【税理士×行政書士が解説】事業承継税制(法人版)の仕組み|特例措置と一般措置の違い・適用要件

【税理士×行政書士が解説】事業承継税制(法人版)の仕組み|特例措置と一般措置の違い・適用要件
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

事業承継税制(法人版)の仕組み|特例措置と一般措置の違い・適用要件

「事業承継で自社株の贈与税・相続税が心配」という中小企業経営者に向けて、法人版事業承継税制の特例措置と一般措置の違いを10項目で比較解説します。この記事を読めば、自社がどちらの措置を選ぶべきか判断できます。

🏆 結論:特例措置の方が圧倒的に有利だが、期限がある

法人版事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」の2つがあります。特例措置は納税猶予割合100%・対象株式の制限なし・雇用要件の実質撤廃など、一般措置より大幅に有利です。ただし、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、贈与・相続の適用期限は2027年12月31日までの時限措置です。活用を検討している経営者は早めの準備が不可欠です。

事業承継税制(法人版)とは?制度の基本的なしくみ

法人版事業承継税制とは、後継者が非上場会社の株式を贈与または相続で取得した際に、その株式にかかる贈与税・相続税の納税を猶予し、一定の条件を満たせば最終的に免除される制度です。租税特別措置法第70条の7等に規定されています。

制度の利用には、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)に基づく都道府県知事の認定が必要です。この制度には平成21年に創設された「一般措置」と、平成30年度改正で10年間限定で設けられた「特例措置」の2つがあります。

💡 実務のポイント

事業承継税制は「納税猶予」であって「非課税」ではありません。猶予期間中に取消事由に該当すると、猶予されていた税額に利子税を加算して納付が必要になります。この点を理解せずに制度を利用すると、想定外の税負担が発生するリスクがあります。実務では、事業承継後の経営体制や株式の管理方法まで含めた長期的なプランニングが欠かせません。

特例措置と一般措置の違い【10項目比較表】

特例措置と一般措置の主要な違いを以下の表で比較します。結論から言えば、ほぼすべての項目で特例措置の方が有利です。

比較項目 特例措置 一般措置
①事前計画特例承継計画の提出が必要(2027年9月末まで)不要
②対象株式数全株式が対象(制限なし)総株式数の2/3まで
③納税猶予割合(贈与)100%100%
④納税猶予割合(相続)100%80%
⑤贈与者・被相続人全株主が対象(親族外含む)先代経営者1人のみ
⑥後継者の人数最大3人まで1人のみ
⑦雇用確保要件実質撤廃(未達でも理由書提出で継続)5年平均8割維持(未達で取消)
⑧売却・廃業時の再計算あり(株価下落分を減免)なし
⑨適用期限2027年12月31日まで期限なし(恒久措置)
⑩役員就任要件(贈与)贈与直前に就任していればOK(令和7年改正)贈与直前に就任していればOK(令和7年改正)

参考: 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」

適用要件を詳しく解説|会社・先代経営者・後継者の3者

会社の要件

事業承継税制の対象となる会社は、中小企業基本法に定める中小企業者(業種ごとに資本金・従業員数の基準がある)で、非上場であり、風俗営業会社でないことが必要です。資産管理会社(有価証券・不動産等の資産保有割合が70%以上の会社)も原則として対象外ですが、一定の事業実態がある場合は除外されません。

先代経営者(贈与者・被相続人)の要件

贈与の場合、先代経営者は贈与前に代表権を有していたこと、贈与時点で代表権を有していないことが必要です。相続の場合は、被相続人が相続開始直前に代表権を有していたこと等が求められます。

後継者(受贈者・相続人)の要件

贈与の場合、後継者は贈与時に18歳以上であること、贈与直前に会社の役員であること(令和7年改正で「3年以上」から緩和)、贈与後に代表権を有することが必要です。特例措置では最大3人まで後継者を指定でき、その場合はそれぞれが議決権の10%以上を保有する等の要件があります。

⚠️ 注意

特例措置で後継者を3人に分散すると、各後継者の議決権割合が低くなり、経営判断のスピードが落ちるリスクがあります。「税務上有利=経営上最適」とは限りません。後継者の人数は経営戦略と税務の両面から慎重に判断すべきです。

株式評価額別の納税猶予シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 先代経営者(父)から後継者(子1人)への自社株100%の贈与を想定
  • 贈与税の特例税率を適用(直系尊属からの贈与)
  • 他の贈与財産なし、暦年課税の基礎控除110万円を適用
項目 自社株1億円 自社株3億円 自社株5億円
本来の贈与税額約4,800万円約1億6,400万円約2億8,900万円
特例措置の猶予額約4,800万円(100%)約1億6,400万円(100%)約2億8,900万円(100%)
一般措置の猶予額(贈与)約3,000万円(2/3対象×100%)約9,800万円(2/3対象×100%)約1億7,100万円(2/3対象×100%)
差額(特例の方が有利な金額)約1,800万円約6,600万円約1億1,800万円

