【税理士監修】結婚・子育て資金の一括贈与の非課税|1,000万円の対象範囲と注意点

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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結婚・子育て資金の一括贈与の非課税|1,000万円の対象範囲と注意点
「結婚・子育て資金の非課税って教育資金の一括贈与と何が違うの?」「1,000万円の非課税枠はどんな費用に使えるの?」とお悩みの方に向けて、対象費目・適用要件・贈与者死亡時の残額課税ルールを完全ガイドします。この記事を読めば、制度を活用すべきかどうかを判断できます。
🏆 結論:利用者は全国で約7,900件。多くのケースでは都度贈与で十分
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度は、受贈者1人あたり最大1,000万円(結婚費用は300万円まで)が非課税になる制度です。ただし、教育資金の一括贈与と異なり、贈与者が死亡した場合は残額の全額が即座に相続税の課税対象になります(23歳未満等の除外規定がありません)。対象費用も小学校就学前の子育て費用に限られるため使い切りにくく、利用実績は全国で約7,900件にとどまります。扶養義務者が生活費・子育て費用を必要な都度渡す場合はそもそも贈与税がかからないため、まずは都度贈与を検討しましょう。
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度とは?基本的なしくみ
制度の概要と目的
結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度とは、直系尊属(父母・祖父母など)が18歳以上50歳未満の子や孫に結婚・子育て資金を一括で贈与した場合に、受贈者1人あたり最大1,000万円まで贈与税が非課税になる制度です。租税特別措置法第70条の2の3に規定されています。
将来の経済的不安が若年層に結婚・出産を躊躇させる要因の一つになっていることを踏まえ、両親や祖父母の資産を早期に移転することで、子や孫の結婚・出産・子育てを支援する目的で平成27年度税制改正により創設されました。
制度の基本情報
| 項目 |
内容 |
| 贈与者 | 受贈者の直系尊属(父母・祖父母・曾祖父母など) |
| 受贈者 | 18歳以上50歳未満の子・孫など(前年の合計所得金額1,000万円以下) |
| 非課税限度額 | 1人あたり最大1,000万円(うち結婚費用は300万円まで) |
| 手続き | 金融機関で専用口座を開設し、結婚・子育て資金非課税申告書を提出 |
| 払出し方法 | 領収書等を金融機関に提出して払出し |
| 適用期間 | 平成27年4月1日〜令和9年3月31日(令和7年度改正で2年延長) |
| 契約終了 | 受贈者が50歳に達した日 |
| 贈与者死亡時 | 残額の全額が相続財産に加算(除外規定なし) |
📢 令和7年度税制改正で2年延長
令和7年度税制改正により、適用期限が令和7年3月31日から令和9年3月31日まで2年延長されました。ただし、令和5年度税制改正大綱で「制度の廃止も含め、改めて検討する」とされた経緯があり、利用件数の低迷を受けて制度の存続は不透明な状況です。
非課税の対象範囲|結婚費用300万円と子育て費用1,000万円の費目判定表
結婚に際して支払う費用(最大300万円)
| 費目 |
対象 |
条件・備考 |
| 挙式費用・会場費 | ○ | 婚姻日の1年前の日以後に支払われたもの |
| 衣装代(ウェディングドレス等) | ○ | 挙式に伴うもの |
| 新居の家賃・敷金・礼金 | ○ | 婚姻日の前後1年以内に締結した賃貸契約。契約日から3年以内の支払い分 |
| 引越費用 | ○ | 婚姻日の前後1年以内に行ったもの |
| 結納式の費用 | × | 対象外 |
| 婚約指輪・結婚指輪 | × | 対象外 |
| 新婚旅行の費用 | × | 対象外 |
| 結婚情報サービスの利用料 | × | 対象外 |
| 新居の家具・家電購入費 | × | 対象外 |
| 新居の光熱費 | × | 対象外 |
妊娠・出産・育児に要する費用(最大1,000万円)
| 費目 |
対象 |
条件・備考 |
| 不妊治療の費用 | ○ | 人工授精・体外受精等を含む |
| 妊婦健診の費用 | ○ | — |
| 分娩費用・入院費 | ○ | — |
| 産後ケアの費用 | ○ | — |
| 子の医療費 | ○ | 小学校就学前まで |
| 幼稚園・保育所の保育料 | ○ | 小学校就学前まで |
