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個人版事業承継税制|個人事業主の事業用資産の納税猶予
個人事業主の事業承継で「事業用の土地や建物にかかる相続税・贈与税が心配」という方に向けて、個人版事業承継税制の全容を解説します。この記事を読めば、対象資産の範囲・適用要件・手続きの流れ・小規模宅地等の特例とどちらを選ぶべきかを判断できます。


個人事業主の事業承継で「事業用の土地や建物にかかる相続税・贈与税が心配」という方に向けて、個人版事業承継税制の全容を解説します。この記事を読めば、対象資産の範囲・適用要件・手続きの流れ・小規模宅地等の特例とどちらを選ぶべきかを判断できます。
🏆 結論:事業用資産が高額な個人事業主は検討必須の制度
個人版事業承継税制は、事業用の土地(400㎡以下)・建物(800㎡以下)・減価償却資産にかかる相続税・贈与税の全額が猶予される制度です。2019年度の税制改正で創設され、個人事業承継計画の提出期限は2026年3月31日、贈与・相続の適用期限は2028年12月31日です。小規模宅地等の特例(特定事業用宅地等)との選択適用のため、土地評価額と事業の継続期間によってどちらが有利かが変わります。
個人版事業承継税制とは、青色申告を行う個人事業主が後継者に事業用資産を贈与・相続で引き継ぐ際に、その資産にかかる贈与税・相続税の全額の納税が猶予される制度です。後継者が事業を継続し、一定の要件を満たし続ければ、最終的に猶予された税額が免除されます。
2019年度(令和元年度)の税制改正で創設された10年間の時限措置で、従来は法人版しかなかった事業承継税制が個人事業主にも適用拡大されたものです。
個人版事業承継税制は、①事業用資産に対する贈与税の100%猶予、②事業用資産に対する相続税の100%猶予、③贈与者死亡時の相続税への切替え、の3つで構成されています。贈与税の猶予を受けた後に贈与者が死亡した場合は、贈与時の価額で相続税の課税対象に切り替わりますが、相続税の猶予も引き続き受けられる仕組みです。
💡 実務のポイント
法人版事業承継税制と比べて、個人版は手続きがシンプルです。年次報告書の提出が不要で、継続届出書も3年に1回のみ。雇用維持要件もありません。実務では「法人版は怖いけど個人版なら使いやすい」と感じる税理士が多い印象です。
参考: 国税庁「個人版事業承継税制」
個人版事業承継税制の対象となる「特定事業用資産」は、先代事業者の事業に使われていた資産で、青色申告書の貸借対照表に計上されているものに限られます。
| 資産の種類 | 対象 | 上限・条件 |
|---|---|---|
| 事業用の宅地(土地) | ○ | 400㎡以下の部分。借地権も対象 |
| 事業用の建物 | ○ | 床面積800㎡以下の部分 |
| 機械・装置 | ○ | 固定資産として計上されているもの |
| 車両・運搬具 | ○ | 事業専用のもの |
| 器具・備品 | ○ | パソコン・什器等 |
| 乳牛・果樹等の生物 | ○ | 農業・畜産業の事業用 |
| 無形固定資産(特許権等) | ○ | 事業用に限る |
| 棚卸資産(在庫) | × | 対象外 |
| 現金・預貯金 | × | 対象外 |
| 売掛金・受取手形 | × | 対象外 |
| 有価証券 | × | 対象外 |
| 不動産貸付用の資産 | × | 不動産貸付業・駐車場業は対象外 |
⚠️ 注意
先代事業者は対象となる事業用資産を一括して贈与する必要があります。「土地だけ贈与して機械は手元に残す」といった部分的な贈与は認められません。複数の事業を営んでいる場合は、承継する事業に係る資産のみが対象です。
個人版事業承継税制の適用を受けるには、事業に関する要件、先代事業者の要件、後継者の要件の3つ全てを満たす必要があります。
青色申告(正規の簿記の原則によるもの)に係る事業であり、不動産貸付業・駐車場業・自転車駐車場業以外であることが必要です。簡易簿記での青色申告は対象外です。
贈与の場合は、贈与の日に事業を営んでおり廃業届を出していないこと、贈与の前年に青色申告をしていることが必要です。相続の場合は、相続開始の前年に青色申告をしていたことが要件です。
| 要件 | 贈与の場合 | 相続の場合 |
|---|---|---|
| 年齢 | 贈与の日に18歳以上 | 制限なし |
| 認定 | 都道府県知事の認定を受けていること | 同左 |
| 開業届 | 贈与の日に開業届を出していること | 相続開始から8ヶ月以内に開業届を出すこと |
