【会計士×税理士が解説】製造業の原価計算入門|材料費・労務費・製造経費の3要素と製造原価報告書の作り方

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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製造業の原価計算入門|材料費・労務費・製造経費の3要素と製造原価報告書の作り方
「原価計算って結局どこまでやればいいの?」と悩む中小製造業の経営者に向けて、原価の3要素の分類方法・配賦の考え方・製造原価報告書の作成手順を具体例で完全ガイドします。この記事を読めば、自社に合った原価計算の方法を選び、決算書を正しく作成できるようになります。
🏆 結論:原価計算は3ステップで完了する
製造業の原価計算は、①費目別計算(材料費・労務費・経費を直接費と間接費に分ける)→②部門別計算(間接費を製造部門と補助部門に配分する)→③製品別計算(個別原価計算 or 総合原価計算で製品1個あたりの原価を求める)の3ステップで行います。中小企業庁の調査によると、製造業の原価構成は材料費約71%・労務費約10%・経費約19%が平均です。まずは自社の原価構成比を把握することが第一歩です。
原価計算とは?製造業になぜ必要なのか
原価計算とは、製品を製造するためにかかった費用を集計し、製品1個あたりの原価を算出する一連の手続きです。小売業や卸売業であれば仕入値がそのまま原価ですが、製造業では材料を加工する工程で人件費や電気代、機械の減価償却費などが加わるため、それらを正確に計算する必要があります。
原価計算の4つの目的
原価計算には大きく4つの目的があります。①財務諸表の作成(製造原価報告書・損益計算書)、②価格設定(適正な販売価格を決める)、③原価管理(どの工程にムダがあるかを発見する)、④経営判断(内製vs外注、設備投資の可否など)です。
中小製造業では「決算のために仕方なくやっている」という会社が少なくありませんが、原価計算を経営判断に活用できれば、利益率の改善に直結します。
原価の3要素と6分類【一覧表で整理】
製造原価は、費用の発生形態により「材料費」「労務費」「経費」の3つに分類され、さらにそれぞれが「直接費」と「間接費」に分かれて6分類になります。
| 形態別 |
直接費(製品に直接紐づく) |
間接費(配賦が必要) |
| 材料費 | 直接材料費(主要材料、買入部品) | 間接材料費(補助材料、工場消耗品、消耗工具) |
| 労務費 | 直接労務費(製造ラインの直接作業時間分の賃金) | 間接労務費(生産管理、品質管理、待機時間分の賃金) |
| 経費 | 直接経費(外注加工費、金型費、特許権使用料) | 間接経費(工場減価償却費、水道光熱費、保険料) |
💡 実務のポイント
中小製造業の顧問先で最もよく見かけるミスは、工場の電気代(間接経費)を「販売費及び一般管理費」に計上しているケースです。工場で消費した電気代は製造原価に含める必要があります。本社と工場が同じ建物にある場合は、面積按分などで合理的に区分しましょう。
原価計算の3ステップ【費目別→部門別→製品別】
原価計算は3つのステップを順番に行います。
ステップ1:費目別計算
一定期間(通常は1ヶ月)に発生した原価を、材料費・労務費・経費に分類し、さらに直接費と間接費に分けます。直接費は「仕掛品」勘定に、間接費は「製造間接費」勘定に集計します。
ステップ2:部門別計算
製造間接費を製造部門(加工部門、組立部門など)と補助部門(修繕部門、工場事務部門など)に配分します。補助部門の費用は一定の基準で製造部門に再配分します。中小企業では部門が少ないため、この工程を省略して直接製品別計算に進むケースも多いです。
ステップ3:製品別計算
最終的に、製品1個(または1ロット)あたりの原価を算出します。受注生産型なら「個別原価計算」、量産型なら「総合原価計算」を使います。
| 原価計算の方法 |
適する生産形態 |
具体例 |
計算の特徴 |
| 個別原価計算 | 受注生産(多品種少量) | 金属加工、建設業、印刷業 | 注文(ジョブ)ごとに原価を集計 |
| 総合原価計算 | 見込生産(少品種大量) | 食品加工、化学品、電子部品 | 期間の総原価を生産量で割る |
配賦基準の選び方【3つの基準を比較】
製造間接費を各製品に配分する「配賦(はいふ)」には、配賦基準の選び方が重要です。代表的な3つの基準とその特徴を比較します。
| 配賦基準 |
計算方法 |
向いている業種・状況 |
注意点 |
| 直接作業時間基準 | 間接費÷総直接作業時間×製品の直接作業時間 | 労働集約的な製造(手作業中心) | 作業時間の記録が必要 |
| 機械稼働時間基準 | 間接費÷総機械稼働時間×製品の機械稼働時間 | 資本集約的な製造(機械中心) | 機械の稼働記録が必要 |
| 直接材料費基準 | 間接費÷総直接材料費×製品の直接材料費 | 材料費の比率が高い製造 | 材料費の価格変動に注意 |
📊 公認会計士の視点
配賦基準は「一度決めたら継続適用」が原則です(法人税法施行令28条・継続性の原則)。毎期コロコロ変えると税務調査で「利益操作」を疑われる原因になります。自社の製造プロセスを分析し、原価発生と最も因果関係の強い基準を選びましょう。
