【税理士監修】試算表の作り方と見方|月次試算表で経営判断を正しく行う方法

監
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。
試算表の作り方と見方|月次試算表で経営判断を正しく行う方法
「試算表って何を見ればいいの?」と感じている経営者・経理担当者に向けて、試算表の3種類の違い・作り方の手順・経営に活かす見方を完全ガイドします。この記事を読めば、月次試算表を使って資金繰りや業績をリアルタイムに把握し、融資審査にも自信を持って臨めるようになります。
🏆 結論:試算表は「経営のダッシュボード」として毎月作る
試算表とは、総勘定元帳の全勘定科目の残高を一覧にまとめた集計表です。決算書作成前のチェックツールとしてだけでなく、月次で作成すれば経営状態をリアルタイムに把握でき、銀行融資の審査資料としても活用できます。会計ソフトを使えば自動で出力されるため、「毎月翌月10日までに月次試算表を確認する」習慣をつけることが最優先です。
試算表とは?決算書との違いと3つの種類
試算表(T/B=Trial Balance)とは、仕訳帳から総勘定元帳に転記された全勘定科目の金額を一覧にまとめた集計表です。借方合計と貸方合計が一致することで、記帳に誤りがないことを検証できます。
試算表と決算書の違い
決算書(貸借対照表・損益計算書)は、1年間の最終結果をまとめた「成績表」です。一方、試算表は期中の途中経過を確認する「速報値」にあたります。決算書は株主や税務署への報告義務がありますが、試算表の作成は法的に義務付けられていません。しかし、経営判断のツールとして月次で作成する意義は非常に大きいです。
試算表の3つの種類
| 種類 |
記載内容 |
特徴・用途 |
| 合計試算表 | 各勘定科目の借方合計・貸方合計 | 取引の総量が一目でわかる。転記ミスの発見に強い |
| 残高試算表 | 各勘定科目の残高(借方−貸方の差額) | 現在の財政状態と損益をシンプルに把握。融資審査に使われる |
| 合計残高試算表 | 合計試算表+残高試算表の両方 | 情報量が最も多い。取引量と残高を同時に確認できる |
実務で最もよく使われるのは残高試算表です。会計ソフトの「月次試算表」画面で出力されるのも通常は残高試算表で、銀行に提出するのもこの形式が一般的です。
💡 実務のポイント
経営者から「試算表を見せてください」と銀行に言われた場合、求められているのは残高試算表です。freee・マネーフォワード・弥生いずれのソフトでも、「レポート」→「試算表」から出力できます。PDF出力して提出するのが一般的です。
試算表の作り方【5ステップ】
試算表の作成手順は、全部で5ステップです。会計ソフトを使っていれば①〜③は自動化されますが、流れを理解しておくことでソフトの出力結果の意味がわかるようになります。
【ステップ1】仕訳帳への記帳を完了する
試算表を作成する対象月の全取引を仕訳帳に記帳します。銀行口座の自動連携を使っている場合は、未確定の仕訳を全て確認・承認しましょう。「仮で入れておく」仕訳が残っていると、試算表の数字が不正確になります。
【ステップ2】総勘定元帳への転記を完了する
仕訳帳の内容を勘定科目ごとの総勘定元帳に転記します。会計ソフトでは仕訳入力と同時に自動転記されるため、手作業は不要です。手書き帳簿の場合は、転記漏れがないか1件ずつ確認してください。
【ステップ3】勘定科目ごとに集計する
各勘定科目の借方合計・貸方合計を集計し、残高を算出します。ここまでが会計ソフトの自動処理範囲です。
【ステップ4】借方合計と貸方合計が一致するか検証する
複式簿記の原理上、全勘定科目の借方合計と貸方合計は必ず一致します。一致しない場合は、仕訳の入力ミスや転記漏れがあります。会計ソフトでは原理的に不一致は起きませんが、「片方だけ仕訳を入れてしまった」等のイレギュラーなケースは確認しましょう。
【ステップ5】異常値がないかレビューする
数字が一致しただけで安心してはいけません。前月比較・前年同月比較で異常値がないかレビューします。このステップが、試算表を「ミス発見ツール」から「経営判断ツール」に変える重要な工程です。
📊 公認会計士の視点