| 認可外保育施設の利用料 | ○ | 一定の基準を満たすもの |
| ベビーシッター代 | ○ | — |
| 小学校以降の入学金・学費 | × | 教育資金一括贈与の対象 |
| 子の習い事(ピアノ・水泳等) | × | 教育資金一括贈与の対象 |
⚠️ 子育て費用は「小学校就学前」まで
教育資金の一括贈与の非課税制度(最大1,500万円)とは異なり、この制度の子育て費用は小学校就学前の費用に限られます。小学校以降の学費・塾代・習い事の費用は対象外です。このため、1,000万円の非課税枠があっても使い切るのが難しいのが実情です。
💡 実務のポイント:「使い切れない」が最大の課題
実務で相談を受けると、「結婚費用300万円+出産費用50万円+保育料3年分で150万円=合計500万円」程度で、1,000万円を使い切るケースはほとんどありません。無理に1,000万円を拠出すると残額に贈与税がかかるリスクがあるため、実際に使う見込み額に抑えて拠出することが鉄則です。
適用要件チェックリスト
| 区分 |
要件 |
チェック |
| 贈与者 | 受贈者の直系尊属であること(叔父叔母・義父母は対象外) | □ |
| 受贈者 | 契約締結日において18歳以上50歳未満であること | □ |
| 前年の合計所得金額が1,000万円以下であること | □ |
| 手続き | 金融機関で結婚・子育て資金口座を開設すること | □ |
| 結婚・子育て資金非課税申告書を金融機関経由で提出 | □ |
贈与税の基本的な仕組みについては「贈与税の基礎知識と仕組み」で解説しています。
教育資金の一括贈与との違い|7項目比較表
教育資金の一括贈与の非課税制度と混同されやすいため、7つの項目で違いを整理します。
| 比較項目 |
結婚・子育て資金 |
教育資金 |
| 非課税限度額 | 1,000万円(結婚300万円) | 1,500万円(学校外500万円) |
| 受贈者の年齢 | 18歳以上50歳未満 | 30歳未満 |
| 契約終了年齢 | 50歳 | 30歳(在学中は40歳まで延長可) |
| 贈与者死亡時の残額 | 全額が相続財産に加算(除外なし) | 全額が相続財産に加算(23歳未満等は除外あり) |
| 2割加算(孫等) | R3.4以降の拠出分は対象 | R3.4以降の拠出分は対象 |
| 適用期限 | 令和9年3月31日 | 令和8年3月31日(終了予定) |
| 利用実績(累計) | 約7,900件・約250億円 | 約268,000件・約2兆円 |
⚠️ 最大の違い:贈与者死亡時の残額に「除外規定がない」
教育資金の一括贈与では、贈与者が死亡した時点で受贈者が23歳未満であれば残額は相続財産に加算されません。しかし、結婚・子育て資金の一括贈与にはこの除外規定がありません。贈与者が死亡した場合、残額は受贈者の年齢に関係なく全額が相続財産に加算されます。この点が両制度の最大かつ最重要の違いです。
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制度を使うべき人・使うべきでない人の判定表
使うべき4パターン
| パターン |
判定 |
理由 |
| 子が結婚予定で、挙式+新居費用が確定している | ○ | 使い切れる見込みがあり残額リスクが低い |
| 子が不妊治療中で高額な費用がかかる見込み | ○ | 体外受精等は1回あたり30〜50万円、複数回で数百万円になることも |
| 遺産総額が基礎控除を大幅に超え相続税率が高い | ○ | 非課税移転の効果が大きい |
| 子育て費用の使途を限定し管理したい | ○ | 金融機関が領収書で使途をチェックする |
使うべきでない5パターン
| パターン |
判定 |
理由 |
| 相続税が基礎控除以下で課税されない見込み | × | 節税メリットがなく手続きの手間だけが増える |
| 子にまだ結婚の予定がなく使途の見込みが立たない | × | 50歳までに使い切れず残額に贈与税がかかる |
| 贈与者が高齢で死亡リスクがある | × | 残額全額が相続財産に加算(除外なし) |
| 贈与者が元気で必要な都度資金を渡せる | × | 都度贈与で十分。手間とリスクを避けられる |
| 子の教育費(小学校以降)を援助したい | × | 教育資金の一括贈与を検討すべき |
手続きの流れ【4ステップ】
【ステップ1】金融機関で結婚・子育て資金口座を開設する
取扱金融機関(信託銀行・銀行など)で結婚・子育て資金管理契約に基づく専用口座を開設します。こども家庭庁のホームページに取扱金融機関の一覧が掲載されていますので、事前に確認しましょう。
