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仕掛品の棚卸はどこまで配賦する?中小製造業が使える簡便法と税務上の許容範囲
決算で仕掛品の配賦に悩む中小製造業の経営者・経理担当者に向けて、税務上認められる3つの簡便法と配賦省略の条件を完全ガイドします。この記事を読めば、自社に最適な配賦方法を選べるようになります。


決算で仕掛品の配賦に悩む中小製造業の経営者・経理担当者に向けて、税務上認められる3つの簡便法と配賦省略の条件を完全ガイドします。この記事を読めば、自社に最適な配賦方法を選べるようになります。
🏆 結論:中小製造業は3つの簡便法で配賦の負担を大幅に減らせる
法人税基本通達5-1-5により、小規模法人は製造間接費を仕掛品に配賦せず製品だけに配賦できます。さらに通達5-1-3の3%基準と通達5-3-3の1%基準を組み合わせれば、配賦計算の実務負担を合法的に最小化できます。ただし「配賦しなくてよい=仕掛品を計上しなくてよい」ではないため、直接材料費と直接労務費の集計は必ず必要です。
仕掛品(しかかりひん)とは、製造工程の途中にある未完成の製品のことです。工場で部品の加工を始めたものの、決算日時点でまだ完成していないものが仕掛品にあたります。
法人税法施行令第10条では、棚卸資産を「商品又は製品」「半製品」「仕掛品」「主要原材料」「補助原材料その他の棚卸資産」の5区分に分類しています。仕掛品はそのままでは販売できない点で、販売可能な状態にある「半製品」とは区別されます。
💡 実務のポイント
実務では、「仕掛品を計上していなかった」ために税務調査で指摘を受けるケースが少なくありません。仕掛品は流動資産(棚卸資産)であり、計上しないと利益が過少に計算されてしまうため、税務署は特に製造業の決算で仕掛品の計上漏れを重点的にチェックします。
仕掛品の棚卸で中小製造業が頭を悩ませるのは、主に次の3つの理由があるからです。
1つ目は「どこまで配賦すれば税務上許されるのかわからない」という問題です。材料費は製品ごとに集計しやすいですが、工場の電気代や減価償却費などの製造間接費をどこまで仕掛品に割り当てるべきかが判断しにくいのです。
2つ目は「配賦計算の手間」です。従業員10人程度の工場で、大企業並みの原価計算システムを導入するのは現実的ではありません。経理担当者が1人しかいない会社では、配賦計算だけで決算が遅れることもあります。
3つ目は「評価方法によって利益が変わる」点です。配賦する費用の範囲や方法によって、期末仕掛品の評価額が変わり、結果として当期の利益(課税所得)が変動します。
法人税法施行令第32条第1項では、自己が製造した棚卸資産の取得価額は「その製造等のために要した原材料費、労務費及び経費の額の合計額」とされています。つまり、原則として仕掛品には材料費・労務費・経費のすべてを配賦する必要があります。
| 原価要素 | 具体例 | 配賦の容易さ |
|---|---|---|
| 直接材料費 | 主要原材料、部品 | ◎ 製品別に把握しやすい |
| 直接労務費 | 製造作業員の賃金 | ○ 作業時間の記録が必要 |
| 直接経費 | 外注加工費、特許使用料 | ○ 請求書で把握可能 |
| 製造間接費 | 工場の電気代、減価償却費、間接工の賃金 | △ 配賦基準の設定が必要 |
仕掛品への配賦は、次の3ステップで行います。
ステップ1:直接費の集計 — 製品(または製造指図書)ごとに、使用した材料費・作業者の労務費・外注費を直接集計します。
ステップ2:間接費の配賦 — 工場の電気代や機械の減価償却費など、製品ごとに直接紐づけられない費用を、配賦基準(直接作業時間、機械稼働時間など)を使って各製品に割り当てます。
ステップ3:期末仕掛品の評価額計算 — 完成品と期末仕掛品に、加工の進捗度に応じて原価を配分します。
参考: 国税庁「法人税基本通達 第2款 製造等に係る棚卸資産」
原則通りの配賦計算は大企業向けの方法です。中小製造業には、法人税基本通達で3つの簡便法が認められています。それぞれの適用条件と効果を確認しましょう。