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製造原価報告書の作り方【テンプレート付き】
製造原価報告書(C/R:Cost Report)は、当期に製造した製品の原価を示す書類です。損益計算書の「売上原価」を算出するための基礎資料であり、法人税の確定申告書に添付が求められます。
製造原価報告書のひな形
📐 シミュレーション前提条件
- 金属部品加工業(従業員15名)
- 当期(令和7年4月〜令和8年3月)
- 個別原価計算を採用
| 科目 |
金額(千円) |
| Ⅰ 材料費 | |
| 期首材料棚卸高 | 8,000 |
| 当期材料仕入高 | 52,000 |
| 期末材料棚卸高(△) | △7,000 |
| 当期材料費 | 53,000 |
| Ⅱ 労務費 | |
| 賃金・給料 | 18,000 |
| 賞与 | 3,000 |
| 法定福利費 | 3,200 |
| 当期労務費 | 24,200 |
| Ⅲ 経費 | |
| 外注加工費 | 5,000 |
| 減価償却費 | 4,500 |
| 水道光熱費 | 2,800 |
| その他経費 | 2,500 |
| 当期経費 | 14,800 |
| 当期総製造費用 | 92,000 |
| 期首仕掛品棚卸高 | 5,500 |
| 期末仕掛品棚卸高(△) | △6,200 |
| 当期製品製造原価 | 91,300 |
※概算値です。個別の状況により異なります。
この「当期製品製造原価」91,300千円が、損益計算書の売上原価の計算に使われます。売上原価 = 期首製品棚卸高 + 当期製品製造原価 − 期末製品棚卸高、という計算式です。
税務調査で指摘されやすい原価計算の誤り【6項目チェックリスト】
製造業の税務調査では、原価計算の誤りが重点的にチェックされます。特に多い指摘ポイントを6項目にまとめました。
| No. |
指摘ポイント |
具体的な誤りの例 |
正しい処理 |
| 1 | 仕掛品の過少計上 | 期末の仕掛品に労務費・経費を配賦していない | 材料費だけでなく加工費も含めて棚卸評価 |
| 2 | 工場経費の販管費計上 | 工場の電気代・家賃を販管費に含めている | 製造原価の経費として計上 |
| 3 | 配賦基準の恣意的変更 | 利益が出た年だけ配賦基準を変更 | 正当な理由がない限り配賦基準は継続適用 |
| 4 | 外注加工費の期間帰属 | 納品前の外注加工費を当期経費に計上 | 完成引渡し基準で期間を区分 |
| 5 | 材料の棚卸評価方法 | 届出なしで低価法を適用 | 棚卸資産の評価方法の届出が必要 |
| 6 | 労務費の製造/販管費区分 | 営業部門の人件費を製造原価に含めている | 製造に直接関わらない人件費は販管費 |
⚠️ 注意
特に多いのが「仕掛品に加工費(労務費+経費)を含めていない」という誤りです。法人税基本通達5-1-4では、棚卸資産の取得価額に材料費だけでなく「当該資産の消費量又は投入量を基準にして配賦した合理的な製造経費」を含めるよう定めています。材料費だけで仕掛品を評価すると、利益の過少計上として修正申告を求められるリスクがあります。
工事原価との違い(建設業との比較)
建設業の「工事原価」も製造業の「製造原価」と基本的な構造は同じですが、以下の点で異なります。
| 比較項目 |
製造業(製造原価) |
建設業(工事原価) |
| 原価の4要素 | 材料費・労務費・経費 | 材料費・労務費・外注費・経費 |
| 仕掛品の名称 | 仕掛品 | 未成工事支出金 |
| 原価計算の方法 | 個別原価計算 or 総合原価計算 | 個別原価計算(工事別) |
| 売上計上基準 | 出荷基準・検収基準 | 工事完成基準 or 工事進行基準 |
建設業では外注費(下請け業者への支払い)が大きな比率を占めるため、原価の3要素ではなく4要素で管理するのが一般的です。
中小製造業が使える原価計算の簡便法
「従業員10名以下で経理専任者もいない」という中小製造業では、教科書どおりの原価計算は現実的でないこともあります。そのような場合に使える簡便法を紹介します。
簡便法①:直接材料費のみで個別原価を把握する
加工費(労務費+経費)を製品ごとに計算する余裕がない場合、直接材料費だけは製品ごとに集計し、加工費は「加工費率」(月間加工費合計÷月間直接材料費合計)を掛けて概算する方法です。
簡便法②:「直接原価計算」で変動費のみを集計する
変動費(材料費、外注費など生産量に比例する費用)のみを製品原価とし、固定費(家賃、減価償却費、間接労務費)は期間費用として処理する方法です。経営判断(受注の可否、値決め)には有用ですが、財務会計・税務申告では全部原価計算が求められるため、決算時に調整が必要です。
💡 実務のポイント
税務上は「全部原価計算」(材料費+労務費+経費の全てを製品原価に含める)が原則です。期中は簡便法で管理し、決算時に全部原価ベースで製造原価報告書を作成する「二段階方式」が中小製造業には現実的です。仕掛品の棚卸については「仕掛品の棚卸はどこまで配賦する?」で詳しく解説しています。
製造原価に関するよくある質問(FAQ)
製造原価報告書は全ての製造業で作成する必要がありますか?
