相続時精算課税制度とは?令和6年改正の110万円基礎控除と活用判断を税理士が完全ガイド

相続時精算課税制度とは?令和6年改正の110万円基礎控除と活用判断を税理士が完全ガイド
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

「相続時精算課税制度って結局お得なの?」「令和6年の改正で何が変わったの?」とお悩みの方に向けて、制度の仕組み・計算方法・メリットデメリット・活用すべきケースを完全ガイドします。この記事を読めば、自分の家族にとって精算課税と暦年課税のどちらが有利かを判断できます。

🏆 結論:令和6年改正で「年110万円の基礎控除」が新設され、使い勝手は大幅に向上

相続時精算課税制度とは、60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円まで贈与税を非課税にし、相続時にまとめて精算する制度です。令和6年1月1日以降の贈与から年110万円の基礎控除が新設され、110万円以下の贈与は申告不要かつ相続時の持ち戻しも不要になりました。ただし、一度選択すると暦年課税に戻れない・小規模宅地等の特例が使えなくなるなどのデメリットもあるため、家族の資産状況に応じた慎重な判断が必要です。

相続時精算課税制度とは?基本的な仕組み

制度の定義と目的

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母・祖父母(特定贈与者)から18歳以上の子・孫(受贈者)への贈与について、贈与時の税負担を軽くし、相続発生時に贈与財産と相続財産を合算して相続税として精算する制度です。

通常の贈与(暦年課税)では、贈与額が大きくなるほど最大55%の累進税率がかかります。相続時精算課税制度を選択すると、累計2,500万円までは贈与税がゼロ、超えた部分も一律20%で済むため、まとまった金額を早期に移転したい場合に有効です。

相続税法第21条の9から第21条の16に規定されており、平成15年に創設されました。令和5年度税制改正(令和6年1月1日施行)で年110万円の基礎控除が追加され、制度の使い勝手が大きく向上しています。

💡 実務のポイント

令和6年分の贈与税申告では、相続時精算課税の適用者数が前年比約59%増加しました。110万円基礎控除の新設により「少額贈与でも毎年申告が必要」というハードルがなくなったことが、利用者急増の最大の要因です。実務でも「暦年課税一択」だった相談が「精算課税も検討したい」に変わったケースが増えています。

適用要件(贈与者・受贈者の条件)

要件 贈与者(あげる側) 受贈者(もらう側)
年齢贈与の年の1月1日時点で60歳以上贈与の年の1月1日時点で18歳以上
続柄父母または祖父母贈与者の直系卑属(子または孫)
届出初回贈与の翌年2月1日〜3月15日に届出書を提出
選択単位贈与者ごとに選択可能(父は精算課税・母は暦年課税も可)

参考: 国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」

住宅取得等資金の贈与を受ける場合は、贈与者が60歳未満でも選択できる特例があります(租税特別措置法第70条の2の6、令和8年12月31日まで)。

制度の全体像をひとことで

制度の核心は「贈与税の前払い+相続税での精算」です。贈与時に軽い税負担(または非課税)で財産を移転し、相続発生時に「贈与した財産+相続した財産」の合計額で相続税を計算します。すでに納めた贈与税は相続税から差し引かれ、相続税より多く払っていた場合は還付されます。贈与税の基本的な仕組みについては「贈与税とは?税率・計算方法・非課税枠をわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。

令和6年改正で何が変わった?改正前後の比較表

📢 令和5年度税制改正(令和6年1月1日施行)

相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が創設されました。この改正は令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税・相続税について適用されます。改正前に精算課税を選択済みの方にも適用されます。