法人税基本通達5-1-5では、「法人の事業の規模が小規模である等のため製造間接費を製品、半製品又は仕掛品に配賦することが困難である場合には、その製造間接費を半製品及び仕掛品の製造原価に配賦しないで製品の製造原価だけに配賦することができる」と定めています。
📊 公認会計士の視点
この通達が意味するのは、「仕掛品に配賦するのは直接材料費と直接労務費だけでOK」ということです。工場の電気代・減価償却費・間接工の賃金といった製造間接費は、完成した製品にだけ載せればよいのです。これだけで配賦計算の手間は大幅に減ります。年間100社以上の決算を担当してきた経験上、従業員20人以下の製造業であれば、この通達の適用がほぼ認められています。
| 項目 | 原則 | 簡便法①(法基通5-1-5) |
|---|---|---|
| 直接材料費 | 仕掛品に配賦する | 仕掛品に配賦する |
| 直接労務費 | 仕掛品に配賦する | 仕掛品に配賦する |
| 直接経費 | 仕掛品に配賦する | 仕掛品に配賦する |
| 製造間接費 | 仕掛品に配賦する | 製品のみに配賦(仕掛品には配賦しない) |
| 適用条件 | — | 事業規模が小規模等で配賦が困難 |
法人税基本通達5-1-3では、製造後の検査費用・運賃・長期保管費用などについて、その合計額が製造原価のおおむね3%以内であれば取得価額に算入しなくてよいと定めています。
この基準を使えば、「決算直前の検品費用をどこまで仕掛品に載せるか」といった細かい判断に悩む必要がなくなります。
標準原価計算を採用している場合、標準原価と実際原価の差額(原価差額)が生じます。法人税基本通達5-3-3では、この原価差額が総製造費用のおおむね1%以内であれば、調整計算を行わなくてよいとされています。
ただし、この適用を受けるには、計算を明らかにした明細書を確定申告書に添付する必要があります。
⚠️ 注意
「配賦を省略できる=仕掛品を計上しなくてよい」ではありません。製造間接費の配賦を省略しても、直接材料費と直接労務費は仕掛品に集計・計上する必要があります。仕掛品そのものを「ゼロ」で計上すると、税務調査で否認される可能性が高いため注意してください。
📐 シミュレーション前提条件
| 配賦方法 | 期末仕掛品評価額 | 売上原価への影響 | 計算の手間 |
|---|---|---|---|
| A:全部配賦(原則) | 1,120万円 | 基準 | 大 |
| B:間接費省略(法基通5-1-5) | 880万円 | +240万円 | 中 |
| C:直接材料費のみ | 640万円 | +480万円 | 小 |
※方法Bの計算:直接材料費640万円+直接労務費(2,400万円×20%×50%=240万円)=880万円。方法Aは製造間接費も同様に按分するため1,120万円。
💡 実務のポイント
方法Bと方法Cの差額240万円に対して法人税等の実効税率約34%を掛けると、約82万円の納税額の差になります。「手間を減らしたいが、税金は余計に払いたくない」という場合は方法B(間接費だけ省略)が最もバランスの取れた選択肢です。現場での経験上、中小製造業の8割以上がこの方法Bを採用しています。
なお、方法Cの「直接材料費のみ」は、直接労務費も配賦しない方法ですが、法基通5-1-5が省略を認めているのは「製造間接費」のみであり、直接労務費の配賦省略には根拠がない点に注意が必要です。税務調査で否認されるリスクを考えると、最低でも直接材料費+直接労務費は仕掛品に集計すべきです。
| 区分 | 定義 | 販売可否 | B/S表示 | 建設業での呼称 |
|---|---|---|---|---|
| 仕掛品 | 製造途中でそのままでは販売不可 | × | 流動資産(棚卸資産) | 未成工事支出金 |
| 半製品 | ある程度加工済みで販売可能な状態 | ○ | 流動資産(棚卸資産) | — |
