106万円の壁撤廃と企業規模要件の段階的撤廃を完全解説

106万円の壁撤廃と企業規模要件の段階的撤廃を完全解説
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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2025年6月成立の年金制度改正法により、2026年10月から106万円の壁(賃金要件)が撤廃されます。さらに2027年10月以降、企業規模要件も段階的に撤廃されます。経営者・人事担当者・パート労働者向けに、改正の全体像、影響範囲、新規加入者約200万人の見込み、企業が取るべき対応を完全ガイドします。

🏆 結論:2026年10月に賃金要件撤廃、「週20時間の壁」へ

2025年6月成立の年金制度改正法により、2026年10月から「月額賃金8.8万円以上」の賃金要件が撤廃されます。撤廃後は「週20時間以上の所定労働時間」が主要な加入判定基準となり、実質的に「106万円の壁」から「週20時間の壁」への構造転換が起こります。さらに2027年10月以降、企業規模要件(現行51人以上)も段階的に撤廃される予定で、2029年10月には個人事業所(5人以上)も全業種適用となります。この一連の改正により、約200万人の新規加入が見込まれています。

年金制度改正法(2025年6月成立)の概要

2025年6月に成立した年金制度改正法は、社会保険制度を根本から再設計する内容です。改正の柱の1つが、短時間労働者の社会保険適用拡大の加速化です。

改正法成立の背景

改正法成立の背景には、以下の3つの社会情勢があります。

改正法の主要項目

年金制度改正法は、短時間労働者の適用拡大に限らず、複数の改正項目を含みます。本記事では社会保険の適用拡大に関連する項目に絞って解説します。根拠条文は厚生年金保険法第12条(被保険者の範囲)および健康保険法第3条(被保険者)の改正です。

参考: 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」

改正項目 施行時期
賃金要件(月8.8万円)の撤廃2026年10月
企業規模要件の段階的撤廃開始2027年10月以降
個人事業所・全業種への適用拡大2029年10月
被扶養者認定の判定方法変更(労働契約ベース)2026年4月
大学生等の被扶養者認定 150万円基準2026年4月

106万円の壁とは何か|構造と由来

そもそも「106万円の壁」とは何を指すのか、正確な定義から整理します。

「106万円の壁」の定義

「106万円の壁」とは、月額賃金8.8万円×12ヶ月=105.6万円(端数切り上げで106万円)という計算から名付けられた、パート・アルバイト労働者の社会保険加入判定基準です。2016年10月の適用拡大以降、以下の5要件を満たすと社会保険加入が義務化されました。

最低賃金上昇による「実質的な意味の喪失」

この5要件のうち、「月額賃金8.8万円以上」の賃金要件が2026年10月に撤廃されます。撤廃の直接的な理由は、最低賃金の上昇により週20時間勤務だけで自動的に月8.8万円超となるためです。

🧮 最低賃金と賃金要件の関係

賃金要件の自動達成ライン:
・時給1,016円 × 週20時間 × 約4.34週 = 約88,187円
・つまり時給1,016円以上で週20時間働けば、自動的に月8.8万円を超える
・2025年度地域別最低賃金は全都道府県で1,016円超
・結論:賃金要件は「二重のフィルター」となり意味を失った

「106万円の壁」から「週20時間の壁」への転換

賃金要件撤廃後は、実質的な加入判定基準が「週20時間以上の所定労働時間」となります。これにより、呼称も「106万円の壁」から「週20時間の壁」に変わることが予想されます。

2026年10月撤廃の実務影響|加入対象者の拡大

賃金要件撤廃により、どれくらいの人が新たに社会保険加入対象となるのかを整理します。

約200万人の新規加入見込み

厚生労働省の推計によれば、賃金要件撤廃により約200万人が新たに厚生年金加入対象となる見込みです。この規模感は、日本の厚生年金被保険者数(約4,500万人)の約4.4%に相当します。

影響を受けやすい典型ケース

現在の働き方 現状 2026年10月以降
週20時間・時給950円・月76,000円非加入(賃金要件未達)加入対象
週20時間・時給1,100円・月88,000円加入加入(継続)
週19時間・時給1,200円・月91,000円非加入(時間要件未達)非加入(変更なし)
週25時間・時給900円・月97,500円加入加入(継続)

最も影響を受けるのは、現在の時給が1,016円未満で週20時間以上働いているパート・アルバイトです。これまで「賃金要件未達」で社会保険対象外だった層が、一斉に加入対象となります。

企業規模要件の段階的撤廃スケジュール

2027年10月以降、企業規模要件(現行51人以上)も段階的に撤廃される予定です。最終的には2029年10月に完全撤廃となり、すべての法人事業所と、一定規模以上の個人事業所で短時間労働者の加入が義務化されます。

