【会計士×税理士が解説】収益認識基準の法人税への影響|中小企業も適用すべきか?

【会計士×税理士が解説】収益認識基準の法人税への影響|中小企業も適用すべきか?
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

収益認識基準の法人税への影響|中小企業も適用すべきか?

「収益認識基準って大企業だけの話では?」と考えている中小企業の経営者・経理担当者に向けて、5ステップの基本から法人税・消費税への影響、そして自社に適用すべきかの判断基準まで、公認会計士・税理士の視点で完全ガイドします。

🏆 結論:中小企業は原則「適用不要」だが、取引先次第で影響を受ける

収益認識基準(企業会計基準第29号)は上場企業・大会社に強制適用される会計基準です。中小企業は従来どおりの企業会計原則による処理が認められます。ただし、取引先が収益認識基準を適用した場合に契約条件の変更を求められるケース、IPO準備中の企業が早期対応を迫られるケースなど、「適用しなくても影響を受ける」場面があります。自社の状況に応じた判断が必要です。

収益認識基準とは?従来の会計処理との違い

収益認識基準の定義と導入の背景

収益認識基準とは、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」のことで、顧客との契約から生じる収益の計上タイミングと金額を統一的に定めた会計基準です。2018年3月に企業会計基準委員会が公表し、2021年4月1日以後に開始する事業年度から上場企業や大会社に強制適用されています。

従来、日本には売上の計上に関する包括的な会計基準がありませんでした。企業会計原則の「実現主義」(商品を引き渡して対価を受け取った時点で売上を計上する考え方)が大原則でしたが、具体的な適用方法は企業の判断に委ねられていました。出荷基準で売上を計上する会社もあれば、検収基準で計上する会社もあり、同じ取引でも売上の計上時期がバラバラだったのです。

収益認識基準は、国際会計基準(IFRS第15号)との整合性を図る目的で導入されました。「履行義務」(顧客に対して財やサービスを移転する約束)という新しい概念をベースに、5つのステップで収益を認識する仕組みです。

📊 公認会計士の視点

実務で相談を受けるのは「うちは中小企業だから関係ない」と考えている経営者です。確かに会計処理は従来のままでよいのですが、取引先の大企業が収益認識基準を適用した結果、契約書の見直しや請求書の内訳変更を求められるケースが増えています。「知らなかった」では済まない場面があるため、概要だけでも把握しておくことを強くおすすめします。

適用対象と中小企業の位置づけ

企業区分 適用義務 適用開始 根拠
上場企業強制適用2021年4月〜金商法監査
会社法上の大会社(資本金5億円以上 or 負債200億円以上)強制適用2021年4月〜会社法監査
上場準備企業(IPO準備中)実質的に必要上場審査前上場審査基準
上記以外の中小企業任意適用(従来基準でOK)中小会計指針

参考: 国税庁「『収益認識に関する会計基準』への対応について」

国税庁も、中小企業の会計処理については従来どおり企業会計原則等による会計処理が認められると明確に示しています。「中小会計指針」においても、収益認識基準の考え方を取り入れるか否かは今後の検討事項とされており、現時点で中小企業への強制適用は行われていません。

収益認識基準の5ステップをわかりやすく解説

5ステップの全体像

収益認識基準では、以下の5つのステップを踏んで「いつ」「いくら」の売上を計上するかを決定します。従来の「商品を出荷したら売上計上」というシンプルな考え方と比べて、より厳密に「顧客への約束を果たした時点」で収益を認識する仕組みです。

ステップ 内容 ひとことで言えば
①契約の識別顧客と有効な契約が存在するか確認「契約はありますか?」
②履行義務の識別契約に含まれる約束(財・サービス)を個別に把握「何を約束していますか?」
③取引価格の算定対価の総額を決定(値引き・リベート含む)「全部でいくらですか?」
④取引価格の配分各履行義務に独立販売価格ベースで配分「各約束にいくらずつ?」
⑤収益の認識履行義務を充足した時点(一時点 or 一定期間)で売上計上「約束を果たしたら売上」

