算定基礎届(定時決定)と月額変更届(随時改定)の実務ガイド

算定基礎届(定時決定)と月額変更届(随時改定)の実務ガイド
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

標準報酬月額を決める2大手続き「算定基礎届(定時決定)」と「月額変更届(随時改定)」の実務を、人事・経理担当者向けに完全ガイドします。4〜6月平均での定時決定ルール、2等級変動での随時改定要件、両者が競合した場合の優先順位、電子申請の手順、保険者算定の特例、育児休業等終了時改定までカバー。

🏆 結論:年1回の定時決定と、賃金変動時の随時改定の2本立て

健康保険法第41条の定時決定(算定基礎届)は、毎年7月1日時点の被保険者について、4〜6月の報酬平均で標準報酬月額を決定する手続きです。提出期限は7月10日で、9月から翌年8月まで適用されます。一方、健康保険法第43条の随時改定(月額変更届)は、固定的賃金の変動により2等級以上の差が生じ、3ヶ月の支払基礎日数が17日以上の要件をすべて満たした場合に必要です。両者が競合する場合は随時改定が優先されます。

標準報酬月額の4つの決定タイミング

標準報酬月額は、被保険者資格の取得時から退職時まで、以下の4つのタイミングで決定・改定されます。

決定・改定の全体像

タイミング 根拠条文 届出書
資格取得時決定健康保険法第42条被保険者資格取得届
定時決定(毎年7月)健康保険法第41条算定基礎届
随時改定健康保険法第43条月額変更届
産前産後休業終了時改定健康保険法第43条の2産前産後休業終了時報酬月額変更届
育児休業等終了時改定健康保険法第43条の3育児休業等終了時報酬月額変更届

算定基礎届(定時決定)の基本ルール

算定基礎届は、毎年1回、全被保険者の標準報酬月額を見直す手続きです。健康保険法第41条に基づきます。

定時決定の概要

算定対象月の支払基礎日数ルール

4月・5月・6月の各月について、以下の支払基礎日数要件を満たす月のみを算定に用います。

区分 支払基礎日数要件
一般の被保険者17日以上
特定適用事業所の短時間労働者11日以上
パート(17日未満の月が多い場合)15日以上で算定可能

💡 支払基礎日数の考え方

支払基礎日数とは、報酬の支払い対象となった日数です。月給制の場合は暦日数(月末締め当月払いなら30日・31日等)、日給制・時給制の場合は実際に出勤した日数です。欠勤により給与カットがある月は、暦日数から欠勤日数を差し引きます。

算定基礎届の計算例

4月給与32万円・5月給与33万円・6月給与30万円のケースで計算します。

🧮 定時決定の計算例

・4月報酬:320,000円(支払基礎日数30日)
・5月報酬:330,000円(支払基礎日数31日)
・6月報酬:300,000円(支払基礎日数30日)
・3ヶ月平均:(320,000+330,000+300,000)÷3 = 316,667円
・等級表に当てはめ:23等級
標準報酬月額:320,000円
・適用期間:当年9月〜翌年8月

算定基礎届の提出対象外となる被保険者

全被保険者が定時決定の対象となるのが原則ですが、以下のケースでは算定基礎届の提出が不要または除外されます。

提出不要となる5類型

📢 算定基礎届備考欄「3.月額変更予定」

7月〜9月に月額変更予定がある従業員は、算定基礎届の備考欄「3.月額変更予定」に○を付けます。電子申請の場合は対象者を除外して作成します。ただし、実務上は「月変予定」として算定基礎届と月額変更届を同時提出するケースもあります。

保険者算定の特例|例年発生する4〜6月変動への対応

業務の性質上、例年4〜6月に残業が集中する業種(引越業・繁忙期のある小売等)では、通常の算定基礎届による決定が実態と乖離する場合があります。そのような場合の救済措置として保険者算定の特例があります。

保険者算定の適用要件

平成23年度から導入された特例で、以下の要件すべてを満たすと、通常の4〜6月平均ではなく、前年7月〜当年6月の12ヶ月平均を用いて標準報酬月額を算定することができます。

申請時の添付書類

保険者算定を申請する際は、算定基礎届に以下を添付します。

弊所が関与した物流業の顧問先では、4〜6月の繁忙期に月80時間超の残業が例年発生しており、通常算定だと35等級(月給47万円相当)となる従業員について、保険者算定を申請して28等級(月給32万円相当)で決定したケースがあります。従業員・会社双方で年間の社保負担を約24万円軽減できました。

参考: 日本年金機構「算定基礎届の記入・提出ガイドブック」

月額変更届(随時改定)の3要件

随時改定は、定時決定を待たずに標準報酬月額を見直す手続きです。健康保険法第43条により、以下の3要件をすべて満たす場合に必要となります。

随時改定の3要件

⭐ 3要件のAND条件
要件 内容
要件1固定的賃金に変動があった(昇給・降給・手当の新設・変更等)
要件2変動月から3ヶ月間の平均で従前の標準報酬月額と2等級以上の差
要件3変動月以降3ヶ月のすべてで支払基礎日数17日以上(短時間労働者は11日)

