【税理士×公認会計士が解説】ストックオプションの法人税務|費用計上と損金算入の取扱い

【税理士×公認会計士が解説】ストックオプションの法人税務|費用計上と損金算入の取扱い
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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ストックオプションの法人税務|費用計上と損金算入の取扱い

「ストックオプションを導入したいが、法人側の税務処理がわからない」という経営者・経理担当者に向けて、税制適格・非適格・有償の3類型ごとの法人税の取扱い、会計との差異、役員給与規制との関係を完全ガイドします。この記事を読めば、自社に最適なSO設計と税務コストを判断できます。

🏆 結論:法人側の損金算入は「非適格SOのみ」が基本

ストックオプション(SO)の法人税上の取扱いは、税制適格か非適格かで全く異なります。税制適格SOは被付与者に給与所得課税が生じないため、法人側の損金算入も認められません(法人税法第54条第2項)。一方、税制非適格SOは被付与者に給与所得が発生する権利行使時に、発行時の公正価値相当額を法人側で損金算入できます。ただし、役員へのSOは法人税法第34条(役員給与の損金不算入)の適用も受けるため、事前確定届出給与等の要件を満たす必要があります。

ストックオプションの3類型と法人税の取扱い【完全比較表】

ストックオプションは法人税・所得税の取扱いによって大きく3つに分類されます。まず全体像を把握しましょう。

項目 税制適格SO 税制非適格SO(無償発行) 有償SO
付与時の法人税処理なし処理なし払込金額を新株予約権(純資産)に計上
行使時の法人税(損金算入)損金算入不可損金算入可(発行時公正価値)損金算入不可(給与課税なし)
被付与者の課税タイミング株式売却時のみ行使時+売却時売却時のみ
被付与者の所得区分譲渡所得(税率約20%)行使時:給与所得(最大税率55%)
売却時:譲渡所得
譲渡所得(税率約20%)
源泉徴収義務なしあり(行使時)なし
会計上の費用計上あり(公正価値を期間按分)あり(公正価値を期間按分)なし(有償取得のため)
根拠法令措置法29条の2法人税法54条の2

💡 実務のポイント

法人税の観点で最も重要なのは「被付与者に給与所得課税が生じるかどうか」です。被付与者に給与所得が生じれば法人側は損金算入できる、生じなければ損金算入できない——これがストックオプション法人税務の大原則です。税制適格SOと有償SOは被付与者に給与課税が生じないため、法人側は損金算入できません。

税制適格ストックオプションの法人税の取扱い

税制適格SOは、租税特別措置法第29条の2に定められた要件を全て満たすストックオプションです。被付与者にとっては株式売却時まで課税が繰り延べられ、かつ全額が譲渡所得(約20%の分離課税)になるため、税制上最も有利な仕組みです。

法人側の処理:損金算入不可

税制適格SOの場合、被付与者に給与所得等の課税事由(「給与等課税事由」)が生じません。法人税法第54条第2項は、「給与等課税事由が生じないときは、その役務提供に係る費用は損金の額に算入しない」と規定しています。このため、税制適格SOは法人税上の損金として認められません。

会計との差異と税効果会計

会計上は、税制適格SOであっても、ストック・オプション会計基準に基づき付与日の公正価値を権利確定期間にわたって費用計上(株式報酬費用)します。しかし税務上は永久に損金算入されないため、この差異は「永久差異」として税効果会計の対象にはなりません。

📊 公認会計士の視点

税制適格SOの会計上の費用計上額は、法人税の課税所得計算では「加算」されます。会計上1,000万円の株式報酬費用を計上しても、税務上は損金にならないため、別表四で1,000万円を加算する必要があります。決算時に忘れやすい項目なので注意してください。

税制適格SOの主な要件

要件 内容
付与対象者発行会社の取締役・執行役・使用人(大口株主・特別関係者を除く)。一定の要件で社外高度人材も可
行使価額付与契約締結時の株式時価以上であること
年間行使限度額1人あたり年間3,600万円以下(非上場・設立20年未満で一定の要件を満たす場合は4,800万円以下)
権利行使期間付与決議の日後2年を経過した日から10年を経過する日まで(設立5年未満の非上場は付与決議後2年〜15年)
譲渡制限新株予約権の譲渡禁止
保管委託行使で取得した株式を証券会社等に保管委託。非上場の譲渡制限株式は発行会社自身による管理も可(令和6年度改正)

税制非適格ストックオプションの法人税の取扱い

税制非適格SOは、税制適格の要件を満たさないストックオプション(無償で発行されるもの)です。被付与者にとっては行使時に給与所得課税が生じるデメリットがありますが、法人側にとっては損金算入ができるメリットがあります。

