【税理士×会計士が解説】決算書の注記の書き方|個別注記表の記載事項と実務ポイント

【税理士×会計士が解説】決算書の注記の書き方|個別注記表の記載事項と実務ポイント
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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決算書の注記の書き方|個別注記表の記載事項と実務ポイント

「個別注記表って何を書けばいいの?」——中小企業の経理担当者にとって、個別注記表は決算書の中で最も書き方がわかりにくい書類です。この記事では、全19項目のうち中小企業が実際に記載すべき項目を絞り込み、業種別のテンプレート文例と注意点を解説します。

🏆 結論:中小企業が実際に書くのは「重要な会計方針」と「株主資本等変動計算書の注記」がメイン

個別注記表の記載事項は全19項目ありますが、中小企業(非公開・会計監査人非設置の株式会社)で必ず記載が必要なのは「重要な会計方針に係る事項」と「株主資本等変動計算書に関する注記」の2項目がメインです。残りの項目は「該当事項がある場合のみ」記載すればOK。冒頭に「中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)」に準拠している旨を記載すると、融資や補助金で優遇を受けられる場合があります。

個別注記表の作成手順【全体の流れ】

個別注記表を作成する手順は以下の通りです。

  1. 自社の会社区分を確認する——公開会社か非公開会社か、会計監査人設置会社かどうかで必須項目が変わる
  2. 準拠する会計基準を決める——中小会計要領か中小会計指針かを選択する
  3. 該当する記載事項を洗い出す——19項目のうち自社に該当するものをピックアップ
  4. 各項目の文例を作成する——テンプレートをベースに自社の会計処理に合わせて編集
  5. 前期の個別注記表と比較する——変更点がないか確認する
  6. 税理士・会計士のレビューを受ける——記載漏れや誤りがないかチェック

法人決算の全体的な流れについては「法人決算の流れと手順」で詳しく解説しています。

個別注記表とは?基本的な位置づけ

個別注記表の定義

個別注記表とは、貸借対照表や損益計算書などの決算書を補足するための書類です。以前は各計算書類にバラバラに記載されていた注記事項を、2006年の会社法施行により1つの書類にまとめたものが個別注記表です。

会社計算規則第98条〜第116条に基づき、すべての会社に作成が義務づけられています。ただし、必ずしも独立した1つの書類として作成する必要はなく、各計算書類に注記として記載する形式でも認められています。

作成が必要な会社

株式会社・合同会社・合名会社・合資会社、および2006年以前に設立された有限会社(特例有限会社)のすべてが作成対象です。ただし、会社の形態によって記載すべき項目の数が異なります。

💡 実務のポイント

決算期になると「個別注記表を作らなければ」と慌てる経理担当者が多いのですが、実は中小企業の場合、書くべき内容はそれほど多くありません。会計ソフト(freeeや弥生会計など)には個別注記表の作成機能が搭載されていることが多いので、まずは会計ソフトのテンプレートを確認してみてください。

会社区分別の記載必須項目一覧

個別注記表の記載事項は全19項目ですが、会社の区分によって必須項目が異なります。中小企業に関係する区分を中心に整理します。

記載事項 中小企業(非公開・監査人なし) 公開会社(監査人なし) 持分会社(合同等)
1. 継続企業の前提
2. 重要な会計方針○ 必須○ 必須
3. 会計方針の変更
4. 表示方法の変更
5. 会計上の見積りの変更
6. 誤謬の訂正
7. 貸借対照表××
8. 損益計算書××
9. 株主資本等変動計算書○ 必須×
10〜19. その他(税効果、リース、関連当事者等)× 省略可一部○× 省略可

※○=該当事項がある場合に記載必要、×=省略可。会計監査人設置会社は原則全19項目が必須

⚠️ 注意

「○」の項目でも、該当事項がなければ記載不要です。たとえば「3. 会計方針の変更」は変更がなければ書く必要はありません。「該当事項なし」とわざわざ記載する必要もありません。

中小企業が必ず書くべき項目の文例集

冒頭の宣言文(中小会計要領への準拠)