5ステップの具体例:商品+保守サービスの複合契約

収益認識基準の理解には具体例が一番です。ここでは、中小企業でもよくある「商品販売+保守サービス」の複合契約を例に、5ステップを追ってみましょう。

📐 シミュレーション前提条件

  • A社がB社に業務用機器を販売(本体価格800万円+2年間保守サービス200万円=契約総額1,000万円)
  • 機器の引渡しは契約月に完了、保守サービスは2年間均等に提供
  • 機器の独立販売価格850万円、保守サービスの独立販売価格250万円(合計1,100万円)

ステップ①:契約の識別 → A社とB社の間に、書面による有効な契約が存在します。5要件(契約の承認、権利の識別、支払条件の識別、経済的実質、対価回収の可能性)を全て満たすため、収益認識基準の適用対象です。

ステップ②:履行義務の識別 → 「機器の引渡し」と「2年間の保守サービス」は、それぞれ別個の財・サービスとして識別できるため、2つの履行義務として認識します。

ステップ③:取引価格の算定 → 契約総額1,000万円が取引価格です。

ステップ④:取引価格の配分 → 独立販売価格の比率で配分します。機器850万÷1,100万=77.3%、保守250万÷1,100万=22.7%。取引価格1,000万円×77.3%≒773万円が機器、×22.7%≒227万円が保守に配分されます。

ステップ⑤:収益の認識 → 機器は引渡し完了時(一時点)に773万円を売上計上。保守サービスは2年間にわたり均等に充足されるため、1年目113.5万円、2年目113.5万円を売上計上します。

旧基準との仕訳比較

項目 旧基準(従来処理) 収益認識基準 差異
1年目の売上1,000万円886.5万円▲113.5万円
2年目の売上0円113.5万円+113.5万円
2年間合計1,000万円1,000万円差異なし
1年目B/S負債計上なし契約負債113.5万円負債が増加

2年間のトータルでは売上合計額は同じですが、1年目の売上が113.5万円減少し、その分が「契約負債」(前受金のような負債)としてB/Sに計上されます。これが損益計算書と貸借対照表の両方に影響を与える点が、従来処理との大きな違いです。

法人税法はどう対応したか?法人税法第22条の2の新設

平成30年度税制改正の概要

収益認識基準の導入に伴い、平成30年度税制改正で法人税法第22条の2が新設されました。この条文は、益金の額に算入すべき収益の「計上時期」と「計上額」を明確化するものです。

法人税法第22条の2の主なポイントは3つあります。

(1)収益の計上時期の明確化:資産の販売等に係る収益は、原則として「引渡しの日」または「役務の提供の日」に益金算入します(法法22の2①)。ただし、引渡しの日に近接する日(出荷日、検収日など)で公正処理基準に従い継続して経理している場合は、その日の属する事業年度で益金算入できます(法法22の2③)。

(2)収益の計上額の明確化:益金算入する金額は、原則として引渡し時の「時価」(通常得べき対価の額)とします(法法22の2④)。会計基準では対価の回収可能性や返品見積りを控除しますが、法人税では控除しません(法法22の2⑤)。

(3)会計基準との関係:収益認識基準で認識した会計上の売上額が法人税上の時価と一致する場合は別表調整が不要です。一致しない場合は、法人税申告書の別表4で調整が必要になります。

💡 実務のポイント

年間100社以上の法人税申告を担当している経験上、収益認識基準を適用した企業で最も多い質問は「別表4でどこをどう調整すればいいのか?」です。重要なのは、会計上の売上と法人税上の益金の額が「いくら」「いつ」異なるのかを取引パターン別に整理しておくことです。次のセクションで、具体的に会計・法人税・消費税が異なるケースを一覧表で示します。

法人税法第22条と第22条の2の関係

法人税法第22条は「各事業年度の所得金額の計算」に関する通則規定で、益金・損金の一般原則を定めています。新設された第22条の2は、資産の販売等に係る収益の計上時期と計上額に特化した規定です。

両方の条文に益金に関する規定があるため適用関係が問題になりますが、今回の改正で「法人税法第22条と第22条の2が抵触する場合は、第22条の2を優先適用する」と整理されました。つまり、収益の計上時期と計上額については第22条の2が優先し、その他の事項(損金の額など)は第22条が引き続き適用されます。