撤廃スケジュールの詳細

時期 対象となる企業規模 変更ポイント
2024年10月(現行)厚生年金被保険者51人以上特定適用事業所
2026年10月51人以上(変更なし)賃金要件撤廃
2027年10月段階的撤廃開始(政令委任)企業規模要件撤廃の第1段階
2029年10月全法人+個人事業所5人以上全業種適用へ

📢 従業員50人以下の企業への影響

現行では51人未満の中小企業は適用除外ですが、2027年10月以降の段階的撤廃により、2029年10月までにすべての法人が適用対象となる見込みです。社員5人の小規模法人でも、週20時間以上のパート従業員を社会保険加入させる必要が出てきます。

企業側の対応と事業運営への影響

撤廃の影響は、企業規模・業種ごとに異なります。自社が該当するカテゴリを見極めて、対応準備を進める必要があります。

企業規模別の影響マトリックス

企業規模 現状 2026年10月 2029年10月
大企業(501人〜)完全適用中賃金要件撤廃で加入者増同上
中堅(101-500人)完全適用中賃金要件撤廃で加入者増同上
中小(51-100人)2024年10月から適用賃金要件撤廃で加入者増同上
小規模(〜50人)適用外適用外(51人以上のみ)新規適用

業種別の影響度

パート・アルバイト比率の高い業種ほど、負担増のインパクトが大きくなります。

💡 実務のポイント

飲食業の年商2億円規模のチェーン店で、パート比率が全社員の70%に達するケースでは、2026年10月の賃金要件撤廃だけで年間の社会保険料負担が600〜800万円増加する試算も出ています。事業計画への織り込みを早めに行う必要があります。

労働者側の選択肢と行動パターン

労働者側の視点で、撤廃後にどう働くかの選択肢を整理します。

3つの選択パターン

パターン 働き方 特徴
パターンA:週20時間未満に調整勤務時間を削減社会保険非加入維持、扶養内キープ
パターンB:社保加入して現状維持週20時間以上継続手取り減少、将来の年金増
パターンC:さらに働いて収入増フルタイム化・勤務先変更扶養から完全離脱、キャリア形成

「働き損」の回避ラインの計算

社会保険加入で手取りが下がる「働き損」を回避するには、一定以上の年収ラインを超える必要があります。一般的な目安は以下のとおりです。

🧮 働き損回避ラインの目安

配偶者の扶養内(年収106万円)から社会保険加入へ移行した場合:
・年収106万円:手取り約90万円(社会保険料16万円控除)
・年収120万円:手取り約102万円(逆転ラインに届く)
・年収130万円:手取り約110万円
働き損を回避するには、年収125万円以上を目安に引き上げるのが実務的な選択です。

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130万円の壁との違いと共存

106万円の壁と130万円の壁は性質が異なるため、106万円の壁が撤廃されても130万円の壁は残ります。

2つの壁の違い

項目 106万円の壁 130万円の壁
性質勤務先で社保加入する判定被扶養者認定の判定
対象週20時間以上のパート週20時間未満&扶養希望者
2026年10月撤廃存続
判定方法賃金・時間の客観基準労働契約書の年収見込み(2026年4月〜)

撤廃後の「壁」の再構成

2026年10月以降、パート・アルバイト労働者が意識する「壁」は以下のように再構成されます。

企業が取るべき5つの準備

撤廃までの期間を使って、企業は以下の準備を進めることを推奨します。

準備1:従業員の働き方データの棚卸し

現在の短時間労働者の人数、週所定労働時間、月額賃金をリストアップします。賃金要件撤廃で新規加入対象となる従業員の人数・予算インパクトを把握します。

準備2:社会保険料予算の見直し

新規加入対象者×会社負担額×12ヶ月で年間コストを試算します。キャリアアップ助成金との差し引きも考慮します。弊所の顧問先では、10名規模の新規加入で年間180万円の会社負担増となるケースがありました。

準備3:労働条件通知書の見直し

2026年4月からの130万円の壁の判定方法変更に対応するため、労働条件通知書に年収見込みを明記する運用を整備します。

準備4:従業員への事前周知

撤廃施行の1年前(2025年10月頃)から、対象となりそうな従業員への説明を開始します。加入により手取りがいくら減るか、将来の年金がいくら増えるかを個別面談で共有します。

準備5:人事制度の再設計

パート・アルバイトの賃金体系・労働時間制度を再設計します。週20時間未満に抑えるか、フルタイム化を促すかの方針を決定し、人材確保・採用競争力とのバランスを取ります。