| 青色申告 | 贈与の日に青色申告の承認を受けていること | 相続開始から8ヶ月以内に青色申告承認申請 |
| 事業従事 | 贈与の日まで引き続き3年以上事業に従事 | 相続開始の直前に事業に従事 |
💡 実務のポイント
贈与の場合の「3年以上の事業従事」要件は意外と厳しいです。後継者が事業に全く関わっていなかった場合、贈与から逆算して最低3年前から事業に従事しておく必要があります。相続の場合は「直前に従事」で足りるため、贈与で間に合わない場合は相続での適用を検討します。
個人版と法人版では、対象資産・手続き・管理負担が大きく異なります。個人事業主が法人成りを検討している場合、どちらの税制を使うべきかの判断に役立ちます。
| 項目 | 個人版 | 法人版(特例措置) |
|---|---|---|
| 対象資産 | 事業用の土地・建物・減価償却資産 | 非上場株式 |
| 猶予割合 | 100% | 100% |
| 雇用維持要件 | なし | あり(実質緩和あり) |
| 都道府県への年次報告 | なし | 5年間毎年 |
| 税務署への継続届出 | 3年に1回 | 5年間毎年→6年目以降3年に1回 |
| 小規模宅地等の特例 | 選択適用(併用不可) | 併用可能 |
| 計画提出期限 | 2026年3月31日 | 2027年9月30日 |
| 贈与・相続の適用期限 | 2028年12月31日 | 2027年12月31日 |
| 廃業時の減免 | あり(再計算制度) | 特例措置のみあり |
法人版事業承継税制の制度概要やメリット・デメリットについては「事業承継税制とは?法人版・個人版の適用要件と特例措置を完全ガイド」で詳しく解説しています。
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鮎澤パートナーズに相談する個人版事業承継税制と小規模宅地等の特例(特定事業用宅地等)は選択適用であり、併用できません。どちらを選ぶかは、土地の評価額・面積・他の相続財産の構成によって変わります。
| 項目 | 個人版事業承継税制 | 小規模宅地等の特例 |
|---|---|---|
| 減額効果(土地) | 100%猶予(全額) | 80%減額 |
| 土地の面積上限 | 400㎡ | 400㎡ |
| 建物・機械等も対象 | 対象(全額猶予) | 土地のみ(建物は対象外) |
| 管理負担 | 3年に1回の継続届出 | なし(申告時のみ) |
| 取消リスク | あり(事業廃止等) | なし |
| 居住用宅地との併用 | 可能 | 面積制限あり |
🧮 判定の目安
土地だけが主な事業用資産で建物・機械の評価額が小さいケースでは、管理負担のない小規模宅地等の特例の方がシンプルです。一方、事業用の建物や機械の評価額が大きい場合は、個人版事業承継税制の方が減税効果が高くなります。また、居住用宅地で小規模宅地等の特例を使いたい場合は、事業用資産に個人版事業承継税制を適用して居住用に小規模宅地等を使う組み合わせも検討できます。
小規模宅地等の特例の詳しい適用要件については「小規模宅地等の特例の概要」をご覧ください。
📐 シミュレーション前提条件
| 項目 | パターンA | パターンB | パターンC |
|---|---|---|---|
| 事業用資産の評価額 | 3,000万円 | 8,000万円 | 1億5,000万円 |
| 課税遺産総額(制度なし) | 5,800万円 | 1億800万円 | 1億7,800万円 |
| 相続税(制度なし) | 約580万円 | 約1,580万円 | 約3,340万円 |
| 猶予される税額 | 約300万円 | 約1,100万円 | 約2,600万円 |
| 実質納付額 | 約280万円 | 約480万円 | 約740万円 |
※概算値です。配偶者の税額軽減・他の控除は考慮していません。正確な計算は税理士にご相談ください。
事業用資産が3,000万円の場合でも約300万円の猶予効果がありますが、管理コスト(税理士報酬等)を考慮すると、小規模宅地等の特例の方がシンプルで有利になるケースもあります。8,000万円以上になると猶予効果が大きくなるため、個人版事業承継税制の積極的な活用が合理的です。
個人版事業承継税制の手続きは、①個人事業承継計画の提出、②認定申請、③贈与・相続の実行、④税務申告、⑤継続届出の5段階で進みます。
| ステップ | 手続き内容 | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|---|