個別注記表の冒頭に、準拠する会計基準を宣言します。中小企業の場合は以下のいずれかを記載します。

📐 記載例:中小会計要領に準拠する場合

「この計算書類は、「中小企業の会計に関する基本要領」によって作成しています。」

📐 記載例:中小会計指針に準拠する場合

「この計算書類は、「中小企業の会計に関する指針」によって作成しています。」

💡 実務のポイント

中小会計要領に準拠している旨を記載すると、日本政策金融公庫の融資で金利優遇(0.1%引下げ等)を受けられる場合があります。また、ものづくり補助金など各種補助金の審査で加点される場合もあります。中小会計要領は「中小会計指針」よりも簡易な基準なので、多くの中小企業はこちらを選択しています。

重要な会計方針に係る事項(全社必須)

すべての会社で記載が必要な最重要項目です。自社が採用している会計処理の方法を記載します。該当する項目のみ記載すればよく、該当しない項目は省略します。

①資産の評価基準及び評価方法

📐 有価証券の記載例

「子会社株式及び関連会社株式……移動平均法による原価法を採用しております。」
「その他有価証券……時価のあるものは期末日の市場価格等に基づく時価法(評価差額は全部純資産直入法により処理し、売却原価は移動平均法により算定)を採用しております。」

📐 棚卸資産の記載例

「商品……最終仕入原価法による原価法(貸借対照表価額は収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定)を採用しております。」

有価証券を保有していなければ有価証券の項目は不要。棚卸資産がなければ棚卸資産の項目も不要です。

②固定資産の減価償却の方法

📐 記載例

「有形固定資産(リース資産を除く)……定率法を採用しております。ただし、建物(建物附属設備を除く)並びに2016年4月1日以降に取得した建物附属設備及び構築物については、定額法を採用しております。」
「無形固定資産……定額法を採用しております。なお、自社利用のソフトウェアについては、社内における利用可能期間(5年)に基づく定額法を採用しております。」

減価償却の詳細については「減価償却の基礎知識と実務」をご覧ください。

③引当金の計上基準

📐 記載例

「貸倒引当金……債権の貸倒損失に備えるため、一般債権については貸倒実績率により、貸倒懸念債権等特定の債権については個別に回収可能性を勘案し、回収不能見込額を計上しております。」
「賞与引当金……従業員の賞与支給に備えるため、支給見込額のうち当期負担額を計上しております。」
「退職給付引当金……従業員の退職給付に備えるため、当事業年度末における退職給付債務(簡便法による期末自己都合要支給額)に基づき計上しております。」

④収益及び費用の計上基準

📐 記載例

「当社の顧客との契約から生じる収益に関する主要な事業における主な履行義務の内容及び当該履行義務を充足する通常の時点は以下のとおりであります。
商品の販売:商品の引渡時に収益を認識しております。」

⑤その他計算書類作成の基本となる重要な事項

📐 記載例

「消費税等の会計処理……税抜処理方式を採用しております。」

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株主資本等変動計算書に関する注記

非公開会社の株式会社で記載が必須となるもう1つの重要項目です。

📐 記載例

「1. 発行済株式の種類及び総数
 普通株式 ○○○株
2. 自己株式の種類及び株式数
 該当事項はありません。
3. 剰余金の配当に関する事項
 該当事項はありません。」

配当を行った場合は、配当金の総額、1株あたりの配当額、基準日、効力発生日を記載します。自己株式がなければ「該当事項はありません」と記載するか、その項目自体を省略します。

業種別に注意すべき記載項目

業種によって、個別注記表で特に注意すべき項目が異なります。

業種 特に注意すべき記載項目 ポイント
製造業棚卸資産の評価方法、減価償却方法(多数の固定資産)製品・仕掛品・原材料で評価方法が異なる場合はそれぞれ記載
建設業収益認識基準(工事進行基準 or 完成基準)、引当金(工事損失引当金)工事の進捗度の見積方法(原価比例法等)も記載
IT・ソフトウェア業ソフトウェアの償却方法・利用可能期間、受注制作ソフトの収益認識自社利用 vs 販売目的で償却方法が異なることを明記
小売・飲食業棚卸資産の評価方法(最終仕入原価法が多い)、ポイント引当金売価還元法を採用する場合は明記が必要
不動産業販売用不動産の評価方法、賃貸不動産の減価償却方法棚卸資産(販売用)と固定資産(賃貸用)の区分に注意