固定的賃金とは

固定的賃金は、支給金額または支給率が決まっている賃金です。以下が含まれます。

非固定的賃金とは

非固定的賃金は、支給額が月ごとに変動する賃金です。以下が含まれます。

⚠️ 重要:非固定的賃金のみの変動は対象外

残業が月80時間→150時間に増えても、固定的賃金(基本給等)が変動していなければ随時改定の対象になりません。逆に、基本給が下がったのに残業が増えて総報酬が上がった場合は、固定賃金は下げ・総報酬は上げの矛盾があるため随時改定の対象外です。

2等級差の判定における実務上の注意点

随時改定の核となる「2等級差」の判定は、固定的賃金の変動と非固定的賃金を合算した総報酬で行います。

2等級差の計算実例

🧮 随時改定の計算例:昇給によるケース

・従前の標準報酬月額:30万円(22等級)
・4月昇給(基本給が5万円アップ、固定的賃金変動あり)
・4月報酬:350,000円(基本給+残業)
・5月報酬:360,000円
・6月報酬:355,000円
・3ヶ月平均:355,000円
・新しい等級:24等級(36万円)
・差分:24等級 − 22等級 = 2等級差 ✓
7月から新しい標準報酬月額(36万円)適用

昇給月別の標準報酬月額改定タイミング

固定的賃金の変動月により、新しい標準報酬月額の適用開始月が異なります。

固定賃金変動月 3ヶ月観察 新等級適用
4月4〜6月7月
5月5〜7月8月
6月6〜8月9月
9月9〜11月12月

AYUSAWA PARTNERS

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定時決定と随時改定が競合した場合の優先順位

算定基礎届の提出時期(7月初旬)と随時改定の発生時期が重なることは頻繁にあります。両者が競合した場合の処理ルールを整理します。

原則:随時改定が優先

7月〜9月に随時改定に該当する(または該当する予定の)被保険者については、月額変更届の提出が優先されます。算定基礎届は提出不要または除外処理となります。

昇給月別の届出判断フロー

昇給月 随時改定該当月 届出の判断
1〜3月4〜6月適用月額変更届のみ(算定基礎届も7月新しい等級で提出)
4月7月適用月額変更届を優先、算定基礎届は除外(備考欄○)
5月8月適用算定基礎届と月額変更届を同時提出
6月9月適用算定基礎届と月額変更届を同時提出
7月以降10月以降通常の月額変更届のみ

電子申請の実務|e-Gov・GビズID

算定基礎届・月額変更届は、電子申請で提出するのが主流です。2020年4月以降、特定法人(資本金1億円超等)は電子申請が義務化されています。

電子申請の3つの方法

参考: e-Gov 電子申請

電子申請の事前準備

電子申請のメリット

🧮 電子申請の効率化メリット

・24時間365日提出可能(窓口不要)
・受付通知の即時確認
・紙の印刷・押印・郵送が不要
・CSVによる一括提出(500名規模でもワンクリック)
・弊所顧問先で紙→電子申請に移行し年間40時間の工数削減事例あり

産前産後休業・育児休業終了時改定の特例

産前産後休業や育児休業等から復帰した従業員について、通常の随時改定とは別の特例改定制度があります。

産前産後休業終了時改定

健康保険法第43条の2・厚生年金保険法第23条の2により、産前産後休業終了後に職場復帰した被保険者は、以下の条件で標準報酬月額を改定できます。

育児休業等終了時改定

健康保険法第43条の3により、育児休業等終了後の復帰者にも同様の改定制度があります。復帰後の賃金低下(短時間勤務等)に伴う保険料負担軽減を目的とした制度です。

改定による将来の年金への影響への配慮

保険料が下がる反面、将来の厚生年金受給額も下がるのを防ぐため、「養育期間の従前標準報酬月額みなし措置」(厚生年金保険法第26条)が別途用意されています。3歳未満の子を養育する期間の年金額計算では、改定前の標準報酬月額で計算されるため、年金額は減りません。

算定基礎届・月額変更届の記載ミスと訂正

届出のミスは、保険料の過不足払いに直結します。弊所が関与した事例と訂正方法を解説します。

典型的なミス4類型

訂正届の提出

ミスが発覚した場合、「算定基礎届訂正届」または「月額変更届訂正届」を速やかに提出します。遡って保険料の過不足精算が行われます。年金事務所への電話相談で具体的な訂正手順を確認するのが実務の基本です。

