法人保険の損金算入ルール|保険種類別の経理処理と節税効果

法人保険の損金算入ルール|保険種類別の経理処理と節税効果
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
年間100社以上の法人決算・会社設立・税務調査対応を支援。

「法人保険の保険料はどこまで経費にできる?」「2019年の改正で何が変わった?」とお悩みの経営者に向けて、保険種類ごとの損金算入ルールを一覧表で整理します。この記事を読めば、自社に合った法人保険の選び方と正しい経理処理がわかります。

🏆 結論:法人保険の損金算入は「最高解約返戻率」で決まる

2019年の税制改正以降、定期保険・第三分野保険の損金算入割合は「最高解約返戻率」を基準に4段階で決まります。返戻率50%以下なら全額損金、85%超なら最初の10年間は保険料の10%しか損金にできません。ただし、被保険者1人あたり年間保険料30万円以下の場合は例外的に全額損金が認められます。法人保険は「節税商品」ではなく「課税の繰り延べ+保障」として活用するのが正しい考え方です。

法人保険とは?3つの保険カテゴリと基本的なしくみ

法人保険の3つのカテゴリ

法人保険は、法人が契約者となり、役員や従業員を被保険者として加入する保険です。大きく分けて「生命保険」「損害保険」「第三分野の保険」の3つのカテゴリがあり、それぞれ損金算入のルールが異なります。

カテゴリ 主な保険種類 特徴
生命保険(第一分野)定期保険、終身保険、養老保険、逓増定期保険、長期平準定期保険死亡・高度障害を保障
損害保険(第二分野)火災保険、賠償責任保険、自動車保険偶然の事故による損害を補償。原則全額損金
第三分野の保険医療保険、がん保険、介護保険、就業不能保険2019年改正の対象。返戻率で損金割合が変動

法人保険の経理処理の基本的な考え方

法人保険の経理処理は「掛け捨て部分は損金」「貯蓄部分は資産」という原則に基づいています。解約返戻金のない掛け捨て保険なら保険料は全額損金ですが、解約返戻金がある保険は貯蓄性があるため、保険料の一部を「保険積立金」として資産計上する必要があります。

💡 実務のポイント

法人保険の経理処理で最も重要なのは「契約形態」の確認です。契約者・被保険者・保険金受取人の組み合わせによって、同じ保険でも損金算入・資産計上・給与課税と処理が全く異なります。保険証券に記載された契約形態を必ず確認してから経理処理を行ってください。

【一覧表】保険種類別の損金算入ルール

法人が支払う主な保険料について、損金算入の可否と割合を一覧表にまとめました。

保険種類 受取人 損金割合 根拠通達
定期保険(返戻率50%以下)法人全額損金基通9-3-5
遺族全額損金※特定者のみ→給与
定期保険(返戻率50%超)法人/遺族返戻率で変動基通9-3-5の2
養老保険法人全額資産基通9-3-4
遺族(死亡)+法人(満期)1/2損金
終身保険法人/遺族全額資産基通9-3-4準用
第三分野保険(返戻率50%以下)法人/被保険者全額損金基通9-3-5
損害保険(火災・賠償等)法人全額損金掛け捨てのため

参考: 国税庁「No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い」

2019年税制改正の内容|最高解約返戻率4区分のルール

改正の背景

2019年6月28日に法人税基本通達が改正され、同年7月8日以降の新規契約から適用されました。改正の背景は、解約返戻率80〜100%超の高額な法人保険が「節税商品」として大量に販売され、保険本来の保障機能を逸脱した利用が横行したことです。国税庁はこの状況を是正するため、「最高解約返戻率」を基準にした統一ルールを導入しました。

最高解約返戻率4区分の損金算入ルール

最高解約返戻率 損金割合 資産計上割合 資産計上期間
50%以下100%0%なし
50%超〜70%以下60%40%保険期間の前半4割
70%超〜85%以下40%60%保険期間の前半4割
85%超当初10年: 10%
11年目〜: 30%
当初10年: 90%
11年目〜: 70%
最高解約返戻率の期間まで

⚠️ 注意

改正後のルールが適用されるのは「2019年7月8日以降の新規契約」です。改正前に契約した保険は旧ルールが適用されます。ただし、契約変更(転換・特約の付加等)を行った場合は新ルールが適用される可能性があるため注意してください。

