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自己株式の取得と税務|みなし配当課税と資本金等の額の減少
「自社株買いを検討しているが、みなし配当の仕組みがわからない」という経営者・経理担当者に向けて、自己株式の取得で発生するみなし配当の計算方法、個人・法人株主の課税関係、発行法人側の税務処理を完全ガイドします。


「自社株買いを検討しているが、みなし配当の仕組みがわからない」という経営者・経理担当者に向けて、自己株式の取得で発生するみなし配当の計算方法、個人・法人株主の課税関係、発行法人側の税務処理を完全ガイドします。
🏆 結論:自己株式取得では「みなし配当」と「譲渡所得」の2種類の課税が発生する
会社が自己株式を取得する場合、株主が受け取る対価は税務上2つに分解されます。「資本金等の額」に対応する部分は資本の払戻し(=譲渡所得)、それを超える部分は利益の分配(=みなし配当)として課税されます。個人株主にとってみなし配当は総合課税の配当所得(最高税率約56%)となり、株式譲渡の分離課税(20.315%)より税負担が重くなるケースが多い点に要注意です。
自己株式とは、株式会社が発行した自社の株式を、会社自身が取得して保有する株式のことです。「金庫株」とも呼ばれます。会社法第155条から第178条に取得・保有・処分の規定が定められています。
以前は自己株式の取得は原則禁止でしたが、平成13年の商法改正により解禁され、現在では株主総会(または取締役会)の決議により、分配可能額の範囲内で取得できるようになっています。
中小企業が自己株式を取得する目的は主に6つあります。
| 活用場面 | 具体的な場面 | 税務上の主な論点 |
|---|---|---|
| ①事業承継 | 先代経営者の保有株式を会社が買い取り、後継者の持株比率を高める | みなし配当課税、相続税の特例 |
| ②少数株主の排除 | 分散した株主から株式を買い取り、経営安定化を図る | みなし配当課税、株価算定の適正性 |
| ③M&A対策 | M&A後に少数株主を排除するスクイーズアウト | みなし配当課税、組織再編との関連 |
| ④退職金代替 | 退任する役員が保有する株式を会社が買い取る | みなし配当 vs 退職所得の税負担比較 |
| ⑤資本政策 | ROE改善や1株当たり利益の向上 | 資本金等の額の減少、均等割への影響 |
| ⑥ストックオプション | 取得した自己株式を従業員へのインセンティブに活用 | 処分時の時価との差額の課税 |
💡 実務のポイント
事業承継の相談で最も多いのが「先代が持つ株式を会社に買い取ってもらいたい」というケースです。ところが、みなし配当の仕組みを知らずに進めてしまうと、先代に予想以上の税負担が発生します。自己株式の取得は必ず事前に税務シミュレーションを行い、退職金との併用スキームを検討してから実行することを強くおすすめします。
みなし配当とは、法人税法第24条に規定される「配当等の額とみなす金額」のことです。会社が株主に対して金銭等を交付する一定の事由に該当する場合、交付金額のうち「資本金等の額」に対応する部分を超える金額は、税務上「配当」とみなされます。
自己株式の取得の場合、会社が株主に支払う対価は、税務上以下の2つに分解されます。
(1)資本金等の額に対応する部分 → 資本の払戻し(株主にとっては株式の譲渡対価の一部)
(2)上記を超える部分 → みなし配当(利益の分配とみなされる部分)
自己株式取得の場合のみなし配当の計算式は以下のとおりです。
📐 みなし配当の計算式
みなし配当額 = 交付金銭等の額 −(1株当たり資本金等の額 × 取得株式数)
※1株当たり資本金等の額 = 発行法人の資本金等の額 ÷ 発行済株式総数(自己株式を除く)
📐 シミュレーション前提条件
| 計算ステップ | 計算式 | 金額 |
|---|---|---|
| ①交付金銭の総額 | 100株 × 15,000円 | 150万円 |
| ②資本金等の額に対応する部分 | 5,000円 × 100株 | 50万円 |
| ③みなし配当額(①−②) | 150万円 − 50万円 | 100万円 |