会計・法人税・消費税の三者が異なるケース一覧

収益認識基準を適用した場合、会計上の売上額、法人税上の益金額、消費税上の課税標準額がそれぞれ異なるケースがあります。中小企業が今後適用を検討する際に最も注意すべきポイントです。

取引パターン 会計(収益認識基準) 法人税 消費税
値引き・リベート(変動対価)見積額を控除して売上計上一定要件を満たせば会計と同様に控除実際の値引き・リベート確定時に対価の返還として処理
ポイント付与ポイント相当額を契約負債として繰延一定要件で会計と同様に前受処理可ポイント使用時は値引き処理(課税売上の減額)
返品権付き販売返品見込額を控除して売上計上返品見込額を控除しない(全額益金)実際の返品発生時に調整
本人・代理人の判定代理人は手数料のみ売上(純額表示)原則として会計に従う個々の取引実態で判断(会計と異なる場合あり)
有償支給取引買戻し義務がある場合は売上計上しない原則として会計に従う有償支給時に課税売上を認識
貸倒見積額回収可能性を取引価格に反映貸倒見積額を控除しない(全額益金)全額を課税標準とする
一定期間の役務提供(工事進行基準相当)進捗度に応じて売上計上会計と同様に進捗度で益金算入可役務の全部提供時に課税売上

⚠️ 注意

消費税法には収益認識基準に対応する改正が行われていません。そのため、会計上の売上高と消費税の課税標準額が一致しないケースが発生します。特に一定期間にわたる役務提供(コンサルティング、建設工事など)では、法人税では進捗度で益金算入できるのに対し、消費税では役務の全部提供が完了するまで課税売上を認識しないため、法人税と消費税で計上時期がずれる点に要注意です。

参考: 国税庁「『収益認識に関する会計基準』への対応について~法人税関係~」(PDF)

別表調整が必要なケースと具体的な記入方法

別表4・別表5(1)の調整が必要になる場面

収益認識基準を適用した場合、会計上の利益と法人税上の所得に差異が生じるケースでは、法人税申告書の別表4(所得の金額の計算に関する明細書)で加算・減算の調整が必要です。また、契約負債や返金負債などB/S科目にも差異が出る場合は、別表5(1)(利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書)での調整も必要になります。

返品権付き販売の別表調整例

📐 シミュレーション前提条件

  • 年間売上1,000万円の商品販売(返品権付き)
  • 過去の実績から返品率5%と見積もり
  • 会計上:返品見込50万円を控除して売上950万円を計上
  • 法人税上:返品見込を控除せず売上1,000万円を益金算入
別表4の調整 金額 区分
当期利益(会計ベース)
加算:返品見積額(返金負債繰入超過額)50万円加算(留保)
→ 所得金額への影響+50万円

翌期以降に実際の返品が発生した場合は、その時点で損金算入(減算調整)します。つまり、法人税では「返品が確定するまで益金の減額を認めない」というスタンスです。

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中小企業は適用すべきか?4軸判断マトリクス

「うちも収益認識基準を適用したほうがいいのか?」という相談を受けることが増えています。以下の4つの判断軸で自社の状況をチェックしてください。

判断軸 適用を検討すべき 従来基準でOK
① IPO予定3〜5年以内に上場を検討中上場予定なし
② 取引先の状況主要取引先が上場企業で、契約条件の見直しを求められている取引先が中小企業中心
③ 取引の複雑性複合契約(商品+保守)、長期工事、ポイント発行、変動対価があるシンプルな物販や短期の役務提供のみ
④ 金融機関対応決算書の透明性向上が融資条件で求められている現行の決算書で問題なし

💡 実務のポイント

上記4軸のうち1つでも「適用を検討すべき」に該当する場合は、顧問税理士・公認会計士に相談することをおすすめします。特にIPO準備企業は、上場審査の直前になって対応しようとすると間に合わないため、準備期間として2〜3年は見込んでおく必要があります。

適用しなくても影響を受ける5つのケース

「中小企業は任意適用だから関係ない」と考えるのは早計です。自社が適用しなくても、以下のケースでは間接的に影響を受けます。

ケース①:取引先からの契約条件変更の要請

取引先の上場企業が収益認識基準を適用すると、複合契約(商品+サービス)の内訳を明確にするため、契約書の見直しや請求書のフォーマット変更を求められることがあります。たとえば、これまで「一式1,000万円」で請求していた取引を「商品800万円、保守サービス200万円」と分けるよう要請されるケースです。