資産計上額の取崩し

資産計上した保険積立金は、最高解約返戻率に到達する日以降、保険期間の満了日までの期間で均等に取り崩して損金算入します。つまり、資産計上期間中に我慢した分を、後半で損金に戻していく仕組みです。

「全額損金」にできる法人保険の条件|30万円特例と判定フロー

2019年改正後でも、全額損金にできるケースがあります。以下のフローで判定してください。

判定ステップ 条件 結果
①保険期間3年未満の定期保険・第三分野保険か?→ Yes:全額損金
②返戻率最高解約返戻率が50%以下か?→ Yes:全額損金
③30万円特例A返戻率70%以下 かつ 1人あたり年間保険料30万円以下か?→ Yes:全額損金
④30万円特例B解約返戻金なしの短期払い かつ 1人あたり年間保険料30万円以下か?→ Yes:全額損金
⑤損害保険掛け捨ての損害保険か?→ Yes:全額損金
⑥上記すべてNo→ 返戻率に応じた4区分ルールを適用

💡 実務のポイント

30万円特例は「被保険者1人あたり」の年間保険料の合計で判定します。1社で複数の定期保険・第三分野保険に加入している場合は合算されます。たとえば、社長を被保険者としてA社の定期保険(年20万円)とB社のがん保険(年15万円)に加入していると合計35万円となり、30万円を超えるため特例の適用外になります。

保険種類別の経理処理|仕訳パターンと具体例

定期保険(全額損金パターン)

最高解約返戻率50%以下の定期保険で、保険金受取人が法人の場合です。年間保険料120万円を毎月支払うケースの月次仕訳は以下のとおりです。

借方 金額 貸方 金額
支払保険料(損金)100,000現金預金100,000

定期保険(60%損金パターン:返戻率50%超〜70%以下)

年間保険料120万円で、保険期間の前半4割にあたる期間の仕訳です。

借方 金額 貸方 金額
支払保険料(損金)60,000現金預金100,000
保険積立金(資産)40,000

養老保険のハーフタックスプラン(1/2損金)

養老保険で、死亡保険金の受取人を被保険者の遺族、満期保険金の受取人を法人とする契約(ハーフタックスプラン)は、保険料の1/2を損金、1/2を資産計上します。このプランは2019年改正の対象外であり、従来どおりのルールが適用されます。

借方 金額 貸方 金額
福利厚生費(損金)50,000現金預金100,000
保険積立金(資産)50,000

⚠️ 注意

養老保険のハーフタックスプランは、全従業員を対象とする「福利厚生目的」であることが条件です。役員のみ・特定の従業員のみを被保険者とした場合は、損金部分が給与(役員報酬)として課税されるリスクがあります。加入対象者の範囲に注意してください。

法人の経費処理全般については、「法人決算の流れ完全ガイド」もあわせてご覧ください。

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「課税の繰り延べ」の正体|法人保険は本当に節税になるか

保険料の損金算入は「節税」ではなく「繰り延べ」

法人保険で保険料を損金算入すると、その期の法人税は確かに減少します。しかし、保険を解約して解約返戻金を受け取った時点で、その返戻金は「益金」として課税されます。つまり、法人保険は税金を「なくす」のではなく、「支払うタイミングを将来に延ばす」効果しかありません。これを「課税の繰り延べ」と呼びます。

🧮 シミュレーション:課税の繰り延べの実態

【前提】年間保険料100万円、最高解約返戻率60%(損金60%・資産40%)、10年間加入後に解約。解約返戻金500万円。法人税実効税率25%。

保険料支払い時の効果(10年間合計)
損金算入額:100万円×60%×10年 = 600万円
法人税の減少額:600万円×25% = 150万円

解約時の課税
解約返戻金500万円 − 資産計上累計額400万円 = 益金100万円
法人税の増加額:100万円×25% = 25万円

トータル
法人税の減少:150万円 − 25万円 = 125万円…に見えますが、資産計上分400万円は10年後に取崩しで損金に戻るため、最終的にはほぼ±0に収束します。

繰り延べが「節税」になるケース

課税の繰り延べが実質的な節税になるのは、解約返戻金を受け取る年度に大きな損金(退職金の支払い・設備投資など)をぶつけて相殺できるケースです。たとえば、経営者の退職金5,000万円を支払う年度に解約返戻金5,000万円を益金計上すれば、益金と損金が相殺され、課税所得の増加を抑えられます。

