賞与の社会保険料計算と届出|年3回以下・年4回以上の違い

賞与の社会保険料計算と届出|年3回以下・年4回以上の違い
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

賞与の社会保険料計算を、人事・経理担当者向けに実務目線でガイドします。年3回以下と年4回以上で扱いが根本的に変わる境界、標準賞与額の上限の二重構造(健保年573万円/厚年月150万円)、2026年4月新設の子ども・子育て支援金、育休中の免除要件、賞与支払届のe-Gov電子申請までカバーします。

🏆 結論:年3回以下は標準賞与額、年4回以上は報酬扱い

健康保険法第3条第6項および厚生年金保険法第3条第1項第4号により、社会保険上の賞与は「年3回以下の支給」と定義されます。年3回以下の賞与は1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」に保険料率を乗じて計算し、健康保険は年度累計573万円、厚生年金は1回150万円が上限です。年4回以上の賞与は「賞与に係る報酬」として標準報酬月額に組み込まれ、別の計算方法になります。2026年4月から子ども・子育て支援金も賞与にかかる点に注意が必要です。

社会保険における「賞与」の定義

賞与の社会保険料を理解するには、まず「社会保険上の賞与」の独自定義を押さえる必要があります。税法や労働基準法の賞与とは範囲が異なります。

健康保険法・厚生年金保険法の定義

健康保険法第3条第6項は、賞与を「賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち、3月を超える期間ごとに受けるもの」と規定します。実務上は「年3回以下の頻度で支給されるもの」と整理されます。

名称を問わず対象となる支給

「賞与」という名称でなくても、以下のような支給は年3回以下であれば社会保険上の賞与に該当します。

💡 実務のポイント

名称が「特別手当」「業績給」でも、年3回以下の支給頻度であれば社会保険上は賞与です。支給規程を作る際は名称よりも支給回数を優先して設計してください。弊所が関与した中堅製造業で、「四半期業績手当」として年4回の支給に変更したところ、社会保険上の扱いが「賞与」から「報酬」に切り替わり、毎月の保険料計算が変わったケースがあります。

年3回以下と年4回以上の扱いの違い【一覧表で比較】

年間の支給回数により、社会保険上の扱いが根本的に異なります。人事実務で最も重要な分岐点です。

⭐ 境界は「年3回以下」か「年4回以上」か
項目 年3回以下(賞与扱い) 年4回以上(報酬扱い)
社保上の分類賞与(標準賞与額)賞与に係る報酬(標準報酬月額に算入)
届出被保険者賞与支払届(支給の都度)算定基礎届に組み込み(賞与支払届不要)
保険料計算標準賞与額×保険料率年合計÷12を月報酬に加算
上限健保年573万円・厚年月150万円標準報酬月額の上限のみ
産休・育休中の免除1ヶ月超の育休で免除報酬として通常徴収

年4回以上の賞与が「報酬」扱いになる要件

以下のすべてを満たすと「賞与に係る報酬」として標準報酬月額へ算入されます。

決算賞与との区別

夏・冬・期末の年3回の定例賞与に加えて、業績に応じて支給される決算賞与は「性質が他の賞与と異なる」ものとして、年4回以上の判定から除外されます。つまり「夏・冬・期末+決算賞与」で年4回支給されても、すべて賞与扱いとなります。

⚠️ 四半期賞与導入時の落とし穴

「四半期ごとに業績連動賞与を支給」という規程は同じ性質で年4回となり、報酬扱いになります。各賞与支給時の賞与支払届は不要ですが、標準報酬月額が通常より高くなり毎月の保険料が上昇します。規程変更前に試算することを強く推奨します。

標準賞与額の計算と上限

年3回以下の賞与について、標準賞与額の計算ルールを解説します。

標準賞与額の算出

賞与の税引前支給総額から1,000円未満を切り捨てた金額が「標準賞与額」です。

🧮 標準賞与額の計算例

・賞与支給総額:853,200円
・1,000円未満切り捨て:853,000円
標準賞与額:853,000円
・健康保険料(労使合計9.91%):853,000 × 9.91% = 84,532円
・厚生年金保険料(労使合計18.3%):853,000 × 18.3% = 156,099円
・合計(労使合計):240,631円
従業員負担:120,315円(労使折半)

健保年573万円と厚年月150万円の二重上限

標準賞与額には健康保険と厚生年金で異なる上限が設けられています。この二重上限の構造は、社会保険料削減目的の過大賞与支給を抑制するために設定されたものです。

保険 上限 根拠 判定単位
健康保険・介護保険年度累計573万円健康保険法第45条4月1日〜翌年3月31日
厚生年金保険1回あたり150万円厚生年金保険法第24条の4支給1回ごと(同月は合算)

なぜ上限が異なるのか

健康保険の上限は年度累計で判定される一方、厚生年金は1回ごとに判定されます。これは、月例給与を極端に低く抑え多額の賞与を複数回支給することで厚年保険料を圧縮する「社会保険料削減スキーム」への対策として設計されたためです。健康保険側は2007年に年度累計制に移行しました。