会計監査では、試算表の「分析的手続」として前年同月比較を必ず実施します。10%以上の増減がある科目は理由を確認し、説明がつかなければ仕訳の内容を精査します。この手法は中小企業でもそのまま使えます。
試算表の見方|経営者が最低限チェックすべき5つの数字
試算表には数十〜数百の勘定科目が並びますが、経営者が毎月チェックすべきポイントは5つに絞れます。
チェック①:売上高の推移
前月比と前年同月比で売上高を確認します。季節変動がある業種では、前年同月比が特に重要です。例えば飲食業なら「去年の12月と今年の12月を比べて増えているか減っているか」を見ます。
チェック②:粗利率(売上総利益÷売上高)
売上が伸びていても、粗利率が下がっていれば利益は増えません。仕入単価の上昇や値引き販売が常態化していないかを確認するシグナルです。
チェック③:販管費の内訳と前月比較
人件費・家賃・広告宣伝費など主要な販管費の金額を前月と比較します。突然大きく増えた科目があれば、意図した支出なのか確認しましょう。特に交際費・雑費が急増している場合は、計上ミスの可能性もあります。
チェック④:現預金残高
B/S部分で最も重要なのが現預金の残高です。「売上は上がっているのに現預金が減っている」場合は、売掛金の回収遅延や過剰な先行投資が疑われます。月商の2〜3ヶ月分を維持できているかが安全ラインの目安です。
チェック⑤:借入金の残高推移
毎月の返済により残高が順調に減っているか確認します。新たな借入がないのに残高が増えていれば、入力ミスの可能性があります。
🧮 シミュレーション:月次チェックで異常を早期発見した例
年商5,000万円の建設業B社。毎月の試算表チェックで、9月の外注費が前月比300%に急増していることを発見。調査すると、同一の外注先に対する二重支払い(150万円)が判明し、翌月に返金を受けて事なきを得ました。決算時に初めて気づいていたら、資金繰りに深刻な影響が出ていた可能性があります。
月次試算表を「翌月10日まで」に仕上げるための実務テクニック
月次試算表の価値は、スピードで決まります。3ヶ月前の数字を見ても、すでに状況が変わっていて意味がありません。目標は「翌月10日までに前月の試算表を完成させる」ことです。
テクニック1:銀行口座の自動連携を最大限活用する
freee・マネーフォワードなどのクラウド会計ソフトは、銀行口座やクレジットカードとAPI連携できます。これにより、仕訳の大半が自動入力されるため、手入力の工数を80%以上削減できます。
テクニック2:月末の3営業日を「締め作業」に充てる
月末に一気に記帳するのではなく、月末の3営業日を使って以下の作業を順番にこなします。
| タイミング |
作業内容 |
| 月末3日前 | 自動取込の未確定仕訳を全て確認・承認 |
| 月末2日前 | 現金出納帳の照合、領収書の計上漏れチェック |
| 月末1日前〜当日 | 売掛金・買掛金の請求書との照合 |
| 翌月5日まで | 月次の減価償却・経過勘定の按分仕訳を入力 |
| 翌月10日まで | 試算表出力 → 前月比レビュー → 社長報告 |
テクニック3:「概算でもいいから早く出す」を優先する
経営者にとって、正確だが3ヶ月遅れの試算表よりも、±5%の誤差があっても翌月10日に見られる試算表の方がはるかに価値があります。細かい経費の確定を待って試算表の完成が遅れるなら、概算で計上して翌月に修正するほうが実務的です。
💡 実務のポイント:月次決算と月次試算表の違い
月次決算とは、毎月の試算表に減価償却費の月割計上や引当金の月割繰入など「決算と同等の処理」を行うことです。厳密な月次決算は経理の負担が大きいため、中小企業ではまず「月次試算表を毎月出す」ことから始めるのが現実的です。法人決算の全体的な流れは「法人決算の流れと必要な手続き」を参照してください。
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試算表が合わないときの原因チェックリスト【6パターン】
試算表の借方合計と貸方合計が一致しない、または前月と比べて異常な数字が出た場合、以下の6パターンを順番にチェックすると原因が見つかりやすいです。
| No. |
不一致パターン |
原因と対処法 |
| 1 | 借方・貸方の合計が一致しない | 片方だけの仕訳(相手科目なし)がないか確認 |
