【税理士×会計士が解説】欠損金の繰戻還付とは?中小企業の赤字で法人税が戻ってくる仕組み

【税理士×会計士が解説】欠損金の繰戻還付とは?中小企業の赤字で法人税が戻ってくる仕組み
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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欠損金の繰戻還付とは?中小企業の赤字で法人税が戻ってくる仕組み

「前期は黒字で法人税を払ったのに、今期は赤字になってしまった」という中小企業経営者に向けて、前期の法人税が還付される「欠損金の繰戻還付」の計算方法・手続きの流れ・地方税の処理を完全ガイドします。この記事を読めば、繰越控除との使い分けまで判断できます。

🏆 結論:繰戻還付は赤字のときに前年の法人税が戻る制度

欠損金の繰戻還付とは、当期に発生した赤字(欠損金)を前期の黒字に繰り戻して、前期に納めた法人税の全部または一部を還付してもらえる制度です(法人税法第80条)。資本金1億円以下の中小法人等が対象で、還付額は「前期の法人税額 × 当期欠損金額 ÷ 前期所得金額」で計算します。資金繰りが厳しいタイミングで現金が戻るため、中小企業にとって非常にメリットの大きい制度です。

欠損金の繰戻還付とは?基本的なしくみ

欠損金の繰戻還付とは、赤字(欠損金)が発生した事業年度に、その欠損金を前年度の所得に繰り戻して、すでに納付した法人税の還付を受けられる制度です。法人税法第80条に規定されています。

繰戻還付と繰越控除の違い

赤字が出たときの対応策は2つあります。「繰戻還付」は赤字を過去に戻して既に払った税金を返してもらう方法、「繰越控除」は赤字を将来に持ち越して将来の税金を減らす方法です。

比較項目 繰戻還付 繰越控除
方向過去(前1年)に戻す未来(最大10年)に繰り越す
効果前期の法人税が現金で戻る将来の法人税が減額される
対象法人中小法人等のみ青色申告法人すべて
対象税目法人税+地方法人税のみ法人税+事業税+住民税
資金繰り即効性あり(1〜2ヶ月で入金)黒字化するまで効果なし
期限内申告必須(期限後申告は不可)期限後でも適用可能

繰越控除の詳しいルールと適用要件は「欠損金の繰越控除とは?10年間繰越のルールと適用要件」で解説していますので、併せてご確認ください。

💡 実務のポイント

実務で意外と知られていないのが「繰戻還付と繰越控除は併用できる」という点です。たとえば欠損金700万円のうち、前期所得300万円分を繰戻還付に使い、残りの400万円を翌期以降に繰越控除として残すことが可能です。「どちらか一方」と思い込んでいる経営者の方が多いですが、実は欠損金を分けて使えます。

適用要件:5つの条件を全て満たすこと

繰戻還付を受けるには、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。1つでも欠けると適用できません。

No. 要件 詳細
1中小法人等であること資本金1億円以下の普通法人(資本金5億円以上の大法人の100%子会社等を除く)
2前期・当期ともに青色申告還付所得事業年度(前期)から欠損事業年度(当期)まで連続して青色申告書を提出
3期限内に確定申告書を提出欠損事業年度の確定申告書を提出期限内(原則:事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内)に提出
4還付請求書を同時提出確定申告書と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出
5前期に法人税を納付済み還付所得事業年度に課税所得があり、法人税を実際に納付していること

参考: 国税庁「No.5763 欠損金の繰戻しによる還付」

⚠️ 注意:期限後申告では適用不可

繰越控除と違い、繰戻還付は期限内申告が絶対条件です。3月決算法人なら原則5月31日が確定申告の期限で、この日までに確定申告書と還付請求書を同時に提出しなければ、どれだけ欠損金が大きくても還付を受けられません。申告期限の管理は最優先事項です。