上限を超えた場合の実務処理

賞与が上限を超えた場合の処理ロジックを、ケース別に整理します。

厚生年金の月150万円超過ケース

🧮 賞与200万円を1回支給したケース

・賞与支給総額:2,000,000円
・健康保険の標準賞与額:2,000,000円(年度累計573万円以内なら全額対象)
・厚生年金の標準賞与額:1,500,000円(上限適用、50万円はカット)
・健康保険料:2,000,000 × 9.91% = 198,200円
・厚生年金保険料:1,500,000 × 18.3% = 274,500円
・合計(労使合計):472,700円

健康保険の年度累計573万円超過ケース

健康保険の年度累計は毎年4月1日にリセットされます。年度の中で累計573万円を超えた時点から、超過分には健康保険料がかかりません。

🧮 役員賞与の年度累計ケース

・7月支給:300万円 → 標準賞与額300万円(累計300万円)
・12月支給:300万円 → 標準賞与額273万円(上限573万円 − 累計300万円)
・12月の300万円のうち27万円は健康保険料かからず
・ただし厚生年金は各回150万円上限のため、300万円は150万円で頭打ち

基準賞与額累計申出書の提出

年度累計573万円を超えた場合、事業主は管轄の保険者に「基準賞与額累計申出書」を提出する必要があります。これにより、超過分が適切に処理されます。

参考: 日本年金機構「被保険者賞与支払届の提出」

同月複数回支給の合算ルール

厚生年金の「1回150万円」の判定は、同月に複数回支給した場合は合算で行います。

🧮 同月2回支給の例

・6月5日支給:80万円
・6月25日支給:80万円
・6月合計:160万円(150万円超過)
・厚生年金の標準賞与額:150万円(6月全体で頭打ち)
・健康保険は合算後の全額160万円が対象(年度累計573万円以内なら)

2026年4月新設:子ども・子育て支援金

2026年4月分から、健康保険料に上乗せされる形で「子ども・子育て支援金」の徴収が始まりました。賞与からも徴収される点が実務上の新しい論点です。

支援金の概要

賞与から徴収する際の計算

📢 子ども・子育て支援金の計算例

標準賞与額80万円の場合(支援金料率0.115%の例):
・子ども・子育て支援金:800,000 × 0.115% = 920円(労使合計)
・労働者負担:460円、事業主負担:460円
※ 支援金料率は2026年度〜2027年度で段階的に引き上げられる予定

育児休業・産前産後休業中の賞与保険料免除

育児休業・産前産後休業期間中に支給された賞与は、条件を満たせば社会保険料が全額免除されます。月額給与とは別の基準で判定される点に注意が必要です。

2022年10月改正:「1ヶ月超」要件の新設

改正前は「賞与支給月の末日時点で育休中」であれば免除されていましたが、改正後は賞与支給月の末日を含む連続した育休が「1ヶ月超」でなければ免除されません。月額給与の免除要件(同月14日以上)とは異なる別基準です。根拠は健康保険法第159条の3・厚生年金保険法第81条の2の2です。

参考: 厚生労働省「育児休業等期間中の保険料免除要件の見直しQ&A」

💡 「1ヶ月超」の数え方

暦日ベースで「暦月数+1日以上」となります。11月(30日)であれば12月1日以上、12月(31日)であれば翌年1月1日以上の日付まで連続する必要があります。「1ヶ月ちょうど」では免除されない点が要注意です。

免除パターンの具体例

育休期間 賞与支給日 免除判定
6月1日〜7月15日(45日)6月25日✅ 免除(6月末含む1ヶ月超)
6月15日〜7月14日(30日)6月25日❌ 免除されない(1ヶ月ちょうどで超えない)
6月15日〜7月16日(32日)6月25日✅ 免除(1ヶ月超、6月末含む)
6月1日〜7月15日(45日)7月10日❌ 免除されない(7月末を含まない)

産前産後休業中の免除

産前産後休業中(産前6週間・産後8週間)に支給された賞与は、支給日が産休期間に含まれていれば、育休のような「1ヶ月超」の要件なしで保険料が全額免除されます。「産前産後休業取得者申出書」の提出が必要です。

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賞与支払届の提出実務

年3回以下の賞与を支給した場合、事業主は「被保険者賞与支払届」を提出する義務があります。

提出期限と提出先

項目 内容
根拠条文健康保険法第158条・厚生年金保険法第100条
提出期限賞与支給日から5日以内
提出先管轄の年金事務所(協会けんぽ)/ 健保組合
提出方法電子申請(e-Gov・GビズID)/ 紙 / CSV / 窓口
記載事項被保険者氏名・基礎年金番号・支給年月日・支給額