※概算値です。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

💡 実務のポイント

自社株の評価額が高い会社ほど、特例措置と一般措置の差が大きくなります。評価額5億円のケースでは1億円以上の差が出ます。自社株の評価方法(類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式)の選択自体が節税のカギを握るため、評価額の算定と事業承継税制の適用はセットで検討すべきです。

自社株の評価方法について詳しくは「事業承継税制の仕組みと概要」で解説しています。

AYUSAWA PARTNERS

事業承継の税務相談は鮎澤パートナーズへ

初回相談無料。公認会計士・税理士・社労士・行政書士がワンストップで対応します。

鮎澤パートナーズに相談する

手続きの全体フロー|計画提出から免除まで

事業承継税制の手続きは、計画の提出から始まり、猶予の申告、毎年の報告、最終的な免除まで長期にわたります。以下のフロー表で全体像を把握してください。

ステップ 内容 提出先 期限
①計画提出特例承継計画を認定支援機関の指導を受けて作成・提出都道府県庁2027年9月30日まで
②贈与・相続の実行先代経営者から後継者へ株式を移転2027年12月31日まで
③認定申請経営承継円滑化法に基づく認定を申請都道府県庁贈与の翌年1月15日まで / 相続開始後8ヶ月以内
④税務申告認定書の写しを添付して贈与税・相続税の申告税務署贈与の翌年3月15日 / 相続開始後10ヶ月以内
⑤事業継続期間(5年)年次報告書(都道府県)+継続届出書(税務署)を毎年提出両方申告期限から5年間、毎年
⑥継続届出期間継続届出書を3年に1回提出税務署5年経過後、後継者死亡等まで
⑦免除後継者死亡、次の後継者への贈与等で猶予税額が免除税務署

📝 行政書士の視点

特例承継計画の作成には認定経営革新等支援機関(税理士、公認会計士、商工会議所等)の指導・助言が必要です。計画書の様式は中小企業庁のホームページからダウンロードでき、後継者の氏名・事業承継の予定時期・承継後5年間の事業計画等を記載します。記載例も業種別に公開されているため、参考にしながら作成するとよいでしょう。

雇用確保要件の違い|特例措置の実質撤廃とは

事業承継税制では、事業承継後5年間の常時使用従業員数の平均が、承継時の8割以上を維持することが求められます(雇用確保要件)。この要件の取扱いが、特例措置と一般措置で大きく異なります。

項目 特例措置 一般措置
5年平均8割を維持した場合猶予継続猶予継続
5年平均8割を下回った場合理由書(様式27)を提出すれば猶予継続認定取消→猶予税額+利子税を納付
経営悪化が理由の場合認定支援機関の指導・助言が必要取消(救済なし)

特例措置では、雇用が8割を下回っても理由書を提出すれば猶予が継続されます。人手不足が深刻な中小企業にとって、この「実質撤廃」は非常に大きなメリットです。

猶予取消事由の一覧とリスク管理

納税猶予が取り消されると、猶予されていた税額に加えて利子税の納付が必要になります。主な取消事由とそのリスク度を以下に整理します。

取消事由 リスク度 対応策
後継者が代表権を失った(5年以内)★★★5年間は代表を継続する経営計画を策定
対象株式を譲渡・売却した★★★株式の管理ルールを社内で明確化
雇用が8割を下回った(一般措置の場合)★★☆特例措置を選択して回避
会社が解散した★★☆特例措置は株価再計算で減免の余地あり
資産管理会社に該当した★★☆有価証券・不動産の保有割合を70%未満に維持
継続届出書の提出期限を過ぎた★☆☆カレンダーに期限を登録し、税理士と共有

📊 公認会計士の視点

実務で見落としがちなのが「資産管理会社の判定」です。事業承継後に事業規模を縮小したり、遊休不動産の割合が増えたりすると、有価証券等の資産保有割合が70%を超えて資産管理会社に該当するケースがあります。5年間の事業継続期間中だけでなく、その後も資産構成には注意が必要です。

特例措置を使えるか?判定チェックリスト

自社が特例措置の適用を受けられるかどうか、以下の8項目で確認してください。すべて「はい」であれば特例措置の適用対象です。

チェック項目 確認
①会社は中小企業基本法の中小企業者に該当するか
②会社は非上場であるか
③会社は風俗営業会社に該当しないか
④2027年9月30日までに特例承継計画を提出できるか
⑤2027年12月31日までに贈与・相続を実行できるか
⑥後継者は贈与時18歳以上であり、会社の役員であるか
⑦先代経営者は贈与時に代表権を有していないか(贈与の場合)
⑧認定経営革新等支援機関(税理士等)の指導・助言を受けられるか