ケース②:資金繰りへの影響

取引先が保守サービス相当額を分割払いにする条件を提示してくる場合があります。従来は一括で受け取れた代金が分割になれば、資金繰りに直接影響します。

ケース③:決算書の比較可能性の問題

同業他社が収益認識基準を適用している場合、自社の決算書との比較が困難になります。金融機関や投資家から「なぜ適用しないのか」と質問される可能性があります。

ケース④:連結子会社になった場合

M&Aで上場企業の連結子会社になった場合、連結グループ内で会計処理を統一する必要があるため、収益認識基準の適用を求められます。

ケース⑤:消費税の課税標準との不一致

取引先が収益認識基準に基づいて請求書を発行する場合、自社側の仕入税額控除の処理と齟齬が生じる可能性があります。インボイス制度との関連でも、請求書の記載内容に注意が必要です。

なお、法人決算全体の流れについては「法人決算の流れと手順」で詳しく解説しています。

業種別の影響度と注意すべき論点

収益認識基準の影響は業種によって大きく異なります。自社の業種で特に注意すべき論点を確認しましょう。

業種 影響度 主な論点 具体例
建設業高い一定期間の履行義務/工事進行基準との整理注文住宅の建築契約で、進捗度に応じた収益認識が必要
IT・SaaS高いライセンス+保守の履行義務識別/本人vs代理人ソフトウェアライセンスと年間保守を分離計上
小売業中程度ポイント付与/返品権/消化仕入ポイント相当額を契約負債として繰延
製造業中程度有償支給/変動対価(リベート)有償支給取引で買戻し義務がある場合は売上計上しない
コンサルティング中程度一定期間の役務提供/成功報酬長期コンサル契約で進捗度に応じた収益認識
飲食業低い商品券/プリペイドカード食事券の発行時は売上計上せず、引換時に売上計上

会社設立時に業種に応じた会計方針を整理しておくことが重要です。詳しくは「会社設立の流れと手順」をご覧ください。

収益認識基準適用時の法人税申告書への影響

適用初年度の経過措置と別表5(1)の調整

収益認識基準を初めて適用する事業年度では、「適用初年度の期首の累積的影響額」を期首の利益剰余金に加減する経過措置が認められています。会計上は遡及適用の扱いですが、法人税法上は過年度遡及処理の考え方がないため、前事業年度末の利益積立額と当事業年度の期首の利益積立額は一致します。

その結果、適用初年度の別表5(1)の「期首利益積立金額」の箇所で、契約負債や返金負債などの科目と繰越損益金について調整を入れる必要があります。

継続して必要な別表調整

適用初年度だけでなく、毎期の法人税申告で会計と法人税の差異が生じる取引がある場合は、継続して別表4・別表5(1)の調整が必要です。主な調整項目は以下のとおりです。

(1)返品権付き販売の返金負債相当額の加算・減算、(2)貸倒見積額の加算、(3)変動対価のうち法人税で認められない部分の加算、(4)有償支給取引で会計上売上計上しないが法人税上益金算入する部分の加算——が典型的な調整項目です。

📊 公認会計士の視点

現場で見かける問題は、適用初年度に「会計上は遡及適用で期首を調整したのに、別表5(1)の調整を忘れた」というケースです。会計と税務で期首のスタート地点が異なるため、両者の差額を正確に把握して別表に反映しないと、以後の利益積立金額がずっとズレたまま申告を続けることになります。この初年度の調整は必ず公認会計士または税理士に確認してください。

法人税基本通達の改正ポイント

改正通達の整備方針

収益認識基準の導入に伴い、法人税基本通達第2章第1節(収益等の計上)が大幅に改正されました。改正通達の整備方針は「収益認識基準の考え方を原則として取り込む」というものです。

ただし、重要な留意点があります。今回の通達改正は「収益認識基準を適用しない場合の収益計上時期を従来と変更するものではない」と国税庁は明確に述べています。つまり、中小企業が従来どおり企業会計原則に基づいて出荷基準や検収基準で売上を計上している場合、その取扱いは改正後も変わりません。

