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税効果会計の基礎|繰延税金資産と会計上の利益と課税所得の違い
「税効果会計って何のためにあるの?」「繰延税金資産という言葉は聞くけれど、仕組みがわからない」——そんな経理担当者・経営者に向けて、税効果会計の基本的なしくみから繰延税金資産の回収可能性まで、数値例を使ってわかりやすくガイドします。


「税効果会計って何のためにあるの?」「繰延税金資産という言葉は聞くけれど、仕組みがわからない」——そんな経理担当者・経営者に向けて、税効果会計の基本的なしくみから繰延税金資産の回収可能性まで、数値例を使ってわかりやすくガイドします。
🏆 結論:税効果会計は「会計上の利益」と「税金」のズレを調整する仕組み
税効果会計とは、会計上の費用・収益と税法上の損金・益金の認識時期のズレ(一時差異)を調整し、税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させる会計処理です。中小会計要領を採用している企業は適用不要ですが、中小会計指針を採用する企業やM&A・IPOを検討中の企業は理解が必須です。
税効果会計とは、企業会計上の利益と税法上の課税所得のズレを調整して、損益計算書の「税引前当期純利益」と「法人税等」を合理的に対応させるための会計処理です。
たとえば、企業会計では費用として認められるものが、税法では損金にならないケースがあります。この場合、会計上は利益が減っているのに税金は減らないという「ズレ」が生じます。税効果会計はこのズレを調整し、決算書の利用者に正確な業績を伝えることを目的としています。
企業会計と税法は目的が異なります。企業会計は「利害関係者への正確な情報提供」が目的であり、保守的な見積もり(引当金の計上など)が推奨されます。一方、税法は「公平な課税」が目的であり、恣意的な費用計上を防ぐために損金算入に厳格なルールを設けています。
この目的の違いから、同じ取引でも「会計上は費用、税法上は損金にならない」「会計上は収益でない、税法上は益金」といった差異が生じるのです。
会計上の利益と税法上の課税所得の関係を整理すると、以下のとおりです。
| 項目 | 会計(企業会計) | 税法(法人税法) |
|---|---|---|
| 計算式 | 収益 − 費用 = 利益 | 益金 − 損金 = 課税所得 |
| 目的 | 利害関係者への情報提供 | 公平な課税の実現 |
| 費用計上の考え方 | 発生主義(将来の見積もりも含む) | 確定債務を中心に損金算入 |
| 引当金 | 合理的な見積もりで計上 | 原則として損金不算入 |
| 減価償却 | 経済的耐用年数で償却 | 法定耐用年数で償却限度額を計算 |
📊 公認会計士の視点
経営者から「決算書では利益が出ているのに、なぜ税金がこんなに高いのか」と質問されることがあります。これは会計上の利益と税務上の課税所得が一致しないために起こる現象です。税効果会計を適用すれば、この「ズレ」の理由が決算書上で明確になり、経営判断に役立つ情報を提供できます。
会計と税法のズレには「一時差異」と「永久差異」の2種類があります。税効果会計の対象になるのは一時差異のみです。
一時差異とは、会計と税法で認識する時期がズレているだけで、いずれ解消される差異のことです。たとえば、賞与引当金は会計上は当期に費用計上しますが、税法では実際に支払った時に損金算入されます。翌期に賞与を支払えばズレは解消されるため、これは一時差異です。
一時差異はさらに「将来減算一時差異」と「将来加算一時差異」に分かれます。
| 区分 | 意味 | 計上する勘定科目 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 将来減算一時差異 | 将来の課税所得を減らす差異 | 繰延税金資産 | 賞与引当金、貸倒引当金、減価償却超過額、棚卸資産評価損 |
| 将来加算一時差異 | 将来の課税所得を増やす差異 | 繰延税金負債 | その他有価証券の評価差額(評価益)、圧縮積立金 |