弊所の年次チェック運用

弊所では、算定基礎届の提出後、9月の新標準報酬月額適用時に給与計算ソフトの保険料計算結果を再確認しています。年間で数件の誤りを発見・訂正するケースがあり、最大で月額保険料5,000円(年間6万円)の誤差を事前に是正できた実績があります。

提出期限と遅延のリスク

算定基礎届・月額変更届には法定の提出期限があります。

提出期限一覧

届出 期限
算定基礎届7月1日〜7月10日
月額変更届速やかに(3ヶ月経過後)
資格取得届事実発生から5日以内
資格喪失届事実発生から5日以内

遅延のペナルティ

提出遅延そのものに罰則はありませんが、以下のリスクがあります。

関連する社会保険・労務のテーマ

算定基礎届・月額変更届は、他の社会保険実務と密接に連動します。

社会保険制度の全体像は社会保険とは?制度の全体像と加入義務、社会保険料の計算方法は社会保険料の計算方法|標準報酬月額の決定・等級表の読み方で詳述しています。適用拡大は社会保険の適用拡大(従業員51人以上)の実務対応ガイド、106万円の壁撤廃は106万円の壁撤廃と企業規模要件の段階的撤廃、年収の壁全体像は年収の壁を完全整理で解説しています。

よくある質問

算定基礎届の提出を忘れた場合はどうなりますか?
年金事務所から督促状が届き、速やかに提出するよう指導されます。罰則は直接ありませんが、9月以降の新しい標準報酬月額が未決定のままになると、保険料計算に誤差が生じます。過去分の精算が必要となるため、早急に提出してください。
4〜6月のうち1ヶ月だけ支払基礎日数が不足した場合は?
17日未満の月(短時間労働者は11日未満)は算定対象から除外し、残り2ヶ月の平均で標準報酬月額を決定します。3ヶ月ともに不足する場合は、従前の標準報酬月額がそのまま維持されます。パート従業員では15日以上の月で計算する特例も認められています。
固定的賃金が下がったら随時改定しますか?
はい、固定的賃金の変動には昇給(上方)と降給(下方)の両方が含まれます。3ヶ月平均で2等級以上下がれば、随時改定で標準報酬月額を下げる必要があります。降給の場合も随時改定を怠ると、保険料を過剰徴収することになります。
通勤手当の変更は固定的賃金の変動になりますか?
はい、通勤手当は固定的賃金に含まれます。定期代の金額変更や、支給方法の変更(6ヶ月定期→月額支給)も固定的賃金の変動として扱われます。特に引っ越しで通勤手当が大きく変わる場合は随時改定の対象になり得ます。
育児休業終了後の短時間勤務で給与が下がりました。改定できますか?
育児休業等終了時改定を申請できます。通常の随時改定と異なり、1等級差でも改定が可能で、支払基礎日数が17日未満の月があっても申請できる緩和措置があります。被保険者から申出を受け、事業主が「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出します。
電子申請と紙の提出ではどちらが有利ですか?
電子申請が圧倒的に有利です。受付通知が即時に確認でき、押印・郵送の手間がなく、24時間365日対応可能です。クラウド給与ソフト(マネーフォワード・freee等)を使えば、算定基礎届も月額変更届もCSVで一括出力できます。100名規模の企業なら年間数十時間の工数削減効果があります。
随時改定の2等級差は固定的賃金だけで判定しますか?
いいえ、2等級差の判定は残業代等を含めた「総報酬」で行います。ただし、固定的賃金の変動がなければ随時改定そのものの対象外です。例えば基本給が1万円上がり、残業代が3万円減ったため総報酬は2万円下がった場合、固定賃金は上がっているので上方変動の評価ですが、総報酬は下がるため「2等級以上の下方差」になっても随時改定は行いません。
新規入社時の標準報酬月額はどう決めますか?
資格取得時決定として、雇用契約に基づく月額報酬から標準報酬月額を算出します。基本給+各種手当の合計を等級表に当てはめます。年俸制の場合は、年俸を12ヶ月(賞与年3回以下の場合)で割った金額を報酬月額の基礎とします。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 標準報酬月額は資格取得時・定時決定・随時改定・育休後の4タイミングで決定
  • 定時決定(算定基礎届)は7月1日〜10日に提出、4〜6月平均で9月適用
  • 随時改定(月額変更届)は固定賃金変動・2等級差・3ヶ月17日の3要件
  • 固定的賃金の変動がなければ残業増減だけでは随時改定の対象外
  • 定時決定と随時改定が競合したら随時改定が優先
  • 保険者算定の特例で業務特性による4〜6月変動を12ヶ月平均で救済
  • 産前産後休業・育児休業等終了時改定は1等級差で改定可能
  • 電子申請(e-Gov・GビズID)で年間数十時間の工数削減可能
  • 通勤手当は社保の固定的賃金に含まれる
  • ミスの訂正は「訂正届」の速やかな提出で対応