【ステップ2】結婚・子育て資金非課税申告書を提出する
金融機関の営業所を経由して、結婚・子育て資金非課税申告書を税務署に提出します。金融機関が取り次ぎを行うため、受贈者が直接税務署に出向く必要はありません。
【ステップ3】贈与資金を口座に預け入れる
贈与者が専用口座に資金を預け入れます。1,000万円に達するまでは追加の拠出も可能です(追加結婚・子育て資金非課税申告書の提出が必要)。
【ステップ4】領収書等を提出して資金を払い出す
結婚・子育て費用を支払ったら、領収書等を金融機関に提出して払出しを受けます。領収書の提出期限は支払日から1年を経過する日までです。
💡 実務のポイント:結婚費用の支払時期に注意
結婚費用として非課税になるのは「婚姻日の1年前の日以後に支払われたもの」に限られます。たとえば、3年前に婚約して支払った結婚式場の予約金は対象外になる場合があります。婚姻届の提出日を基準に1年前以降の支払いかどうかを確認しましょう。
贈与者が死亡した場合の残額への相続税課税
残額の全額が相続財産に加算される
結婚・子育て資金管理契約の期間中に贈与者が死亡した場合、死亡日における管理残額(非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を差し引いた残額)は、受贈者が贈与者から相続等により取得したものとみなされます。
教育資金の一括贈与では、受贈者が23歳未満であれば残額は相続財産に加算されませんが、結婚・子育て資金にはこの除外規定がありません。拠出時期や受贈者の年齢にかかわらず、残額の全額が相続財産に加算されます。
2割加算の適用
令和3年4月1日以後に拠出された資金については、受贈者が贈与者の子以外(孫・ひ孫など)である場合、管理残額に対する相続税額に2割加算が適用されます。
残額課税のシミュレーション
📐 シミュレーション前提条件
- 父が子に500万円を結婚・子育て資金として拠出(令和4年)
- 子が結婚費用200万円+出産費用50万円=計250万円を使用
- 残額250万円がある状態で父が死亡
- 父の遺産総額:1億5,000万円(法定相続人:妻+子2人)
| 項目 |
金額 |
| 拠出額 | 500万円 |
| 使用済み額 | 250万円 |
| 管理残額(相続財産に加算) | 250万円 |
| 相続税の限界税率(概算) | 約20% |
| 残額に対する追加相続税(概算) | 約50万円 |
※概算値です。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。
相続税の計算方法について詳しくは「相続税の計算方法」をご覧ください。
契約終了事由と残額への贈与税
| 終了事由 |
残額への課税 |
| 受贈者が50歳に達した | 残額に贈与税が課税 |
| 口座残高がゼロになり合意により終了 | 残額なし |
| 受贈者が死亡した | 課税なし |
| 贈与者が死亡した | 残額に相続税が課税(契約自体は終了しない) |
受贈者が50歳になった時点で残額が300万円あった場合の贈与税は(300万円−110万円)×10%=19万円です。残額が110万円以下であれば基礎控除の範囲内で贈与税はかかりません。
都度贈与との比較|そもそも制度を使う必要があるか
相続税法第21条の3第1項第2号により、扶養義務者が生活費や教育費として必要な都度、直接支払う場合は贈与税がかかりません。親が子の結婚式費用を直接式場に振り込む場合や、祖父母が孫の保育料を直接保育園に支払う場合もこれに該当します。
| 判断基準 |
一括贈与が有利 |
都度贈与が有利 |
| 贈与者の健康状態 | 高齢・健康不安 → 先にまとめて渡したい | 元気・長生きの見込み → 必要時に渡せる |
| 使途の見込み | 結婚・出産が確定 → 使い切れる | まだ未定 → 残額リスクあり |
| 手続きの負担 | 口座開設+領収書管理が必要 | 手間なし |
💡 実務のポイント:利用実績が物語る「使いにくさ」
制度開始から約10年で全国の利用件数は約7,900件にとどまります。教育資金一括贈与の約268,000件と比べると30分の1以下です。対象費目が限られること、残額への課税が厳しいこと、手続きの煩雑さが利用を阻んでいます。実務では、まず都度贈与で対応できないかを検討し、それが難しい場合に限って一括贈与を提案するのが基本です。
相続時精算課税制度との組み合わせについては「相続時精算課税制度の基礎知識」、小規模宅地等の特例については「小規模宅地等の特例の概要」をご覧ください。
失敗事例4選|実務で見かける典型的なミス
失敗事例①:1,000万円を拠出したが400万円しか使えなかった
