【税理士監修】電子帳簿保存法の罰則・猶予措置と税務調査での対応

【税理士監修】電子帳簿保存法の罰則・猶予措置と税務調査での対応
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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電子帳簿保存法の罰則・猶予措置と税務調査での対応

「電帳法に対応できていないが、罰則はあるのか?」「猶予措置はいつまで使えるのか?」「税務調査で聞かれたらどう答えればいいのか?」——こうした不安を抱える中小企業経営者・個人事業主に向けて、電子帳簿保存法の罰則体系と猶予措置の実態、税務調査での具体的な対応方法まで解説します。

🏆 結論:「即座に罰則」ではないが「対応しなくてよい」わけではない

電子帳簿保存法には直接的な罰金規定はありません。ただし、要件を満たさない保存は①青色申告の取消し、②重加算税10%加重、③会社法上の100万円以下の過料というリスクにつながります。一方、猶予措置により「相当の理由」があれば保存要件が免除されますが、あくまで経過措置であり、恒久的な免除ではありません。

電子帳簿保存法に違反した場合の3つのリスク

リスク①:青色申告の承認取消し

電子帳簿保存法の要件を満たさずに電子取引データを保存していた場合、最も影響が大きいのが青色申告の承認取消しです。青色申告を取り消されると、法人税では欠損金の繰越控除が使えなくなり、所得税では最大65万円の特別控除が受けられなくなります。

ただし、国税庁は「電帳法の規定に違反したからといって、直ちに青色申告が取り消されるわけではない」との見解を示しています。具体的には、取引の事実が電子データ以外(書面など)から確認できる場合は、それ以外の特段の事由がない限り、すぐに取り消されることはありません。

💡 実務のポイント

税務調査で電帳法の対応不備を指摘されたケースを多数見てきましたが、即座に青色申告が取り消された事例は極めて稀です。多くの場合は「今後の対応を求める指導」にとどまります。とはいえ、帳簿書類の提示要求を拒否した場合や、悪質な改ざんが発覚した場合は話が別です。

リスク②:重加算税の10%加重

電子取引データやスキャナ保存データに関して改ざん・仮装・隠蔽などの不正が発覚した場合は、通常の重加算税(過少申告の場合35%、無申告の場合40%)に加えて、さらに10%が加重されます。電子帳簿保存法第8条の5に基づく措置です。

たとえば、メールで受領した請求書のPDFを改ざんして経費を水増ししていた場合、通常であれば追徴税額の35%の重加算税が課されるところ、45%に跳ね上がります。

リスク③:会社法上の過料(100万円以下)

会社法第976条は、帳簿や書類の記録・保存に関する規定に違反した場合に100万円以下の過料を科すことを定めています。電帳法そのものの罰則ではありませんが、帳簿書類を適正に保存していない場合は会社法にも抵触するリスクがあります。

違反パターン別のリスク深刻度マトリクス

電帳法の違反にはさまざまなパターンがあり、意図的かどうかによってリスクの深刻度が大きく変わります。以下の表で自社の状況を確認してください。

違反パターン 意図 リスク
深刻度
想定される処分
電子データを改ざん・削除して脱税故意★★★★★重加算税45%+青色取消+過料
調査官のデータ提示要求を拒否故意★★★★★青色取消+推計課税
電子データを印刷して紙で保存(電子保存していない)過失★★★☆☆是正指導(紙で取引事実が確認できれば)
検索要件を満たしていない保存過失★★☆☆☆是正指導(データ自体は保存している場合)
事務処理規程を作成していない過失★★☆☆☆是正指導(猶予措置の適用可能性あり)
一部のEC領収書の保存漏れ過失★☆☆☆☆是正指導(取引自体が帳簿で確認できれば)

⚠️ 注意

上記の深刻度はあくまで一般的な傾向です。個別の税務調査では調査官の判断や管轄税務署の方針によって処分が異なる場合があります。不安がある場合は必ず税理士に相談してください。

