【会計士×税理士が解説】取引相場のない株式(自社株)の評価方法|類似業種比準・純資産価額・配当還元

【会計士×税理士が解説】取引相場のない株式(自社株)の評価方法|類似業種比準・純資産価額・配当還元
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

取引相場のない株式(自社株)の評価方法|類似業種比準・純資産価額・配当還元

「自社株の相続税評価額がいくらになるのかわからない」「評価方法が複雑すぎて全体像がつかめない」とお悩みの中小企業経営者に向けて、取引相場のない株式の評価方法を7つのステップで完全ガイドします。この記事を読めば、自社株の評価の全体像を理解し、税理士と対等に話せるようになります。

🏆 結論:自社株の評価方法は「誰が取得するか」と「会社の規模」で決まる

取引相場のない株式の評価方法は、①株主の判定(同族株主か否か)→ ②特定の評価会社の判定 → ③会社規模の判定(大会社・中会社・小会社)→ ④評価方式の適用、の順で決まります。同族株主は「原則的評価方式」(類似業種比準方式・純資産価額方式・併用方式)、同族株主以外は「配当還元方式」で評価します。会社規模が大きいほど類似業種比準方式の比率が高くなり、評価額は純資産価額方式より低くなる傾向があります。会計検査院の報告によると、類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の約27%にとどまり、評価方式の選択で大きな差が生じます。

取引相場のない株式とは?なぜ評価が必要か

自社株の基本的な位置づけ

取引相場のない株式(自社株)とは、証券取引所に上場していない会社の株式のことです。上場株式であれば取引所の終値という客観的な価格がありますが、中小企業の株式には市場価格が存在しません。

そのため、相続・贈与・事業承継の場面では、国税庁が定める「財産評価基本通達」に従って株式の評価額を計算する必要があります。この評価額が、そのまま相続税・贈与税の課税対象額になります。

⚠️ 注意

自社株の評価額は「会社の時価総額」と同義ではありません。あくまで相続税・贈与税の計算のためのルールに基づく評価額です。業績好調の会社ほど評価額が高くなり、相続税負担が重くなるという構造的な問題があります。実務では、この評価額が数千万円から数億円に達し、相続税の最大の負担要因になるケースが少なくありません。

評価が必要になる3つの場面

場面 具体例 評価が必要な理由
相続オーナー社長が死亡し、後継者が株式を承継相続財産の評価額として相続税を計算するため
贈与生前に後継者へ株式を移転贈与財産の評価額として贈与税を計算するため
事業承継税制事業承継税制の適用を受けて納税猶予を利用猶予税額の計算基礎として株式の評価が必要

なお、事業承継税制については「事業承継税制の全体像」で詳しく解説しています。

評価方法を決めるまでの7ステップ【全体フロー】

取引相場のない株式の評価は、いきなり計算に入るのではなく、以下の7つのステップで「どの評価方式を使うか」を判定してから計算に入ります。この全体像を把握することが、自社株評価の理解の第一歩です。

ステップ 判定内容 結果の分岐
株主の判定(同族株主かどうか)同族株主→原則的評価方式へ(②へ進む)
同族株主以外→配当還元方式(⑦へ進む)
特定の評価会社に該当するか該当→原則として純資産価額方式(⑥へ進む)
非該当→③へ進む
従業員数の確認(70人以上か)70人以上→大会社(⑤へ進む)
70人未満→④へ進む
総資産・従業員数・取引金額で会社規模を判定大会社・中会社(大/中/小)・小会社のいずれかに分類
会社規模に応じた評価方式の決定大会社→類似業種比準方式
中会社→併用方式(L値で比率決定)
小会社→純資産価額方式(または併用方式)
評価額の計算各方式に基づき1株当たりの評価額を算出
純資産価額との比較(選択制)原則的評価方式と純資産価額方式のいずれか低い方を選択可能

💡 実務のポイント

年間100社以上の自社株評価を担当してきた経験上、最も多いミスは「ステップ①の株主判定」と「ステップ④の会社規模判定」です。とくに、オーナー社長が100%保有しているケースでも、名義株の存在や同族関係者の範囲の判定を誤るケースがあります。判定を間違えると評価方式そのものが変わるため、最初の2ステップの判定を慎重に行うことが重要です。

