【税理士×行政書士が解説】家族信託と相続|認知症対策・財産管理の仕組みと相続税への影響

【税理士×行政書士が解説】家族信託と相続|認知症対策・財産管理の仕組みと相続税への影響
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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家族信託と相続|認知症対策・財産管理の仕組みと相続税への影響

「親が認知症になったら財産が凍結されてしまうのでは」とお悩みの方に向けて、家族信託の仕組み・メリット・デメリット・相続税への影響を税理士と行政書士が完全ガイドします。この記事を読めば、家族信託が自分の家族に必要かどうかを判断できます。

🏆 結論:家族信託は「認知症になる前に」始めるのが鉄則

家族信託は、親が元気なうちに信頼できる家族に財産管理を託す仕組みです。認知症で判断能力を失うと契約できなくなるため、「まだ早い」と思っているうちが始めどきです。家族信託そのものに直接的な節税効果はありませんが、認知症発症後も相続対策(不動産の売却・建替え・生前贈与等)を継続できる点に大きな価値があります。

家族信託とは?基本的な仕組みを図解

家族信託の3つの登場人物

家族信託とは、信託法に基づき、信頼できる家族に財産の管理・運用・処分を託す契約です。信託銀行ではなく家族間で行うため「家族信託」と呼ばれています(法律上の正式名称は「民事信託」)。

家族信託には3つの登場人物がいます。委託者(財産を持っている人=親)、受託者(財産管理を任される人=子)、受益者(財産から生じる利益を受け取る人)の3者です。最も一般的な形は「自益信託」で、委託者である親がそのまま受益者になります。つまり、財産の名義は子に移るが、利益(家賃・預金利息等)は親がそのまま受け取るという仕組みです。

💡 実務のポイント

「名義が子に移る」と聞くと不安になる方がいますが、受託者は信託契約で定められた目的の範囲内でしか財産を使えません。勝手に売却したり、自分のために使ったりすることは信託法上の忠実義務に反します。家族信託は「管理する権利」だけを移し、「利益を受ける権利」は親に残す仕組みです。

家族信託で信託できる財産・できない財産

家族信託の対象にできる財産は、不動産(自宅・賃貸物件・土地)、預貯金(信託口口座で管理)、有価証券(一部の証券会社のみ対応)、自社株式などです。一方、年金受給権、生命保険の契約者の地位、農地(農地法の許可が必要)、預金債権そのもの(銀行によっては信託口口座に非対応)は、信託の対象にできないか制限があります。

なぜ家族信託が必要なのか?認知症と資産凍結リスク

認知症になると何ができなくなるのか

民法第3条の2の規定により、判断能力(意思能力)のない人が行った法律行為は無効です。認知症で判断能力が失われると、本人名義の預貯金の引き出し、不動産の売却、生命保険の解約、賃貸借契約の締結・更新、遺言書の作成、生前贈与による相続対策が、すべてできなくなります。

厚生労働省の推計によれば、2025年時点で認知症患者は約700万人に達し、65歳以上の約5人に1人が認知症とされています。相続対策を考えるなら、認知症リスクへの備えは避けて通れません。

「資産凍結」で家族が困る具体例

現場でよく見かけるのが、「親が認知症になり介護施設への入居資金が必要なのに、親名義の自宅を売却できない」というケースです。家族であっても、本人の委任なく不動産を売却することは法律上認められません。売却の見込みが立たないまま、子が自己資金で介護費用を負担し続ける事態も珍しくありません。

家族信託を事前に設定しておけば、親の判断能力が失われた後も、受託者である子が信託契約の範囲内で不動産を売却し、介護費用に充てることができます。

家族信託と成年後見制度の違い|10項目比較表

認知症対策として使える制度は、家族信託のほかに「成年後見制度」と「遺言」があります。以下の10項目比較表で違いを確認しましょう。

比較項目 家族信託 成年後見制度(法定) 遺言
契約のタイミング判断能力があるうちに契約判断能力が低下した後に申立て判断能力があるうちに作成
財産管理者の選任本人が信頼する家族を指定家庭裁判所が選任(専門家になる場合あり)—(生前の財産管理には使えない)
不動産の売却受託者の判断で可能裁判所の許可が必要不可
積極的な資産運用契約で定めた範囲で可能原則不可(財産の維持が目的)不可
二次相続への対応受益者連続信託で指定可能不可不可(一次相続の相続人のみ指定)
身上監護(入院・施設入所契約等)なしありなし
裁判所の監督なし(信託監督人を任意で設置可)ありなし
ランニングコスト原則なし(受託者報酬を設定可)専門家後見人の場合月2〜6万円なし
相続税の直接的な節税効果なしなしなし
初期費用の目安30〜80万円10〜30万円(申立費用)公正証書遺言で3〜10万円