項目 改正前(〜令和5年12月31日) 改正後(令和6年1月1日〜)
基礎控除なし年110万円
特別控除累計2,500万円累計2,500万円(変更なし)
少額贈与の申告1円でも贈与があれば申告必要年110万円以下なら申告不要
相続時の持ち戻し贈与額の全額を加算基礎控除110万円を差し引いた残額のみ加算
届出(初年度)申告書+届出書を提出110万円以下でも届出書は必要(申告書は不要)
暦年課税への復帰不可不可(変更なし)
被災財産の再計算なし災害で一定の被害を受けた場合、被害相当額を控除して持ち戻し
既存選択者への適用改正前に選択済みの方にも基礎控除が適用

参考: 国税庁「令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」

💡 実務のポイント

改正前に精算課税を選択していた方からは「毎年10万円の贈与でも申告していたのが面倒だった」という声を多く聞いていました。改正後は110万円以下なら申告不要で、かつ相続時の持ち戻しも不要。「選択したことを後悔していたが、改正で救われた」というケースが実務で増えています。

贈与税の計算方法【5ステップで図解】

相続時精算課税制度を選択した場合の贈与税は、以下の5ステップで計算します。暦年課税のような累進税率ではなく、一律20%のフラット税率です。

ステップ 内容 計算式・ルール
贈与額の確認その年に受けた贈与財産の合計額(特定贈与者ごと)
基礎控除を差し引く贈与額 − 110万円(※複数の特定贈与者がいる場合は按分)
特別控除を差し引く②の残額 − 特別控除(累計限度額2,500万円、前年以前の使用残高を確認)
贈与税額を計算③の残額 × 20%(一律税率)
相続時の精算「②の残額(基礎控除後)」の累計額を相続財産に加算。既納贈与税は相続税から控除

計算例:父から子へ1,000万円を贈与した場合

📐 シミュレーション前提条件

  • 贈与者:父(65歳)
  • 受贈者:子(35歳)
  • 贈与額:1,000万円(令和6年1月1日以降の贈与)
  • 特別控除の残額:2,500万円(初回利用)
  • 他の特定贈与者からの贈与:なし

① 贈与額:1,000万円
② 基礎控除後:1,000万円 − 110万円 = 890万円
③ 特別控除後:890万円 − 890万円 = 0円(特別控除の残額:2,500万円 − 890万円 = 1,610万円)
④ 贈与税額:0円
⑤ 相続時の持ち戻し額:890万円(基礎控除110万円は持ち戻し不要)

🧮 シミュレーション

暦年課税で同じ1,000万円を贈与した場合、贈与税は(1,000万円 − 110万円)× 30% − 90万円 = 177万円(一般税率)です。相続時精算課税制度なら贈与税0円。ただし相続時に890万円が持ち戻されるため、相続税の課税対象が増える点は忘れないでください。

贈与金額別シミュレーション【5パターン比較】

📐 シミュレーション前提条件

  • 令和6年1月1日以降の贈与(基礎控除110万円あり)
  • 特定贈与者1名、特別控除は全額残存(2,500万円)
  • 暦年課税の税率は「特例税率」(直系尊属からの贈与)で計算
贈与額 精算課税の贈与税 暦年課税の贈与税 精算課税の持ち戻し額 差額(精算課税の節税額)
500万円0円48.5万円390万円+48.5万円
1,000万円0円177万円890万円+177万円
2,000万円0円585.5万円1,890万円+585.5万円
2,610万円0円891万円2,500万円+891万円
3,500万円178万円1,355万円3,390万円+1,177万円

※概算値です。精算課税の贈与税は(贈与額 − 110万円 − 2,500万円)× 20%で計算。暦年課税は特例税率の速算表で計算。相続税は含まれていません。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

💡 実務のポイント

上の表を見ると「精算課税が圧倒的に有利」に見えますが、これは贈与税だけの比較です。精算課税では持ち戻し額が相続財産に加算されるため、相続税が増える可能性があります。贈与税だけでなく「贈与税+相続税のトータル」で比較することが重要です。遺産総額が相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を大きく超える方は、必ず税理士にシミュレーションを依頼してください。