猶予措置の仕組みと適用条件

宥恕措置と猶予措置の違い

電子帳簿保存法に関しては、過去に「宥恕措置」と現在の「猶予措置」の2つの経過措置が設けられてきました。名前が似ているため混同しやすいですが、内容は異なります。

項目 宥恕措置(終了済み) 猶予措置(現行)
適用期間2022年1月〜2023年12月末2024年1月〜(期限未定)
根拠令和4年度税制改正附則令和5年度税制改正(電帳法施行規則4条3項)
紙保存の可否紙で保存してOK電子保存は必須(要件のみ免除)
条件やむを得ない事情+書面提示相当の理由+ダウンロード提出+書面提示
事前申請不要不要

最大の違いは、宥恕措置では紙での保存が許容されていたのに対し、猶予措置では電子データの保存自体は義務であり、免除されるのは「保存要件(真実性の確保・検索要件)」のみという点です。つまり、猶予措置を利用する場合でも、電子取引データそのものは電子のまま保存しておく必要があります。

「相当の理由」が認められるケース・認められないケース

猶予措置の適用には「所轄税務署長が相当の理由があると認める」ことが必要ですが、事前申請は不要です。国税庁の取扱通達7-12では、以下のような場合に相当の理由が認められるとされています。

判定 具体的な状況
○ 認められるシステム導入のための資金が不足している
○ 認められる社内のワークフロー整備が間に合っていない
○ 認められる人手不足で対応する担当者がいない
○ 認められるシステム選定中で導入が完了していない
× 認められない対応できる環境があるのに、あえて対応していない
× 認められない「知らなかった」だけで、対応する意思がない

現場の感覚として、猶予措置は中小企業にとってかなり柔軟に適用されている印象があります。ただし、「相当の理由」が恒久的に通用するわけではなく、いずれ正式な対応に移行することが前提です。電帳法の全体像は「電子帳簿保存法とは?3つの区分と対応ポイント」で解説しています。

重加算税10%加重の具体的な適用場面

加重対象となる不正の具体例

重加算税10%加重の対象は、スキャナ保存と電子取引データ保存に関する不正です。電子帳簿等保存(会計ソフトの帳簿データ)は対象外です。具体的には以下のようなケースが加重対象になります。

電子取引データを削除して売上を除外した場合、受領したPDFの金額を書き換えて経費を水増しした場合、架空の電子取引データを作成した場合、スキャナ保存したデータを差し替えた場合などが該当します。

加重される場合とされない場合の税額シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 追徴税額(本税): 500万円
  • 不正の種類: 電子取引データの改ざんによる経費水増し
項目 通常の重加算税 電帳法の加重あり
本税(追徴税額)500万円500万円
重加算税率35%45%(35%+10%加重)
重加算税額175万円225万円
合計負担額675万円725万円

※延滞税は含んでいません。実際には延滞税が加算されるため、負担額はさらに大きくなります。

10%の差は追徴税額500万円の場合で50万円ですが、追徴税額が大きくなるほどインパクトも増大します。電子データの改ざんは絶対に行わないでください。

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優良な電子帳簿のメリット:過少申告加算税5%軽減

「優良な電子帳簿」とは

電子帳簿保存法では、一定の要件(訂正削除履歴の保存・帳簿間の相互関連性・検索要件の充足)を満たした電子帳簿を「優良な電子帳簿」と認定する制度があります。優良な電子帳簿として認められた場合、後からその帳簿に関連する過少申告が判明しても、過少申告加算税が5%軽減されます。

この制度を利用するには、あらかじめ「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る届出書」を所轄税務署に提出しておく必要があります。

加重と軽減の「ダブル効果」シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 追徴税額(本税): 300万円
  • 不正なし(単純な計算ミスによる過少申告)
パターン 加算税率 加算税額
通常の過少申告加算税10%30万円
優良な電子帳簿あり5%15万円
差額(節約効果)▲15万円

優良な電子帳簿の認定を受けていれば、万が一の計算ミスがあった場合でも加算税が半額になります。freeeやマネーフォワード、弥生の法人向けプランでは優良な電子帳簿の要件を満たせる機能が搭載されていることが多いため、会計ソフト選びの際のチェックポイントにもなります。会計ソフトの選び方については「会計ソフトの選び方ガイド」をご参照ください。