損金算入の時期と金額

法人税法第54条の2第1項に基づき、被付与者に「給与等課税事由」が生じた日(=権利行使日)に法人が役務提供を受けたものとして、その行使日の属する事業年度で損金算入します。

損金算入される金額は、原則として新株予約権の「発行時の公正価値」です(法人税法施行令第111条の3第3項)。ここが重要な点ですが、被付与者が給与所得として課税される金額(行使時株価−行使価額)と、法人側の損金算入額(発行時の公正価値)は一致しません。

🧮 非適格SOの損金算入シミュレーション

以下は従業員に非適格SOを付与した場合のシミュレーションです。

📐 前提条件

  • 付与対象者:従業員10名
  • 付与数:1人100個(合計1,000個)
  • 行使価額:1個500円
  • 付与時の公正価値(ブラック・ショールズモデル等で算定):1個200円
  • 行使時の株価:1個1,500円
項目 金額 根拠
被付与者の給与所得(1人あたり)10万円(1,500円−500円)×100個
被付与者の給与所得(合計)100万円10万円×10名
法人側の損金算入額20万円200円×1,000個(発行時公正価値)
法人税の節税効果(税率30%)約6万円20万円×30%

※概算値です。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

このように、被付与者の給与所得100万円と法人側の損金算入額20万円は一致しません。法人側の損金額は発行時の公正価値ベースで計算され、行使時の株価は影響しません。

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役員への非適格SOと法人税法第34条(役員給与の損金不算入)

非適格SOを従業員に付与する場合は、上記のとおり行使時に損金算入が認められます。しかし、役員に付与する場合は法人税法第34条(役員給与の損金不算入)の適用を受けるため、追加の要件を満たす必要があります。

平成29年度改正による影響

平成29年10月1日以後の決議に係る非適格SO(役員向け)については、退職給与以外は「事前確定届出給与」または「業績連動給与」の要件を満たさなければ損金算入が認められなくなりました。

付与対象 損金算入の可否 追加要件
従業員損金算入可特になし(法人税法34条は役員のみ適用)
役員(退職給与として)損金算入可不相当に高額でないこと
役員(在任中の給与として)条件付き損金算入可事前確定届出給与 or 業績連動給与の要件+不相当に高額でないこと

⚠️ 注意

役員へのSOは、事前確定届出給与として税務署への届出が必要です。届出を失念すると、SOを行使した事業年度で損金不算入となり、法人税の負担が増加します。SOの付与決議をした場合は速やかに届出書を提出してください。なお、非上場会社の場合、実務上は事前確定届出給与としての届出が困難なケースもあるため、税理士への事前相談が不可欠です。

有償ストックオプションの法人税の取扱い

有償SOは、被付与者が新株予約権を公正価値で購入するタイプです。無償で付与されるのではなく、適正対価を支払って取得するため、原則として給与所得課税は生じません。

法人側の処理

有償SOの場合、法人は新株予約権の発行対価を受け取り、純資産の部に「新株予約権」として計上します。被付与者に給与等課税事由が生じないため、法人側の損金算入はありません。被付与者にとっては株式売却時に譲渡所得として約20%の分離課税となるため、税制適格SOと同様に有利です。

💡 実務のポイント

有償SOは税制適格SOの要件(行使価額の制限、年間行使限度額など)に縛られない自由度がありますが、被付与者が購入資金を用意する必要があります。スタートアップの場合、従業員に購入資金の負担を求めることが難しいケースもあるため、資金面の実現可能性も含めて検討が必要です。

SO導入コストの比較【3類型×3軸】

3つのSOタイプを法人税コスト・所得税コスト・管理コストの3軸で比較します。

比較軸 税制適格SO 非適格SO 有償SO
法人税コスト損金算入不可(税コスト高)損金算入可(税コスト低)損金算入不可(税コスト高)
被付与者の税コスト譲渡所得のみ(約20%)行使時に給与所得(最大55%)譲渡所得のみ(約20%)
源泉徴収の管理負担なしあり(行使時に源泉徴収義務)なし
設計の自由度低い(多くの要件を遵守)高い高い
被付与者の資金負担なしなしあり(購入資金が必要)
向いている企業従業員のインセンティブ設計を重視するスタートアップ法人側の損金メリットを重視する企業適格要件に縛られたくないが被付与者の税も重視する企業

会計処理と税務処理の差異まとめ

ストックオプションは会計上と税務上で処理のタイミングが異なるため、税効果会計の理解が必要です。

タイミング 会計処理 税務処理(適格SO) 税務処理(非適格SO)
付与〜権利確定株式報酬費用を期間按分で計上処理なし(別表で加算)処理なし(別表で加算)
権利行使時新株予約権→資本金等に振替損金算入なし損金算入(別表で減算)
差異の性質永久差異(税効果なし)一時差異(繰延税金資産を計上)

