風俗営業等に該当しないこと |
投資家側の要件(対象外となるケース)
以下に該当する個人投資家はエンジェル税制の対象外です。
| 対象外となるケース |
| 投資先企業が同族会社に該当し、持株割合が大きい上位3株主グループに属している場合 |
| 自らが営んでいた事業の全部を投資先企業に承継させた個人およびその親族等 |
| 投資した株式をその年中に譲渡等した場合 |
投資方法の3つのルート
エンジェル税制の適用を受けるための投資方法は3つあります。ルートによって確認申請の手続きが異なります。
| 投資ルート |
確認申請の主体 |
具体例 |
| 直接投資 | 投資先企業が都道府県に申請 | 企業と直接交渉して出資 |
| 認定投資事業有限責任組合(LPS)経由 | LPSが確認書を発行 | ベンチャーキャピタルのファンド経由 |
| 株式投資型クラウドファンディング | 認定少額電子募集取扱業者が確認書を発行 | FUNDINNO、イークラウド等のプラットフォーム |
なお、FUNDINNO MARKETなどの二次取引で株式を取得した場合(譲渡による取得)は、エンジェル税制の対象外です。新株の「払込みによる取得」のみが対象となります。
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確定申告の手順【5ステップ】
ステップ1:投資先から書類を受け取る
投資した翌年の1〜2月ごろ、投資先企業またはクラウドファンディングプラットフォームから確定申告用の書類が届きます(またはダウンロード可能になります)。必要な書類は以下の5種類です。
| 書類名 |
入手先 |
| 都道府県知事の確認書(または認定業者の確認書+認定証の写し) | 投資先企業/プラットフォーム |
| 株式異動状況明細書 | 投資先企業/プラットフォーム |
| 一定の株主に該当しない旨の確認書 | 投資先企業 |
| 株式投資契約書の写し | 投資先企業/プラットフォーム |
| 取得した株式の明細書 | 投資先企業/プラットフォーム |
ステップ2:適用される優遇措置を確認する
確認書のチェック位置で、どの優遇措置が利用できるか判断します。優遇措置Aの要件を満たす場合はBも選択可能ですので、前述の判定フローで有利な方を選んでください。
ステップ3:確定申告書を作成する
優遇措置AとBで作成する申告書が異なります。
| 優遇措置 |
必要な申告書・明細書 |
| 措置A | 確定申告書第一表・第二表+寄附金控除の明細書 |
| 措置B・プレシード・シード特例 | 確定申告書第一表・第二表・第三表+株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書 |
ステップ4:申告書と添付書類を提出する
申告書と上記の5種類の書類を税務署に提出します。e-Taxで申告データを送信する場合でも、エンジェル税制の添付書類(確認書等)はe-Taxで送信できないため、別途郵送が必要です。送信後に表示される「申告書等送信票」を印刷し、添付書類と一緒に管轄税務署に郵送してください。
ステップ5:還付金を受け取る
還付がある場合は、申告後1か月〜1か月半程度で指定口座に振り込まれます。e-Taxで申告した場合は約3週間で還付されるケースもあります。
確定申告の基本的な流れについては「確定申告の基礎知識と手続きの流れ」をご参照ください。
令和7年度税制改正による変更点
繰戻し還付制度の創設
令和7年度税制改正で、エンジェル税制に「繰戻し還付制度」が創設されました。令和8年1月1日以降に取得した株式から適用されます。
従来の制度では、株式譲渡益が発生した年と同じ年にスタートアップへの投資を行わなければ優遇措置Bやプレシード・シード特例の適用を受けられませんでした。改正後は、譲渡益が発生した年の翌年末までに投資すれば、前年の譲渡益に遡って控除し、還付を受けることが可能になります。
| ステップ |
時期 |
手続き内容 |
| ① | N年中 | 株式を売却して譲渡益が発生 |
| ② | N+1年2〜3月 | N年分の確定申告で「翌年にスタートアップ投資する見込み」の書類を添付 |
| ③ | N+1年中 | スタートアップに投資し、確認書を取得 |
| ④ | N+2年2〜3月 | N+1年分の確定申告で優遇措置を適用し、N年分の税額との差額を還付請求 |
📢 令和7年度改正の注意点
繰戻し還付制度は令和8年1月1日以降に取得した株式から適用されます。令和7年中の投資は対象外です。また、プレシード・シード特例については、取得した年の翌年末までの保有期間が設定され、保有期間内に売却した場合は非課税ではなく課税繰延に切り替わります(IPO・M&A等による譲渡を除く)。
令和7年度税制改正の所得税関連の全体像については「令和7年度税制改正のポイント(所得税関連)」で解説しています。
売却時の損益通算と繰越控除
エンジェル税制の対象となる株式を売却して損失が生じた場合、以下の優遇を受けられます。これは優遇措置A・B・プレシード・シード特例の全てに共通です。
| 優遇内容 |
詳細 |
| 損益通算 | 売却損失をその年の他の株式等譲渡益(上場株式を含む)と通算可能 |