税務調査で電帳法対応を聞かれた場合の想定問答

調査官が確認する3つのポイント

税務調査で電帳法の対応状況を確認される場合、調査官が見るのは「電子取引データの保存状態」「真実性の確保方法」「検索要件の充足状況」の3点です。実際には、専門的なシステムの中身まで深くチェックされることは稀で、「データをすぐに見せられるか」「改ざん防止の措置を取っているか」を確認されることが大半です。

想定問答集

調査官の質問 回答例
電子取引データはどのように保存していますか?社内の共有フォルダに年度・月別のフォルダを作成し、ファイル名に日付・金額・取引先を入れて保存しています。事務処理規程も策定済みです
改ざん防止の措置は何をしていますか?事務処理規程を整備し、電子取引データの訂正・削除に関するルールを定めています。一部データはクラウド会計ソフト内で訂正削除履歴が残る形で管理しています
この取引のデータをダウンロードして見せてもらえますか?はい、こちらのフォルダに保存しています(PCを操作して該当ファイルを表示)
検索要件はどのように満たしていますか?ファイル名に日付・金額・取引先を含めており、エクスプローラーの検索機能で検索可能です。なお、基準期間の売上が5,000万円以下のため、ダウンロードの求めに応じられる体制のもと検索要件は免除されています
事務処理規程を見せてもらえますか?はい、電子取引データの保存先と同じフォルダに規程のPDFを保管しています(提示する)

💡 実務のポイント

税務調査では「すぐに見せられる」ことが最も重要です。完璧なシステムを導入していても、調査当日にファイルの場所がわからず時間がかかると、印象が悪くなります。調査連絡を受けたら、電子取引データの保存フォルダを確認し、事務処理規程がすぐ出せるようにしておきましょう。

推計課税のリスクと回避策

帳簿書類の提示を拒否した場合や、帳簿の不備が著しい場合は、税務署が所得を推計して課税する「推計課税」が行われる可能性があります。推計課税では税務署の判断で税額が算出されるため、実際の所得よりも高い金額で課税されるリスクがあります。

推計課税を回避するためには、電帳法対応の有無にかかわらず、帳簿書類を適正に作成・保存し、税務調査時に速やかに提示できる体制を整えておくことが最も重要です。帳簿作成の基礎は「簿記・帳簿の基礎知識」で解説しています。

グレーゾーン:対応に迷うケースの実務判断

LINEやSNSで受け取った請求情報

LINEやMessengerで「今月分の請求です」と画像で送られてきた場合も電子取引に該当します。この場合は画像をダウンロードして保存フォルダに格納し、ファイル名ルールに従ってリネームする必要があります。スクリーンショットでの保存も認められています。

紙と電子が混在する取引先

同じ取引先から、ある月は紙で、別の月はメールで請求書が届くケースがあります。この場合は、紙で届いた月は紙で保存し、メールで届いた月は電子で保存します。混在すること自体は問題ありませんが、管理が煩雑になるため、可能であれば取引先に送付方法を統一してもらうのが実務的です。

クレジットカードの利用明細

クレジットカード会社のWebサイトからダウンロードした利用明細は電子取引データに該当します。毎月ダウンロードして保存する必要があります。カード会社のサイトで閲覧期限が設けられている場合もあるため、月末のルーティンに組み込んでおきましょう。

電帳法対応で守るべき保存期間

電子取引データの保存期間は、法人税法では7年間(欠損金の繰越控除を適用する場合は10年間)、所得税法では5年間(青色申告の場合は7年間)です。帳簿の保存義務については法人税法施行規則第59条に規定されています。

区分 保存期間 起算日
法人の帳簿書類7年間確定申告書の提出期限の翌日
法人(繰越控除適用時)10年間確定申告書の提出期限の翌日
個人(青色申告)7年間確定申告書の提出期限の翌日
個人(白色申告)5年間確定申告書の提出期限の翌日

参考: 国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」

📊 公認会計士の視点

電子データのバックアップ体制も保存期間中は維持する必要があります。ハードディスクの故障やクラウドサービスの終了で過去データが消失するリスクに備え、複数の場所にバックアップを取ることを推奨します。特にクラウドサービスは契約終了後にデータが削除される場合があるため、契約条件を必ず確認してください。