還付金額の計算方法と5パターンシミュレーション

基本の計算式

還付金額 = 前期の法人税額 × 当期欠損金額 ÷ 前期の課税所得金額

※当期欠損金額が前期の所得金額を超える場合は、前期の所得金額が上限

ポイントは「前期の法人税額」をベースに計算する点です。所得金額ではなく、実際に納めた法人税額に対する比率で還付額が決まります。

5パターンの還付シミュレーション

📐 シミュレーション前提条件

  • 3月決算の中小法人(資本金1,000万円)
  • 前期(X1期)の所得金額:1,000万円、法人税額:約150万円(年800万円以下15%+超過分23.2%)
  • 地方法人税は法人税額の10.3%として併せて計算
パターン 当期欠損金 計算 法人税還付額 地方法人税還付 合計還付
A:欠損<前期所得500万円150万×500万÷1,000万75万円約7.7万円約82.7万円
B:欠損=前期所得1,000万円150万×1,000万÷1,000万150万円約15.5万円約165.5万円
C:欠損>前期所得1,500万円150万×1,000万÷1,000万(上限)150万円約15.5万円約165.5万円
D:一部を繰戻還付1,500万円のうち800万を還付150万×800万÷1,000万120万円約12.4万円約132.4万円
E:前期所得が少額500万円前期所得100万・法人税15万15万円約1.5万円約16.5万円

※概算値です。個別の状況により異なります。正確な計算は税理士にご相談ください。

パターンCのように欠損金が前期所得を超える場合、超過分(500万円)は翌期以降に繰越控除として使えます。パターンDのように還付請求に使う欠損金額を自分で選ぶことも可能で、残りは繰越控除に回せます。

📊 公認会計士の視点

パターンEのように前期の所得が少額だと、還付額も小さくなります。この場合は繰戻還付にこだわらず、欠損金を全額繰越控除に回して翌期以降の大きな黒字と相殺した方が、地方税を含めた総合的な節税効果は高くなることがあります。「還付額の大きさ」と「資金繰りの緊急度」を天秤にかけて判断してください。

手続きの流れ【3月決算法人のタイムライン】

繰戻還付の手続きは、通常の確定申告と同時に行います。3月決算法人を例に、月別のスケジュールを整理します。

時期 やること 備考
3月末決算日を迎える当期が赤字であることを確認
4月決算書作成・税務調整会計上の赤字と税務上の欠損金の差異を確認
4〜5月繰戻還付 or 繰越控除の判断資金繰り・前期の法人税額・将来見込みを踏まえて決定
5月中旬申告書+還付請求書を作成別表一・別表七(一)+「欠損金の繰戻しによる還付請求書」
5月31日(厳守)確定申告書と還付請求書を同時提出e-Taxまたは税務署窓口。期限後は適用不可
6〜7月税務署の審査税務調査が入る場合もあり
7〜8月還付金が入金通常、申告から1〜2ヶ月程度

💡 実務のポイント

実務で最も多い失敗は「還付請求書を出し忘れる」ケースです。確定申告書はe-Taxで出したのに、還付請求書を同時に出していなかったということが起こります。会計ソフトによっては還付請求書が自動生成されないものもあるため、提出書類のチェックリストを作っておくことをお勧めします。

法人決算の全体の流れと必要書類一覧は「法人決算の流れと必要書類」で確認できます。

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還付請求書の記入チェックリスト

「欠損金の繰戻しによる還付請求書」に記入する際のチェックポイントを整理します。

No. チェック項目 よくあるミス
1還付所得事業年度(前期)の期間を正確に記入設立初年度で12ヶ月未満の場合、期間を誤記
2前期の所得金額は「別表四の所得金額」を転記決算書の税引前利益を誤って記入
3前期の法人税額は「別表一の差引所得に対する法人税額」を転記税額控除後の金額を誤って使用
4当期の欠損金額は「別表四の欠損金額」を転記会計上の当期純損失を誤って記入
5還付請求額の計算が正しいか分子が分母を超えている(上限は前期所得金額)
6確定申告書と同時に提出しているか後日追加提出は認められない
7還付口座の記入漏れがないか口座情報の記入忘れで還付が遅れる

参考: 国税庁「C1-52 欠損金の繰戻しによる還付の請求」

地方税の処理:法人税とは異なるルール

繰戻還付で最もつまずきやすいのが地方税の処理です。繰戻還付は法人税(国税)と地方法人税にのみ適用され、法人事業税や法人住民税には適用されません。地方税は繰戻還付がなかったものとして、別途処理が必要です。

税目 繰戻還付の適用 欠損金の処理
法人税(国税)✅ 還付あり還付請求した分の欠損金は消費される(繰越控除に使えない)
地方法人税✅ 還付あり法人税の還付額×10.3%を自動で併せて還付
法人事業税❌ 還付なし繰戻還付がなかったものとして、欠損金を翌期以降に繰越控除
法人住民税(法人税割)❌ 還付なし還付法人税額を「控除対象還付法人税額」として翌期以降10年間の法人税割から控除
法人住民税(均等割)赤字でも課税(最低7万円/年)