| 製品 | 製造が完了し販売可能な完成品 | ○ | 流動資産(棚卸資産) | 完成工事原価 |
法人税法施行令第28条の2では、棚卸資産の評価方法は事業の種類ごと、かつ棚卸資産の区分(製品・半製品・仕掛品・主要原材料・補助原材料)ごとに選定する必要があるとされています。
届出の流れは次のとおりです。
新設法人の場合: 設立第1期の確定申告書の提出期限までに「棚卸資産の評価方法の届出書」を所轄税務署に提出します。届出をしない場合は法定評価方法である「最終仕入原価法による原価法」が自動的に適用されます。
評価方法を変更する場合: 変更しようとする事業年度開始の日の前日までに「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を提出し、税務署長の承認を受ける必要があります。
💡 実務のポイント
実務上、中小製造業の多くは「最終仕入原価法」を届け出ずにそのまま適用しています。仕掛品に最終仕入原価法を適用する場合、最後に投入した材料の単価をベースに評価するため、計算は比較的シンプルです。ただし、加工費(労務費+経費)の按分は別途必要になります。
税務調査で製造業の仕掛品に関して指摘を受けるケースは、大きく5つのパターンに分類できます。
| 指摘パターン | 具体的な問題 | 対策 |
|---|---|---|
| ①仕掛品の計上漏れ | 決算時に仕掛品を棚卸していない・ゼロで計上 | 実地棚卸を必ず実施し、棚卸表を保管 |
| ②加工進捗度の恣意的な設定 | 進捗度を低く見積もり、仕掛品評価額を圧縮 | 工程ごとの進捗度基準を事前に定め、一覧表で管理 |
| ③直接労務費の未配賦 | 材料費だけ計上し、労務費を仕掛品に配賦していない | 作業時間記録を基に直接労務費を仕掛品に配賦 |
| ④配賦基準の合理性不足 | 実態と乖離した配賦基準を使用 | 配賦基準の選定理由を文書化 |
| ⑤期末直前の仕掛品操作 | 決算月に意図的に完成を遅らせ利益を圧縮 | 生産日報・出荷記録との整合性を確保 |
⚠️ 注意
税務調査で仕掛品の計上漏れが見つかった場合、過去3〜5年分を遡って修正申告が必要になることがあります。特に期末直前に大口の受注があるにもかかわらず仕掛品がゼロのままだと、調査官は「意図的な利益圧縮」を疑います。生産日報や出荷記録と決算数値の整合性を日頃から確認しておくことが重要です。
法人税法で認められている棚卸資産の評価方法のうち、仕掛品に適用されることが多いものを比較します。
| 評価方法 | 概要 | 仕掛品との相性 | 中小製造業の利用率 |
|---|---|---|---|
| 最終仕入原価法 | 最後の仕入単価で評価 | ○ 材料費の評価は簡単 | 非常に高い(法定方法) |
| 個別法 | 個々の取得価額で評価 | ◎ 受注生産品に最適 | 中程度 |
| 先入先出法 | 先に投入したものから完成と仮定 | ○ 連続生産品向き | 低い |
| 総平均法 | 期中の平均単価で評価 | △ 期末まで単価が確定しない | 低い |
| 売価還元法 | 売価×原価率で評価 | × 仕掛品は売価が不明 | ほぼなし |
受注生産が中心の中小製造業では、製造指図書ごとに原価を集計できる「個別法」が最も実態に合います。一方、量産品を扱う場合は「最終仕入原価法」のまま運用するのが最も簡単です。
決算時に仕掛品の棚卸を正確に行うためのチェックリストです。経理担当者と現場責任者が協力して確認してください。
| No. | チェック項目 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 1 | 実地棚卸の実施 | 工場内の仕掛品を現物確認し、棚卸表に記録したか |
| 2 | 加工進捗度の判定 | 各仕掛品の進捗度を工程基準で判定したか |
| 3 | 直接材料費の集計 | 出庫記録と仕掛品の材料費が一致するか |
| 4 | 直接労務費の配賦 | 作業時間記録に基づき労務費を仕掛品に配賦したか |
| 5 | 製造間接費の処理方針 | 法基通5-1-5を適用するか、全部配賦するかを決めたか |