| 2 | 特定の科目だけ金額が大きすぎる | 桁数の入力ミス(1,000円→10,000円等) |
| 3 | 現預金残高が実際と合わない | 銀行口座の未取込データ、二重取込を確認 |
| 4 | 売掛金が前月より異常に増えている | 入金の仕訳漏れ、または売上の二重計上 |
| 5 | 仮払金・仮受金に残高がある | 正式な勘定科目への振替が未処理 |
| 6 | 消費税の仮払・仮受の差が異常 | 課税区分の設定ミス(課税⇔非課税の誤り) |
実務で最も多いのはパターン3の「現預金が合わない」です。クラウド会計の自動連携でデータが二重に取り込まれている、あるいは手動入力と自動取込が重複しているケースが頻発します。
融資審査で銀行が試算表のどこを見ているか
融資を申し込む際、銀行の担当者は決算書だけでなく直近の月次試算表を求めることが一般的です。銀行が試算表で確認するポイントを知っておけば、面談で慌てることがなくなります。
銀行が注目する4つのポイント
| チェック項目 |
銀行の視点 |
経営者が事前に準備すべきこと |
| 売上高の推移 | 前期比で売上が伸びているか、安定しているか | 増減の理由を説明できるようにしておく |
| 営業利益の状況 | 本業で利益が出ているか(赤字なら理由) | 赤字の場合は改善計画を準備 |
| 現預金残高 | 返済原資が確保できるか | 資金繰り表とセットで説明 |
| 仮勘定・不明科目の残高 | 帳簿管理がずさんでないか | 仮払金・仮受金はゼロに整理しておく |
経営者から「銀行に試算表を出したら追加で質問されて焦った」という相談をよく受けます。ほとんどの場合、「前月と比べて売上が大きく変動している理由」か「仮払金の内容」を聞かれています。融資面談の前に、試算表の主要科目の増減理由を自分の言葉で説明できるよう準備しておきましょう。
⚠️ 注意:試算表の「粉飾」は厳禁
融資審査のために売上を水増しした試算表を提出すると、詐欺罪に問われる可能性があります。また、銀行は複数期の試算表を比較分析するため、不自然な数字は高確率で見破られます。正直な数字を出して、改善計画を添えるのが最善の策です。
試算表の前月比較・前年同月比較で見つける経営改善のシグナル
試算表を経営に活かすための最も強力な手法が「比較分析」です。単月の数字だけ見ても意味は限られますが、前月や前年同月と比較することで、変化のシグナルが浮かび上がります。
前月比較で読み取るシグナル
| 変化パターン |
考えられる原因 |
次のアクション |
| 売上↑ 粗利率↓ | 値引き販売の増加、仕入単価の上昇 | 値引きルールの見直し、仕入先の再交渉 |
| 売上↑ 現預金↓ | 売掛金の回収遅延、先行投資の増加 | 売掛金の回転期間を確認、入金催促 |
| 人件費↑ 売上横ばい | 採用増・昇給と売上のバランス悪化 | 1人あたり売上高を算出して生産性を確認 |
| 広告宣伝費↑ 売上↑ | 投資効果あり | ROI(投資対効果)を計算して継続判断 |
業種別:試算表で特に注目すべき科目
| 業種 |
重点チェック科目 |
理由 |
| 小売業・卸売業 | 棚卸資産(在庫) | 過剰在庫は資金繰りを圧迫する |
| 建設業 | 未成工事支出金・外注費 | 工事の進捗と原価管理に直結 |
| IT・サービス業 | 人件費・外注費 | 売上に占める人件費率が収益性の鍵 |
| 飲食業 | 原材料費・人件費 | FLコスト(Food+Labor)が60%以下か |
決算書の読み方について詳しく知りたい方は「決算書の読み方と経営指標の見方」もあわせてご覧ください。
月次試算表と決算の連携|年度決算をスムーズにする方法
月次試算表を毎月きちんと作成している会社は、決算作業が圧倒的にスムーズです。逆に、月次試算表を作っていない会社は、決算時に1年分の帳簿を一気に整理する必要があり、ミスが増え、時間もかかります。
月次試算表 → 決算書ができるまでの流れ
月次試算表を12ヶ月積み上げたものが、そのまま決算の出発点になります。12月決算法人であれば、1月〜12月の各月の試算表が正確に作成されていれば、決算時に追加で必要な作業は決算整理仕訳(減価償却費・引当金・経過勘定の計上等)だけです。決算整理仕訳の詳細は「決算整理仕訳の種類と実務の注意点」で解説しています。
