海外居住者の相続税|国際相続の課税関係と申告義務

海外居住者の相続税|国際相続の課税関係と申告義務
鮎澤パートナーズ代表 鮎澤 竜哉
公認会計士 第47928号・税理士 第159175号・社会保険労務士 第13240067号・行政書士 第24061284号
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「海外に住んでいる家族が相続した場合、日本の相続税はかかるのか?」とお悩みの方に向けて、納税義務者の判定フロー、課税される財産の範囲、外国税額控除、必要書類の違いまで解説します。この記事を読めば、国際相続の課税関係と手続きの全体像がわかります。

🏆 結論:被相続人か相続人のどちらかが日本に住んでいれば、原則として全世界の財産に課税される

日本の相続税は、被相続人と相続人の「住所」「国籍」「過去10年以内の日本の居住歴」の3要素で課税範囲が決まります。被相続人か相続人のどちらか一方でも日本に住所がある場合は、日本国内の財産だけでなく海外の財産も含めて全世界の財産が課税対象です(無制限納税義務者)。両者とも10年以上海外に住んでいる場合に限り、日本国内の財産のみが課税対象になります(制限納税義務者)。

納税義務者の4つの区分と課税範囲

相続税の納税義務者は、相続人ごとに個別に判定します。同じ相続でも、日本に住んでいる相続人と海外に住んでいる相続人とで課税範囲が異なることがあります。

区分 該当する人 課税範囲
居住無制限納税義務者相続開始時に日本国内に住所がある人(一時居住者を除く)全世界の財産
非居住無制限納税義務者日本国外に住所がある人で、日本国籍があり10年以内に日本に住所があった場合。または被相続人が外国人被相続人・非居住被相続人でない場合全世界の財産
制限納税義務者被相続人・相続人の両方が10年以上日本に住所がなく、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人に該当する場合国内財産のみ
特定納税義務者相続時精算課税の適用を受けた贈与財産がある人で、上記のいずれにも該当しない場合精算課税の対象財産のみ

参考: 国税庁「No.4138 相続人が外国に居住しているとき」

💡 実務のポイント

納税義務者の判定で最も重要なのは「10年ルール」です。被相続人か相続人のどちらかが過去10年以内に日本に住所を有していた場合は、たとえ相続開始時に海外にいても全世界の財産が課税対象になります。以前は5年ルールでしたが、平成29年度の税制改正で10年に延長されました。

納税義務者の判定フロー【3ステップ】

Step 確認内容 Yes の場合 No の場合
1相続人は相続開始時に日本国内に住所があるか?→ 全世界課税(居住無制限納税義務者)※一時居住者を除く→ Step 2へ
2被相続人は日本人で日本に住所があったか?または被相続人・相続人のいずれかが10年以内に日本に住所があったか?→ 全世界課税(非居住無制限納税義務者)→ Step 3へ
3被相続人・相続人の両方が10年以上日本に住所がないか?→ 国内財産のみ課税(制限納税義務者)→ 個別判定が必要(税理士に相談)

6つの具体ケース別の課税範囲

よくあるケースを6パターンに分けて、課税範囲を整理します。

# 被相続人 相続人 課税範囲
1日本人・日本在住日本人・日本在住全世界
2日本人・日本在住日本人・海外在住(何十年でも)全世界
3日本人・海外在住(10年以内に日本に住所あり)外国人・海外在住全世界
4外国人・在留資格で日本在住外国人・在留資格で日本在住(一時居住者)国内財産のみ
5日本人・海外在住(10年超)日本人・海外在住(10年超)国内財産のみ
6外国人・海外在住日本人・日本在住全世界

⚠️ ケース2は特に注意

被相続人(親)が日本に住んでいる場合、相続人(子)が何十年も海外に住んでいても、外国籍に変更していても、全世界の財産に日本の相続税が課税されます。「自分は海外に住んでいるから日本の相続税は関係ない」という思い込みが最も多い誤りです。

外国税額控除のしくみと計算方法

全世界の財産に日本の相続税が課税される場合、海外にある財産について外国の相続税(米国の遺産税等)も課税されると二重課税になります。これを調整するのが外国税額控除です(相続税法第20条の2)。

控除額の計算式

📐 外国税額控除の計算式

控除額 = 次の①と②のいずれか少ない方の金額

①外国で実際に納付した相続税額
②日本の相続税額 ×(海外にある相続財産の合計額 ÷ その相続人の相続財産の合計額)