複数の特定贈与者がいる場合の基礎控除の按分

相続時精算課税の基礎控除110万円は、受贈者1人に対する年間の上限額です。複数の特定贈与者から贈与を受けた場合、110万円を各特定贈与者の贈与額に応じて按分します。

按分計算の具体例

📐 按分計算の前提条件

  • 子Aが父から300万円、祖父から200万円の贈与を受けた(計500万円)
  • 父・祖父ともに相続時精算課税を選択済み

按分計算:

父分の基礎控除:110万円 × 300万円 ÷ 500万円 = 66万円
祖父分の基礎控除:110万円 × 200万円 ÷ 500万円 = 44万円

結果:

父からの持ち戻し額:300万円 − 66万円 = 234万円(特別控除の範囲内で贈与税0円)
祖父からの持ち戻し額:200万円 − 44万円 = 156万円(特別控除の範囲内で贈与税0円)

なお、按分計算で1円未満の端数が生じた場合は、合計額が110万円になるよう端数を調整できます(相続税法基本通達21の11の2-2)。

⚠️ 注意

よくある間違いとして「贈与者ごとに110万円ずつ控除できる」と思い込んでいるケースがあります。基礎控除110万円はあくまで受贈者1人の年間上限であり、贈与者の人数に関係なく合計110万円です。この勘違いで申告漏れになるケースを実務でも見かけます。

メリット5つ|精算課税を活用すべき理由

メリット①:2,500万円+年110万円の大型控除

令和6年改正後は「年110万円の基礎控除+累計2,500万円の特別控除」の二段構えになりました。たとえば毎年110万円を20年贈与すれば、基礎控除だけで2,200万円を非課税で移転でき、さらに特別控除2,500万円は別枠で使えます。

メリット②:基礎控除分は相続時に持ち戻し不要

これが令和6年改正最大のポイントです。暦年課税では相続開始前7年以内(段階的に延長中)の贈与は相続財産に加算されますが、相続時精算課税の基礎控除110万円分は加算対象外です。つまり、毎年110万円以内の贈与を10年続ければ、1,100万円が相続財産から完全に切り離されます。

メリット③:値上がりが見込める財産を贈与時の評価額で移転できる

相続時に持ち戻す金額は「贈与時の評価額」です。将来値上がりが見込める株式・不動産を今の評価額で移転しておけば、値上がり分の相続税を節税できます。

メリット④:収益物件の家賃収入を子に移転できる

賃貸マンションなどの収益物件を子に贈与すると、贈与後の家賃収入は子のものになります。贈与者(親)の財産増加を抑えられるため、将来の相続税の圧縮につながります。

メリット⑤:贈与税の超過分は一律20%のフラット税率

暦年課税は最大55%の累進税率ですが、精算課税は控除超過分でも一律20%です。まとまった金額を一度に贈与する場合、贈与税の負担が大幅に軽くなります。

デメリット7つ|選択前に必ず確認すべきリスク

デメリット①:一度選択すると暦年課税に戻れない

相続時精算課税選択届出書を提出すると、その特定贈与者からの贈与については生涯にわたり精算課税が適用されます。撤回や変更はできません。ただし、別の贈与者からの贈与は暦年課税のままにできます(父は精算課税、母は暦年課税という使い分けは可能)。

デメリット②:小規模宅地等の特例が使えなくなる

精算課税で贈与した宅地には、小規模宅地等の特例(最大80%評価減)を適用できません。これは「相続または遺贈」で取得した宅地にのみ適用される制度だからです(租税特別措置法第69条の4)。自宅の土地を精算課税で贈与すると、330㎡まで80%減額される特例が使えず、相続税が大幅に増える可能性があります。

⚠️ 注意:これが精算課税の最大のリスクです

実務で「精算課税にしなければよかった」という後悔の声を最も多く聞くのがこのケースです。たとえば評価額5,000万円の自宅用地を精算課税で贈与した場合と相続で取得した場合では、小規模宅地等の特例適用後の課税対象額に最大4,000万円(5,000万円×80%)の差が生じます。自宅を含む不動産の贈与は、精算課税を使わず相続で移転する方が有利なケースが多い点を必ず覚えておいてください。