| 繰越控除 | 通算しきれない損失は翌年以降3年間にわたって繰越可能 |
| 破産・解散の場合 | 投資先企業が破産・解散して株式が無価値になった場合も損失として計上可能 |
📊 公認会計士の視点
エンジェル投資は高リスク・高リターンの投資です。投資先企業が破綻して投資額がゼロになるリスクは常に存在します。ただし、エンジェル税制を活用すれば、投資時点で所得税の軽減を受けた上に、損失が出た場合も他の株式譲渡益と通算できるため、税務上のリスクヘッジが可能です。ポートフォリオの一部としてスタートアップ投資を検討する際は、税制優遇も含めたトータルリターンで判断することをおすすめします。
所得控除の全体像については「所得控除の一覧と適用要件」をご参照ください。
エンジェル税制のメリット・デメリットと注意点
メリット
| メリット |
内容 |
| 投資時点の節税 | 措置Aで所得控除、措置Bで株式譲渡益の控除が可能 |
| プレシード・シード特例の非課税 | 20億円まで取得価額の調整不要(=非課税) |
| 売却損失の通算・繰越 | 投資失敗時も他の株式譲渡益と相殺、3年繰越可能 |
デメリットと注意点
| 注意点 |
内容 |
| 投資リスク | 税制優遇があっても、投資元本を失うリスクは消えない |
| 確定申告の手間 | 書類の準備が煩雑で、年末調整では処理できない |
| 流動性リスク | 未上場株式は売却が困難で、長期保有が前提 |
| 住民税は対象外 | 投資時点の優遇は所得税のみ。住民税は通常通り課税 |
なお、青色申告の特典や個人事業主の節税策全般については「青色申告のメリットと届出方法」で解説しています。
よくある質問(FAQ)
エンジェル税制は必ず確定申告しないといけませんか?
エンジェル税制の優遇措置を受けたい場合は確定申告が必須です。ただし、優遇措置を受けない(通常の株式投資として扱う)場合は、確定申告は不要です(他に確定申告の義務がない場合)。確定申告の期限を過ぎてしまった場合でも、5年以内であれば期限後申告または更正の請求で対応できます。
優遇措置Aとふるさと納税は併用できますか?
併用できますが、寄附金控除の上限額に注意が必要です。優遇措置Aは寄附金控除として扱われるため、ふるさと納税等の他の寄附金と合算して総所得金額の40%が上限になります。例えば総所得700万円の場合、寄附金控除の上限は280万円です。ふるさと納税で10万円を利用している場合、エンジェル税制で使える枠は約270万円になります。
株式譲渡益がないときに優遇措置Bは使えますか?
使えません。優遇措置Bは株式等の譲渡益から投資額を控除する制度のため、譲渡益がなければ控除対象がありません。株式譲渡益がない場合は、対象企業が措置Aの要件を満たしていれば措置Aを選択してください。措置AもBも使えない場合、投資時点の優遇は受けられませんが、将来の売却時の損益通算は利用できます。
e-Taxだけでエンジェル税制の確定申告は完結しますか?
申告データ自体はe-Taxで送信できますが、エンジェル税制の添付書類(確認書・契約書写し等)はe-Taxで送信できないため、別途郵送が必要です。e-Taxで送信後に表示される「申告書等送信票」を印刷し、添付書類とともに管轄税務署に郵送してください。
令和7年度改正の繰戻し還付制度はいつから使えますか?
令和8年1月1日以降に取得した株式から適用されます。例えば、令和7年に株式譲渡益が発生し、令和8年にスタートアップに投資した場合に利用可能です。令和7年中の投資は改正前の制度が適用されるため、繰戻し還付は使えません。
投資先企業が破綻して株式が無価値になった場合はどうなりますか?
破産・解散等により株式の価値がゼロになった場合でも、その損失を他の株式等の譲渡益と通算(相殺)できます。相殺しきれない損失は翌年以降3年間にわたって繰越控除が可能です。投資時点で優遇措置AまたはBの適用を受けていた場合は取得価額が調整されるため、損失額の計算に注意してください。
配偶者がエンジェル投資をした場合、自分の確定申告に影響しますか?
エンジェル税制は投資した本人にのみ適用されます。配偶者の投資が自分の確定申告に直接影響することはありません。ただし、配偶者の合計所得金額が投資による控除で変動した場合、扶養控除や配偶者控除の適用判定に間接的に影響する可能性があります。
まとめ
📋 この記事のポイント
- エンジェル税制は投資時点(4種類の優遇措置)と売却時点(損益通算・繰越控除)の2段階で税制優遇を受けられる
- 優遇措置Aは所得控除(高所得者ほど有利)、Bは株式譲渡益からの控除(上限なし)
- プレシード・シード特例は20億円まで非課税(取得価額の調整不要)
- 株式譲渡益がない場合、措置Bやプレシード・シード特例は使えない→措置Aを選択
- 令和7年度改正で繰戻し還付制度が創設(令和8年1月1日以降の株式取得から適用)
- 確定申告は必須。添付書類はe-Taxで送信できないため別途郵送が必要
- 投資リスクは税制優遇では消えない。ポートフォリオの一部として慎重に判断を
AYUSAWA PARTNERS
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