計算例

📐 シミュレーション前提条件

  • 相続人A(日本在住・日本人)が取得した財産:国内8,000万円+米国不動産2,000万円=合計1億円
  • 日本の相続税額(Aの分):1,200万円
  • 米国で納付した遺産税(Aの分に相当):200万円
計算項目 金額
①米国で納付した遺産税200万円
②日本の相続税 ×(海外財産 ÷ 全財産)= 1,200万 ×(2,000万 ÷ 1億)240万円
外国税額控除(①と②の少ない方)200万円
日本で納付する相続税1,000万円(1,200万−200万)

※概算値です。参考: 国税庁「No.4665 外国で相続税を納めた場合」

相続税の計算方法の詳細は「相続税の計算方法|税率・基礎控除・計算手順をわかりやすく解説」をご覧ください。

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海外居住者の贈与税の課税関係

相続だけでなく、海外に住んでいる家族への生前贈与にも日本の贈与税がかかる場合があります。課税関係は相続税と同様に、贈与者と受贈者の住所・国籍・居住歴で判定します(相続税法第1条の4)。

相続時精算課税と海外居住者

相続時精算課税の適用を受けた贈与財産は、贈与者が死亡したときに相続財産に加算して相続税を計算します。受贈者が海外に居住していても、精算課税の適用を受けていれば特定納税義務者として相続税の申告が必要です。精算課税で既に納めた贈与税は相続税から控除されますが、控除しきれない場合は還付を受けることもできます。

参考: 国税庁「No.4432 受贈者が外国に居住しているとき」

贈与税の基本については「贈与税のしくみと基礎知識|非課税枠・税率・申告方法をわかりやすく解説」をご覧ください。

海外居住者の相続手続きで必要な書類

海外に住んでいる相続人は、日本国内の住民登録を抹消しているケースが多く、通常の相続手続きで使う書類が取得できません。代替書類が必要になります。

日本在住の場合 海外在住の場合 取得場所
印鑑登録証明書サイン証明(署名証明)在外公館(大使館・領事館)に本人が出向いて申請
住民票在留証明在外公館で申請(3ヶ月以上居住していること)
戸籍謄本戸籍謄本(本籍地の役所に請求)郵送請求が可能。日本国籍がない場合は出生証明書等
マイナンバーカードなし(海外在住者にはマイナンバーの付番なし)

📝 行政書士の視点

サイン証明には2種類あります。①遺産分割協議書に署名を綴じ込む形式(貼付型)と、②単独の証明書形式です。不動産の相続登記には①の形式が必要です。在外公館に遺産分割協議書を持参する必要があるため、事前に協議書の内容を確定させてから出向いてください。

納税管理人の届出

相続人が海外に居住している場合、日本国内で相続税の申告・納付手続きを行うために「納税管理人」を定める必要があります(国税通則法第117条)。

納税管理人の概要

項目 内容
納税管理人になれる人日本国内に住所がある個人または法人(親族・税理士等)
届出先被相続人の住所地の所轄税務署
届出のタイミング相続税の申告期限までに届出書を提出
注意点相続税と所得税で別々に届出が必要。所得税の納税管理人を届出済みでも、相続税について改めて届出が必要

国外財産調書とCRS(共通報告基準)

海外に財産を持つ方は、相続税の申告以外にも、国外財産の報告義務があります。

国外財産調書

その年の12月31日時点で合計5,000万円超の国外財産を保有する居住者は、翌年の6月30日までに「国外財産調書」を所轄税務署に提出する義務があります(内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第5条)。相続により海外財産を取得した場合、翌年以降の提出義務に影響します。

CRS(共通報告基準)による情報交換

CRS(Common Reporting Standard)は、各国の金融機関が非居住者の口座情報を自動的に税務当局間で交換する国際的な枠組みです。日本は100以上の国・地域とCRS情報を交換しており、海外の銀行口座情報は日本の税務署に自動的に提供されます。

💡 実務のポイント

CRSにより、海外の金融口座の情報は日本の税務署に自動的に報告されます。被相続人が海外に預金口座を持っていた場合、税務署はその情報を把握している可能性が高いため、海外財産の申告漏れは発見されやすくなっています。正確な申告を心がけてください。

海外財産の評価方法と外貨換算

海外にある財産の相続税評価額は、原則として日本の財産評価基本通達に準じて評価します。外貨建ての財産は、相続開始日の対顧客直物電信買相場(TTB)で日本円に換算します。

主な海外財産の評価方法

海外財産の種類 評価方法 注意点
海外不動産日本の財産評価基本通達に準じて評価(路線価方式は使えないため、売買実例価額や鑑定評価等を参考)現地の不動産鑑定が必要な場合あり
海外の預貯金相続開始日の残高 × TTB(対顧客電信買相場)TTS(売相場)ではなくTTB(買相場)を使う
海外の上場株式相続開始日の終値等を外貨で確認し、TTBで換算日本の上場株式と同じ4価格比較は適用されない
海外の生命保険死亡保険金の額 × TTB海外の保険は非課税枠の適用可否に注意