なお、自宅の「建物のみ」を精算課税で贈与し、「土地は相続で取得」する方法なら小規模宅地等の特例を適用できるケースもあります。ただし要件が複雑なため、必ず税理士に相談してください。

デメリット③:不動産の場合、登録免許税と不動産取得税が高くなる

税金 相続で取得 贈与で取得
登録免許税0.4%2.0%
不動産取得税非課税1.5%〜4%
合計負担(差)0.4%3.5%〜6%

固定資産税評価額が1億円の不動産であれば、贈与の場合は相続と比べて約310万円〜560万円の追加コストが発生します。

デメリット④:財産の値下がりリスク

持ち戻しは「贈与時の評価額」で行われます。贈与後に財産価値が下落しても、相続税は贈与時の高い評価額で計算されてしまいます。値下がりリスクがある財産には不向きです。

デメリット⑤:相続放棄しても精算課税の納税義務は残る

相続放棄をした場合でも、精算課税で贈与を受けた財産については相続税の申告・納税義務が残ります。「相続放棄すれば全てリセット」とはなりません。

デメリット⑥:贈与記録の長期管理が必要

特別控除の残額管理、基礎控除の按分計算、持ち戻し額の累計管理など、贈与者が亡くなるまでの長期間にわたり贈与記録を保管する必要があります。

デメリット⑦:暦年課税の基礎控除が同一贈与者に使えなくなる

精算課税を選択した贈与者からの贈与には、暦年課税の基礎控除110万円は使えません。ただし、精算課税の基礎控除110万円が新設されたため、この点のデメリットは改正後に大幅に軽減されています。

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使うべき7パターン×使うべきでない5パターン【判定表】

「自分のケースは精算課税が向いているの?」を判断するための判定表です。

パターン 判定 理由
毎年110万円以下の少額贈与を長期間続けたい基礎控除分は持ち戻し不要。暦年課税の7年加算より有利
値上がりが見込める株式・不動産を贈与したい贈与時の評価額で固定されるため、値上がり分の節税
賃貸マンション等の収益物件を子に移転したい将来の家賃収入が親の財産に蓄積されなくなる
住宅取得資金を一括で贈与したい2,500万円+110万円まで贈与税ゼロ。住宅資金非課税との併用も可
事業承継で自社株を後継者に早期移転したい株価が低い時点で移転し、将来の値上がり分を節税
遺産総額が基礎控除以下と見込まれる持ち戻しても相続税が発生しない。贈与税ゼロで財産移転可能
贈与者の年齢が高く相続が近い暦年課税の7年加算を考えると精算課税の基礎控除の方が有利
自宅用地を子に贈与したい(同居のケース)×小規模宅地等の特例(80%減額)が使えなくなる
財産の値下がりリスクが高い(仮想通貨・未上場株等)×贈与時の高い評価額で持ち戻されるリスク
遺産総額が基礎控除を大幅に超える高額資産家暦年課税で長期間にわたり年110万円ずつ贈与した方が有利な場合も
孫への贈与で相続人にならない場合暦年課税なら生前贈与加算の対象外(相続で財産を取得しない孫)
将来の相続放棄を検討している×相続放棄しても精算課税の納税義務は残る

暦年課税と相続時精算課税の詳しいシミュレーション比較は「暦年課税と相続時精算課税の比較|どちらを選ぶべき?シミュレーションで判定」で解説しています。

小規模宅地等の特例との関係|損得シミュレーション

精算課税の最大の落とし穴が、小規模宅地等の特例との関係です。具体的にどの程度の差が出るのか、シミュレーションで確認しましょう。

📐 シミュレーション前提条件

  • 父の自宅用地:路線価評価額5,000万円(330㎡以内)
  • 父のその他財産:3,000万円
  • 相続人:子1人
  • 相続税の基礎控除:3,600万円(3,000万円+600万円×1人)
項目 ケースA:精算課税で贈与 ケースB:相続で取得
自宅用地の課税対象額4,890万円(持ち戻し)1,000万円(80%減額後)
その他財産3,000万円3,000万円
課税対象合計7,890万円4,000万円
基礎控除後4,290万円400万円
相続税額(概算)約600万円約40万円