| ④株主Bの譲渡収入(みなし配当を除く) | 150万円 − 100万円(みなし配当) | 50万円 |
| ⑤株主Bの譲渡所得 | 50万円(収入)− 50万円(取得費) | 0円 |
この例では、株主Bが受け取る150万円のうち100万円が「みなし配当」、残りの50万円が「譲渡収入」に分解されます。譲渡収入50万円から取得費50万円を差し引くと譲渡所得はゼロですが、みなし配当100万円には別途課税されます。
参考: 国税庁 No.5759 法人が株主等から自己の株式を取得した場合
個人株主がみなし配当を受け取った場合、非上場株式のみなし配当は「配当所得」として総合課税の対象になります。他の所得(給与所得、事業所得など)と合算され、累進税率(住民税を含め最高約56%)が適用されます。
配当控除の適用は可能ですが、高額のみなし配当が発生する場合は、株式譲渡(分離課税20.315%)と比較して税負担が大幅に重くなる可能性があります。
みなし配当を差し引いた残額(=資本金等の額に対応する部分)は、株式の譲渡収入として扱われます。取得費を差し引いた譲渡所得に対して、分離課税20.315%が課税されます。
📐 シミュレーション前提条件
| 所得の種類 | 金額 | 課税方式 | 概算税額 |
|---|---|---|---|
| みなし配当 | 100万円 | 総合課税(所得税30%+住民税10%) | 約30万円 |
| 譲渡所得 | 0円 | 分離課税20.315% | 0円 |
| 合計税額 | — | — | 約30万円 |
※概算値です。配当控除の適用、復興特別所得税を含みません。正確な計算は税理士にご相談ください。
仮に同じ150万円を「第三者への株式譲渡」で受け取った場合、全額が譲渡所得(分離課税20.315%)となり、税額は約20万円です。自己株式の取得によるみなし配当課税のほうが約10万円多く課税される計算です。金額が大きくなるほど差は広がります。
⚠️ 注意
非上場株式のみなし配当は総合課税です。事業承継で先代経営者の保有株式(時価数千万〜数億円)を会社が買い取ると、巨額のみなし配当が発生し、最高税率(住民税を含め約56%)が適用される可能性があります。相続後3年以内の特例(後述)の活用や、退職金との併用スキームを事前に検討してください。
法人株主がみなし配当を受け取った場合、受取配当金として営業外収益に計上されます。ただし、法人税法では二重課税を排除するため「受取配当等の益金不算入制度」が適用され、株式の保有割合に応じて一部または全部が益金に算入されません。
| 株式の保有割合 | 区分 | 益金不算入割合 |
|---|---|---|
| 100% | 完全子法人株式等 | 100% |
| 1/3超〜100%未満 | 関連法人株式等 | 100%(負債利子控除あり) |
| 5%超〜1/3以下 | その他の株式等 | 50% |
| 5%以下 | 非支配目的株式等 | 20% |
法人株主の場合、みなし配当を差し引いた残額と帳簿価額との差額が譲渡損益となり、法人税の課税対象です。なお、完全支配関係にある法人間の自己株式取得では、譲渡損益を繰り延べる特例があります。
自己株式を有償で取得した発行法人では、支払った対価のうち「資本金等の額」に対応する部分(取得資本金額)が資本金等の額の減少として処理され、それを超える部分が利益積立金額の減少として処理されます。
| 項目 | 会計処理 | 税務処理 |
|---|---|---|
| 支払対価150万円の内訳 | 自己株式150万円(純資産の控除) | 資本金等の額▲50万円+利益積立金額▲100万円 |
| 源泉徴収義務 | — | みなし配当100万円×20.42%=20万4,200円を源泉徴収 |
会計上は自己株式として一括で処理しますが、税務上は「資本金等の額の減少」と「利益積立金額の減少」に分けて処理するため、別表5(1)で調整が必要です。具体的には、利益積立金額の欄で「みなし配当」に相当する金額を減算し、資本金等の額の欄で「取得資本金額」を減算します。