ステップ①:株主の判定(同族株主かどうか)

同族株主の定義

自社株の評価方式は、「誰がその株式を取得するか」によって変わります。財産評価基本通達では、株主を大きく「同族株主」と「同族株主以外」に分け、それぞれ異なる評価方式を適用します。

同族株主とは、課税時期において、株主の1人とその同族関係者(配偶者・6親等以内の血族・3親等以内の姻族・特殊関係法人等)が保有する議決権の合計が、会社の議決権総数の30%以上であるグループに属する株主をいいます。

評価方式の振り分け

株主の区分 会社への影響力 適用される評価方式
同族株主会社の経営に支配力がある原則的評価方式(類似業種比準・純資産価額・併用)
同族株主以外(少数株主)経営に影響力がない配当還元方式(特例的評価方式)

中小企業の場合、オーナー一族が株式のほぼ100%を保有しているケースがほとんどです。この場合、後継者を含む一族全員が「同族株主」に該当し、原則的評価方式が適用されます。

ステップ②:特定の評価会社の判定

同族株主が原則的評価方式で評価する場合でも、会社が特定の状況にあるときは、通常の会社規模判定を行わず、原則として純資産価額方式で評価しなければなりません。これを「特定の評価会社」といいます。

種類 該当条件 評価方式 実務上の注意点
比準要素数1の会社配当・利益・純資産の3要素のうち、直前期末で2つがゼロ+直前々期末で2つ以上ゼロ類似比準×0.25+純資産×0.75配当・利益は2期平均が可能。2期とも赤字+無配ならゼロ
株式等保有特定会社総資産に占める株式等の割合が一定以上(大会社25%以上、中会社50%以上、小会社50%以上)純資産価額方式 or S1+S2方式持株会社は該当しやすい。S1+S2方式の選択が有利な場合あり
土地保有特定会社総資産に占める土地等の割合が一定以上(大会社70%以上、中会社90%以上、小会社は総資産規模で異なる)純資産価額方式不動産管理会社は要注意。賃貸用不動産を多数保有する会社
開業後3年未満の会社開業してから3年経っていない純資産価額方式「設立」ではなく「開業」で判定。休眠後の再開は開業日が論点に
比準要素数0の会社3要素が直前期末で全てゼロ純資産価額方式事業活動がほとんどない資産管理会社等
開業前・休業中・清算中事業を開始していない/休業中/清算手続き中純資産価額方式(清算中は清算分配見込額)実質的な事業活動の有無で判断

📊 公認会計士の視点

特定の評価会社の判定は、意図的に該当・非該当をコントロールすることが可能な場合があります。たとえば、株式等保有特定会社に該当する持株会社が、不動産を取得して株式等の保有割合を下げるケースです。しかし、国税庁は「株式保有割合を引き下げることを目的として資産構成を変動させた場合」は、変動前の状態で判定する旨を通達で示しています(財基通189-3)。課税時期前の資産構成の変動には十分な注意が必要です。

ステップ③④:会社規模の判定基準

判定の全体手順

特定の評価会社に該当しない場合、次に会社の規模を「大会社」「中会社(大・中・小)」「小会社」の5段階に分類します。この判定は3つの基準で行います。

判定手順は次のとおりです。まず、従業員数が70人以上であれば無条件で大会社です。70人未満の場合は、「総資産価額+従業員数」の基準と「取引金額」の基準をそれぞれ判定し、前者のうち低い方の区分と、後者の区分を比べて高い方を最終的な会社規模とします。

業種3グループ別の判定基準一覧

判定基準は業種によって異なります。業種は「卸売業」「小売・サービス業」「その他」の3グループに分かれます。

📊 卸売業の判定基準
会社規模 L値 総資産(帳簿価額) 従業員数 取引金額
大会社1.0014億円以上50人超50億円以上
中会社の大0.907億円以上30人超50人以下25億円以上
中会社の中0.757,000万円以上5人超30人以下2億円以上
中会社の小0.607,000万円未満5人以下2億円未満
小会社0.50上記に該当しない会社

※ 小売・サービス業、その他の業種は基準金額が異なります。詳細は国税庁「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」の第1表をご確認ください。