※概算値です。精算課税の贈与税0円(特別控除内)は考慮済み。個別の状況により異なります。

このケースでは約560万円もの差が生じます。自宅用地を精算課税で贈与するかどうかは、小規模宅地等の特例の適用可否を必ず確認したうえで判断してください。

小規模宅地等の特例について詳しくは「小規模宅地等の特例とは?適用要件・計算方法・申告のポイント」をご覧ください。

申告手続きの流れ【初年度・2年目以降の4パターン分岐】

令和6年改正で申告のルールが変わりました。初年度か2年目以降か、110万円以下か超過かで手続きが変わります。

パターン 申告書 届出書 期限
初年度・110万円超贈与税の申告書+添付書類相続時精算課税選択届出書翌年2/1〜3/15
初年度・110万円以下不要相続時精算課税選択届出書(単独提出)翌年2/1〜3/15
2年目以降・110万円超贈与税の申告書不要(届出は初年度のみ)翌年2/1〜3/15
2年目以降・110万円以下不要不要

⚠️ 注意:初年度の届出を忘れると精算課税が適用されません

初年度に110万円以下の贈与であっても、「相続時精算課税選択届出書」は必ず翌年3月15日までに提出してください。届出が期限内に提出されないと、暦年課税として扱われます。暦年課税に切り替わると、将来の相続開始前7年以内の贈与が相続財産に加算される可能性があります。実務でこの期限切れのミスは取り返しがつきません。

届出に必要な書類

初年度の届出には以下の書類が必要です。

書類 取得先
相続時精算課税選択届出書国税庁HP or 税務署
受贈者の戸籍謄本(贈与者との続柄を証明)市区町村役場
受贈者の戸籍の附票(住所の変遷を証明)市区町村役場
贈与者の住民票(年齢・住所を証明)市区町村役場

相続時の精算|計算方法と還付の仕組み

持ち戻しの計算ルール

特定贈与者が亡くなった場合、令和6年1月1日以後の贈与については「年ごとの贈与額の合計 − その年の基礎控除110万円」の累計額が相続財産に加算されます。令和5年12月31日以前の贈与分は贈与額の全額が加算対象です。

持ち戻し計算の具体例

📐 シミュレーション前提条件

  • 令和4年に500万円を贈与(改正前、基礎控除なし)
  • 令和6年に300万円を贈与(改正後、基礎控除110万円あり)
  • 令和7年に200万円を贈与(改正後、基礎控除110万円あり)
  • 令和8年に贈与者が死亡、相続財産5,000万円、相続人は子1人

持ち戻し額の計算:

令和4年分:500万円(全額、改正前のため基礎控除なし)
令和6年分:300万円 − 110万円 = 190万円
令和7年分:200万円 − 110万円 = 90万円
持ち戻し合計:780万円

相続税の計算:

課税対象:5,000万円(相続財産)+ 780万円(持ち戻し)= 5,780万円
基礎控除:3,600万円
課税遺産額:2,180万円
相続税額:2,180万円 × 15% − 50万円 = 約277万円
(精算課税で既に納付した贈与税があれば控除し、超過分は還付)

相続税の計算方法について詳しくは「相続税の計算方法|基礎控除・税率・早見表でわかりやすく解説」をご覧ください。

暦年課税との比較|7年加算ルール拡大で精算課税が有利になるケース

令和6年以降、暦年課税と相続時精算課税のどちらが有利かは従来よりも判断が難しくなっています。最大の理由は、暦年課税の生前贈与加算期間が3年から段階的に7年に延長されたことです。