📊 公認会計士の視点

中小企業の個別注記表を年間100社以上レビューしていますが、最も多い不備は「減価償却方法の記載が不完全」です。建物は定額法、それ以外は定率法と書いているのに、2016年4月以降の建物附属設備・構築物の定額法への変更に対応していないケースが非常に多いです。固定資産台帳と注記表の整合性を必ず確認してください。

中小会計要領 vs 中小会計指針の選択

中小企業が準拠する会計基準には「中小会計要領」と「中小会計指針」の2つがあります。どちらを選ぶべきかの判断基準を整理します。

項目 中小会計要領 中小会計指針
対象企業小規模〜中規模の中小企業会計参与設置会社など、やや大きい中小企業
会計処理の水準簡易(中小企業の実態に即した処理)企業会計基準に近い水準
税効果会計不要必要
融資優遇日本政策金融公庫等の金利優遇あり同様の優遇あり
補助金の加点一部の補助金で加点対象同様に加点対象
おすすめ多くの中小企業に最適将来的にIPOや事業承継を見据える企業

個別注記表でよくある記載ミスと対策

ミス1:減価償却方法の記載が不完全

建物と建物附属設備で異なる償却方法を採用しているのに、「有形固定資産は定率法」とだけ書いてしまうケースです。2016年4月以降取得の建物附属設備・構築物は定額法が強制されるため、この区分を明記する必要があります。

ミス2:消費税の経理方式を記載していない

税込経理方式か税抜経理方式かは、利益の金額に直接影響する重要な会計方針です。「その他計算書類作成の基本となる重要な事項」として必ず記載してください。

ミス3:前期から変更があるのに変更の注記がない

減価償却方法を定率法から定額法に変更した場合など、会計方針の変更があったときは「会計方針の変更に関する注記」として変更の内容と理由を記載する必要があります。変更なしなら記載不要です。

ミス4:中小会計要領の宣言を記載していない

中小会計要領に準拠して計算書類を作成しているのに、冒頭の宣言文を忘れているケースです。この宣言がないと、融資優遇や補助金加点の対象外になる可能性があります。

💡 実務のポイント

銀行に決算書を提出する際、融資担当者は個別注記表の内容もチェックしています。特に「中小会計要領に準拠」の宣言と、会計方針の一貫性(前期と同じ方針を継続しているか)は見られるポイントです。融資交渉を有利に進めるためにも、注記表は丁寧に作成しておくべきです。

後発事象の記載について

決算日後に発生した重要な事象(後発事象)は、個別注記表で注記が求められる場合があります。中小企業でも該当すれば記載が必要です。

記載が必要な後発事象の例としては、大規模な設備投資の契約締結、重要な訴訟の提起、主要取引先の倒産、自然災害による重大な被害、合併・事業譲渡の決定などがあります。

これらは「重要な後発事象に関する注記」として記載します。該当事項がなければ記載不要です。

会計ソフトでの個別注記表の作成方法

主要な会計ソフトには個別注記表の作成機能が搭載されています。

会計ソフト 個別注記表の作成方法 テンプレートの有無
freee会計決算書作成画面で「個別注記表」を選択、自由記述形式で編集あり(汎用例文が初期設定)
弥生会計決算・申告メニューから決算書を開き、個別注記表を編集あり(選択式+自由記述)
マネーフォワード クラウド決算書の作成画面で注記事項を入力あり

いずれの会計ソフトでも、テンプレートの文例をそのまま使うのではなく、自社の実際の会計処理に合わせて修正することが重要です。

会社設立時の初めての決算については「会社設立の流れと手順」、役員報酬の設計は「役員報酬の基本と最適な設計方法」もあわせてご確認ください。

よくある質問(FAQ)