💡 実務のポイント

成年後見制度の最大のデメリットは「一度始めると本人が亡くなるまでやめられない」点です。専門家が後見人になった場合、毎月2〜6万円の報酬が本人の財産から差し引かれ続けます。10年で240〜720万円になる計算です。家族信託なら受託者への報酬をゼロにすることも可能で、長期的なコスト差は大きくなります。

家族信託のメリット・デメリット

家族信託の5つのメリット

第一に、認知症による資産凍結を防げる点です。信託口口座の預貯金は本人の口座とは別管理のため、本人が認知症になっても凍結されません。第二に、遺言では指定できない二次相続以降の財産承継先を指定できます(受益者連続信託)。第三に、成年後見制度と異なり裁判所の監督を受けないため、柔軟な資産運用が可能です。第四に、受託者への報酬を無料にできるため、長期的なランニングコストを抑えられます。第五に、不動産の共有トラブルを防止できます。賃貸物件を信託財産にしておけば、受託者が一元管理するため、相続人同士の意見の対立で管理が滞る事態を回避できます。

家族信託の5つのデメリット・注意点

第一に、身上監護権がありません。施設入所契約や入院手続きは家族信託の範囲外であるため、必要に応じて任意後見制度との併用を検討すべきです。第二に、初期費用が30〜80万円と比較的高額です。第三に、損益通算ができません。信託財産から生じた不動産所得の赤字は、本人の他の所得と通算できない制限があります(租税特別措置法第41条の4の2)。第四に、受託者を務める家族の負担が大きくなる場合があります。第五に、対応できる専門家が限られており、経験の浅い専門家に依頼すると信託契約の設計に不備が生じるリスクがあります。

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家族信託と相続税の関係|課税タイミングと評価方法

家族信託そのものに節税効果はない

家族信託を設定しても、信託財産の相続税評価額は通常の財産と同額です(相続税法第9条の2第6項)。信託受益権の評価額は、所有権として持っている場合と同じ方法で計算されるため、家族信託にしたからといって評価額が下がるわけではありません。

ただし、家族信託の真の価値は「間接的な節税効果」にあります。認知症発症後も受託者が相続対策を実行し続けられるため、不動産を活用した対策(アパート建設による債務控除・貸家建付地評価減)や生前贈与を継続できるのです。

課税タイミングの整理

タイミング 自益信託の場合 他益信託の場合
信託設定時贈与税:非課税(財産権の移転なし)
不動産取得税:非課税
登録免許税:土地0.3%・建物0.4%
贈与税:課税される(受益者に対して)
不動産取得税:課税される
登録免許税:土地0.3%・建物0.4%
信託期間中所得税:受益者(親)に課税
固定資産税:納税通知は受託者に届くが、経済的負担は受益者
所得税:受益者に課税
固定資産税:同左
委託者(受益者)死亡時相続税:新たな受益者または帰属権利者に課税
配偶者控除・小規模宅地等の特例:適用可能
相続税:受益者変更の場合、新受益者に課税

※土地の登録免許税0.3%は令和9年3月31日までの軽減税率です。

📊 公認会計士の視点

重要なのは、信託財産に小規模宅地等の特例が適用できるかどうかです。結論から言えば、自益信託で受益者が居住していた宅地であれば、特例の適用は可能です。ただし、信託契約書の内容次第で適用要件を満たさなくなるケースもあるため、契約設計段階で税理士に確認してください。相続税の計算方法は「相続税の計算方法と税率」、小規模宅地等の特例は「小規模宅地等の特例の適用要件と減額計算」で詳しく解説しています。