改正された主な通達

法人税基本通達2-1-1の7(自己発行ポイント等の収益の計上単位)では、収益認識基準を適用した場合に自社ポイントを別の履行義務として前受処理することが認められました。この処理は一定要件(ポイントの管理、重要な権利の付与など)を満たし、継続適用する場合に限られます。ポイント・商品券の税務処理について詳しくは「ポイント・商品券・電子マネーの会計処理と税務上の取扱い」をご覧ください。

また、法人税基本通達2-1-21の2(一定期間にわたり充足される履行義務に係る収益の帰属時期)では、コンサルティングや建設工事などで、一定の要件を満たす場合に進捗度に応じた益金算入が可能であることが明確化されました。

収益認識基準の適用前後シミュレーション

ここでは、年商3億円のIT企業を例に、収益認識基準の適用前後でP/L(損益計算書)と法人税額がどう変わるかをシミュレーションします。

📐 シミュレーション前提条件

  • 年商3億円のIT企業(ソフトウェアライセンス+年間保守サービスのセット販売)
  • ライセンス販売2億円+保守サービス1億円=合計3億円
  • 独立販売価格ベースでの配分:ライセンス2.2億円、保守0.8億円(合計3億円)
  • 保守サービスは1年間均等提供、期中(7月)に契約開始
  • 法人税実効税率33.59%
P/L項目 旧基準(1年目) 収益認識基準(1年目) 差額
ライセンス売上2.0億円2.2億円+0.2億円
保守サービス売上1.0億円0.6億円(9ヶ月分)▲0.4億円
売上高合計3.0億円2.8億円▲0.2億円
契約負債(B/S)00.2億円
法人税への影響(1年目)最大▲672万円(0.2億×33.59%)

※概算値です。実際の税額は個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

1年目の売上が2,000万円減少し、その分の法人税が最大約672万円軽減される可能性があります。ただし、これは2年目に保守サービスの残額が売上計上されるため、税額の後ろ倒しに過ぎません。トータルでの税負担は変わらない点を理解しておく必要があります。

法人成りのタイミングで会計方針を整理しておくことも重要です。「法人成りのタイミングと判断基準」も参考にしてください。

中小企業が今すぐやるべき3つの実務対応

対応①:自社の取引パターンの棚卸し

まず、自社の売上取引を全て洗い出し、以下のチェックリストで「収益認識基準を適用した場合に処理が変わる取引」がないか確認しましょう。

チェック項目 該当 影響の可能性
商品販売とサービスを一つの契約で提供している履行義務の分離 → 売上の計上時期変更
自社ポイントやクーポンを発行しているポイント相当額の契約負債計上
返品を受け付ける販売条件がある返品見積額の売上控除
値引き・リベート・ボリュームディスカウントがある変動対価の見積もり
1年超の長期プロジェクト(工事・コンサル)がある一定期間にわたる収益認識
他社の商品を仲介・代理で販売している本人vs代理人の判定(総額vs純額)
有償支給取引がある(材料を支給して加工委託)買戻し義務がある場合の売上不計上
主要取引先に上場企業がある契約条件・請求書フォーマットの変更要請

対応②:取引先との契約書の確認

主要取引先が上場企業の場合は、契約書や請求書のフォーマットに変更がないか確認しましょう。特に「商品とサービスの対価を分けて記載してほしい」「リベートの見積方法を変更したい」などの要請があった場合は、自社の会計処理にも影響が出る可能性があります。

対応③:会計ソフトの対応状況の確認

将来的に収益認識基準を適用する可能性がある場合は、現在使用している会計ソフトが対応しているか確認しておきましょう。契約負債勘定の設定、履行義務別の売上管理、別表調整の自動計算機能など、基準適用に必要な機能があるかチェックしてください。

減価償却の基本については「減価償却の基礎知識」で解説しています。会計処理の全体像を把握するのに役立ちます。

よくある質問(FAQ)

