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役員の社会保険加入を、経営者・人事担当者向けに実務目線で解説します。一人法人の強制加入の根拠、非常勤役員の加入除外判定、日本年金機構が用いる6項目の判断材料、役員報酬ゼロ・低額時の取扱い、雇用保険・労災保険との違い、使用人兼務役員の扱いまで、昭和24年保発第74号通知をはじめとする法的根拠を示して網羅します。


役員の社会保険加入を、経営者・人事担当者向けに実務目線で解説します。一人法人の強制加入の根拠、非常勤役員の加入除外判定、日本年金機構が用いる6項目の判断材料、役員報酬ゼロ・低額時の取扱い、雇用保険・労災保険との違い、使用人兼務役員の扱いまで、昭和24年保発第74号通知をはじめとする法的根拠を示して網羅します。
🏆 結論:役員は原則として社会保険加入、非常勤は実態判断
昭和24年7月28日保発第74号通知により、法人から労務の対償として報酬を受ける役員は、原則として健康保険・厚生年金保険の被保険者となります。一人法人の代表取締役も強制加入です。非常勤役員は例外的に加入除外となる場合がありますが、経営参画・勤務実態・報酬の性質など日本年金機構が示す6項目で総合判断します。役員は雇用保険には原則加入できませんが、労災保険は「特別加入制度」で任意加入が可能です。
役員は労働者ではなく委任契約に基づく関係ですが、社会保険では労働者と同様に被保険者となる原則があります。根拠は昭和24年に厚生省(当時)が発出した通知です。
同通知は次のように定めています。
📜 昭和24年7月28日 保発第74号通知(抜粋)
「法人の代表者又は業務執行者であつても、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい。」
この通知により、役員であっても「労務の対償として報酬を受けている」限り、法人に「使用される者」として健康保険法第3条・厚生年金保険法第9条の被保険者となることが確立しました。
日本年金機構の実務運用では、次の2要件を満たす役員が社会保険加入対象です。
| 項目 | 労働者(従業員) | 役員 |
|---|---|---|
| 契約形態 | 雇用契約(労基法適用) | 委任契約(労基法原則非適用) |
| 健康保険 | 強制加入 | 原則強制加入(無報酬は除く) |
| 厚生年金保険 | 強制加入 | 原則強制加入(無報酬は除く) |
| 雇用保険 | 原則加入 | 原則加入不可(使用人兼務役員は例外) |
| 労災保険 | 強制加入 | 特別加入制度で任意加入 |
| 保険料負担 | 労使折半 | 労使折半(一人法人は実質全額本人負担) |
経営者だけの一人法人でも、社会保険の強制加入から逃れられません。多くの経営者が誤解する論点を整理します。
健康保険法第3条第3項は「法人事業所で常時従業員を使用するもの」を強制適用事業所としますが、この「常時従業員」には役員本人(事業主)も含まれると解釈されています。つまり、役員1名だけの法人でも強制適用事業所となります。
一人法人の場合、社会保険料は労使折半ですが、実質的には同一人物が全額負担します。会社負担分は法人の損金、本人負担分は個人の社会保険料控除として税務上の効果に差があります。
🧮 一人法人(40歳代表取締役・月額役員報酬50万円)の年間負担
・標準報酬月額:500,000円(27等級)
・健康保険料(9.91%):月49,550円×12=年594,600円
・介護保険料(1.62%):月8,100円×12=年97,200円
・厚生年金保険料(18.3%):月91,500円×12=年1,098,000円
・年間合計(労使合計):約1,789,800円
・うち会社負担約894,900円(損金)、本人負担約894,900円(社保控除)
一人法人の強制加入は「労務の対償として報酬を受けている」ことが前提です。役員報酬をゼロに設定している場合、社会保険加入対象外となり、代表取締役個人は国民健康保険・国民年金に自ら加入する必要があります。
「非常勤」の肩書で自動的に加入除外されるわけではありません。日本年金機構本部が示す6項目の判断材料に基づき、実態で総合判断されます。
| 項目 | 判断材料 |
|---|---|
| ① 定期出勤 | 当該法人の事業所に定期的に出勤しているか |
| ② 他職兼務 | 当該法人の役職以外に多くの職を兼ねていないか |
| ③ 役員会出席 | 当該法人の役員会等に出席しているか |
| ④ 連絡調整・指揮監督 | 役員への連絡調整又は職員に対する指揮監督に従事しているか |
| ⑤ 意見を述べる立場 | 求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないか |
| ⑥ 報酬水準 | 支払われる報酬が社会通念上労務の内容に相応しく、実費弁償程度にとどまっていないか |
💡 6項目に優先順位はない
日本年金機構本部の見解では、6項目に優先順位はなく、事案ごとに実態を踏まえて総合的に判断されます。6項目の多くが「加入方向」を示す場合は被保険者資格取得、多くが「除外方向」なら対象外となります。
🧮 A社の社外取締役(月1回取締役会出席、年額120万円)
・① 定期出勤:月1回のみ(除外方向)
・② 他職兼務:本業は別会社の常勤役員(除外方向)
・③ 役員会出席:四半期の取締役会のみ(除外方向)
・④ 連絡調整・指揮監督:なし(除外方向)
・⑤ 意見を述べる立場:助言のみ(除外方向)
・⑥ 報酬水準:社外取締役の相場内(除外方向)
→ 6項目すべてが除外方向 → 社会保険加入対象外
⚠️ 肩書と実態の乖離に注意