💡 実務のポイント:税理士との関係を変える月次試算表
顧問税理士がいる場合、月次試算表をベースに毎月の打ち合わせを行うと、決算時にまとめて相談するよりも質の高いアドバイスが得られます。「毎月10日までに試算表を出す → 毎月15日に税理士とオンラインで15分打ち合わせ」というリズムを作るだけで、節税対策のタイミングを逃さなくなります。
会計ソフト別:試算表出力の操作ガイド
主要3ソフトでの試算表出力手順を簡潔にまとめます。
freee会計の場合
「レポート」→「試算表」→ 対象月を指定 → 「残高」タブを選択 → PDF出力またはCSVダウンロード。部門別に出力することも可能です。
マネーフォワード クラウド会計の場合
「レポート」→「残高試算表」→ 対象期間を指定 → 「月次推移」を選択すると前月比較が一画面で確認できます。
弥生会計の場合
「集計」→「残高試算表」→ 対象月を指定。「月次・期間」の切り替えで推移表も確認可能です。
自社で決算を行う方法の全体像は「法人決算を自分でやる方法」でステップごとに解説しています。
よくある質問(FAQ)
試算表は法律上、作成が義務付けられていますか?
試算表の作成自体に法的な義務はありません。ただし、複式簿記で帳簿を記帳していれば、総勘定元帳のデータを集計するだけで試算表は自動的に作成されます。青色申告の要件である「正規の簿記の原則」を満たすには、実質的に試算表が作成できる状態になっていることが前提です。
残高試算表と合計試算表、どちらを使えばいいですか?
実務上は残高試算表を使うのが一般的です。勘定科目ごとの残高(正味の金額)がわかるため、経営状態の把握に適しています。銀行融資の審査に提出する場合も残高試算表が求められます。合計試算表は取引のボリュームを確認したいときに使いますが、利用頻度は低いです。
月次試算表はいつまでに作成すべきですか?
理想的には翌月10日まで、遅くとも翌月15日までに前月分を完成させるのが目標です。これより遅いと、経営判断に使えるタイミングを逃してしまいます。まずは「完璧でなくても翌月10日に出す」ことを優先し、細かい調整は翌月に行うのが現実的です。
試算表の借方と貸方が合わない場合、何から確認すればいいですか?
まず差額の金額を確認してください。差額が特定の取引金額と一致すれば、その取引の仕訳漏れや二重計上の可能性が高いです。会計ソフトを使っていれば原理的に合計は一致するので、「自動連携データの二重取込」や「手動入力と自動取込の重複」を最初にチェックしましょう。
試算表だけで融資を受けることはできますか?
試算表だけでは融資審査は通りません。通常は、前期の決算書+直近の月次試算表+資金繰り表のセットが必要です。ただし、創業間もない会社で決算書がまだない場合は、試算表が業績を示す唯一の資料となるため、重要度はさらに高くなります。
個人事業主でも試算表は作るべきですか?
青色申告で65万円控除を受けるなら、複式簿記による帳簿づけが必要であり、結果として試算表を作成できる状態になります。確定申告のためだけでなく、事業の収支を毎月把握するためにも月次の試算表確認をおすすめします。
試算表と月次推移表は何が違いますか?
試算表が「ある時点の残高を一覧にしたもの」であるのに対し、月次推移表は「各月の数字を横に並べて時系列で比較できるもの」です。月次推移表は、売上や費用のトレンドを把握するのに適しています。多くの会計ソフトでは同じ画面で切り替えられます。
まとめ
📋 この記事のポイント
- 試算表は全勘定科目の残高を一覧にした集計表。残高試算表・合計試算表・合計残高試算表の3種類がある
- 実務で最もよく使うのは残高試算表。銀行融資の審査にも使われる
- 月次試算表は「翌月10日まで」に仕上げることを目標に、会計ソフトの自動連携を最大限活用する
- 経営者が毎月チェックすべきは「売上推移・粗利率・販管費・現預金残高・借入金残高」の5つ
- 前月比較・前年同月比較で異常値を見つけることが、経営改善の第一歩
- 銀行は試算表で「売上推移・営業利益・現預金・仮勘定の残高」を特に注視している
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