参考: 国税庁「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」

従業員数のカウント方法

従業員数のカウントには注意が必要です。専任役員(社長、理事長等)は含みません。正社員のうち週30時間以上勤務する継続勤務従業員は1人としてカウントし、パート・アルバイトは年間の総労働時間を1,800時間で割った数をカウントします。

💡 実務のポイント

現場でよく見かけるのが、パート・アルバイトの労働時間のカウント漏れです。飲食業や小売業ではパート・アルバイトが多く、正社員だけでカウントすると5人以下でも、パートの労働時間を加算すると20人を超えるケースがあります。この差で会社規模が「小会社」から「中会社の中」に上がり、類似業種比準方式の比率が高くなることで、評価額が大きく下がることがあります。

会社規模と評価方式の関係

会社規模が決まると、適用される評価方式が自動的に決まります。ここがこの制度の核心部分です。

会社規模 原則の評価方式 L値(類似業種比準の比率) 選択可能な方式
大会社類似業種比準方式L=1.00(100%)純資産価額方式も選択可
中会社の大併用方式L=0.90純資産価額方式も選択可
中会社の中併用方式L=0.75純資産価額方式も選択可
中会社の小併用方式L=0.60純資産価額方式も選択可
小会社純資産価額方式併用方式(L=0.50)も選択可

併用方式の計算式は次のとおりです。

📐 併用方式の計算式

評価額 = 類似業種比準価額 × L + 純資産価額 ×(1 − L)

※ いずれの場合も、純資産価額のみによる評価額が併用方式による評価額を下回る場合は、純資産価額を選択できます。

会計検査院の令和5年度決算検査報告によると、類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の約27.2%にとどまっています。つまり、類似業種比準方式の比率が高いほど評価額は低くなる傾向が強く、会社規模が大きいほど有利になるという構造です。

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類似業種比準方式の計算方法【5ステップで解説】

類似業種比準方式のしくみ

類似業種比準方式とは、評価会社と事業内容が類似する上場会社の株価を基準に、「配当金額」「利益金額」「純資産価額(簿価)」の3つの要素を比準して株価を計算する方法です。大会社の原則的な評価方式であり、中会社・小会社でも併用方式の中で使われます。

計算式と各項の意味

📐 類似業種比準方式の計算式

類似業種比準価額 = A ×{(b/B)+(c/C)+(d/D)}÷ 3 × 斟酌率 × 1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円

A=類似業種の株価、b/c/d=評価会社の配当・利益・純資産(簿価)、B/C/D=類似業種の配当・利益・純資産(簿価)

斟酌率:大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5

5つの数値の調べ方

数値 内容 入手方法
A(類似業種の株価)課税時期の属する月、前月、前々月、前年平均、前々年平均のうち最も低い株価国税庁「類似業種比準価額計算上の業種目別株価等」で公表
B・C・D(類似業種の比準要素)類似業種の1株当たり配当・利益・純資産(簿価)同上の国税庁公表データ
b(評価会社の配当金額)直前期+直前々期の2期平均の1株当たり配当金額(特別配当・記念配当を除く)法人税申告書別表、株主総会議事録
c(評価会社の利益金額)直前期の法人税の課税所得(非経常的利益を除く)。直前期+直前々期の2期平均も選択可法人税申告書別表四
d(評価会社の純資産価額)直前期末の資本金等の額+利益積立金額法人税申告書別表五(一)

参考: 国税庁 財産評価基本通達180(類似業種比準価額)

💡 実務のポイント

類似業種比準方式で最もインパクトが大きいのは「c(利益金額)」です。3要素の中で利益の変動幅が最も大きいためです。実務では、直前期の利益と直前2期の平均利益を両方計算し、低い方を採用することで合法的に評価額を下げることが可能です。ただし、利益を意図的に圧縮するために不自然な経費計上を行うと、税務調査で否認されるリスクがあります。

計算例:年商3億円の製造業B社の場合

📐 シミュレーション前提条件

  • 業種:金属製品製造業(業種目番号52)
  • 会社規模:中会社の中(L=0.75)
  • 発行済株式数:10,000株、1株当たりの資本金等の額:500円
  • 類似業種の株価A=320円、B=4.5円、C=26円、D=280円
  • 評価会社 b=3.5円、c=20円、d=350円(いずれも1株50円換算)
計算ステップ 計算式 金額
①配当の比準割合b/B=3.5÷4.50.778
②利益の比準割合c/C=20÷260.769
③純資産の比準割合d/D=350÷2801.250
④3要素の平均(0.778+0.769+1.250)÷30.932
⑤50円換算の比準価額320×0.932×0.6(斟酌率)178.9円
⑥実際の1株当たり価額178.9×(500÷50)1,789円