「非常勤取締役」の肩書でも、週3日出社・業務執行関与・月額報酬30万円を継続受領といった実態があれば、実質常勤として加入対象となります。年金事務所の実態調査で最も頻繁に指摘される論点で、弊所が関与した事案では非常勤取締役2名について実質常勤と判定され、過去2年分で約450万円の遡及保険料納付となったケースがあります。
代表取締役は一般の役員と異なる厳格な取扱いがあります。
代表取締役は法人を代表して業務を執行する地位にあるため、「非常勤代表取締役」という概念は実務上ほぼ存在しません。代表権を持つ以上、労務の対償としての報酬を受けていれば加入対象です。
役員報酬がゼロの代表取締役は、社会保険の被保険者にはなれません。この場合、代表者個人は以下のいずれかを選択します。
日本年金機構の疑義照会回答では、経営状況により役員報酬を一時的に低額に設定する事例について「低報酬金額をもって資格喪失させることは妥当でない」と整理されています。最低金額の明確な設定は困難ですが、社会通念上労務の内容に相応しい金額であれば加入が維持されます。
📢 役員報酬設計と定期同額給与
役員報酬は法人税法第34条により、原則として事業年度開始から3ヶ月以内に定時株主総会で決定する必要があります(定期同額給与)。途中で変更すると損金不算入のリスクがあり、社会保険加入タイミングも慎重な設計が必要です。社労士と税理士の連携が重要な論点です。
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鮎澤パートナーズに相談する取締役でありつつ使用人としての職務も行う「使用人兼務役員」は、社会保険と雇用保険で取扱いが異なる特殊な論点です。
法人税法施行令第71条の定義では、使用人兼務役員は「取締役等の役員でありながら、部長・課長等の使用人としての職制上の地位を有し、使用人としての職務を行う者」です。ただし、以下の者は使用人兼務役員になれません。
| 保険 | 取扱い |
|---|---|
| 健康保険・厚生年金 | 役員として加入(使用人兼務の特別扱いなし) |
| 雇用保険 | 使用人部分の報酬が役員報酬より多ければ加入可能 |
| 労災保険 | 使用人としての業務中の事故は労災適用 |
使用人兼務役員として雇用保険に加入するには、ハローワークに「兼務役員雇用実態証明書」を提出し、労働者性が認められる必要があります。具体的な審査項目は以下のとおりです。
役員は原則として労災保険の対象外ですが、一定の場合に任意で加入できる「特別加入制度」があります。
| 類型 | 対象 |
|---|---|
| 第1種 | 中小事業主・その家族従事者(常時使用労働者300人以下等) |
| 第2種 | 一人親方・特定作業従事者(建設業・運送業・フリーランス等) |
| 第3種 | 海外派遣者 |
中小事業主が加入するには、労働保険事務組合に委託し、事務組合を通じて申請します。個別申請はできません。保険料は給付基礎日額(3,500円〜25,000円から選択)×365日で年間保険料が決まります。給付基礎日額10,000円を選択した場合、年間保険料は約3〜5万円(業種別労災料率により変動)です。
役員が新たに加入する場合、加入条件を満たさなくなった場合の届出を整理します。
| 場面 | 届出書 | 期限 |
|---|---|---|
| 役員就任(加入) | 被保険者資格取得届 | 事実発生から5日以内 |
| 役員退任(脱退) | 被保険者資格喪失届 | 事実発生から5日以内 |
| 役員報酬の大幅変動 | 月額変更届 | 変動月から4ヶ月目 |
| 定時決定 | 算定基礎届 | 7月1日〜10日 |
非常勤役員として加入除外だった者が常勤化した場合、常勤化した日から5日以内に被保険者資格取得届を提出します。逆に、常勤から非常勤に変更した場合、勤務実態の変化を書面で記録しつつ、資格喪失届を提出します。変更のタイミングでの年金事務所確認が実務上重要です。
年金事務所は、定期的・不定期に役員の加入状況について調査を実施します。
年金事務所から指摘を受けた場合、原則として過去2年分まで遡及して保険料を徴収されます。弊所の経験上、非常勤取締役の実質常勤認定では数百万円単位の遡及納付となるケースがあり、事業継続への影響も小さくありません。日頃の適正な届出・就業規程の整備が防衛策となります。
役員の社会保険加入は、税務と一体で設計する必要があります。実務でよくある論点を整理します。
複数の法人で役員を兼務し、各法人で加入要件を満たす場合、「二以上事業所勤務者」としての届出が必要です。合算した報酬で標準報酬月額を決定し、保険料を各法人で按分して納付します。主たる事業所は被保険者本人が選択し、「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」を提出します。
使用人兼務役員の場合、「役員報酬」と「使用人部分の給与」を明確に区分する必要があります。社会保険の標準報酬月額は両者の合計額で決定しますが、雇用保険料は使用人部分のみが対象です。税務上も役員報酬は法人税法第34条(定期同額給与)の制約、使用人部分は通常の給与として扱われます。
役員賞与も従業員と同様に標準賞与額×保険料率で計算されます。健康保険年度累計573万円・厚生年金1回150万円の上限が適用されるため、高額役員賞与では上限で頭打ちとなります。損金算入には法人税法第34条の「事前確定届出給与」の要件を満たすことが必要です。
役員の社会保険加入は他の論点と連動します。併せてご覧ください。
社会保険制度の全体像は社会保険とは?制度の全体像と加入義務、社会保険料の計算方法は社会保険料の計算方法|標準報酬月額の決定・等級表の読み方、算定基礎届・月額変更届の実務は算定基礎届(定時決定)と月額変更届(随時改定)の実務ガイドで解説しています。賞与の社保計算は賞与の社会保険料計算と届出、適用拡大は社会保険の適用拡大(従業員51人以上)の実務対応ガイドをご覧ください。
📋 この記事のポイント