【会計士×税理士が解説】中小企業の会計基準|中小会計要領・中小会計指針の違いと選び方

【会計士×税理士が解説】中小企業の会計基準|中小会計要領・中小会計指針の違いと選び方
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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中小企業の会計基準|中小会計要領・中小会計指針の違いと選び方

「中小会計要領と中小会計指針のどちらを使えばいいのかわからない」「そもそもうちの会社に会計基準は必要?」——そんな疑問を持つ中小企業の経営者・経理担当者に向けて、2つの会計基準の違いと選び方を完全ガイドします。この記事を読めば、自社に最適な会計基準を判断できるようになります。

🏆 結論:大多数の中小企業は「中小会計要領」で十分

経理人員が少なく会計参与を設置していない中小企業は、簡便で実務的な「中小会計要領」の採用が適しています。税効果会計や組織再編の会計が必要な場合、あるいは将来の上場を視野に入れている場合のみ「中小会計指針」を検討しましょう。どちらを採用しても融資優遇制度を活用でき、決算書の信頼性が高まります。

中小企業の会計基準とは?全体像と位置づけ

中小企業の会計基準とは、中小企業が決算書(計算書類)を作成する際に準拠すべき会計ルールのことです。日本には大きく4つの会計基準体系があり、中小企業向けには「中小会計要領」と「中小会計指針」の2つが用意されています。

会計基準 対象企業 策定機関 国際基準との関係 難易度
企業会計基準(日本基準)上場企業・大企業企業会計基準委員会(ASBJ)IFRSとのコンバージェンス★★★★★
IFRS(国際会計基準)グローバル上場企業IASB国際基準そのもの★★★★★
中小会計指針中規模〜中小企業日本公認会計士協会等4団体IFRS改正の影響あり★★★☆☆
中小会計要領すべての中小企業中小企業の会計に関する検討会影響なし★★☆☆☆

多くの中小企業は会社法の規定に基づいて決算書を作成しますが、会社法は「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従う」とだけ定めており、具体的な処理方法は会計基準に委ねられています。どの会計基準を選ぶかで、会計処理の複雑さや決算書の内容が変わってきます。

📊 公認会計士の視点

実務で見ていると、日本の中小企業の9割以上は中小会計要領で対応できます。中小会計指針が必要になるのは、会計参与を設置している会社、金融機関から中小会計指針の適用を求められた会社、あるいはM&Aや将来のIPOを見据えている会社に限られます。「難しい方が信頼性が高い」わけではなく、自社の実態に合った基準を選ぶことが大切です。

中小会計要領と中小会計指針の違い【一覧表で比較】

中小会計要領と中小会計指針の最大の違いは、「シンプルさ」と「厳密さ」のバランスです。以下の表で主要な違いを整理します。

比較項目 中小会計要領 中小会計指針
正式名称中小企業の会計に関する基本要領中小企業の会計に関する指針
制定年2012年(平成24年)2005年(平成17年)
策定機関中小企業の会計に関する検討会(中小企業庁・金融庁協力)日本公認会計士協会・日本税理士会連合会・日本商工会議所・ASBJ
想定する企業すべての中小企業(経理人員が少ない会社を含む)会計参与設置会社など一定規模以上の中小企業
会計処理の水準簡便・法人税法との調和重視厳密・企業会計基準に準拠
税効果会計規定なし(不要)規定あり(適用が求められる)
組織再編の会計規定なし規定あり
資産除去債務規定なし規定あり
IFRS改正の影響受けない(安定的)受ける(毎年改正の可能性)
チェックリスト日本税理士会連合会が作成・公表日本税理士会連合会が作成・公表

ひとことで言えば、中小会計要領は「中小企業の実態に即した簡便なルール」、中小会計指針は「大企業向け基準を中小企業向けに簡略化したルール」です。両者に上下関係はなく、自社の規模や体制に合ったものを選択します。