小規模宅地等の特例は海外の不動産には原則として適用されません。特例の詳細は「小規模宅地等の特例|適用要件・減額割合・申告方法を完全ガイド」をご覧ください。

📊 公認会計士の視点

海外不動産の評価は、日本の路線価のような公的な指標がないため、現地の不動産鑑定士の鑑定評価額や売買実例価額を基に評価することになります。評価方法によって数千万円の差が生じることもあるため、国際相続に慣れた税理士・公認会計士に依頼することが重要です。

国際相続の申告手続きの注意点

申告期限と提出先

申告期限は通常の相続税と同じく、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。提出先は被相続人の住所地の所轄税務署です。被相続人が海外在住だった場合は、相続人の納税地の所轄税務署に提出します。

プロベート(検認手続き)がある国の場合

米国やイギリスなどの英米法系の国では、相続にあたって裁判所による「プロベート」(検認手続き)が必要です。プロベートには通常6ヶ月〜2年程度かかるため、日本の相続税の申告期限(10ヶ月)に間に合わないケースもあります。この場合は、判明している情報で一旦申告し、確定後に修正申告または更正の請求を行います。

相続税の申告手続き全体については「相続税の申告手続き|期限・必要書類・申告書の書き方を完全ガイド」をご覧ください。また、事業承継と国際相続が絡むケースについては「事業承継税制の概要」もご参照ください。

よくある質問(FAQ)

海外に住んでいる子が日本にある親の不動産を相続した場合、相続税はかかりますか?
はい、かかります。親(被相続人)が日本に住んでいた場合、子(相続人)が何年海外に住んでいても、全世界の財産に日本の相続税が課税されます。日本にある不動産はもちろん、もし海外にも財産があれば、それも課税対象です。
相続税のない国に住んでいれば、日本の相続税は免除されますか?
いいえ、免除されません。日本の相続税は、相続人の居住国に相続税があるかどうかに関係なく課税されます。シンガポールやマレーシアなど相続税のない国に住んでいても、納税義務者に該当すれば日本の相続税を納める必要があります。
外国税額控除はどの国の税金でも使えますか?
外国で課された相続税に相当する税金であれば、国を問わず外国税額控除の対象になります。ただし、米国の「遺産税(Estate Tax)」は日本の「相続税」と仕組みが異なるため、控除額の計算が複雑になることがあります。日米相続税条約も関係するため、専門家への相談をおすすめします。
海外の銀行口座の残高は税務署にバレますか?
CRS(共通報告基準)により、日本と情報交換協定を締結している100以上の国・地域の金融機関から、非居住者の口座情報が自動的に日本の税務署に報告されます。また、国外送金等調書により、100万円超の海外送金も報告対象です。海外財産の申告漏れは発見される可能性が高いです。
留学中の子どもが相続した場合、海外居住者扱いになりますか?
いいえ。留学や海外出張など一時的に日本を離れている場合は、日本国内に住所があるものとして扱われます。したがって、居住無制限納税義務者として全世界の財産が課税対象です。
海外在住の相続人は小規模宅地等の特例を使えますか?
特定居住用宅地等の特例は、原則として配偶者か同居親族が取得する場合に適用されます。海外在住の子は「同居」の要件を満たさないため、原則として適用されません。ただし、いわゆる「家なき子特例」に該当する場合は、海外在住でも適用できる可能性があります。要件が複雑なため、税理士にご相談ください。
相続時精算課税で贈与を受けた財産は、海外に住んでいても相続税の対象になりますか?
はい、対象になります。相続時精算課税の適用を受けた財産は、贈与者が亡くなったときに相続財産に加算されます。受贈者が海外に住んでいても、特定納税義務者として相続税の申告義務があります。精算課税で既に納めた贈与税は相続税から控除されます。

まとめ

📋 この記事のポイント

  • 被相続人か相続人のどちらかが日本に住んでいれば、原則として全世界の財産に相続税が課税される
  • 「10年ルール」:両者とも10年以上海外在住の場合に限り、国内財産のみが課税対象
  • 外国で相続税を納めた場合は、外国税額控除で二重課税を調整できる
  • 海外在住の相続人は納税管理人の届出が必要。サイン証明・在留証明で印鑑証明・住民票の代替が必要
  • CRSにより海外口座情報は自動的に日本の税務署に報告される。海外財産の申告漏れは発見されやすい
  • 相続時精算課税の適用を受けた財産は、海外在住でも相続税の対象(特定納税義務者)

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