家族信託の費用シミュレーション

家族信託にかかる費用を信託財産の規模別に3パターンでシミュレーションします。

📐 シミュレーション前提条件

  • 自益信託(委託者=受益者)
  • 信託財産に不動産を含む
  • 専門家(行政書士・司法書士等)に依頼
  • 費用は税別・概算
費用項目 財産3,000万円 財産5,000万円 財産1億円
コンサルティング料(信託設計)20〜30万円30〜50万円50〜80万円
公正証書作成手数料2.3万円2.9万円4.3万円
登録免許税(不動産)6〜9万円10〜15万円20〜30万円
信託登記費用(司法書士)5〜8万円8〜12万円10〜15万円
合計(初期費用)33〜50万円51〜80万円84〜129万円

※概算値です。不動産の固定資産税評価額や信託契約の複雑さにより変動します。正確な見積もりは専門家にご相談ください。

家族信託の契約手順|6つのステップ

ステップ1:家族で話し合い、信託の目的を明確にする

最初のステップは、なぜ家族信託をするのか、どの財産を対象にするのか、誰が受託者になるのかを家族で話し合うことです。受託者は信頼できる家族であることが大前提ですが、管理の負担も大きいため、引き受ける側の意思確認も重要です。

ステップ2:専門家に相談し、信託スキームを設計する

信託契約の内容は千差万別であり、家族構成や財産内容に応じて最適な設計は異なります。税理士には相続税への影響を、行政書士・司法書士には契約書の作成と登記手続きを相談しましょう。

ステップ3:信託契約書を作成し、公正証書にする

信託契約書の公正証書化は法律上の義務ではありませんが、金融機関で信託口口座を開設する際に公正証書を求められるケースがほとんどです。また、公証人が契約当事者の判断能力を確認するため、後日の紛争防止にもなります。

ステップ4:信託登記を行う(不動産の場合)

信託財産に不動産が含まれる場合は、法務局で信託登記を行います。登記簿上の所有者名義が受託者に変わりますが、「信託」の登記がなされるため、第三者から見ても受託者の個人資産ではないことが明確になります。

ステップ5:信託口口座を開設する

信託財産としての金銭を管理するため、受託者名義の信託口口座を開設します。信託口口座を開設できる金融機関はまだ限られているため、事前に対応可能な銀行を確認してください。

ステップ6:信託事務を開始する

契約締結後は、受託者が信託財産の管理を開始します。信託法上、受託者は信託財産に関する帳簿の作成や、受益者への報告義務を負います。

📝 行政書士の視点

信託契約書の作成で最も重要なのは「信託の目的」の定め方です。目的が曖昧だと、受託者がどこまでの行為ができるのか不明確になり、金融機関や法務局での手続きが滞ることがあります。例えば「委託者の生活費および療養費の確保のため」「信託不動産の管理・修繕・売却のため」のように、具体的に記載することが大切です。

「家族信託が必要か」8項目判定チェックリスト

以下の8項目のうち、3つ以上該当する場合は家族信託の活用を検討する価値があります。

No. チェック項目 該当
1親が70歳以上で、物忘れが増えてきた
2親名義の不動産(自宅・賃貸物件)がある
3将来、親の自宅を売却して介護費用に充てる可能性がある
4二次相続(配偶者→子→孫)まで財産の行き先を指定したい
5親が賃貸物件のオーナーで、管理の負担が増えている
6相続人間で意見が割れる可能性があり、遺言だけでは不安
7成年後見制度の費用負担(月2〜6万円)を避けたい
8障がいのある子の生涯にわたる生活費を確保したい

⚠️ 注意

家族信託は「まだ早い」と思っているうちが始めどきです。認知症は緩やかに進行し、「良い日」と「悪い日」が混在する段階を経て判断能力が失われていきます。軽度認知障害(MCI)の段階であれば契約可能な場合もありますが、契約能力の最終判断は公証人が行うため、確実に契約できるうちに準備を進めてください。

家族信託でよくある失敗パターン

失敗1:信託口口座を開設せず個人口座で管理してしまう

受託者が信託財産の金銭を自分の個人口座で管理してしまうケースがあります。この場合、受託者が破産すると信託財産が差し押さえられるリスクがあるほか、相続発生時に信託財産と個人財産の区分が不明確になり、トラブルの原因になります。必ず信託口口座で分別管理しましょう。