永久差異とは、将来にわたっても解消されない差異のことです。たとえば、一定額を超える交際費は税法で損金不算入とされますが、これは将来に損金になることがないため永久差異です。永久差異は税効果会計の対象になりません。
| 永久差異の具体例 | 会計上の扱い | 税法上の扱い |
|---|---|---|
| 交際費(損金不算入部分) | 費用 | 損金不算入(永久に解消されない) |
| 寄附金(損金不算入部分) | 費用 | 損金算入限度額を超えた部分は永久に不算入 |
| 受取配当金の益金不算入部分 | 収益 | 一定割合が益金不算入 |
中小企業の決算で実際に発生しやすい一時差異を10項目にまとめました。将来減算一時差異が多いほど、繰延税金資産を計上する余地が大きくなります。
| 一時差異の項目 | 会計上の処理 | 税法上の処理 | 区分 |
|---|---|---|---|
| ①賞与引当金 | 当期に費用計上 | 支払時に損金算入 | 将来減算 |
| ②貸倒引当金(超過額) | 合理的見積額を費用計上 | 法定繰入率超過分は損金不算入 | 将来減算 |
| ③減価償却超過額 | 経済的耐用年数で償却 | 法定耐用年数超過分は損金不算入 | 将来減算 |
| ④棚卸資産評価損 | 低価法で評価損計上 | 一定の要件を満たさないと損金不算入 | 将来減算 |
| ⑤未払事業税 | 当期に費用計上 | 翌期に申告・納付時に損金算入 | 将来減算 |
| ⑥退職給付引当金 | 将来の退職給付額を見積もり計上 | 実際に退職金を支払った時に損金算入 | 将来減算 |
| ⑦繰越欠損金 | — | 将来の課税所得から控除可能 | 将来減算 |
| ⑧その他有価証券(評価益) | 時価評価で評価差額を計上 | 売却時まで益金不算入 | 将来加算 |
| ⑨圧縮積立金 | 純資産に積立 | 取崩時に益金算入 | 将来加算 |
| ⑩資産除去債務 | 将来の撤去費用を見積もり計上 | 実際に費用が発生した時に損金算入 | 将来減算 |
💡 実務のポイント
中小企業で最も発生頻度が高い一時差異は「①賞与引当金」と「⑤未払事業税」です。賞与引当金は3月決算法人が6月支給の夏季賞与を見積もり計上するケースで発生し、未払事業税は翌期に確定申告で支払うまで損金に算入されないため一時差異が生じます。この2項目だけでも税効果会計の基本的な仕組みを理解できます。
税効果会計を適用すると、損益計算書と貸借対照表にどのような影響があるかを、具体的な数値例で見てみましょう。
📐 シミュレーション前提条件
| 損益計算書(抜粋) | 金額 |
|---|---|
| 税引前当期純利益 | 1,000万円 |
| 法人税、住民税及び事業税 | 360万円 |
| 当期純利益 | 640万円 |
※課税所得=1,000万+200万(賞与引当金加算)=1,200万円。法人税等=1,200万×30%=360万円。税引前利益1,000万に対して法人税等が360万円で、税負担率が36%と「ズレ」が生じている。
| 損益計算書(抜粋) | 金額 |
|---|---|
| 税引前当期純利益 | 1,000万円 |
| 法人税、住民税及び事業税 | 360万円 |
| 法人税等調整額 | △60万円 |
| 当期純利益 | 700万円 |
※法人税等調整額=200万×30%=60万円。法人税等の合計=360万−60万=300万円。税引前利益1,000万に対して法人税等300万円で、税負担率がちょうど30%(法定実効税率)に一致。
📐 仕訳:繰延税金資産の計上
(借方)繰延税金資産 600,000 /(貸方)法人税等調整額 600,000
※将来減算一時差異200万円×法定実効税率30%=60万円を繰延税金資産に計上
翌期に賞与を実際に支払った時点で一時差異が解消され、繰延税金資産を取り崩す仕訳を行います。
📐 仕訳:翌期の取崩し
(借方)法人税等調整額 600,000 /(貸方)繰延税金資産 600,000
繰延税金資産・繰延税金負債の金額を算出するには、法定実効税率を使います。法定実効税率は以下の計算式で求めます。
📐 法定実効税率の計算式
法定実効税率 = {法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率+特別法人事業税率}÷(1+事業税率+特別法人事業税率)