💡 実務のポイント

現場で多いのが「法人保険に加入すれば税金が安くなる」と保険営業から説明されて加入したものの、解約時に益金課税される仕組みを理解していなかったケースです。法人保険の提案を受けた際は「出口戦略」(解約時に何とぶつけるか)をセットで確認してください。出口戦略なしの法人保険加入は、単にキャッシュフローを悪化させるだけの結果になりかねません。

法人保険の4つの活用目的と適切な保険選び

法人保険は「節税」ではなく、以下の4つの「本来の目的」で活用するのが正しい考え方です。

活用目的 適した保険種類 経理処理のポイント
①事業保障(経営者の死亡リスク)定期保険(返戻率50%以下)、逓減定期保険全額損金。借入金残高に合わせて保障額を設計
②退職金準備長期平準定期保険、逓増定期保険返戻率に応じて一部資産計上。退職時に解約して退職金に充当
③福利厚生養老保険(ハーフタックス)、医療保険全従業員対象が条件。1/2損金(養老)or全額損金(医療)
④事業承継対策終身保険、長期平準定期保険死亡保険金で自社株の買取資金や相続税納税資金を確保

役員報酬の設計と合わせた退職金準備については、「役員報酬の基礎知識」で詳しく解説しています。

解約返戻金の経理処理|受取時の仕訳と税務上の注意点

解約返戻金を受け取った時の仕訳

保険積立金400万円の定期保険を解約し、解約返戻金500万円を受け取った場合の仕訳です。

借方 金額 貸方 金額
現金預金5,000,000保険積立金4,000,000
雑収入(益金)1,000,000

解約返戻金500万円から保険積立金400万円を差し引いた100万円が益金として課税対象になります。解約のタイミングは、退職金支払い・設備投資・赤字決算など、大きな損金と同じ事業年度にぶつけるのが鉄則です。

死亡保険金を受け取った場合

被保険者が死亡し、法人が死亡保険金5,000万円を受け取った場合、保険積立金400万円との差額4,600万円が益金になります。この保険金を遺族への弔慰金・死亡退職金に充当すれば、益金と損金を相殺できます。

📊 公認会計士の視点

死亡退職金の損金算入限度額は「最終月額報酬×在任年数×功績倍率」で計算されます。功績倍率は社長で3.0倍が目安とされていますが、税務調査で過大退職金として否認されるケースもあります。死亡保険金の金額設定は、退職金規程の金額と整合性をとっておくことが重要です。

受取人の違いによる税務上の取扱い

法人保険は、保険金の受取人が「法人」か「被保険者の遺族」かによって経理処理が異なります。

受取人 保険料の処理 注意点
法人損金 or 資産計上(返戻率に応じる)受取時に益金計上が必要
被保険者の遺族損金(全従業員対象の場合は福利厚生費)特定の役員のみ→その役員への給与課税
役員のみが対象役員への定期同額給与として処理事前に定期同額給与の要件を満たす必要あり

役員報酬のルールについては、「役員報酬の基礎知識」で定期同額給与・事前確定届出給与の要件を解説しています。

法人保険に関する税務調査のポイント

法人保険は税務調査で重点的にチェックされる項目の一つです。以下の5つのポイントに注意してください。

チェックポイント 指摘されるケース 正しい対応
損金算入割合の誤り旧ルールで処理している契約日を確認し、新旧どちらのルールか判定
30万円特例の適用ミス複数契約の合算で30万円を超えている1人あたり全契約合算で30万円以下か確認
役員への給与認定特定役員のみが受取人の保険を福利厚生費処理全従業員対象か、役員給与として処理か明確に
保険積立金の計上漏れ資産計上すべき部分を全額損金にしている保険証券の最高解約返戻率を毎年確認
解約返戻金の益金漏れ解約返戻金を益金計上していない保険積立金との差額を雑収入で益金計上

💡 実務のポイント

税務調査では「保険証券の契約日」と「経理処理に使っている損金算入割合」の整合性が必ずチェックされます。2019年7月8日前後で契約した保険が混在している法人は、保険証券の一覧表を作成し、各契約に適用されるルール(新・旧)を明確にしておくことをおすすめします。