この例では、類似業種比準価額は1株あたり1,789円と算出されます。

純資産価額方式の計算方法

純資産価額方式のしくみ

純資産価額方式とは、会社の全資産を相続税評価額に評価替えし、負債を差し引いた純資産の額を発行済株式数で割って1株当たりの価額を求める方法です。会社を清算した場合に株主に分配される金額に着目した評価方法で、小会社の原則的な評価方式です。

計算式と注意点

📐 純資産価額方式の計算式

1株当たりの純資産価額 =(相続税評価額による総資産 − 負債 − 評価差額に対する法人税額等相当額)÷ 発行済株式数

法人税額等相当額=評価差額(含み益)× 37%

※ 同族株主の議決権割合が50%以下の場合は、上記で計算した金額の80%

主な資産の評価替えポイント

資産の種類 帳簿価額と相続税評価額の関係 評価額が上がりやすいケース
土地帳簿価額(取得原価)→ 路線価・倍率方式に評価替え都心部の土地を古くから保有しており含み益が大きいケース
建物帳簿価額 → 固定資産税評価額に評価替え帳簿価額が固定資産税評価額を下回る場合は逆に評価減
上場有価証券帳簿価額(取得原価)→ 課税時期の時価に評価替え長期保有の上場株式に含み益があるケース
非上場株式帳簿価額 → 財産評価基本通達により評価替え子会社・関連会社の株式を保有するケース(二重評価が必要)
保険積立金帳簿価額 → 解約返戻金相当額に評価替え長期の積立型保険で返戻率が高い場合

純資産価額方式は、含み益の大きい土地や有価証券を保有する会社ほど高額になりやすい特徴があります。なお、土地の評価方法については「土地の相続税評価|路線価方式と倍率方式」で詳しく解説しています。

📊 公認会計士の視点

純資産価額方式では「評価差額に対する法人税額等相当額(37%)」を控除できる点が重要です。これは、会社を清算した場合に含み益に対して法人税等が課税されることを考慮した調整です。土地に多額の含み益がある会社では、この控除額だけで数千万円になることもあります。ただし、課税時期前3年以内に取得した土地は通常取引価額で評価するなど、いくつかの特例がありますのでご注意ください。

配当還元方式の計算方法

配当還元方式は、同族株主以外の少数株主が取得する株式に適用される特例的な評価方式です。株式を保有する目的が「配当を受け取ること」であると考え、年間配当金額を10%の還元率で割り戻して株価を計算します。

📐 配当還元方式の計算式

1株当たりの評価額 = 年配当金額 ÷ 10% × 1株当たりの資本金等の額 ÷ 50円

年配当金額 = 直前期+直前々期の2期合計の配当金額 ÷ 2 ÷ 発行済株式数(1株50円換算)

※ 年配当金額が2.5円未満の場合は2.5円として計算

配当還元方式の評価額は、原則的評価方式と比べて著しく低くなります。年間配当が少ない会社ほど低評価となるため、同族株主以外の少数株主にとっては有利です。

3方式の評価額を比較するシミュレーション

同じ会社を3つの方式で評価すると、評価額にどれほどの差が出るのかを具体的に見てみましょう。

📐 シミュレーション前提条件

  • 会社:年商5億円の卸売業C社(中会社の中、L=0.75)
  • 発行済株式数:20,000株、資本金1,000万円(1株500円)
  • 年間配当:1株あたり25円(50円換算で2.5円)
  • 類似業種比準価額(前述の方法で計算済み):1株2,400円
  • 純資産価額(相続税評価額ベース):1株8,500円
評価方式 1株当たり評価額 全株式の評価額(20,000株) 純資産価額との差
純資産価額方式8,500円1億7,000万円—(基準)
併用方式(L=0.75)3,925円7,850万円▲53.8%(▲9,150万円)
配当還元方式250円500万円▲97.1%(▲1億6,500万円)