個別注記表を作成しないとどうなりますか?
個別注記表は会社法で作成が義務づけられている計算書類の一つです。作成しない場合、会社法違反となります。税務申告書に添付する決算書としても個別注記表は含まれるため、税務署への提出時にも必要です。また、銀行融資の審査で個別注記表がないと、会計の信頼性が低いとみなされる場合があります。
合同会社でも個別注記表は必要ですか?
はい、必要です。ただし、合同会社(持分会社)の場合は「重要な会計方針に係る事項」の記載が主な必須項目であり、株式会社に比べて記載項目は少なくなります。株主資本等変動計算書に関する注記は不要です。
中小企業の個別注記表で最低限書くべき項目は何ですか?
非公開・会計監査人非設置の株式会社(多くの中小企業が該当)の場合、最低限必要なのは「重要な会計方針に係る事項」(減価償却方法、棚卸資産の評価方法、消費税の処理方式など)と「株主資本等変動計算書に関する注記」(発行済株式の種類・数)です。加えて、中小会計要領への準拠宣言を冒頭に記載することを推奨します。
「該当事項なし」と書く必要はありますか?
原則として不要です。該当事項がない注記項目は、そもそも記載しなくて構いません。ただし、重要な項目(たとえば後発事象や会計方針の変更)について「該当事項はありません」と明記することで、「検討した上で該当なしと判断した」ことを明確にする場合もあります。これは税務調査対策としても有効です。
個別注記表の様式(フォーマット)は決まっていますか?
法令上、特定の様式は定められていません。自由な書式で作成できます。経団連が公表している「ひな型」や、中小企業庁の「中小会計要領」に付属する様式集を参考にするのが一般的です。会計ソフトにもテンプレートが用意されています。
前期と会計方針を変更した場合、どう記載すればよいですか?
「会計方針の変更に関する注記」として、変更の内容、変更の理由、変更による影響額を記載します。たとえば「棚卸資産の評価方法を最終仕入原価法から総平均法に変更しました。理由は…」のように具体的に書きます。変更がなければこの項目は不要です。
個別注記表は税務申告にも添付しますか?
はい。法人税の確定申告書には決算書(計算書類)一式を添付する必要があり、個別注記表もその一部です。税務署は個別注記表を通じて会計方針を確認し、税務処理との整合性をチェックしています。
電子申告(e-Tax)で個別注記表を提出する方法は?
e-Taxでは、法人税の確定申告書にPDFファイルを添付する形で個別注記表を提出できます。会計ソフトからPDFで出力したものをそのまま添付すればOKです。一部の税務ソフトでは、個別注記表をXBRL形式で電子的に提出することも可能です。
個別注記表と連結注記表の違いは何ですか?
個別注記表は個別(単体)の計算書類に対する注記、連結注記表は連結計算書類に対する注記です。連結決算を行う必要がない中小企業(子会社がない、または連結免除の要件を満たす場合)は、連結注記表の作成は不要で、個別注記表のみ作成します。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 個別注記表は会社法により全ての会社に作成義務がある計算書類の一つ
  • 記載事項は全19項目だが、中小企業(非公開・監査人なし)の必須項目は「重要な会計方針」と「株主資本等変動計算書の注記」がメイン
  • 該当事項がない項目は記載不要。「該当事項なし」と書く必要もない
  • 冒頭に「中小会計要領に準拠」の宣言を入れると融資・補助金で優遇される場合がある
  • 減価償却方法、棚卸資産の評価方法、消費税の経理方式が最も重要な記載項目
  • 前期からの変更があれば「会計方針の変更に関する注記」を忘れずに記載する
  • 会計ソフトのテンプレートをベースに、自社の実態に合わせて編集するのが効率的

個別注記表は決算書の「読み方ガイド」のような存在です。銀行融資の審査でも確認される書類ですので、形式的に作るのではなく、自社の会計処理を正確に反映した内容にしましょう。法人化の判断基準については「法人成りのタイミングと判断基準」もあわせてご覧ください。

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