父が娘に1,000万円を拠出。娘は結婚費用200万円+出産費用50万円+保育料3年分150万円=計400万円を使用。子が小学校に入学した時点で残額600万円。小学校以降の学費は対象外のため使い道がなくなった。結局、50歳到達時に残額600万円に対する贈与税(600万円−110万円)×30%−65万円=82万円を支払った。
教訓:対象費目が小学校就学前に限られるため、1,000万円を使い切るのは現実的に困難です。実際に見込まれる費用の範囲内(多くの場合300〜500万円程度)で拠出しましょう。
失敗事例②:婚約指輪の購入費を非課税で払い出そうとした
孫が結婚にあたり、婚約指輪50万円を専用口座から払い出そうとしたが、金融機関から「婚約指輪は対象外」と言われた。結納式の費用や新婚旅行の費用も対象外だった。
教訓:「結婚」に関する費用であっても、対象は挙式費用・新居の家賃等に限られます。事前に費目を確認しましょう。
失敗事例③:贈与者が拠出の2年後に死亡し、残額に相続税がかかった
祖父が孫に800万円を拠出したが、拠出から2年後に祖父が死亡。孫はまだ200万円しか使っておらず、残額600万円が相続財産に加算された。孫は一親等の血族(子)でないため、2割加算の対象にもなった。
教訓:結婚・子育て資金の一括贈与は、贈与者が死亡した場合に残額の全額が相続財産に加算されます。贈与者の年齢と健康状態を慎重に考慮しましょう。
失敗事例④:兄弟間で不公平感が生じた
長女の結婚時に500万円を一括贈与したが、次女は結婚の予定がなく同額の贈与を受けられなかった。次女から「不公平だ」と不満が出て、相続時に特別受益の主張に発展した。
教訓:結婚・子育て資金の贈与は、特別受益として遺産分割に影響する可能性があります。兄弟間の公平性に配慮し、他の兄弟にも同等の資金援助を検討しましょう。
よくある質問(FAQ)
結婚・子育て資金の一括贈与は令和9年3月31日以降も使えますか?
現時点では令和9年3月31日が適用期限です。令和7年度税制改正で2年延長されましたが、制度の廃止を含めた検討が続いており、さらなる延長は不透明です。すでに契約している場合は、拠出済みの資金について引き続き利用可能です。
1,000万円の非課税枠は結婚費用だけで全額使えますか?
いいえ。結婚に関する費用は300万円が上限です。残りの700万円は妊娠・出産・育児に関する費用に使う必要があります。結婚費用だけで1,000万円を使い切ることはできません。
複数の贈与者から合計1,000万円を超えて受け取ることはできますか?
非課税限度額は受贈者1人あたり1,000万円です。贈与者が複数いても合計1,000万円が上限です。父から600万円、祖父から400万円の合計1,000万円までは非課税ですが、それを超えると課税対象になります。
贈与者が死亡した場合、教育資金一括贈与のように23歳未満なら非課税になりますか?
いいえ。結婚・子育て資金の一括贈与には「23歳未満等の除外規定」がありません。贈与者が死亡した場合、受贈者の年齢に関係なく、残額の全額が相続財産に加算されます。
受贈者が50歳になる前に口座の残額を使い切れそうにない場合、どうすればいいですか?
出産を予定していれば不妊治療費・分娩費・保育料に充当できます。使い切れない場合は、50歳到達時に残額に対して贈与税が課税されます。ただし、残額が110万円以下であれば基礎控除の範囲内で贈与税はかかりません。
受贈者が死亡した場合、残額に贈与税はかかりますか?
受贈者が死亡した場合は、残額があっても贈与税・相続税のいずれも課税されません。これは他の終了事由(50歳到達)とは異なる取扱いです。
結婚・子育て資金の一括贈与と教育資金の一括贈与は同じ孫に対して併用できますか?
はい。それぞれ別枠の制度であるため併用可能です。教育資金として1,500万円+結婚・子育て資金として1,000万円=合計2,500万円を非課税で贈与できます。ただし、それぞれの制度の要件を満たす必要があります。
📋 この記事のポイント
- 結婚・子育て資金の一括贈与は受贈者1人あたり最大1,000万円(結婚費用は300万円)が非課税
- 子育て費用は小学校就学前まで。小学校以降の学費・習い事は対象外
- 贈与者が死亡した場合、残額の全額が相続財産に加算される(除外規定なし)
- 令和3年4月1日以降の拠出で受贈者が孫の場合、2割加算の対象
- 利用実績は全国で約7,900件と低迷。制度の存続は不透明
- 扶養義務者が生活費・子育て費用を都度渡す場合はそもそも非課税
- 拠出額は実際の見込み費用に抑え、残額リスクを最小化すること
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