失敗2:信託契約の設計が甘く、想定外の課税が発生する

他益信託(委託者と受益者が別人)で設定してしまうと、信託開始時に受益者に対して贈与税が課税されます。例えば、親(委託者)が子(受益者)のために信託した場合、子に対して信託財産の評価額に応じた贈与税がかかります。自益信託であれば設定時の贈与税はかからないため、信託スキームの設計は税理士と必ず相談してください。

失敗3:遺言書との整合性が取れていない

家族信託と遺言書の内容が矛盾していると、相続発生時に混乱が生じます。信託財産は信託契約に従って承継され、遺言の対象にはなりません。信託財産以外の財産については遺言で定める必要があるため、両方を整合性をもって作成することが重要です。遺言書の作成については「遺言書の書き方と種類」をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

家族信託と民事信託は何が違いますか?
実質的に同じものです。信託法上の正式名称は「民事信託」で、そのうち家族間で行われるものを通称として「家族信託」と呼んでいます。営利目的の商事信託(信託銀行の商品等)と区別するための名称です。
認知症と診断された後でも家族信託は契約できますか?
軽度認知障害(MCI)や初期の認知症であれば、契約できる可能性はあります。契約能力の最終判断は医師ではなく公証人が行います。ただし、中度以上の認知症で判断能力が失われている場合は契約できません。認知症の兆候が見られたら、できるだけ早く専門家に相談してください。
家族信託をすれば成年後見制度は不要ですか?
必ずしもそうとは限りません。家族信託には身上監護権(施設入所契約や医療行為の同意等)がないため、これらが必要な場合は任意後見制度との併用を検討すべきです。財産管理は家族信託で、身上監護は任意後見で、と役割分担するのが最も安心な方法です。
信託財産に小規模宅地等の特例は適用できますか?
適用できます。自益信託で委託者=受益者が居住していた宅地であれば、通常の相続と同様に最大80%の評価減が可能です。ただし、信託契約の内容によっては適用要件を満たさなくなる場合もあるため、契約設計段階で税理士に確認してください。
受託者が先に亡くなった場合はどうなりますか?
信託契約書に後継受託者(第二受託者)を指定しておけば、受託者が死亡しても信託は継続します。後継受託者の指定がない場合は、信託法の規定により受益者と利害関係人の合意で新たな受託者を選任するか、それも不可能であれば裁判所に選任を申し立てることになります。
家族信託の契約期間に上限はありますか?
受益者連続信託の場合は、信託法第91条の規定により、信託開始から30年経過後に新たに受益権を取得した受益者が死亡するまで(実質的に30年+α)が上限です。通常の家族信託(受益者連続でない場合)には法律上の期間制限はありません。
家族信託にかかる費用は経費にできますか?
信託財産が賃貸不動産の場合、信託の管理に関する費用は不動産所得の経費として計上できます。ただし、信託設定時のコンサルティング費用や公正証書作成費用は、経費として認められないケースが多いため、税理士にご確認ください。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 家族信託は、信頼できる家族に財産の管理権だけを移す仕組み。利益は親がそのまま受け取る
  • 認知症で判断能力を失うと契約できなくなるため、元気なうちに準備するのが鉄則
  • 家族信託そのものに直接的な節税効果はないが、認知症発症後も相続対策を継続できる点が大きなメリット
  • 信託財産にも小規模宅地等の特例や配偶者控除は適用可能
  • 成年後見制度との違いを理解し、身上監護が必要な場合は任意後見との併用も検討する
  • 信託契約の設計は税理士・行政書士・司法書士と連携して行うことが重要

家族信託は、認知症リスクに備えるための有力な手段ですが、契約設計を誤ると想定外の課税や管理上の問題が生じます。まずは信託に詳しい専門家に相談し、ご家族の状況に合ったプランを設計してもらうことをおすすめします。贈与税の基本的な仕組みについては「贈与税の仕組みと基礎知識」も参考にしてください。

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参考: 法務省「成年後見制度」国税庁「相続税法第9条の2(信託に関する特例)」厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について」