2029年10月の個人事業所・全業種適用への備え

2029年10月からは、従業員5人以上の個人事業所が全業種で適用事業所となります。現行適用除外だった業種の経営者は特に注意が必要です。

新規適用となる主な業種

経過措置

2029年10月時点で既に存在する事業所には、経過措置が設けられる予定です(当分の間、適用除外)。ただし、新規開業や規模拡大で5人以上となった事業所は、原則として適用対象です。個人事業所の強制適用範囲拡大は、健康保険法第3条第3項および厚生年金保険法第6条の改正により行われます。

参考: 厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」

関連する社会保険・労務の他記事

106万円の壁撤廃は、他の社会保険論点と連動します。以下の記事も併せてご覧ください。

社会保険制度の全体像は社会保険とは?制度の全体像と加入義務で解説しています。特定適用事業所の実務対応は社会保険の適用拡大(従業員51人以上)の実務対応ガイドで詳述しました。年収の壁の全体像は年収の壁を完全整理、就業規則の改定は就業規則の作成・変更の実務、助成金活用はキャリアアップ助成金の活用ガイドで解説しています。

よくある質問

106万円の壁が撤廃されると、すべてのパートが社会保険加入になるのですか?
いいえ、なりません。2026年10月の撤廃で撤廃されるのは「月額賃金8.8万円以上」の賃金要件のみです。「週20時間以上の所定労働時間」「雇用期間2ヶ月超」「非学生」「勤務先が特定適用事業所」の4要件は維持されるため、週20時間未満で働くパートは引き続き非加入です。
2026年10月の撤廃前に何を準備すればよいですか?
企業側は、短時間労働者のリストアップ、新規加入対象者の特定、社会保険料の予算計上、従業員への説明を準備してください。労働者側は、加入後の手取り減と年金増のバランスを試算し、働き方の方針(週20時間未満維持/加入/フルタイム化)を決定してください。
企業規模要件の段階的撤廃はいつ始まりますか?
2027年10月以降に段階的に撤廃が始まる予定です。具体的な縮小スケジュール(例:31人以上→11人以上→全企業)は政令で定められます。最終的には2029年10月までに、個人事業所も含めて全業種・全規模の企業が適用対象となる見込みです。
賃金要件撤廃で新たに社会保険加入となると、手取りはいくら減りますか?
月額賃金8万円(年収96万円)のパートが新規加入した場合、社会保険料(労働者負担)は月額約1.2〜1.3万円で、年間約14〜15万円の手取り減となります。代わりに将来受け取れる厚生年金が月額数千円増加し、傷病手当金や出産手当金の受給資格も得られます。
週19時間の契約に変更すれば社会保険加入を回避できますか?
契約上週19時間でも、実労働時間が2ヶ月連続で週20時間を超えれば適用対象となります。意図的な契約時間調整は「適用除外の潜脱」として問題視される可能性があります。合法的に加入を避けるには、シフト管理で実労働時間も週20時間未満に抑える必要があります。
賃金要件は「公布から3年以内」とされていますが、前倒しはあり得ますか?
法律上、公布から3年以内(2028年6月まで)の範囲で政令により施行時期を定めることとされています。厚生労働省は「2026年10月」を示しており、これが前倒しされる可能性は低いと見られています。ただし、最低賃金の大幅引き上げ等の事情があれば前倒しの可能性もゼロではありません。
130万円の壁も撤廃されますか?
130万円の壁(被扶養者認定基準)は、2026年10月の改正では撤廃されません。ただし2026年4月から、判定方法が「労働契約書に記載された年収見込み」ベースに変更されます。大学生等(19歳以上23歳未満)については150万円に引き上げられる特例もあります。
従業員50人以下の中小企業も対応準備が必要ですか?
2029年10月以降の企業規模要件完全撤廃を見据えて、早期の対応準備が推奨されます。また、人材確保の観点から「任意特定適用事業所」として自主的に適用することで、採用競争力を高める選択肢もあります。社会保険完備を採用ポイントとする中小企業が増えています。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 2025年6月成立の年金制度改正法で106万円の壁撤廃が決定
  • 2026年10月に賃金要件(月8.8万円)が撤廃される
  • 「106万円の壁」から「週20時間の壁」への構造転換
  • 最低賃金上昇により賃金要件が実質的に意味を失ったことが背景
  • 約200万人が新規に厚生年金加入見込み
  • 企業規模要件も2027年10月以降段階的に撤廃
  • 2029年10月には個人事業所5人以上も全業種適用
  • 130万円の壁(被扶養者認定)は存続(判定方法は変更)
  • 労働者は週20時間未満/加入/フルタイム化の3択を検討
  • 企業は従業員棚卸し・予算・労働条件通知書等の準備が必要