信託型ストックオプションの取扱い

信託型SOは、発行会社が信託を設定し、信託会社がSOを取得・管理し、後日受益者(役職員)に交付する仕組みです。近年、国税庁がQ&Aを公表して課税関係を明確にしました。

信託型SOは税制非適格SOに該当し、受益者に指定された役職員が権利を行使した時点で給与所得課税が生じます。法人側は行使時に損金算入の余地がありますが、源泉徴収義務も発生します。過去に源泉徴収を行っていなかったケースについては、国税庁が自主的な修正申告を求めています。

令和6年度税制改正によるSO税制の変更点

📢 令和6年度改正のポイント

令和6年度税制改正では、スタートアップ支援の観点から税制適格SOの要件が一部緩和されました。主な変更点は、①年間行使限度額の引上げ(非上場・設立20年未満の一定の要件を満たす法人は上限4,800万円)、②保管委託要件の緩和(非上場の譲渡制限株式は発行会社自身による管理も可)、③株価算定ルールの明確化(非上場株式について合理的な方法による算定を容認)の3点です。

役員報酬全体の設計については「役員報酬の基礎知識」で詳しく解説しています。また、会社設立時のSO設計は「会社設立の流れを完全ガイド」もあわせてご覧ください。法人決算での別表処理については「法人決算の流れを完全ガイド」で解説しています。

よくある質問(FAQ)

税制適格SOを発行した場合、法人側で損金算入はできますか?
できません。税制適格SOは被付与者に給与所得等の課税事由(給与等課税事由)が生じないため、法人税法第54条第2項により法人側の費用は損金の額に算入されません。会計上は株式報酬費用を計上しますが、税務上は永久差異として加算調整が必要です。
非適格SOの損金算入額は被付与者の給与所得と一致しますか?
一致しません。法人側の損金算入額はSOの「発行時の公正価値」(法人税法施行令第111条の3第3項)に基づき計算されます。一方、被付与者の給与所得は「行使時の株価−行使価額」で計算されます。株価が上昇するほど両者の差は広がります。
役員にSOを付与する場合、事前確定届出給与の届出は必須ですか?
平成29年10月1日以後の決議に係る非適格SO(退職給与以外)については、事前確定届出給与または業績連動給与の要件を満たさなければ損金算入が制限されます。したがって、在任中の役員報酬としてSOを付与する場合は、原則として事前確定届出給与の届出が必要です。
SOの公正価値はどのように算定しますか?
上場会社の場合はブラック・ショールズモデル等のオプション価格算定モデルを使用するのが一般的です。非上場会社の場合は、まず株式の時価を算定したうえで、オプション価格算定モデルに当てはめます。いずれも計算が複雑なため、証券会社やSO専門のコンサルティング会社に依頼するケースが大半です。
SOが失効した場合の法人税の処理はどうなりますか?
SOが行使されずに失効した場合、法人側で既に損金算入した金額はありません(損金算入は行使時に行うため)。会計上はSOの失効に伴い新株予約権戻入益を計上しますが、税務上は既に過年度の株式報酬費用を加算済みなので、失効時に同額を減算する調整が必要です。
非適格SOの行使時に源泉徴収義務はありますか?
はい。無償・有利発行型の非適格SOの行使時には、行使時株価と行使価額の差額が給与所得として源泉徴収の対象になります。法人は源泉徴収して翌月10日までに税務署に納付する義務があります。源泉徴収を怠ると不納付加算税が課される可能性があるため注意してください。
スタートアップが選ぶべきSOはどのタイプですか?
多くのスタートアップでは税制適格SOが採用されています。被付与者の税負担が最も軽い(全額が譲渡所得=約20%)ため、優秀な人材を惹きつけるインセンティブとして効果的です。法人側の損金算入はできませんが、スタートアップはそもそも初期に利益が出にくいため、損金メリットの重要度は低い傾向にあります。利益が出始めた成長期以降は、非適格SOや有償SOの併用も検討に値します。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 法人側の損金算入は「非適格SOのみ」が基本。税制適格SOと有償SOは損金算入不可
  • 非適格SOの損金算入時期は被付与者の権利行使時。損金額は発行時の公正価値
  • 役員への非適格SOは法人税法34条の適用を受け、事前確定届出給与等の要件が追加で必要
  • 会計上の費用計上と税務上の損金算入のタイミングが異なるため、別表調整が必須
  • スタートアップは税制適格SOが一般的。被付与者の税負担が最も軽い
  • 令和6年度改正で年間行使限度額の引上げ・保管委託要件の緩和が実現

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