| 6 | 外注先の仕掛品 | 外注加工に出している途中のものを計上したか |
| 7 | 仕損品・作業くずの処理 | 仕損品の評価額を製造原価から控除したか(法基通5-1-7) |
| 8 | 生産日報との照合 | 棚卸表の数量と生産日報の仕掛り数量が整合するか |
| 9 | 前期比較 | 前期末の仕掛品残高と大きな乖離がないか(ある場合は理由を記録) |
| 10 | 棚卸表の保管 | 棚卸表・配賦計算書を7年間保管する体制があるか |
法人税基本通達5-1-4では、以下の費用は製造原価に算入しないことができるとされています。仕掛品の配賦範囲を考えるうえで、「入れなくてよいもの」を知っておくことも重要です。
| 不算入できる費用 | 具体例 |
|---|---|
| 特別に支給する賞与 | 創立記念賞与など(通常賞与は算入必要) |
| 基礎研究・応用研究の費用 | 製品化が不明確な研究開発費 |
| 特別償却限度額に係る部分 | 設備の特別償却の上乗せ分 |
| 売上高ベースの工業所有権使用料 | ロイヤリティが売上に連動する場合 |
| ソフトウェアの原本の償却費 | 複写販売用のマスターソフトウェア |
| 大量整理退職給与 | 事業閉鎖・縮小に伴う退職金 |
これらの費用を製造原価に算入するかしないかは法人の選択に委ねられていますが、いったん選択した方法は継続適用する必要があります。
なお、製造原価報告書の作り方や配賦基準の選び方については「製造業の原価計算入門|材料費・労務費・製造経費の3要素と製造原価報告書の作り方」で詳しく解説しています。
仕掛品の配賦方法は、自社がどの原価計算方式を採用するかによって変わります。以下の判定フローで確認してください。
| 判定基準 | 個別原価計算 | 総合原価計算 |
|---|---|---|
| 生産形態 | 受注生産・多品種少量 | 見込生産・少品種大量 |
| 原価の集計単位 | 製造指図書(ロット)ごと | 工程(期間)ごと |
| 仕掛品の把握 | 指図書番号で特定 | 完成品換算量で按分 |
| 向いている業種 | 機械加工、金型製作、印刷 | 食品加工、化学、繊維 |
| 配賦の手間 | 指図書への直接集計が中心 | 完成品換算量の計算が必要 |
📊 公認会計士の視点
中小製造業の多くは、受注生産と見込生産が混在しています。この場合、主要製品の生産形態に合わせて方式を選び、少量の例外品は簡便的に同じ方式で処理するのが実務的です。「受注品は個別法、量産品は先入先出法」と区分ごとに異なる評価方法を選定することも法人税法上は認められますが、管理の手間が増えるため慎重に検討してください。
法人税法第34条では、役員に対する経済的利益(現物給与)は原則として損金不算入とされています。仕掛品との関連で問題になるのは、製造途中の製品を役員が個人的に使用したり、低額で譲渡したりするケースです。
たとえば、家具製造業で製造途中の家具を役員の自宅に納品した場合、その仕掛品の適正な評価額(材料費+投入済みの加工費)と実際の対価との差額が、役員に対する経済的利益として課税されます。
💡 実務のポイント
製造業の税務調査で「試作品」を役員が持ち帰っているケースが見つかることがあります。試作品であっても材料費+加工費に相当する経済的利益が発生するため、適正な対価を収受するか、役員賞与として処理する必要があります。「試作品だから原価ゼロ」という処理は認められません。
確定申告の基本的な手続きについては「フリーランスの確定申告の基礎知識」、飲食店等の業種別の届出については「飲食店の開業届・届出ガイド」もあわせてご参照ください。
📋 この記事のポイント
仕掛品の配賦は「全部やるか、全くやらないか」の二択ではありません。法人税基本通達が認める簡便法を上手に活用すれば、税務上問題のない範囲で経理の負担を大幅に軽減できます。まずは自社が法基通5-1-5の適用対象になるかを確認し、顧問税理士と相談のうえ最適な配賦方法を選んでください。