賞与支払予定月の事前登録

賞与を支給する事業所は、事前に「事業所関係変更(訂正)届」で賞与支払予定月を登録しておく必要があります。予定月に賞与を支給しなかった場合は「賞与不支給報告書」の提出が必要です。

e-Gov電子申請の3方式

賞与支払届は電子申請が主流です。特定法人(資本金1億円超等)は2020年4月から電子申請が義務化されていますが、中小企業でも推奨されます。

転職者の標準賞与額累計ルール

年度中に転職があった場合、健康保険の573万円累計ルールに特殊な取扱いがあります。

保険者単位での累計判定

健康保険の年度累計573万円は「保険者単位」で判定されます。具体的には以下のように区分されます。

実務の注意点

💡 実務のポイント

弊所が対応した金融機関の従業員で、年間賞与が計800万円(夏400万・冬400万)となる方が秋に同業他社に転職したケースで、両社とも協会けんぽだったため累計573万円の上限適用となり、転職先の冬賞与で超過分173万円について健康保険料がかからない処理となりました。転職前後の給与明細と賞与支給証明書を現職の人事に提示してもらう運用が必要です。

賞与支給時の会計処理と法人税の取扱い

事業主負担分の賞与保険料の会計処理を整理します。

仕訳の基本

標準賞与額100万円・40歳未満のケースで、以下の仕訳となります。

損金算入の要件

事業主負担分の社会保険料は、法人税法第22条第3項により損金算入できます。役員賞与について損金算入する場合は、法人税法第34条の要件(事前確定届出給与)を満たす必要があります。

よくあるミスと対策

賞与保険料の実務で頻発するミスと、弊所が運用しているチェック体制を整理します。

頻出ミス5類型

弊所の賞与計算チェック体制

弊所が顧問する企業では、賞与支給の前月から以下の3段階チェックを実施しています。第1段階:支給予定者の育休・産休状況確認、第2段階:年度累計の健康保険料対象額集計、第3段階:賞与支払届の電子申請データ事前生成。この体制により、過去3年間で賞与保険料の計算ミスゼロを実現しています。年商10億円規模のIT企業で、以前は年数件発生していた徴収漏れが完全になくなりました。

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よくある質問

年3回の賞与を4回に増やすとどうなりますか?
社会保険上の扱いが「賞与」から「報酬」に変わります。各賞与支給時の賞与支払届は不要になりますが、賞与年額を12等分した額が毎月の標準報酬月額に加算されるため、毎月の社会保険料が増加します。健康保険は年度累計上限がなくなりますが、厚生年金の標準報酬月額上限(65万円)の効果で負担が頭打ちになる場合もあります。規程変更前に試算を推奨します。
健康保険の年度累計573万円はいつリセットされますか?
毎年4月1日にリセットされます。4月1日〜翌年3月31日の累計で判定されるため、3月と4月に分けて支給すると年度をまたぐことになり、合計が573万円を超えても上限に抵触しないケースがあります。
決算賞与は「年4回目」として報酬扱いになりますか?
なりません。決算賞与は夏・冬・期末の定例賞与とは性質が異なるため、年4回判定から除外されます。「夏・冬・期末+決算賞与」で年4回支給でも、すべて賞与として扱われ、各賞与支給時に賞与支払届を提出します。
育休中の賞与保険料免除は、給与の免除要件と同じですか?
いいえ、異なります。月額給与の免除は「同月内14日以上の育休」で認められますが、賞与保険料の免除は「賞与支給月の末日を含む連続1ヶ月超の育休」が必要です。2022年10月改正で賞与側が厳格化された経緯があります。
賞与の上限を超えた場合、別途手続きが必要ですか?
健康保険の年度累計573万円を超えた場合、「基準賞与額累計申出書」を管轄の保険者に提出します。厚生年金の1回150万円超過については、賞与支払届の記載上で自動処理されるため別途申出書は不要です。
同月に賞与を2回支給した場合の計算は?
合算して処理します。1回目60万円・2回目60万円で計120万円なら、厚生年金の標準賞与額は120万円です。1回目80万円・2回目80万円で計160万円なら、厚生年金は150万円で頭打ちとなります。健康保険は合算後の全額が年度累計に加算されます。
子ども・子育て支援金は2026年4月前の賞与にもかかりますか?
かかりません。2026年4月1日以降に支給される賞与から徴収開始です。3月以前に支給された賞与には従来通り健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料のみがかかります。料率は2026年度〜2027年度で段階的に引き上げられる予定です。
賞与支払届の提出を忘れた場合の罰則は?
直接的な罰則はありませんが、年金事務所から督促が届き、遡及して徴収処理が行われます。また、被保険者の将来の年金額に賞与分が反映されないため、退職時などに従業員からクレームが発生するリスクがあります。支給後5日以内の提出を徹底してください。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 社会保険上の賞与は「年3回以下」と健康保険法第3条第6項で定義
  • 年3回以下:標準賞与額×保険料率で計算、賞与支払届の提出が必要
  • 年4回以上:標準報酬月額に算入され、別の計算ルールに
  • 標準賞与額は1,000円未満切り捨て
  • 健康保険の上限:年度累計573万円(4月〜翌年3月)
  • 厚生年金の上限:1回150万円(同月複数回は合算)
  • 上限超過時は「基準賞与額累計申出書」を提出
  • 2026年4月から子ども・子育て支援金が新設(賞与にも適用)
  • 育休中の賞与免除は「支給月末日を含む1ヶ月超」が要件
  • 賞与支払届は支給日から5日以内、e-Gov電子申請が主流