資本金1億円以下の中小法人(課税所得800万円超の部分)で計算すると、現行の税率では法定実効税率はおおむね33〜34%程度になります。防衛特別法人税(4%、2026年4月〜)の影響も含めると今後変動する可能性がありますので、最新の税率は顧問税理士にご確認ください。
繰延税金資産は「将来の課税所得で税金が減る効果がある」前提で計上するため、将来の課税所得が見込めない場合は計上できません。この判断を「回収可能性の検討」と呼びます。
企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」では、企業を5つの分類に区分し、それぞれ計上できる繰延税金資産の範囲を定めています。
| 分類 | 企業の特徴 | 計上できる範囲 |
|---|---|---|
| 1 | 過去・将来とも安定的に十分な課税所得 | 全額計上可能 |
| 2 | 安定的に課税所得はあるが、一時差異のスケジューリングが困難な場合あり | スケジューリング可能な部分は計上可能 |
| 3 | 課税所得は不安定(過去に重要な税務上の欠損金あり) | 5年以内に解消されるスケジューリング可能な部分のみ |
| 4 | 重要な税務上の繰越欠損金あり | 翌期に解消される部分のみ(将来の合理的な見積もりあれば5年まで可) |
| 5 | 過去も将来も課税所得が見込めない | 原則計上不可 |
⚠️ 注意:繰延税金資産の取崩しリスク
一度計上した繰延税金資産でも、業績の悪化により回収可能性がなくなった場合は「取崩し」を行い、損失(法人税等調整額の増加)として処理します。繰延税金資産の取崩しは自己資本の減少を伴うため、財務指標に大きな影響を与えます。上場企業では繰延税金資産の取崩しが株価下落のきっかけになることもあります。
中小企業の会計基準により、税効果会計の適用要否は異なります。以下の判定表で自社の状況を確認してください。
| 会計基準・状況 | 税効果会計の適用 | 理由 |
|---|---|---|
| 中小会計要領を採用 | 不要 | 中小会計要領に税効果会計の規定なし |
| 中小会計指針を採用 | 必要 | 中小会計指針に税効果会計の適用を規定 |
| M&A(企業売却)を検討中 | 適用推奨 | 財務DDで税効果の情報が求められる |
| IPO(上場)を検討中 | 必須 | 企業会計基準の適用が必要 |
| 金融機関から要請あり | 適用推奨 | 決算書の信頼性向上につながる |
中小会計要領と中小会計指針の違いについて詳しくは「中小企業の会計基準|中小会計要領・中小会計指針の違いと選び方」をご覧ください。
決算時に、会計上の資産・負債の金額と税務上の資産・負債の金額を比較し、一時差異を把握します。永久差異は除外します。
差異が解消される年度の税率を用いて法定実効税率を計算します。税率の変更が予定されている場合は、変更後の税率を使います。
将来減算一時差異×法定実効税率=繰延税金資産、将来加算一時差異×法定実効税率=繰延税金負債を計算します。繰延税金資産については回収可能性の検討(5分類の判定)を行い、計上額を決定します。
繰延税金資産・繰延税金負債の増減を「法人税等調整額」として損益計算書に計上し、注記(計算書類の個別注記表)に税効果会計の内容を記載します。
💡 実務のポイント
税効果会計の実務で最も重要なのはステップ3の回収可能性の判定です。特にM&A時の財務デューデリジェンスでは、繰延税金資産が「本当に回収できるか」が厳しく検証されます。過去3〜5期の課税所得の実績と将来の事業計画を根拠に説明できる準備をしておくことが重要です。
簿記・帳簿の基礎について詳しくは「簿記・帳簿の基礎」をご覧ください。また、会計ソフトの選び方は「会計ソフトの選び方」で解説しています。
📋 この記事のポイント
税効果会計は会計の中でも難易度が高い分野ですが、仕組みを理解すれば決算書をより正確に読めるようになります。記帳・経理業務の効率化については「記帳代行の費用相場」もご参考ください。
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