⚠️ 注意:地方税の処理忘れは二重損失になる

繰戻還付を受けた場合、法人税上は還付に使った欠損金は消費されますが、事業税上はその欠損金が残っているため、法人税の繰越欠損金と事業税の繰越欠損金に差額が生じます。翌期以降の申告で事業税の繰越欠損金の控除を忘れると、本来節税できたはずの事業税を余分に払うことになります。地方税の第6号様式別表9への記載を忘れないでください。

💡 実務のポイント

住民税の「控除対象還付法人税額」は忘れられやすい項目です。繰戻還付を受けた翌年度の地方税申告書で、「第20号の3様式」に還付法人税額を記載し、翌期以降の住民税の法人税割から控除していく処理が必要です。これを知らない会計事務所もあるため、顧問税理士に確認してください。

繰戻還付で「損する」3つのケース

繰戻還付は中小企業にとって有利な制度ですが、すべてのケースで最善の選択肢とは限りません。以下のケースでは、繰越控除の方が有利になることがあります。

ケース1:将来の税率が上がる局面

繰戻還付は「前期の税率」で還付額が決まります。一方、繰越控除は「将来の黒字年度の税率」で節税効果が決まります。将来的に所得が大幅に増えて高い税率が適用される見込みがあれば、繰越控除の方がトータルの節税額が大きくなります。

ケース2:前期の所得が小さく還付額が少額

シミュレーションのパターンEで示したとおり、前期の所得が少ないと還付額も少額になります。還付額が数万円程度なら、手続きにかかる労力とのバランスを考え、繰越控除に回した方が合理的な場合があります。

ケース3:税務調査への対応コスト

法人税法第80条第6項では、還付請求があった場合に税務署が調査を行うことができると規定されています。必ずしも実地調査が入るとは限りませんが、還付請求は税務署側の確認作業を必要とするため、書面照会や実地調査のきっかけになることがあります。

💡 実務のポイント

税務調査が入る可能性があるからといって繰戻還付を敬遠する必要はありません。正しく申告していれば何も問題はなく、還付を受ける正当な権利です。ただし、赤字の原因(大きな売却損、棚卸資産の評価損など)について説明できるよう資料を整理しておくと安心です。実務では、還付請求後に税務署から電話で確認が入る程度で終わるケースが多いです。

繰戻還付の会計処理と仕訳

還付請求時の仕訳

還付請求書を提出した時点では、まだ還付が確定していません。確定申告書の提出時に、未収還付法人税として計上します。

タイミング 借方 貸方
決算時(還付請求する場合)未収還付法人税等 75万円法人税等(還付) 75万円
還付金入金時普通預金 75万円未収還付法人税等 75万円

会計ソフトの勘定科目設定によっては「未収法人税等」「未収還付税金」など名称が異なりますが、処理の趣旨は同じです。なお、還付金に対して益金課税はされません(法人税法第26条)。

災害損失欠損金の特例:前2年まで遡れる

通常の繰戻還付は前1年度のみが対象ですが、災害により生じた損失(災害損失欠損金額)については、青色申告法人であれば前2年度まで遡って還付請求が可能です。

災害損失欠損金に該当する例

災害の種類 該当する損失の例
地震・台風・水害建物・設備の滅失損、棚卸資産の廃棄損、原状回復費用
火災焼失した固定資産の除却損、消防費用、仮設費用
感染症(過去の特例実績)食材の廃棄損、消毒費用、除却した器具備品

災害損失欠損金の特例は、白色申告法人でも前1年分の還付請求が可能です(青色申告なら前2年分)。災害発生時は通常の繰戻還付よりも有利な条件で還付を受けられる可能性があるため、必ず税理士に相談してください。

仮決算による中間申告での繰戻還付

3月決算法人の場合、9月末に中間申告を行いますが、上半期で大きな赤字が出ている場合は「仮決算による中間申告」を選択し、災害損失欠損金の繰戻還付を請求できることがあります。

ただし、この方法は災害損失欠損金に限定されており、通常の欠損金では仮決算中間申告での繰戻還付はできません。通常の繰戻還付は確定申告時のみです。

繰戻還付を活用すべきケースの判断基準チェックリスト

判断項目 繰戻還付が有利 繰越控除が有利
資金繰りが厳しい
黒字化の見通しが立たない
前期に大きな法人税を納めている
来期以降に大きな黒字が見込める
前期の所得が少額(還付額が小さい)
地方税の処理を含むトータル節税を重視