※概算値です。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

このシミュレーションが示すとおり、評価方式の違いだけで1億円以上の差が生じます。純資産価額方式では1億7,000万円の評価が、併用方式では約7,850万円、配当還元方式ではわずか500万円です。

⚠️ 注意

配当還元方式が適用されるのは「同族株主以外」の株主に限られます。オーナー社長や後継者が取得する株式には適用できません。「従業員持株会に移して配当還元方式で贈与する」といったスキームは、同族関係者の範囲の判定を慎重に行う必要があり、安易に進めると否認リスクがあります。

評価額を左右する3つの比準要素の影響度

類似業種比準方式の3つの比準要素(配当・利益・純資産)は、評価額に対する影響度が異なります。

比準要素 評価額への影響度 実務上の特徴 コントロールの容易さ
配当金額(b/B)中程度無配にすればゼロになる。2期平均で計算比較的容易(株主総会で配当ゼロを決議可能)
利益金額(c/C)最も大きい業績変動が直接反映。非経常的利益は除外可能中程度(役員報酬の増額、設備投資等で合法的に調整可能だが限界あり)
純資産価額(d/D)大きい帳簿価額ベース。累積利益が反映される困難(長年の利益蓄積の結果であり短期的に変えにくい)

自社株の評価引き下げ対策については、「自社株の評価引き下げ対策|類似業種比準方式の活用と注意点」で詳しく解説しています。

自社株評価の実務上の注意点

評価時期の選定

生前贈与を行う場合、株式の贈与時期を選べることが最大のメリットです。利益が大きく落ち込んだ期の決算後に贈与すれば、類似業種比準価額が大幅に下がるケースがあります。

会社規模のボーダーライン対策

会社規模の判定は、わずかな差で区分が変わり、評価方式の適用比率が大きく異なります。たとえば、従業員を1人増やすだけで「小会社」から「中会社の小」に上がり、類似業種比準方式の適用比率がL=0.50からL=0.60に上がるケースがあります。

💡 実務のポイント

この論点で過去に税務調査で指摘を受けたケースでは、評価時期の直前に不自然な資産の増減(借入れによる現預金の増加、不動産の売却等)が行われていました。資産構成の変動が「株式評価額の引き下げを目的としたもの」と認定されると、変動前の状態で評価されるリスクがあります(財基通189-4等)。対策は計画的かつ合理的な事業目的をもって行うことが重要です。

評価明細書の記載上の誤りトップ5

実務で多い記載ミスを整理すると、次の5つが頻出します。まず、従業員数の計算でパート・アルバイトの労働時間を1,800時間で除すことを忘れるケース。次に、類似業種比準方式で「1株当たりの資本金等の額を50円とした場合」の換算を忘れるケース。3番目に、純資産価額方式で法人税額等相当額(37%)の控除を漏らすケース。4番目に、議決権割合50%以下の場合の80%評価(純資産価額方式)の適用漏れ。5番目に、類似業種の業種目の選定誤り(中分類と小分類の選択)です。

会計検査院の指摘と今後の制度改正の方向性

令和5年度の会計検査院の決算検査報告では、取引相場のない株式の評価について重要な指摘がなされています。

報告によると、類似業種比準価額は純資産価額に比べて大幅に低い水準にあり、純資産価額に対する申告評価額の割合の中央値は、大会社で0.32倍、中会社で0.50倍、小会社で0.61倍にとどまっています。また、会社規模が大きい区分ほど評価額が相対的に低く算定される傾向が指摘されています。

📢 制度改正の動向

会計検査院の指摘を受け、国税庁は取引相場のない株式の評価方法の見直しについて検討を進めています。類似業種比準方式の計算式の見直しや、会社規模の判定基準の改正が議論される可能性があります。改正があった場合は、評価額が上昇する方向になる可能性が高いため、事業承継対策はなるべく早い段階で着手することが望ましいです。

相続税の基本的なしくみや計算方法については「相続税の計算方法」を、小規模宅地等の特例との併用については「小規模宅地等の特例の全体像」をご参照ください。

自社株の評価を税理士に依頼すべき5つの理由

自社株の評価は、財産評価基本通達の理解だけでなく、法人税申告書・会計知識・類似業種データの分析が求められる高度な実務です。とくに次の5つの場面では、専門家への依頼を強くお勧めします。