会計処理14項目の比較【中小会計要領 vs 中小会計指針】

中小会計要領では14カテゴリの会計処理を定めています。各項目で中小会計指針との処理方法の違いを比較します。

会計処理項目 中小会計要領 中小会計指針
①貸倒引当金法定繰入率で算定可能個別・一般に区分し合理的な方法で計上
②有価証券原則:取得原価(売買目的は時価)4区分で評価(売買目的・満期保有・子会社関連・その他)
③棚卸資産取得原価。最終仕入原価法も可取得原価。低価法を適用
④固定資産取得原価+減価償却。法人税法の耐用年数でOK取得原価+減価償却。経済的耐用年数で償却
⑤繰延資産法人税法の規定に準拠会社法・企業会計基準に準拠
⑥リース取引ファイナンスリースも賃貸借処理可ファイナンスリースは売買処理
⑦引当金法人税法の規定も参考にできる企業会計原則に基づき計上
⑧退職給付中退共の掛金等の費用処理でOK退職給付引当金を計上(簡便法可)
⑨外貨建取引取得時レートまたは期末レート区分ごとに換算方法を規定
⑩純資産会社法に準拠会社法+会計基準に準拠
⑪収益・費用発生主義・実現主義発生主義・実現主義(工事進行基準等を含む)
⑫注記会社法の個別注記表に準拠より詳細な注記が求められる
⑬税効果会計規定なし繰延税金資産・負債を計上
⑭組織再編規定なし取得・持分の結合の区分等を規定

💡 実務のポイント

実務で最も差が出るのは「⑥リース取引」と「⑧退職給付」の2項目です。中小会計要領ではリースを賃貸借処理(月々のリース料を経費計上するだけ)にできますが、中小会計指針では原則として売買処理(資産と負債を計上する)が求められます。退職給付も同様で、中小会計要領では中退共の掛金を費用計上するだけでOKですが、中小会計指針では退職給付引当金の計算が必要になります。

どちらを選ぶべき?年商・体制別の判定フローチャート

自社にどちらの会計基準が適しているかは、年商規模・経理体制・将来の事業計画の3つの軸で判断できます。

判定条件 該当する 該当しない
会計参与(公認会計士・税理士)を設置しているか?→ 中小会計指針を推奨→ 次へ
将来のIPO(上場)またはM&A(売却)を検討しているか?→ 中小会計指針を推奨→ 次へ
金融機関から中小会計指針の適用を求められているか?→ 中小会計指針を推奨→ 次へ
経理担当者は2名以上で、税効果会計の知識があるか?→ どちらでも対応可能→ 次へ
上記すべて「該当しない」→ 中小会計要領を推奨

年商規模別の目安

年商規模 推奨する会計基準 理由
〜1,000万円中小会計要領経理の負担を最小限に抑える。法人税法の処理と一致するため税務申告もスムーズ
1,000万〜5,000万円中小会計要領ほとんどの取引を14項目のルールでカバーできる
5,000万〜1億円中小会計要領(体制次第で指針も検討)外部からの信用が必要になる規模。融資優遇制度の活用を検討
1億〜5億円中小会計要領 or 中小会計指針経理体制と事業計画に応じて選択。M&A検討時は指針が有利
5億円超中小会計指針取引の複雑さが増し、税効果会計等が求められるケースが多い

※あくまで目安です。年商だけでなく業種・取引の複雑さ・経理体制を総合的に判断してください。

中小会計要領の特徴とメリット・デメリット

中小会計要領のメリット

最大のメリットは「法人税法との調和」が図られている点です。会計処理と税務処理の差異が少ないため、経理の負担が小さく、税務申告もスムーズに行えます。たとえば固定資産の減価償却は法人税法の耐用年数をそのまま使えますし、棚卸資産の評価に最終仕入原価法も認められています。

もう一つのメリットは「安定性」です。国際会計基準(IFRS)の影響を受けないため、毎年のように処理方法が変わる心配がありません。経営者が一度理解すれば、長期にわたって同じルールで決算書を読めるという安心感があります。

中小会計要領のデメリット

一方で、税効果会計や組織再編の会計の規定がないため、M&Aや事業再編を行う際には別途対応が必要です。また、中小会計要領の決算書は中小会計指針に比べて「簡便」な処理が含まれるため、投資家やファンドから見ると情報の精度にやや不安を持たれる場合があります。

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中小会計指針の特徴とメリット・デメリット

中小会計指針のメリット

中小会計指針は大企業向けの企業会計基準を中小企業向けに簡略化したものであり、一定水準以上の決算書が作成できます。税効果会計の適用により会計上の利益と税務上の所得の差異を適切に表示できるため、決算書の精度が上がります。