| ①計画提出 | 個人事業承継計画の作成・提出 | 都道府県庁 | 2026年3月31日 |
| ②認定申請 | 認定申請書の提出 | 都道府県庁 | 贈与翌年1/15 or 相続後8ヶ月 |
| ③贈与・相続 | 事業用資産の贈与または相続 | — | 2028年12月31日まで |
| ④税務申告 | 贈与税 or 相続税の申告(猶予申請) | 税務署 | 贈与翌年3/15 or 相続後10ヶ月 |
| ⑤継続届出 | 継続届出書の提出 | 税務署 | 3年に1回 |
📝 行政書士の視点
個人事業承継計画の作成には認定経営革新等支援機関の指導・助言が必要です。行政書士・税理士事務所が認定支援機関として登録しているケースが多く、飲食業や建設業など許認可を伴う事業の承継では、許認可の引継ぎ手続きと計画作成をワンストップで対応できるメリットがあります。
贈与税の個人版事業承継税制の適用中に贈与者(先代事業者)が死亡した場合、贈与された事業用資産は「相続により取得したもの」とみなされ、相続税の課税対象となります。
このとき注意すべきは、相続税の計算において事業用資産は贈与時の価額で評価される点です。建物や機械のような減価償却資産は、通常であれば相続時には価額が下がっていますが、贈与時の(高い)価額で相続税が計算されるため、通常の相続より税負担が重くなるケースがあります。
実務では、この「贈与時の価額で固定される」デメリットを認識したうえで、建物の評価額が高い時期に贈与するのを避けるか、相続時精算課税制度との併用で税額を最適化する方法を検討します。
個人版事業承継税制は法人版に比べて取消事由がシンプルですが、以下の事由に該当すると猶予税額+利子税の納付が必要になります。
主な取消事由は、①事業を廃止した場合、②事業用資産を事業の用に供さなくなった場合(売却・転用等)、③青色申告の取りやめ・取消があった場合、④継続届出書の未提出、⑤資産管理事業(資産の運用が主たる事業)に転換した場合です。
ただし、事業用資産の一部を処分した場合は、処分した部分に対応する猶予税額のみが取消対象となり、残りの部分の猶予は継続されます。法人版のように5年以内の一部譲渡で全額取消にはならない点が、個人版の利点です。
猶予された税額が免除されるのは、①後継者が死亡した場合、②後継者が次の後継者に事業用資産を贈与し、その後継者が個人版事業承継税制の適用を受けた場合、③事業の継続が困難な事由が生じて全ての事業用資産を譲渡・廃業した場合(差額免除)です。
📊 公認会計士の視点
事業の継続が困難な事由が生じた場合の差額免除は、直近3事業年度のうち2年以上赤字であること等が要件です。この「差額免除」制度があるため、事業がうまくいかなくなった場合でも、承継時の高い評価額で全額納税する必要はありません。再計算後の税額と当初猶予税額の差額が免除されます。
個人版事業承継税制は相続時精算課税制度と併用できます。贈与税の個人版事業承継税制を適用する際に相続時精算課税を選択すると、贈与者が死亡した時点で相続税の猶予に切り替わる際の手続きがスムーズになるメリットがあります。
ただし、相続時精算課税を選択すると暦年課税に戻れないため、事業用資産以外の贈与(自宅の贈与等)を暦年課税で行いたい場合は注意が必要です。贈与税・相続税の基本的な仕組みについては「贈与税の仕組みと基礎」をご覧ください。
以下の条件に当てはまる個人事業主は、個人版事業承継税制の積極的な活用を検討すべきです。
①事業用の土地・建物の評価額が合計5,000万円以上、②後継者(子など)が3年以上事業に従事している、③不動産貸付業ではない、④正規の簿記(複式簿記)で青色申告をしている、⑤事業の継続見込みが長期にある、の5つです。
逆に、事業用資産の大部分が土地のみで建物・機械の評価額が小さい場合は、管理負担のない小規模宅地等の特例の方が有利になる可能性が高いです。
相続税全体の計算方法については「相続税の計算方法」で詳しく解説しています。
📋 この記事のポイント
個人版事業承継税制は、法人版に比べて管理負担が軽く、個人事業主にとって使いやすい制度です。ただし、小規模宅地等の特例との選択判断や、贈与時の価額固定のデメリット等を踏まえた総合的な判断が必要です。事業承継の節税対策全般については「相続税の計算方法」もあわせてご覧ください。
AYUSAWA PARTNERS
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