節税対策全般の体系的な整理は「法人税の節税対策」で解説しています。法人成りを検討中の方は「法人成りのタイミング」も参考にしてください。

よくある質問(FAQ)

設立1期目の赤字でも繰戻還付は使えますか?
設立1期目で赤字が出た場合は使えません。繰戻還付は「前期に法人税を納めていること」が前提です。設立1期目には前期がないため、制度の適用対象外です。この場合は欠損金を翌期以降に繰越控除として利用してください。設立時の届出については「会社設立の流れと届出書類」をご確認ください。
大法人(資本金1億円超)は繰戻還付を使えないのですか?
原則として使えません。平成4年以降、大法人については繰戻還付の適用が停止されています。ただし、解散・事業の全部譲渡・更生手続の開始といった一定の事実が生じた場合は、大法人でも適用できます。また、災害損失欠損金については、法人の規模に関わらず繰戻還付が可能です。
繰戻還付を使うと必ず税務調査が来ますか?
必ずしも実地調査が行われるわけではありません。法人税法上は「調査を行うことができる」と規定されていますが、実務では書面での確認(電話照会を含む)で完了するケースが多いです。赤字の原因を説明できる資料を整理しておけば、仮に調査があっても対応は難しくありません。
繰戻還付の還付金に対して法人税はかかりますか?
かかりません。法人税法第26条により、繰戻還付による還付金は益金に算入されないため、法人税の課税対象にはなりません。会計上は「法人税等(還付)」として処理しますが、税務上は益金不算入です。
繰戻還付と繰越控除は併用できますか?
はい、併用可能です。当期の欠損金のうち一部を繰戻還付に使い、残りを翌期以降に繰越控除として残すことができます。還付請求書に記載する欠損金額は、当期の欠損金額全額である必要はなく、任意の金額を指定できます。
前期ではなく前々期に繰り戻すことはできますか?
通常の繰戻還付は前1年度(事業年度が1年の場合は前期のみ)に限られます。ただし、災害損失欠損金の場合は、青色申告法人であれば前2年度まで遡ることが可能です。通常の業績悪化による赤字では前々期への繰戻しはできません。
期限後申告になってしまった場合、繰戻還付は絶対に使えませんか?
はい、繰戻還付は確定申告書を提出期限内に提出することが絶対条件です(法人税法第80条第1項第2号)。1日でも遅れると適用できません。ただし、この場合でも欠損金の繰越控除は適用可能です。繰越控除は期限後申告でも認められているため、完全に損失になるわけではありません。
地方税の処理を忘れた場合、後から修正できますか?
地方税の申告書について修正申告や更正の請求が可能です。法人事業税の繰越欠損金の記載漏れは、法定申告期限から5年以内であれば更正の請求によって是正できます。また、法人住民税の控除対象還付法人税額の記載漏れも同様です。ただし、年数が経つと対象期間の計算が複雑になるため、繰戻還付を受けた段階で地方税の処理も同時に行うことが重要です。
仮決算で中間申告を行った場合も繰戻還付を使えますか?
通常の欠損金では使えません。仮決算による中間申告で繰戻還付が認められるのは、災害損失欠損金に限定されています。中間期間に通常の営業赤字が出た場合は、期末の確定申告で通期の欠損金として繰戻還付を請求してください。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 繰戻還付は当期の赤字を前期に繰り戻し、前期に納めた法人税の還付を受ける制度
  • 対象は中小法人等(資本金1億円以下、大法人の100%子会社等を除く)
  • 還付額=前期の法人税額 × 当期欠損金額 ÷ 前期の所得金額
  • 期限内申告+還付請求書の同時提出が絶対条件(1日でも遅れると適用不可)
  • 地方税(事業税・住民税)は繰戻還付の対象外。別途、繰越控除・控除対象還付法人税額の処理が必要
  • 繰戻還付と繰越控除は併用可能。欠損金の一部を還付・残りを繰越にできる
  • 災害損失欠損金は特例で前2年まで遡及可能(白色申告でも前1年OK)

赤字決算は経営者にとって辛い状況ですが、繰戻還付を活用すれば資金繰りの改善に直結します。「前期に法人税を払っている」「今期は赤字」という2条件に当てはまるなら、まず繰戻還付の検討をお勧めします。

どちらの制度を使うべきか、地方税の処理はどうすればよいかなど、具体的な判断はぜひ税理士にご相談ください。

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