特例措置の期限と今後の見通し

特例措置の適用には「特例承継計画の提出期限」と「贈与・相続の適用期限」の2つの期限があります。令和8年度改正で計画提出期限が1年6ヶ月延長されましたが、贈与・相続の適用期限自体は2027年12月31日のままです。

期限 内容
2027年9月30日特例承継計画の提出期限(令和8年度改正で延長後)
2027年12月31日贈与・相続による適用期限(延長なしと明記済み)

令和7年度の税制改正大綱では「特例措置の適用期限は今後とも延長しない」と明記されています。期限後は一般措置のみの利用となるため、活用を検討している経営者は残された期間で計画的に準備を進める必要があります。税制改正の動向について詳しくは「相続税・贈与税の税制改正まとめ」をご覧ください。

特例措置のデメリット・注意点

猶予期間中の管理コスト

事業承継後5年間は毎年、都道府県への年次報告書と税務署への継続届出書の提出が必要です。5年経過後も3年に1回の継続届出書が求められます。この管理を怠ると猶予が取り消されるため、税理士への顧問料や社内の管理コストが継続的に発生します。

担保の提供が必要

納税猶予を受けるには、猶予税額に見合う担保の提供が必要です。対象株式の全てを担保提供すれば要件を満たしますが、株式以外の担保を求められる場合もあります。

取消時のリスク

猶予が取り消された場合、猶予されていた税額に利子税を加算して納付する必要があります。自社株評価額が高い会社では億単位の納税が突然発生するリスクがあるため、取消事由に該当しないための経営管理が重要です。

相続税の基本的な計算方法については「相続税の計算方法」、贈与税の基礎知識については「贈与税の仕組みと基礎知識」をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

特例措置と一般措置は併用できますか?
同じ会社の株式について、特例措置と一般措置を同時に適用することはできません。どちらか一方を選択する必要があります。特例措置の方がほぼすべての面で有利であるため、期限内であれば特例措置を選択するのが一般的です。
特例承継計画を出した後に後継者を変更できますか?
変更届(様式24)を都道府県庁に提出することで、後継者の変更が可能です。ただし、すでに贈与・相続を実行した後の変更には制限があるため、計画段階で慎重に後継者を選定することが重要です。
事業承継税制は親族外の後継者にも使えますか?
特例措置では、親族外を含むすべての株主から、代表者である後継者への贈与・相続が対象です。従業員への承継(MBO)などにも活用できます。一般措置では先代経営者1人から後継者1人への承継のみが対象であるため、親族外承継には特例措置の方が使いやすいです。
後継者が亡くなった場合はどうなりますか?
後継者が死亡した場合、猶予されていた贈与税・相続税は免除されます。これが事業承継税制の最終的なゴールです。また、5年間の事業継続期間を経過した後に、後継者がさらに次の後継者へ株式を贈与(猶予継続贈与)した場合も、先代からの贈与税は免除されます。
個人版事業承継税制との違いは何ですか?
法人版は非上場会社の「株式」が対象で、個人版は個人事業主の「事業用資産」(土地・建物・減価償却資産等)が対象です。法人版には特例措置と一般措置がありますが、個人版には一般措置のみで、適用期限は2028年12月31日です。
認定経営革新等支援機関とは何ですか?どこで見つけられますか?
税理士、公認会計士、弁護士、商工会議所、金融機関等で、国の認定を受けた機関のことです。中小企業庁のホームページで認定機関の一覧を検索できます。通常は顧問税理士に依頼するケースが多いです。
特例措置の期限後は事業承継税制が使えなくなりますか?
いいえ。特例措置が期限切れになった後も、一般措置(恒久措置)は引き続き利用できます。ただし、対象株式が総株式数の2/3まで、相続税の猶予割合が80%(贈与は100%)に限定されるなど、特例措置より条件が厳しくなります。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 法人版事業承継税制には「特例措置」と「一般措置」の2つがあり、特例措置が圧倒的に有利
  • 特例措置は全株式対象・猶予100%・雇用要件実質撤廃・後継者最大3人・売却時の再計算あり
  • 特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、贈与・相続の適用期限は2027年12月31日
  • 令和7年度改正で「特例措置の適用期限は今後延長しない」と明記されている
  • 猶予取消のリスクがあるため、適用後の管理(毎年の報告・株式保有・代表継続)が重要
  • 自社株評価額が高い会社ほど特例措置と一般措置の差が大きくなる(5億円で1億円超の差)
  • 活用を検討している経営者は、残された期間内に計画的に準備を進めるべき

AYUSAWA PARTNERS

事業承継の税務相談は鮎澤パートナーズへ

初回相談無料。公認会計士・税理士・社労士・行政書士がワンストップで対応。自社株評価から特例承継計画の作成まで一貫サポートします。

鮎澤パートナーズに相談する