法人の節税対策全般については、「法人の節税対策完全ガイド」をあわせてご覧ください。

法人保険の加入を検討する際のチェックリスト

法人保険は「加入すべきかどうか」の判断が最も重要です。以下のチェックリストで確認してから保険営業の提案を検討してください。

No. チェック項目 確認すべき理由
1加入の目的は明確か?(保障/退職金準備/福利厚生)「節税」だけが目的なら再考すべき
2保険料は無理のない金額か?キャッシュフローを圧迫しないか確認
3解約のタイミング(出口戦略)は決まっているか?退職金・設備投資など益金とぶつける計画
4最高解約返戻率と損金算入割合を確認したか?営業トークと実際のルールが異なる場合あり
5複数保険の合算で30万円特例を超えないか?1円でも超えると特例の適用外
6保険以外の選択肢(小規模企業共済・中退共・企業年金)と比較したか?全額損金で確実に戻る制度もある

会社設立時の保険加入タイミングについては、「会社設立の流れ完全ガイド」もご参照ください。

よくある質問(FAQ)

2019年の税制改正で全額損金の法人保険はなくなりましたか?
なくなってはいません。最高解約返戻率が50%以下の定期保険・第三分野保険は引き続き全額損金算入できます。また、被保険者1人あたり年間保険料30万円以下の場合も全額損金が認められます(返戻率70%以下の定期保険、または解約返戻金なしの短期払い保険が対象)。ただし、かつてのように高い返戻率と全額損金を両立する保険は存在しなくなりました。
養老保険のハーフタックスプランは2019年改正の影響を受けますか?
受けません。2019年改正の対象は「定期保険」と「第三分野保険」のみです。養老保険のハーフタックスプラン(死亡保険金受取人=遺族、満期保険金受取人=法人)は従来どおり保険料の1/2を損金、1/2を資産計上する処理が適用されます。ただし、全従業員を対象とする福利厚生目的であることが条件です。
法人保険で「節税」はできなくなりましたか?
法人保険の保険料を損金算入すること自体は従来どおり可能ですが、解約返戻金を受け取る際に益金として課税されるため、実質的には「課税の繰り延べ」です。退職金の支払いや赤字決算のタイミングに解約をぶつけることで実質的な節税効果を得られるケースはありますが、出口戦略なしの加入は節税にはなりません。
30万円特例は複数の保険を合算しますか?
はい、合算します。30万円特例は「被保険者1人あたりの年間保険料の合計額」で判定されます。同一の被保険者について複数の定期保険・第三分野保険に加入している場合は、全契約の年間保険料を合算して30万円以下かどうかを判定します。1円でも超えると特例は適用されず、返戻率に応じた4区分ルールが全契約に適用されます。
役員を被保険者とする定期保険は損金にできますか?
保険金の受取人が法人であれば、返戻率に応じた4区分ルールで損金算入できます。ただし、保険金の受取人が被保険者の遺族であり、かつ特定の役員のみが被保険者の場合は、保険料がその役員への給与として課税されます。給与認定された場合でも、定期同額給与の要件を満たしていれば法人側で損金算入は可能です。
2019年7月8日より前に契約した保険はどう扱いますか?
改正前に契約した保険は、原則として旧ルールが適用されます。ただし、契約変更(転換・特約の中途付加・保険金額の増額など)を行った場合は、変更部分について新ルールが適用される可能性があります。既契約の保険を見直す際は、変更内容が新ルールの適用を招くかどうかを保険会社と税理士に確認してください。
法人保険以外に退職金準備の選択肢はありますか?
あります。小規模企業共済(経営者本人の退職金準備・全額所得控除)、中小企業退職金共済(従業員向け・全額損金)、企業型確定拠出年金(全額損金・社会保険料軽減効果あり)などが代表的です。これらは法人保険と異なり、解約返戻金の益金計上が発生しない(または控除が使える)ため、「課税の繰り延べ」ではなく純粋な節税になるケースがあります。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 2019年改正後、定期保険・第三分野保険の損金算入は「最高解約返戻率」で4区分に分かれる
  • 返戻率50%以下なら全額損金。85%超なら最初の10年間は10%しか損金にできない
  • 30万円特例:被保険者1人あたり年間保険料30万円以下なら全額損金(条件あり)
  • 養老保険のハーフタックスプランは改正対象外。全従業員対象で1/2損金
  • 法人保険は「節税」ではなく「課税の繰り延べ+保障」が正しい理解
  • 出口戦略(退職金支払い等)なしの加入はキャッシュフロー悪化の原因になる
  • 加入前に小規模企業共済・中退共・企業年金など他の選択肢と比較検討すべき

法人保険の経理処理は保険種類・契約形態・返戻率の組み合わせで複雑になります。新規加入・見直しの際は、保険営業の説明だけでなく、必ず税理士にも相談して正しい経理処理を確認してください。

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