1つ目は、会社が非上場株式を保有している場合です。子会社株式の評価を含め、二重・三重の株式評価が必要になるためです。2つ目は、会社が不動産を多く保有している場合です。土地の相続税評価額の算定が評価額を大きく左右します。3つ目は、会社規模のボーダーライン付近にある場合です。わずかな差で評価方式の適用比率が変わります。4つ目は、事業承継税制の適用を検討している場合です。株式の評価額が猶予税額の計算基礎になるためです。5つ目は、特定の評価会社に該当する可能性がある場合です。S1+S2方式の選択や、該当・非該当の判定は専門家の判断が不可欠です。

よくある質問(FAQ)

自社株の評価はいつの時点で行いますか?
相続の場合は被相続人の死亡日(相続開始日)、贈与の場合は贈与により財産を取得した日が「課税時期」となり、その時点で評価を行います。類似業種の株価や比準要素は課税時期を基準に選択します。
議決権のない種類株式(配当優先・無議決権株式)はどう評価しますか?
原則として、議決権の有無にかかわらず財産評価基本通達に基づき評価します。ただし、配当優先の無議決権株式で同族株主以外の株主が取得する場合は配当還元方式が適用されることがあります。種類株式の評価は複雑なため、必ず専門家にご相談ください。
評価会社が赤字の場合、類似業種比準方式ではどうなりますか?
利益金額がマイナス(赤字)の場合は、比準要素cはゼロとして扱います。直前期が赤字でも直前々期が黒字であれば、2期平均が正の値になることがあります。2期とも赤字の場合は利益要素がゼロとなり、配当と純資産の2要素で比準します。
類似業種の業種目はどうやって決めますか?
評価会社の事業内容に基づき、日本標準産業分類の分類項目と国税庁公表の「業種目との対比表」を用いて決定します。複数の事業を営む場合は、売上構成比率が最も高い事業の業種目を採用します。
自社株の評価額を下げる方法はありますか?
合法的な方法としては、類似業種比準方式の3要素(配当・利益・純資産)を意識した決算対策があります。具体的には、配当を控えめにする、退職金の支給タイミングを調整する、設備投資を行うなどの方法があります。ただし、不自然な利益操作は税務調査で否認されるリスクがあるため、税理士と相談の上で計画的に行うことが重要です。詳しくは「自社株の評価引き下げ対策」をご覧ください。
事業承継税制を使えば自社株の相続税はゼロになりますか?
事業承継税制(特例措置)を適用すれば、自社株に対応する相続税の全額が猶予されます。ただし、猶予であって免除ではない点に注意が必要です。後継者が会社を5年以上継続し、一定の要件を満たした場合に猶予税額が免除されます。要件を満たさなくなった場合は、猶予税額+利子税を納付する必要があります。詳しくは「事業承継税制の全体像」をご参照ください。
純資産価額方式で評価する際、含み損のある資産はどう扱いますか?
含み損のある資産(帳簿価額>相続税評価額)も、相続税評価額に評価替えします。土地が値下がりしている場合は、純資産価額が帳簿上の純資産より低くなります。ただし、評価差額に対する法人税額等相当額の控除は含み益に対してのみ適用されるため、含み損と含み益が混在する場合は、個別の資産ごとに評価替えした上で合計額で判定します。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 自社株の評価方式は「誰が取得するか」と「会社の規模」で決まる
  • 同族株主は原則的評価方式(類似業種比準・純資産価額・併用)、同族株主以外は配当還元方式
  • 会社規模が大きいほど類似業種比準方式の比率が高くなり、評価額は低くなる傾向がある
  • 純資産価額に対する類似業種比準価額の中央値は約27%(会計検査院報告)で、方式選択の影響が極めて大きい
  • 特定の評価会社(株式等保有特定会社・土地保有特定会社等)は原則として純資産価額方式で評価
  • 評価額の引き下げは可能だが、不自然な操作は否認リスクがあるため専門家と計画的に進めること
  • 会計検査院の指摘を受け、今後の制度改正で評価額が上昇する可能性がある——対策は早めに

自社株の評価は、相続税・贈与税の負担だけでなく、事業承継の方向性そのものを左右する重要な論点です。まずは自社株がいくらになるのか、現時点の概算額を把握することから始めましょう。

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