発行法人は、みなし配当の金額に対して所得税等を源泉徴収しなければなりません。非上場株式の場合、源泉徴収税率は20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%)です。徴収した日の属する月の翌月10日までに納付する必要があります。
また、「配当等とみなす金額に関する支払調書」(および合計表)を、支払確定日から1ヶ月以内に所轄税務署に提出する義務があります。
法人決算全体の流れについては「法人決算の流れと手順」で解説しています。
自己株式の取得であっても、以下のケースではみなし配当が発生しません。
| ケース | 理由 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 市場での買付け | 証券取引所における通常の取引は譲渡所得として処理 | 法法24①但書 |
| 相続後3年以内の特例 | 相続税の課税対象となった非上場株式を相続開始後3年10ヶ月以内に発行会社へ譲渡した場合 | 措法9の7 |
| 取得対価 ≦ 資本金等の額に対応する部分 | 交付金銭が資本金等の額以下であればみなし配当ゼロ | 法法24① |
| 合併反対株主の買取請求 | 合併に反対する株主の株式買取は譲渡所得として処理 | 法法24①但書 |
🧮 相続後3年以内の特例(措法9の7)
事業承継で最も重要な特例です。相続により取得した非上場株式を、相続開始後3年10ヶ月以内に発行会社へ譲渡した場合、みなし配当課税が適用されず、全額が「株式等に係る譲渡所得」として分離課税(20.315%)の対象になります。さらに、取得費加算の特例(相続税の一部を取得費に加算)との併用も可能です。この特例を活用すれば、総合課税の最高税率(約56%)を回避できるため、事業承継計画では必ず検討してください。
退任する役員の保有株式を会社が買い取る場合、自己株式の取得と退職金の支給を組み合わせるのが定石です。退職金を支給することで会社の純資産が減少し、株式の評価額(=取得対価)が下がります。結果としてみなし配当の金額も減少します。
役員退職金は退職所得として2分の1課税の優遇があるため、同じ金額を受け取るなら退職金のほうがみなし配当より税負担が軽くなります。役員報酬の基本については「役員報酬の基礎知識」をご覧ください。
前述の措法9の7の特例を活用し、相続開始後3年10ヶ月以内に自己株式の取得を実行すれば、みなし配当課税を回避して分離課税(20.315%)のみで済みます。
みなし配当の金額は「交付金銭 − 資本金等の額に対応する部分」で計算されるため、資本金等の額が大きいほどみなし配当は小さくなります。自己株式取得の前に増資(資本金等の額の増加)を行うことで、みなし配当を抑制できるケースがあります。ただし、租税回避と認定されるリスクがあるため、慎重な検討が必要です。
会社設立時の資本金の決め方については「会社設立の流れと手順」で解説しています。
取得した自己株式を第三者に売却(処分)する場合、発行法人にとっては新株の発行と同様の取扱いとなり、処分対価が資本金等の額の増加として処理されます。処分対価と帳簿価額の差額は、法人税の課税対象にはなりません(資本等取引として損益に計上しない)。
自己株式を消却する場合も、資本等取引として処理され、法人税の課税は発生しません。消却によって発行済株式総数が減少しますが、既に取得時に資本金等の額と利益積立金額の減少処理が行われているため、消却時に追加の税務上の調整は不要です。
自己株式の取得により「資本金等の額」が減少すると、法人住民税の均等割の算定基礎に影響する場合があります。法人住民税の均等割は「資本金等の額」(または「資本金+資本準備金」のいずれか大きい方)を基準に算定されます。自己株式取得による資本金等の額の減少が均等割の区分を変えるケースは限定的ですが、特に資本金等の額が区分の境界付近にある場合は確認が必要です。
法人成りのタイミングでの資本金の設定については「法人成りのタイミングと判断基準」も参考にしてください。
📋 この記事のポイント
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