比較項目 暦年課税 相続時精算課税
基礎控除年110万円年110万円(令和6年〜)
大型控除なし累計2,500万円
超過部分の税率10%〜55%(累進)一律20%
生前贈与加算相続開始前7年以内(段階延長中)基礎控除超過分のみ全期間
基礎控除分の持ち戻し7年以内なら持ち戻し対象持ち戻し不要
撤回・変更いつでも可能不可(一度選択したら生涯適用)
小規模宅地等の特例適用可適用不可

📊 公認会計士の視点

令和6年改正後のポイントは「基礎控除110万円分の持ち戻し」の扱いです。暦年課税では7年以内の贈与は基礎控除以下でも持ち戻し対象になります(3年超〜7年は合計100万円控除あり)。一方、精算課税の基礎控除110万円分は何年前の贈与でも持ち戻し不要です。贈与者の年齢が高く「7年以内に相続が発生する可能性が高い」ケースでは、精算課税の方が有利になる場面が増えています。

暦年課税との詳しい比較シミュレーションは「暦年課税と相続時精算課税の比較|どちらを選ぶべき?シミュレーションで判定」で解説しています。

事業承継で精算課税を活用する方法

相続時精算課税制度は事業承継の場面でも活用されます。自社株を後継者に早期移転する際、株価が低い段階で贈与すれば値上がり分の相続税を節税できます。

自社株贈与のメリット

中小企業の自社株は、会社の業績拡大とともに株価が上昇することが一般的です。精算課税で贈与すると、持ち戻しは贈与時の評価額で行われるため、将来の株価上昇分は相続税の計算対象になりません。

たとえば、現在の自社株評価額が5,000万円で、10年後に1億5,000万円に上昇した場合、精算課税で贈与していれば持ち戻し額は4,890万円(5,000万円 − 110万円)です。暦年課税で相続した場合は1億5,000万円が課税対象となり、1億円以上の差が生じます。

💡 実務のポイント

事業承継では「事業承継税制(法人版の納税猶予・免除制度)」との併用も検討すべきです。精算課税と事業承継税制はどちらも贈与税の特例ですが、適用要件や効果が異なります。自社株の移転方法は税理士・公認会計士を交えて総合的に検討してください。詳しくは「事業承継税制とは?適用要件・納税猶予・免除の仕組みを完全ガイド」をご覧ください。

失敗事例3選|精算課税で損をしたケース

失敗事例①:自宅の土地を精算課税で贈与し、小規模宅地等の特例を失った

70歳の父が同居する子に自宅の土地(評価額6,000万円)を精算課税で贈与。その3年後に父が死亡。小規模宅地等の特例が使えず、相続税が約800万円増加しました。相続で取得していれば80%減額が適用でき、相続税の大幅な軽減が可能でした。

失敗事例②:贈与した株式が暴落し、贈与時の高い評価額で持ち戻された

上場株式2,000万円分を精算課税で贈与。その後株価が半値以下に暴落し、相続時には800万円の評価。しかし持ち戻しは贈与時の1,890万円(2,000万円 − 110万円)で計算されたため、実際の財産価値より約1,000万円高い金額で相続税が課税されました。

失敗事例③:初年度の届出を期限内に提出せず、暦年課税として扱われた

110万円以下の贈与だったため「申告不要=届出も不要」と勘違いし、相続時精算課税選択届出書を提出しなかったケース。暦年課税として扱われた結果、相続開始前7年以内の贈与として相続財産に加算されてしまいました。初年度は110万円以下でも届出書の提出が必須です。

よくある質問(FAQ)