今すぐやるべき税務調査対策チェックリスト

対策項目 やること
電子取引データの保存確認直近1年分のメールPDF・EC領収書が保存フォルダにあるか確認
事務処理規程の存在確認規程ファイルがすぐに出せる場所にあるか確認
ダウンロード提示の準備USBメモリ等にコピーして渡せる体制を確認
検索要件の確認ファイル名検索で取引先・日付・金額で絞り込めるか確認
紙保存分の整理紙で受領した書類が月別・取引先別に整理されているか確認
税理士への連絡調査連絡を受けたら顧問税理士に即連絡

記帳や経理業務を外部に依頼している場合は、委託先にも電帳法対応の状況を確認しておきましょう。記帳代行の費用感は「記帳代行の費用相場」で解説しています。

よくある質問(FAQ)

電子帳簿保存法に対応しないと罰金が課されますか?
電帳法そのものに罰金規定はありません。ただし、電子取引データの保存要件を満たさない場合は青色申告の取消しリスクがあり、電子データの改ざんがあった場合は重加算税が10%加重されます。また、会社法第976条に基づく100万円以下の過料が科される可能性もあります。
猶予措置はいつまで使えますか?
猶予措置には明確な終了期限が設定されていません。ただし、あくまで正式な対応が困難な事業者のための経過措置であり、恒久的な免除ではありません。「相当の理由」がなくなった時点で猶予措置は適用されなくなるため、できるだけ早く正式な対応に移行することをおすすめします。
一部の電子取引データを保存し忘れた場合はどうなりますか?
一部のデータ保存漏れがあった場合でも、取引の事実が帳簿等から確認できれば、直ちに青色申告が取り消されることはないと国税庁が見解を示しています。ただし、保存漏れが発覚した場合は速やかに対応を是正してください。
税務調査で電帳法について詳しく聞かれることは多いですか?
現時点では、電帳法の対応状況が税務調査の主要テーマになるケースは多くありません。ただし、調査の過程で電子取引データの提示を求められることは増えており、データをすぐに提示できない場合は印象が悪くなります。調査の有無にかかわらず、最低限の対応は済ませておくべきです。
重加算税の10%加重は、うっかりミスでも適用されますか?
いいえ。重加算税の10%加重は「改ざん」「仮装」「隠蔽」といった故意の不正行為が対象です。単純な計算ミスやシステムの設定誤りなど、過失による不備は対象外です。ただし、過失であっても過少申告加算税(通常10%)は課される可能性があります。
個人事業主が猶予措置を利用する場合、税務署への届出は必要ですか?
事前届出は不要です。猶予措置は、要件を満たしていれば自動的に適用される仕組みです。ただし、税務調査時に「相当の理由」を説明できるよう、なぜ正式対応ができていないのかを記録しておくことをおすすめします。
電帳法の対応を税理士に丸投げしても問題ありませんか?
事務処理規程の作成やシステム選定は税理士に相談すべきですが、日常的なデータ保存作業(メールPDFの保存・ファイル名変更など)は自社で行う必要があります。電帳法の保存義務は事業者自身にあるため、「税理士に任せているから大丈夫」は通用しません。実務対応の具体的な手順は「電子帳簿保存法の実務対応ガイド」をご覧ください。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 電帳法には直接的な罰金規定はないが、青色申告取消し・重加算税10%加重・会社法上の過料100万円以下のリスクがある
  • 違反の深刻度は「意図的かどうか」で大きく異なる。改ざんは最高レベルのリスク
  • 猶予措置は「相当の理由」があれば保存要件が免除されるが、電子保存義務自体は免除されない
  • 猶予措置に期限は設定されていないが、恒久的な免除ではなく早期の正式対応が推奨される
  • 優良な電子帳簿の認定を受ければ、過少申告加算税が5%軽減されるメリットがある
  • 税務調査では「すぐにデータを見せられる」ことが最も重要
  • 事前準備チェックリストを使って対応状況を点検し、不安があれば税理士に相談を

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