法人税法上、製造業を営む法人は製造原価報告書の作成が求められます。確定申告書に添付する勘定科目内訳書の一部として「製造原価の明細」を記載する必要があり、この内容が製造原価報告書に相当します。個人事業主の場合は、青色申告決算書の「売上原価(製造原価)」欄に同様の情報を記載します。
材料費の棚卸評価方法は何を選べばよいですか?
中小製造業では「最終仕入原価法」を採用しているケースが最も多いです。材料の種類が少なく価格変動が小さい場合はこれで十分ですが、材料の種類が多い場合や価格変動が大きい場合は「先入先出法」や「総平均法」の方が実態に即した原価が算出できます。評価方法は税務署に届出が必要です。
外注加工費は材料費ですか?経費ですか?
外注加工費は「経費」に分類されます(直接経費)。外部の業者に加工を委託した場合の支払いは、材料費でも労務費でもなく、経費の一種です。特定の製品のために外注した場合は「直接経費」、複数製品に共通する外注の場合は「間接経費」として配賦します。
社会保険料は労務費に含めるべきですか?
はい、工場の製造従業員にかかる社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料の会社負担分)は労務費の「法定福利費」として製造原価に含めます。一方、営業部門や管理部門の従業員にかかる社会保険料は販売費及び一般管理費です。
個別原価計算と総合原価計算はどちらを採用すべきですか?
受注生産型(顧客ごとに仕様が異なる製品を作る)なら個別原価計算、見込生産型(同じ製品を大量に作る)なら総合原価計算が基本です。両方の性質を持つ場合(少品種中量生産など)は、主要製品は総合原価計算、特注品は個別原価計算と使い分けることもあります。
減価償却費は製造原価と販管費のどちらに入れるのですか?
工場の建物・機械設備の減価償却費は製造原価(間接経費)に、本社オフィスや営業車の減価償却費は販売費及び一般管理費に計上します。工場と本社が兼用の設備(例:共用のコピー機)は、使用割合で按分します。
原価計算をExcelで行っていますが問題ありませんか?
Excelでも原価計算は可能です。中小製造業ではExcelで管理している会社が多く、税務上も問題ありません。ただし、製品数や工程が増えると計算ミスや管理工数が膨大になるため、年商1億円を超えるあたりから原価管理システムの導入を検討するとよいでしょう。
まとめ
📋 この記事のポイント
- 製造原価は材料費・労務費・経費の3要素、さらに直接費・間接費で6分類
- 原価計算は費目別→部門別→製品別の3ステップで行う
- 配賦基準は直接作業時間・機械稼働時間・直接材料費の3種から選び、継続適用が原則
- 製造原価報告書は当期総製造費用+期首仕掛品−期末仕掛品で「当期製品製造原価」を算出
- 仕掛品には材料費だけでなく加工費(労務費+経費)も含めて評価する(税務調査で最多の指摘ポイント)
- 中小製造業は期中に簡便法を使い、決算時に全部原価計算で報告書を作る二段階方式が現実的
- 建設業の工事原価は「外注費」を独立4要素目とする点が製造原価との違い
原価計算は製造業の経営の根幹です。まずは自社の原価構成比(材料費○%・労務費○%・経費○%)を把握し、どの費目に改善の余地があるかを分析しましょう。仕掛品の評価方法については「仕掛品の棚卸はどこまで配賦する?中小製造業が使える簡便法と税務上の許容範囲」をご参照ください。確定申告の基本は「フリーランスの確定申告入門」で解説しています。
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