収益認識基準は中小企業にも強制適用されますか?
現時点では強制適用されません。中小企業(会社法上の大会社・上場企業以外)は、従来どおり企業会計原則等に基づく会計処理を継続できます。ただし、任意で適用することは可能です。中小会計指針では、今後の適用状況を踏まえて取り入れるか否かを検討するとされています。
収益認識基準を適用すると法人税は増えますか?減りますか?
取引の内容によります。複合契約で保守サービスの売上が後ろ倒しになる場合は、適用初年度の法人税が一時的に減少する可能性があります。ただし、これは税額の後ろ倒しであり、長期的な税負担の総額は変わりません。逆に、返品権付き販売では会計上は返品見積額を控除しますが法人税では控除が認められないため、会計上の利益より法人税上の所得が大きくなるケースもあります。
法人税法第22条の2は中小企業にも適用されますか?
はい、法人税法第22条の2は全ての法人に適用されます。ただし、中小企業が従来どおりの企業会計原則に基づいて出荷基準や検収基準で売上を計上している場合は、その取扱いが22条の2によって変更されるものではありません。国税庁も「中小企業の従来の取扱いは変更されない」と明確に示しています。
消費税にも収益認識基準の影響がありますか?
消費税法自体には収益認識基準に対応する改正は行われていません。そのため、収益認識基準を適用した場合、会計上の売上高と消費税の課税標準額が異なるケースが生じます。特に一定期間にわたる役務提供では、法人税では進捗度に応じた益金算入が認められますが、消費税では全部提供時に課税売上を認識するため、両者の計上時期がずれる点に注意が必要です。
出荷基準で売上計上を続けてもよいですか?
収益認識基準の適用指針では、出荷時から顧客への支配の移転までの期間が数日程度であれば、代替的な取扱いとして出荷基準が認められています。法人税法でも、引渡しの日に近接する日として出荷日で継続して経理している場合は、その日の属する事業年度で益金算入できます(法法22の2③)。中小企業が従来から出荷基準で処理している場合は、そのまま継続可能です。
IPO準備中の会社はいつから収益認識基準を適用すべきですか?
上場審査では、直前期を含む過去2〜3期分の財務諸表が審査対象となります。収益認識基準の適用に伴う会計処理の変更は、上場申請の直前ではなく、遅くともN-2期(上場の2期前)までに完了しておくことが望ましいです。システム対応や業務フローの変更も含めると、準備期間として2〜3年は見込んでおきましょう。
収益認識基準を適用した場合、別表調整は毎期必要ですか?
会計上の処理と法人税上の処理が一致する取引については別表調整は不要です。調整が必要なのは、返品見積額の控除、貸倒見積額の控除、有償支給取引の売上不計上など、会計と法人税で異なる処理をするケースに限られます。自社の取引にこれらのケースが含まれるかどうかを事前に確認し、該当する場合は毎期の別表4・別表5(1)で調整を行います。
「履行義務」と従来の「実現主義」は何が違いますか?
従来の実現主義は「財貨の引渡しまたは役務の提供が完了し、対価を受け取った(または受け取る権利が確定した)時点」で売上を計上する考え方です。収益認識基準の「履行義務の充足」は、「顧客に約束した財やサービスの支配を移転した時点」で売上を認識します。両者は本質的に近い概念ですが、収益認識基準では複数の履行義務を識別して個別に収益認識する点、変動対価や返品権を取引価格に反映する点が大きく異なります。
役員報酬との関連はありますか?
直接的な関連はありませんが、収益認識基準の適用により売上高や利益が変動する場合、役員の業績連動報酬の算定基礎に影響する可能性があります。業績連動報酬を導入している企業は、基準適用後の指標を事前に確認しておきましょう。役員報酬の基本については「役員報酬の基礎知識」で解説しています。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 収益認識基準(企業会計基準第29号)は上場企業・大会社に強制適用、中小企業は任意適用
  • 5ステップ(契約識別→履行義務識別→取引価格算定→価格配分→収益認識)で売上の「いつ」「いくら」を決定
  • 平成30年度税制改正で法人税法第22条の2が新設され、益金の計上時期・計上額が明確化
  • 会計・法人税・消費税の三者で処理が異なるケース(返品権・ポイント・変動対価・有償支給等)に要注意
  • 中小企業でも、取引先の上場企業から契約条件変更を求められるなど間接的に影響を受ける場合がある
  • 自社の取引パターンの棚卸し、取引先との契約確認、会計ソフトの対応確認が実務上の優先課題

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