将来のIPOやM&Aを見据えている企業にとっては、大企業向け基準への移行がスムーズになるというメリットもあります。

中小会計指針のデメリット

国際会計基準の改正に連動して内容が変わるため、対応のための事務負担が継続的に発生します。また、税効果会計・退職給付会計・リースの売買処理など、専門的な知識を持つ経理担当者や顧問の公認会計士・税理士が必要です。

💡 実務のポイント

実務で「中小会計指針を選ぶべきだった」と後悔するケースで最も多いのが、M&A(企業の売却・買収)の局面です。買収側が財務デューデリジェンスを行う際、中小会計要領で作成された決算書だと税効果会計の情報がなく、追加の分析コストがかかります。事業承継やM&Aを3〜5年以内に検討している場合は、早めに中小会計指針への移行を検討しましょう。

融資優遇制度の比較【3機関別】

中小会計要領・中小会計指針のいずれかを適用し、チェックリストを税理士に作成してもらうことで、融資の優遇制度を活用できる場合があります。

機関 優遇内容 必要書類
日本政策金融公庫「中小企業会計活用強化資金」として金利の優遇チェックリスト(税理士作成)+決算書
信用保証協会保証料率の割引(各協会の判断による)チェックリスト(税理士作成)+決算書
民間金融機関金融機関独自の金利優遇(対応は金融機関による)チェックリスト+決算書+経営計画書等

参考: 中小企業庁「中小企業の会計に関する基本要領」

💡 実務のポイント

チェックリストは日本税理士会連合会のサイトからダウンロードでき、顧問税理士に作成を依頼します。チェックリストを添付した融資申込みは、金融機関から「この会社は一定の会計ルールに従って決算書を作っている」という信頼を得られるため、審査がスムーズに進む傾向があります。融資を検討中の方は、まずチェックリストの作成から始めてみてください。

中小会計要領の14項目チェックリストの活用法

中小会計要領に準拠した決算書を作成しているかを確認するには、日本税理士会連合会が作成した「中小企業の会計に関する基本要領の適用に関するチェックリスト」を使います。このチェックリストには14項目の各処理について「適用しているか」を確認する質問が並んでおり、税理士がチェックして署名します。

チェックリスト活用の流れ

まず、中小企業から顧問税理士に「チェックリスト作成依頼書」を交付します。次に税理士が決算書をチェックリストに照らして確認し、適用状況を記入します。最後に税理士が「チェックリスト作成通知書」とともにチェックリストを中小企業に納品します。このチェックリストを融資申込み時に金融機関に提出します。

会計ソフトの選び方については「会計ソフトの選び方」で詳しく解説しています。freee・マネーフォワード・弥生のいずれも中小会計要領に準拠した決算書の作成に対応しています。

企業会計原則との関係

中小会計要領は、日本で伝統的に用いられてきた「企業会計原則」をベースにしています。企業会計原則とは1949年に企業会計審議会が制定した会計の基本ルールで、真実性の原則・正規の簿記の原則・資本取引と損益取引の区分・明瞭性の原則・継続性の原則・保守主義の原則・単一性の原則の7つの一般原則から構成されています。

中小会計要領はこの企業会計原則の考え方を踏襲しつつ、法人税法との調和を図っている点が特徴です。大企業向けの企業会計基準がIFRSとのコンバージェンス(統合)を進めて複雑化する中で、中小企業にとっての使いやすさを維持しています。

簿記・帳簿の基礎について詳しくは「簿記・帳簿の基礎」をご覧ください。

中小会計要領から中小会計指針への移行方法

事業規模の拡大やM&Aの検討に伴い、中小会計要領から中小会計指針に移行する場合があります。移行のポイントは以下の3つです。

移行ステップ1:差異項目の洗い出し

まず、現在の会計処理と中小会計指針の要求事項を比較し、差異がある項目を洗い出します。多くの中小企業で影響が大きいのは、税効果会計の導入、リース取引の売買処理への変更、退職給付引当金の計上の3項目です。

移行ステップ2:税効果会計の導入準備

中小会計指針では税効果会計の適用が求められます。繰延税金資産の回収可能性の判断が必要になるため、将来の課税所得の見積もりを行います。税効果会計の基礎については「税効果会計の基礎」で詳しく解説しています。