相続時精算課税制度を選択した後、暦年課税に戻すことはできますか?
できません。一度選択すると、その特定贈与者からの贈与については生涯にわたり相続時精算課税が適用されます。ただし、別の贈与者からの贈与については暦年課税のままにすることが可能です。
110万円の基礎控除は贈与者ごとに110万円ずつ使えますか?
いいえ。基礎控除110万円は受贈者1人あたりの年間上限です。複数の特定贈与者から贈与を受けた場合は、110万円を各贈与者の贈与額に応じて按分します。
改正前に相続時精算課税を選択済みですが、新しい基礎控除110万円は使えますか?
はい、使えます。令和6年1月1日以後の贈与であれば、改正前に選択済みの方にも基礎控除110万円が適用されます。
相続時精算課税で贈与した不動産に小規模宅地等の特例は使えますか?
使えません。小規模宅地等の特例は「相続または遺贈」で取得した宅地にのみ適用されるため、精算課税で贈与した宅地は対象外です。ただし、建物のみを贈与し土地は相続で取得するケースでは特例を適用できる場合があります。
相続時精算課税を選択した場合、贈与税の申告は毎年必要ですか?
令和6年1月1日以後の贈与で、その年の贈与額が110万円以下であれば申告不要です。110万円を超える場合は翌年2月1日〜3月15日に贈与税の申告が必要です。ただし、初年度は110万円以下でも届出書の提出が必要です。
相続放棄をした場合、精算課税で受けた贈与の税金はどうなりますか?
相続放棄をしても、精算課税で贈与を受けた財産については相続税の申告・納税義務が残ります。「相続放棄したから全額非課税」とはなりません。
住宅取得等資金の贈与税非課税と相続時精算課税は併用できますか?
併用可能です。住宅取得等資金の非課税措置(最大1,000万円)を適用したうえで、残額について精算課税の特別控除2,500万円を利用できます。また、住宅取得等資金に限り、贈与者が60歳未満でも精算課税を選択できる特例があります(令和8年12月31日まで)。
贈与税を精算課税で支払った後、相続税の方が少なかった場合はどうなりますか?
精算課税で支払った贈与税が相続税額を超えている場合は、差額が還付されます。たとえば精算課税で100万円の贈与税を納付し、相続税の計算で70万円の税額だった場合、30万円が還付されます。
孫に精算課税で贈与する場合、暦年課税と比べてどちらが有利ですか?
ケースバイケースです。孫が相続で財産を取得しない場合、暦年課税なら生前贈与加算の対象外になるため、暦年課税の方が有利なケースがあります。一方、まとまった金額を一度に移転したい場合は精算課税が有利です。税理士にシミュレーションを依頼することをおすすめします。
贈与財産が災害で被害を受けた場合、持ち戻し額は減額されますか?
令和6年1月1日以後の贈与で取得した精算課税適用財産が災害で一定の被害を受けた場合、被害部分に相当する額を控除した残額で持ち戻しの計算が行われます。これは令和5年度税制改正で新設された特例です。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 相続時精算課税制度は、60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与を対象とし、累計2,500万円まで贈与税が非課税になる制度
  • 令和6年1月1日以後の贈与から年110万円の基礎控除が新設され、110万円以下なら申告不要・持ち戻しも不要に
  • 最大のデメリットは「一度選択すると暦年課税に戻れない」「小規模宅地等の特例が使えなくなる」の2点
  • 自宅用地の贈与は精算課税を使わず相続で取得した方が有利なケースが多い
  • 暦年課税の7年加算ルール拡大により、贈与者の年齢が高いケースでは精算課税の方が有利になる場面が増えている
  • 初年度は110万円以下の贈与でも届出書の提出が必須。期限切れは取り返しがつかない
  • 贈与税だけでなく「贈与税+相続税のトータル」でシミュレーションし、家族全体の最適解を判断することが重要

相続時精算課税制度は令和6年改正で大幅に使い勝手が向上しましたが、小規模宅地等の特例との関係や不可逆的な選択など、判断を誤ると大きな損失につながるリスクもあります。まずは相続税のシミュレーションを行い、自分の家族にとって最適な方法を税理士と一緒に検討してください。

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