移行ステップ3:移行年度の開示

会計方針の変更は計算書類の注記に記載します。移行による影響額も合わせて開示することで、金融機関や利害関係者への説明責任を果たせます。

⚠️ 注意

中小会計指針から中小会計要領に「ダウングレード」することも制度上は可能ですが、金融機関からの印象が悪くなる可能性があります。とくに融資を受けている最中に会計基準を簡便なものに変更すると、「会計処理の水準を下げたのではないか」と疑念を持たれるリスクがあるため、慎重に判断してください。

会計基準と税務申告の関係

中小企業の経営者がよく混乱するのが「会計基準に従った決算書」と「法人税の確定申告」の関係です。結論から言えば、どちらの会計基準を選んでも、法人税の計算は法人税法の規定に従います。

中小会計要領は法人税法との調和が図られているため、会計上の利益と税務上の所得の差異(申告調整)が少なくて済みます。一方、中小会計指針では税効果会計を適用するため、会計上の利益と税務上の所得に差異が生じますが、その差異は税効果会計で調整します。

いずれにしても、法人税の計算(別表の作成)は顧問税理士に依頼するのが一般的です。記帳代行の費用について詳しくは「記帳代行の費用相場」をご参考ください。

よくある質問(FAQ)

中小会計要領と中小会計指針、どちらを採用するかの届出は必要ですか?
いいえ、税務署や行政機関への届出は不要です。自社の判断で選択し、その基準に従って決算書を作成するだけです。ただし、融資優遇制度を活用する場合は、税理士にチェックリストを作成してもらう必要があります。
中小会計要領を採用していると税務調査で不利になりますか?
中小会計要領の採用が税務調査の結果に直接影響することはありません。税務調査では法人税法に基づいた処理が適正かどうかが調べられます。中小会計要領は法人税法と調和が図られているため、適切に運用していれば問題ありません。
個人事業主でも中小会計要領を使えますか?
中小会計要領は会社法に基づく計算書類の作成を対象としているため、法人(株式会社・合同会社等)向けの会計基準です。個人事業主の場合は、所得税法に基づく青色申告決算書を作成しますので、中小会計要領の適用対象外です。
税効果会計が必要ない中小会計要領で決算書の信頼性は大丈夫ですか?
中小会計要領に準拠した決算書は、会社法の計算規則に適合しており、法的な信頼性に問題はありません。金融機関も中小会計要領に準拠した決算書を融資審査で受け入れており、日本政策金融公庫は融資優遇制度まで設けています。
中小会計要領のチェックリストはどこで入手できますか?
日本税理士会連合会のWebサイトからPDFでダウンロードできます。チェックリストの作成は顧問税理士に依頼するのが一般的です。作成依頼書と作成通知書のひな形もあわせて公開されています。
会計参与を設置しなくても中小会計指針を使えますか?
はい、会計参与を設置していない会社でも中小会計指針を採用できます。中小会計指針は「会計参与設置会社が採用することが適当」とされていますが、設置が義務ではありません。経理体制が整っていれば、規模にかかわらず中小会計指針を適用できます。
中小会計要領と中小会計指針を併用することはできますか?
原則として一つの会計基準を一貫して適用することが求められます。企業会計原則の「継続性の原則」により、正当な理由なく会計方針を変更することはできません。ただし、中小会計要領を基本としつつ、特定の項目(例:税効果会計)だけ中小会計指針を参照する実務は行われています。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 中小企業の会計基準は「中小会計要領」と「中小会計指針」の2種類
  • 大多数の中小企業は簡便で法人税法と調和した「中小会計要領」で十分
  • 中小会計指針は税効果会計・組織再編の会計を含むより厳密な基準
  • 会計参与設置会社やIPO・M&Aを検討中の企業は中小会計指針を推奨
  • チェックリストを活用すれば日本政策金融公庫等の融資優遇制度が利用可能
  • どちらの基準でも法人税の計算は法人税法に従う(会計基準と税務は別)
  • 中小会計要領から中小会計指針への移行は、税効果会計の導入がポイント

自社に合った会計基準を選ぶことは、正確な経営判断と円滑な資金調達の第一歩です。会計基準の選定や決算書の作成でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

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